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代ゼミ、独り負けのウソ?他事業へシフトで健全な新陳代謝、「継続は美徳」の罠
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140909-00010003-bjournal-bus_all
Business Journal 9月9日(火)6時0分配信
大手予備校の「代々木ゼミナール」(代ゼミ)を運営する高宮学園は8月25日、来年3月末で全国27カ所ある校舎のうち20カ所を閉鎖すると発表し、話題を呼んだ。例えば8月29日付朝日新聞は、次のように報じている。
「大手予備校『代々木ゼミナール』(東京都)が、校舎の閉鎖と大幅な人員削減に踏み切る。来月1日からは、早期退職の募集も始まる。『3大予備校』と呼ばれた一角が、なぜ生徒集めに失敗したのか。少子化の流れに加え、入試改革が進む中、予備校は『変革』を迫られている。(略)駿台予備学校、河合塾と並び3大予備校と言われ、かつては学生数8万人を擁した代ゼミ。しかしライバル大手幹部は『代ゼミは10年以上前から低迷し、実質的には“2強”だった』と驚く様子もない」
また、9月1日付日本経済新聞では、ジャーナリスト・池上彰さんが、「大手予備校『代々木ゼミナール』が、全国に27ある校舎のうち20校を閉鎖する方針であることが、先月、明らかになりました。そんな時代が来たのかと、いささか感傷に浸ってしまいました」と、コメントしている。
しかし、筆者は代ゼミの校舎閉鎖問題を、あまり感傷的にはとらえていない。むしろ事業ポートフォリオの新陳代謝が健全に働いており、人間でいえば、今後も健康で元気に生きられるだろうなぁと羨ましく思っている。
筆者は生粋の日本人なので、こういうことを言うのは忸怩たる思いだが、日本人というか日本の文化に染まった人は、「一度事業を始めたら、それを継続することに意義がある」と考える傾向が強い。この20年でずいぶん雰囲気は変わってきたが、それでも「大学を出て新入社員で入った会社を、定年まで勤めあげる」という考え方が、相変わらず美徳とされることが多い。そのため、「配属された事業が途中でなくなったら困る」という考え方が、DNAに刷り込まれているのかもしれない。だから、「校舎を20校も閉鎖するなんて、そこに勤めている社員はどうなるのだろう」という考え方がなされるのだろう。
もっとも、永続できる事業なんてめったに存在しない。第2次世界大戦以前から日本で有力な産業となった繊維産業も、海外でそれなりの品質の製品を日本よりも低コストで生産できるようになれば、簡単に衰退してしまった。テレビや冷蔵庫などのエレクトロニクス産業も同様で、海外でそれなり、もしくはほぼ同品質のものを日本よりも低コストで生産できるようになれば、衰退する。
にもかかわらず、「技術立国、日本」などと旧態依然としたスローガンで、ずるずるとテレビを生産し続けるような日本のエレクトロニクスメーカーは、窮地に陥ることになってしまう。であればむしろ、将来性がないと判断された事業は早めに見切りをつけて、次の事業への投資の源泉としたほうがよい。
●既存事業へのこだわりを捨てる
人間の病気に例えると、このようになる。日本のエレクトロニクスメーカーは、「なんか体の体調がおかしいなぁ」と思いながら、ずるずると過ごす。体の節々が相当痛くなってきて、病院に行ったら「そうとう悪化しています。緊急手術が必要です」と言われるようなものだ。
一方、代ゼミの場合は、「調子がおかしい。病院に行こう」と考え、「ちょっと炎症が起きていますね。1週間ほど入院しましょう。でも、リハビリすれば、すぐ元気になりますよ」と言われているようなものだ。
大切なことは、既存事業にずるずるとこだわり続けないことだ。既存事業が踊り場を迎え、成長の可能性が少なくなったのであれば、次の成長の手立てを考えることが重要なのである。多くの事業の寿命は数年から数十年に過ぎない。
富士フイルム(旧富士写真フイルム)は1934年の創業以来「写真文化」の普及、発展に向けた取り組みを行ってきた、写真フィルムが主要事業の会社だった。しかし、2000年には出荷額で個人向けデジタルカメラがフィルムカメラを抜く事態となった。このような状況で富士写真フイルムは、06年10年に社名から「写真」という文字を外し、写真領域以外にも積極的に事業を拡大し始めた。
●すでに打たれた事業シフトへの布石
代ゼミが同じように「ゼミナール」を外し、代々木「不動産」や代々木「ビル」になっても別に不思議ではない。代ゼミが予備校事業から異なる事業へシフトしただけの話である。大切なことは、同じ環境に居続けたいという願望だけで「茹でガエル」にならないことだ。常に環境変化を敏感に察知し、対応を先んじてとることである。
すでに、京都校の別館は10年10月に「ホテル カンラ京都」(京都市・下京区)としてオープンしているし、京都駅近くの学生寮だった建物は11年4月に「ホテルアンテルーム京都」に改装された。代ゼミ本部校跡地の遊休地の活用を目的とした、5〜10年の期間限定のプロジェクトとして、11年8月にはサザンオールスターズやMr.Childrenなどの音楽プロデューサーである小林武史さんを迎え、商業施設「代々木ヴィレッジ」をオープンした。すでに代ゼミの事業シフトの布石は打たれているわけで、今回の校舎閉鎖は、それほど驚く話ではないのである。
もちろん、受験生を抱える親御さんからしてみれば、やはり心穏やかではないだろう。勉強に集中したい時期にいろいろノイズが入ることは、受験生にとってはやはり気の毒である。ただし今後、大学や高校、資格試験にせよ、予備校業界の合従連衡と閉鎖問題は頻繁に起きると考えておいたほうがよい。だから、どこか1つの予備校や塾に頼るのではなく、常にオプションを用意し、今子どもを通わせている予備校や塾がサービスを停止した場合、そちらに移るという心づもりは必要となるだろう。
牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系) 准教授
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