07. 2014年9月11日 07:55:55
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欧州は必要なことは何でもやらねばならない 危険度を増すユーロ圏の経済不振、ドラギ総裁の処方箋に従え 2014年09月11日(Thu) Financial Times (2014年9月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)ユーロ圏、ギリシャ国債50%棒引きで合意 包括案まとまる ユーロ圏経済の現状は、悲しいだけでなく危険〔AFPBB News〕 ユーロ圏の2014年第2四半期の実質域内需要は、2008年第1四半期のそれを5%下回った。ユーロ圏の失業率は2008年以降、5%近い上昇を見せている。そしてユーロ圏の2014年7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比で0.4%にとどまった。 これらの事実から言えることは、シンプルながら3つある。まず、ユーロ圏は不況に陥っている。次に、そこでは需要不足が大きな役割を果たしている。そして、欧州中央銀行(ECB)は物価の安定という目標を達成できていない、という3点だ。 これは単に悲しいだけでなく、危険なことである。経済状況が改善していないのであれば、安定状態が続くなどと想定するのはばかげている。 マリオ・ドラギECB総裁の重要な貢献 これらの困難に対処するための必要条件(ただし十分条件ではない)は、まず困難そのものを理解することである。ユーロ圏の上級政策立案者であるマリオ・ドラギECB総裁はこれらの問題をしっかり把握しており、米ワイオミング州ジャクソンホールで先月開催された中央銀行当局者のシンポジウムでは、非常に重要な貢献をしてみせた。 これについては、強調しなければならない点が2つある。 1つは、ドラギ総裁が「経済の両側で行動を起こさねばならない。すなわち、総需要政策は各国の構造改革を伴ったものでなければならない」と明言したこと。もう1つは、総裁が新しい約束をしたことだ。総裁は「(ECBは)中期的な物価の安定を確保するのに必要な、かつ利用可能な手段を総動員する」という、原稿にはなかった発言をしたのだ。 ユーロ圏は需要の側で問題を抱えているという発言には、天使たちが集まってきてこれを称える歌を歌ったに違いない。ユーロ圏当局の正統派はこれまでずっと、この事実を口にすべきでないことと見なしてきたからだ。 また、行動すると約束したこともこれに劣らず重要かもしれない。ここで思い出されるのは、ドラギ総裁が2012年7月にロンドンで口にしたあの有名なフレーズ、「必要なことは何でもやる」だ。 この発言の後、ECBはアウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)プログラムを発表し、大砲を1発も撃つことなく世間のパニックを鎮めた。驚いたことに、2012年8月の初めに6.3%だったイタリア国債10年物の利回りは、今月初めにはわずか2.3%にとどまっている。スペイン国債10年物も、同じ時期に7.0%から2.1%に下がっている。どちらも現在の英国債の利回りを下回る水準だ。 ユーロ圏危機、「重大な局面に」 欧州中央銀行のドラギ総裁 ECBのマリオ・ドラギ総裁はユーロ圏の問題をしっかり把握している〔AFPBB News〕 ジャクソンホールでドラギ総裁は、6月に発表されて現在実行に移されている政策パッケージが「需要の押し上げという狙い」を達成すると「確信している」と述べた。 これについては、眉につばを付けるのが理にかなっている。ユーロ圏では、名目需要が2014年第2四半期までの6年間でわずか2%しか伸びていない。クレジットチャネル*1も損なわれたままだ。 また、金利が0%という限界まで低下しているにもかかわらず、財政政策の引き締めが続いている。経済協力開発機構(OECD)によれば、ユーロ圏の財政赤字(対国内総生産=GDP=比。景気循環調整後)は2013年のわずか1.4%から、2014年の0.9%へとさらに縮小する見通しだという。 デフレに陥る脆弱な周縁国、中核国は需要のブラックホール 加盟国間の競争力の差も大きく開いたままだ。インフレ率がここまで低下しているだけに、これらを是正することはさらに難しくなっている。そのため脆弱な国々は、債務の実質的な負担が増大するデフレに追いやられつつある。 一方、信用力の高い中核国は需要のブラックホールになっている。今年のドイツの経常黒字はGDPの8%相当額に膨らむかもしれない。 ECBは先週、「シンプルで透明性の高い資産担保証券(ASB)」を幅広く購入することを約束した。この施策によりユーロ圏内の信用仲介が改善することを期待しているという。ECBはまた、この施策とすでに発表済みのほかのプログラムを通じて、ECBのバランスシートを2年前と同じ規模に拡大できることを望んでいると述べている。 これは理にかなっている。ユーロ圏よりもはるかに小さな問題しか抱えていない、ほかの国々の中央銀行が時期尚早な支援打ち切りを避ける中、ECBだけがその資産規模をユーロ圏のGDP比で約10%縮小させたのは間違いだった。 また、いろいろな施策が講じられていることも、ECBのフォワードガイダンスを強化している。これによりECBは超緩和的な金融政策を今後何年も続けなければならなくなっているが、実際そうすべきだろう。 しかし、こうした行動を取っているにもかかわらず、互いにからみ合っているユーロ圏の諸問題はすぐには解決しそうにない。実際、当のECBでさえ、今後についてはごく弱い経済成長しか予想していない。 では、ECBはさらに対策を講じるべきなのだろうか。そしてほかの政策立案者は、それを支援するためにとりわけ何をする必要があるのだろうか。 *1=銀行貸し出しなどを通じて金融政策が波及していく経路のこと 量的緩和プログラム、試す価値はあるが多くの問題も まず考えなければならないのは、ECBが加盟国の国債を(恐らくGDPの規模に合わせた比率で)購入するという、明らかな量的緩和(QE)プログラムを始めるべきか否かである。 国際通貨基金(IMF)の高官は今年7月、そのようなQEには効果があるだろうとの見解をまとめ、ブログに投稿している。それによれば、QEはECBの目標の信頼性を高め、債券や株式といった金融資産の価格に、そして恐らく為替レートにも重大な影響を及ぼすと考えられるという。 試してみるべきだとの見方には筆者も同意する。現状の厳しさを考えれば、これほど有用な道具を使うことを差し控えるわけにはいかない。しかし、債券利回りはすでに劇的に低下している。2年前にQEを始めていれば相当大きな効果が出ただろうが、これから始める場合にはそこまで大きな効果は出ないだろう。 また、この施策では明らかにECBが信用リスクを負うことになる。マネタリーファイナンシング*2だという非難も浴びるだろう。筆者はQEを実行すべきだと考えるが、欧州の北と南の論争は非常にかまびすしいものになると見て間違いあるまい。 ほかにはどんな施策があるのか。1つの可能性として考えられるのは、ドラギ氏も講演で示唆していた財政政策の積極活用である。理想を言うなら、公共投資の増額と減税を組み合わせて行うべきだろう。財政出動の余力がある国では特にそうだ。 ユーロ圏全体の財政スタンスはあまりに緊縮的すぎる。OECDの予測によれば、経済が不振に陥っている2014年でさえ全体の財政赤字(対GDP比)はわずか2.5%にとどまるという。 新しい欧州委員会は良識と経済成長を追求せよ またドラギ氏が求めているように、各国は財政出動の見返りとして、供給力を高めるための――そして設備投資意欲を刺激することによって需要も増やすための――改革に真剣に取り組まねばならない。需要を増やし、供給力を強化し、かつ競争力を高めるために利用可能な手段を総動員すると決意すること。これこそ、ユーロ圏が目指さなければならないものだ。 新しい欧州委員会は、耐乏生活を再度主張するのではなく、常識的な行動を取り経済成長を目指す姿勢を明確にしなければならないのだ。 *2=中央銀行が創ったお金で財政赤字を埋めること。日本では財政ファイナンスとも呼ばれる これは経済だけにかかわる問題ではない。加盟国の人々は、高い失業率と深刻な経済不振にとてもよく耐えてきている。 各国でポピュリズムが台頭する恐れ しかし、いつまでも耐えられるわけではない。もし、現在の権力者たちが緊縮政策を支持し続ければ、恐らくポピュリズム的な反応が見られるようになるだろう。 悲しいことだが、スコットランドで今展開されているのはまさしくそれである。恐らく、ほかの場所でも近々見られるようになるのだろう。 例えば、フランスの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ル・ペン党首が次の大統領にならないと誰が言い切れるだろうか。また、もしイタリアのマッテオ・レンツィ首相がその座を追われたら、次の首相には一体誰がなるのだろうか。 そう、これらのユーロ加盟国は行動を起こさなければならない。しかし、それには間違いなく支援が必要だ。ドラギ氏は道筋を示した。ユーロ圏はそれに従って前進しなければならない。 By Martin Wolf http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41707
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