01. 2014年9月11日 06:55:16
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田中秀征 政権ウォッチ 【第248回】 2014年9月11日 田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授] アベノミクスの神通力に陰り 消費税増税に赤信号が点滅! 4〜6月のGDPは7.1%減! 7〜9月も予想以上に悪化か 政府は9月8日、本年4〜6月のGDP(国内総生産)の改定値を発表した。 それによると、8月発表の年率換算前期比6.8%減の速報値をさらに下回り、7.1%減となった。 消費税率を8%から10%に上げる最終決定は年末12月初旬に予定されている。来年10月に10%に上げるなら、来年度予算編成前に決めなければ歳入の見積もりなどに支障が出るからだ。 だが、ここに来て示されるさまざまな経済指標は、実体経済が想像以上に弱含みであることを示し、年末の増税決定に不安感を増幅させている。 本年の1〜3月期の駆け込み需要や、4〜6月期の反動減は想定内のこと。ただ、4〜6月期の落ち込みは大きく、当初の予想を越えるものであった。 問題は、年末の最終決定に際して最重要の判断材料となる7〜9月期の経済の実績が、官民の予想よりかなり悪くなりそうなことだ。 政府は「4〜6月が悪くても7〜9月は良くなる」と楽観していたようだが、7月、8月の景況を示す個別の経済指標が示され始めると、とても楽観できるようなものではない。 8月末に発表された7月の家計調査では、前年同月と比べて実質で5.9%も減少し、何とその下げ幅は6月の3.0%減の倍の大きさとなった。それに7月の完全失業率は6月より0.1ポイント上昇し、好調だった雇用状態にも陰りが生じている。 さらに、消費者物価指数は昨年7月比で3.3%も上昇、賃金の伸びがそれに追いつかないため実質賃金が低下し続けている。 4〜6月のGDPが下方修正された要因は個人消費の伸び悩みとともに設備投資の不振も大きな原因だ。設備投資は、速報値の2.5%減から5.1%減にまで下方修正されたのである。 GDPは、民需の柱である個人消費と民間設備投資でその7、8割を占められる。この2つの柱が不調であれば、GDPの数字が持ち直さないのは当然だ。 モノの売れ行きが良くなれば生産が増加し、雇用も賃金も増加し設備投資が活発になる。この初歩的な経済法則にアベノミクスは応えていないのだろう。 百貨店が好調で、コンビニが不調。これもふしぎな現象だが、株高頼みの政策がなせるわざなのかもしれない。 消費増税は見送りの方向か? 谷垣幹事長就任で「経済の内閣、財政の党」に 7〜9月と言ってももう9月。この短期間に劇的に改善する特効薬はない。後追いで巨額の経済対策を講じても間に合わなくなっている。 増税推進派は「法律に書いてあるから」というが、そんなことは理由にならない。このまま経済が推移すれば、年末の決定を先送りするのは当然だろう。 おそらく、安倍晋三首相は増税先送りに傾きつつあるだろう。彼は、財務省に取り込まれていない数少ない首相だから、経済が不調なら増税を見送ることができよう。 首相は内閣改造後の会見で、あらためて「経済最優先」を強調した。私はこれを「増税見送りもあり得る」とのメッセージと受け取った。 党や内閣の幹部の中で最も「何が何でも増税断行」と考えているのは、谷垣禎一自民党幹事長かもしれない。それに歩調を合わせるのは党内の財務省OBなどの有力者だろう。 こう考えると、今後は「経済の内閣と財政の党」という奇妙な逆転対立構造になることもあり得るだろう。 世論調査では、谷垣幹事長に対する期待は大きい。それは消費税増税に対してではなく、特定秘密保護法、原発再稼働、安保政策などに対して、彼に軌道修正を主導してほしいということにある。それをしっかり受け止めてほしい。 ◎「田中秀征の民権塾」第14期開講のお知らせ◎ 田中秀征氏が主宰する民権塾の第14期が10月に開講します。お申込みは、民権塾ホームページをご覧ください。 http://diamond.jp/articles/print/58956
消費増税見送りはアベノミクスの敗北宣言 熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミストに聞く 2014年9月11日(木) 渡辺 康仁 安倍政権が10%への消費増税を判断する時期が近づいている。4〜6月期が大幅なマイナス成長となり、増税への慎重論も出始めている。熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミストは「増税を見送れば諸外国からはアベノミクスの敗北宣言と取られかねない」と警鐘を鳴らす。(聞き手は渡辺康仁) 4〜6月期の実質GDP(国内総生産)改定値は前期比年率で7.1%のマイナス成長に下方修正されました。景気の現状をどう見ていますか。 熊谷 亮丸(くまがい・みつまる)氏 大和総研執行役員チーフエコノミスト。1966年東京都生まれ。1989年東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。同行調査部を経て、2000年興銀証券(現みずほ証券)シニアエコノミスト。2005年メリルリンチ日本証券チーフ債券ストラテジスト。2007年大和総研に入社し、2010年からチーフエコノミスト。(撮影:清水盟貴) 熊谷:個人消費は想定していたより若干弱めの印象です。特に自動車などの耐久消費財が思ったほど売れていません。天候が不順だったという要因もありますが、それを除いても弱いですね。
しかし、個人消費以外の項目を見ると、人手不足で滞っていた公共事業は受注ベースではかなりの勢いで伸びています。設備投資も基調として見れば緩やかに回復の方向に向かっています。海外経済も、米国は非常にしっかりしていて、中国も政策対応によって底割れの懸念は和らいでいます。欧州は心配ですが、世界経済は米国が牽引していくことになるでしょう。 4〜6月期は前期比年率でマイナス7.1%成長になりましたが、7〜9月期は一転してプラス4.8%成長になると予想しています。 個人消費についてもう少しうかがいます。4月の消費増税で実質所得が減少していますが、このインパクトはかなり大きいと見た方がいいでしょうか。 熊谷:増税前の駆け込み需要が2013年度の実質GDPを3兆円程度押し上げました。この反動で2014年度の実質成長率は1.33ポイント押し下げられます。しかし、2015年度は10%への増税の前にまた駆け込み需要が見込まれますから、これによって実質成長率は0.51ポイント押し上げられるでしょう。 消費増税の影響で実質所得が落ちているのは確かです。ただし、前年比で見た増税の影響は1年で一巡します。2014年度の実質雇用者報酬はマイナス1.5%程度になる一方で、2015年度はプラス0.4%に浮上する見通しです。好循環は少しずつ起き始めていると見ています。 今年の春闘での賃上げ率が2%台に達し、ベアも0.4%上がっています。定期給与の増加が個人消費に与える影響は特別給与を大きく上回ります。特に耐久財の購買意欲を高める効果がありますから、自動車などの購入が増える可能性があります。 過去のトレンドを見ると、実質所得が上昇しやすい時期には2つの特徴があります。これは名目所得の伸びの方が消費者物価の上昇率より高いことを意味します。 1つは為替が円安の時の方が実質所得は伸びやすい。もう1つはコモディティ価格が落ち着いている時です。今は為替の条件は満たしていて、コモディティも比較的落ち着いています。中東などで原油価格に大きな影響を与える事態が起きることには警戒する必要があります。しかし、消費者マインドがしっかりしていることもあり、好循環の萌芽は出始めています。 成長戦略のメニューは70〜80点 好循環の萌芽が出始めているわりには景気の雰囲気は良くないように見えます。 熊谷:1つの要因は欧州経済の下振れ懸念が出ていることでしょう。ウクライナ問題などの地政学リスクが意識されています。 もう1つは、アベノミクスに若干の停滞感があることではないでしょうか。成長戦略のメニューは70〜80点が付けられるほど、予告編としては良い内容でした。ただ、本当に実行するかどうかは不透明な部分もあります。 農協改革や混合診療の拡大を打ち出しただけでなく、初めて政権としてコーポレートガバナンスを正面から取り上げました。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革や人口減少問題、女性の活躍も前面に打ち出しています。全体のメニューはかなり高い評価を得ていると言えるでしょう。 しかし、「悪魔は細部に宿る」という言葉があるように、細かい部分ではいくらでも骨抜きにできる。混合診療などは運用次第で実質的に改革が進まないということもあり得ます。 成長戦略のメニューにも足らざるところがあります。1つは雇用です。ホワイトカラー・エグゼンプションは本質的な問題ではなく、大事なのは企業が攻めのリストラができる仕組みを作ることです。今は判例による4要件で受け身のリストラしかできません。解雇の金銭的解決も含めて、景気が良い時に伸びている分野に労働資源を円滑に移していく仕組みが欠かせません。 法人税も20%台に下げるという目標は示されていますが、中国や韓国などの税率を見ると、25%に向けて下げていく必要があるでしょう。その時に大事なのは課税ベースを広げることです。諸外国の投資家も単純に法人税率を下げるだけでなく、課税ベースの拡大によって日本経済の新陳代謝が進むことに注目しています。 3日の内閣改造と自民党役員人事でアベノミクスの推進力は高まるのでしょうか。 熊谷:主要閣僚は留任したので、基本的に継続性があるでしょう。その中でも、塩崎恭久氏が厚生労働相に就いたことで、GPIF改革はかなり進む可能性が出てきました。資産運用の改革と組織のガバナンス改革を一体的に進めることが非常に重要です。彼らに独立性を与えれば、自然と国債のウエイトは落としてその他の資産に振り向けるようになるでしょう。 自民党幹事長に回った谷垣禎一氏は消費増税を巡る民主、公明両党との3党合意の当事者ですから、10%への増税は従来より蓋然性が高くなったと言えます。 増税を見送れば金融政策と成長戦略は台無しに 消費税を10%に引き上げるかどうかが12月にかけての重要な政策テーマです。どう考えますか。 (撮影:清水盟貴) 熊谷:一般論として言えば、消費増税はやらざるを得ないし、やるべきだという考え方です。例えば中国のバブルが弾ける蓋然性が高くなったり、リーマンショックに匹敵する金融危機が起こったりするなどの状況にならない限り、消費増税はやるべきだと思います。
増税の先送りは一見すると景気に優しいように思えますが、アベノミクスの1本目の矢の金融政策と3本目の矢の成長戦略を台無しにしてしまう恐れがあります。 日銀の量的・質的金融緩和が諸外国からマネタイゼーションだと思われてしまうと金融緩和は効かなくなります。消費増税を見送ることのリスクを指摘した黒田東彦・日銀総裁の発言を重く受け止める必要があります。 仮に消費増税をして景気が悪くなったとしても、言ってみれば小雨の状態です。その時は財政や金融政策など打つべき手段は残されています。他方で、増税を先送りして金融市場の信認が崩れてしまうと、手の打ちようがなくなります。円だけでなく株や債券も売られるトリプル安になり、まさに台風や嵐の状況になりかねません。この2つを比較衡量して考える必要があります。 増税の見送りは成長戦略にどう影響するのでしょうか。 熊谷:2015年10月に消費税を10%に引き上げることは法律で決まっていますから、これを変えるには新たな法案を出す必要があります。成長戦略を加速させるための国会にしなければならないのに、消費税国会になってしまうリスクがあります。自民党の財政再建派が反旗を翻したり、場合によっては安倍降ろしの動きが出たりして、混乱する恐れがあるでしょうね。現実に決まっていることを引っくり返そうとすると、3本目の矢が事実上打てなくなってしまいます。 消費税を8%に引き上げた前回の政府の判断は正しかったと思います。3%増税して5.5兆円は経済対策で国民に返す。景気対策をやったとしても、それは1年限りです。増税をすればその先もずっと税収は上がります。ある種の民主主義のコストとして短期的な経済対策をやったとしても増税は予定通りやる必要があります。 安倍政権が消費増税を判断する際には7〜9月期のGDPが一番重視されることになります。現時点での予測の4.8%成長なら、景気の面からは問題ありませんか。 熊谷:政治的には2%成長が一つのめどになるでしょう。私はマイナス成長でなければいいのではないかと考えています。ただ、7〜9月期のGDPだけを見て決めるのはおかしい。景気の趨勢や基調を見極めることが重要です。夏の天候不順の影響で景気の勢いが鈍っているとしても、アベノミクスによって所得が戻るメカニズムが途切れたわけではありません。 日銀の追加緩和は来年以降の公算 4〜6月期の実質GDPは年率で7.1%も落ち込んでいます。7〜9月期が若干のプラス成長でも増税はできるのでしょうか。 熊谷:どこに線を引くかは難しいでしょうね。駆け込みもあって1〜3月期が大きく伸びています。そこから落ちて再び上がっている状況です。プラス成長であれば良しとするということでいいと思います。 政治的にはここで増税を見送ったり先延ばししたりすると、諸外国からはアベノミクスの敗北宣言と取られかねません。延期するにしても、いつまで延ばすのか。その時に増税できる環境になっているという確証はあるのか。そうした説明責任などを含めて考えると、予定通り上げるのが得策でしょう。 日銀は景気の状況に応じて柔軟に動くと思いますか。 熊谷:黒田総裁は戦力の逐次投入はしないと言っています。やるべきことは昨年の4月にやっているということなのでしょう。追加の金融緩和は来年以降になる可能性が高いと見ています。実際の物価上昇率が目標とする2%から乖離していても、今年10〜12月の段階であれば、この後に一気に伸びると強弁できます。 しかし年明けになると、さすがに残された期間との兼ね合いで達成が難しいという客観情勢になるかもしれません。黒田総裁はプラグマティックな方なので消費増税は必要だと認識しています。増税をにらんで10〜12月期に動く可能性はありますが、メーンシナリオは年明け以降です。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140909/270990/?ST=print Don’t Fight BOJ、黒田氏の覚悟を信じよう 2014年09月11日(Thu) 武者 陵司 「中央銀行には逆らうな」、は株式投資の鉄則である。中央銀行は金融政策を通して流動性(金融資産の購買力)を制御し市場価格に大きな影響を及ぼすことができる。NY市場で“Don’t fight the FED”と言われているのと同様に、日本では日銀(BOJ: Bank of Japan)のスタンスが市場価格に圧倒的影響力を持っている。 特にタイミングという点で中央銀行の判断が決定的である。1980年代以降日本株のバブルが続いていたが、それは1989年末まで破裂しなかった。なぜ日本株のバブル崩壊が1990年初頭から始まったのかと言えば、それは三重野康日銀総裁がバブル潰しの流動性抑制に踏み切ったからであった。またなぜ2012年秋まで異常な株安(マイナスのバブル)と円高が続いたかと言えば、それは白川方明日銀総裁が円高と株安を容認してきたからである。2012年末からの円安株高への大転換は(安倍政権の誕生による)白川日銀政策の変更が確実に見通せるようになったからである。 有言実行の黒田日銀 それでは今の日銀は何を目指しているのか。それは「2%の物価上昇達成と経済の持続的拡大に責任を持つこと」に尽きる。 2%インフレの達成が困難なら躊躇なく調整をする、というコミットメントは明確である。安倍新内閣のキャッチフレーズ「有言実行、実行実現」は黒田東彦日銀総裁のモットーである。さらに、黒田氏は「円安が望ましくないという考えは間違いであること、さらなる2%消費税増税が望ましいこと」、を主張した。つまり「2015年10月に予定されている消費税率の現行の8%から10%への引き上げがなされない場合、政府の財政健全化の意思に疑念が生じ、(確率は低いものの)長期金利が急上昇する懸念があるので、増税実施が望ましい」と述べた。 日銀総裁が財政マターに言及するというのは領空侵犯である、との批判は一理ある。しかしそれも「増税による景気と物価下振れのリスクは日銀が金融政策で対応する」というコミットメントと捉えるべきである。 2%追加増税を可能にする、第1の矢、第2の矢の第2弾は必至か 黒田日銀総裁までもが2%増税支持を言及していること、大多数のエコノミスト・学者が財政再建のための2%増税支持であることを考えると、増税停止、延期はもはや考えにくい。 依然として潜在的にはアベノミクス反対派が多い現状では、増税延期、停止は危険である。景気不安により消費税の追加増税すらできないとなれば、アベノミクス失敗との悲観論が勢いづくのは確実である。それは市場心理を決定的に悪化させるだろう。 「病は気から」の例えのように、今までの日本は「デフレが続くという信念から現金預金保有→資本退蔵に陥り自己実現的にデフレに陥っていた」と言える。ここはデフレ心理の払拭が決定的に大事な局面であり、これ以上の心理悪化を阻止すべきである。 ファンダメンタルズ面では、昨年後半からの景気回復趨勢は4月の消費税増税で途絶えた感がある。改訂された4〜6月GDPは年率7.1%の大幅マイナス成長となり、消費税増税前の駆け込み需要の反動減からの回復の鈍さが表れた。加えて夏場の悪天候が消費に悪影響を与えている可能性もある。7〜9月以降は消費税増税による一時的撹乱が消えることで成長軌道は復元されるだろうが、力不足は否めない。また円安と輸入物価上昇が止まったことでインフレ圧力が減衰し始めている。日銀の2015年2%の物価目標達成は極めて困難な情勢にある。日銀も注目している東大の日次物価指数は6月以降下落幅が強まっている。 かくなる上は第1の矢、第2の矢の再構築によりアベミクスの勢いを取り戻し、増税を実施するしかない。第2弾の量的金融緩和(QQE2)、税収増によるさらなる補正予算の発動を柱に、年末から2015年前半の景況を大きく押し上げる必要がある。 後は心理次第である 以上の事情は日銀の追加金融緩和を必至のものとしている。(1)米国の力強さを増す循環的経済回復と超金融緩和の終焉・利上げが視野に入ってきたこと、(2)依然として超割安の日本株式バリュエーション、(3)好バリュエーションを支えている好業績、は確固とした円安、株高の土台を作っている。この状況で黒田日銀総裁は「私に任せろ」と言っているのだ。信じていいのではないか。 ◎本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」より「第124号(2014年9月10日)」を転載したものです。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41699
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