03. 2014年9月09日 06:53:50
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【第163回】 2014年9月9日 週刊ダイヤモンド編集部 中国企業が大規模“派遣切り” 日系製造業、労働力不足の危機 中国企業が派遣労働者の削減に着手した。その背景には、中国政府による派遣ルールの変更がある。労働力の大半を派遣労働者に依存する日系製造業にとって、大きな打撃だ。 チャイナ・モバイルは約30万人の派遣労働者を削減する予定だ。現地資本の行動は、日系メーカーのモデルケースとなり得る Photo:REUTERS/アフロ 中国へ進出している日系の製造業に、また一つ試練が訪れている。
8月20日、中国の通信キャリア最大手・中国移動(チャイナ・モバイル)が、2015年末をめどに大規模な“派遣切り”を実施する、との現地報道が流れた。驚くべきは、その規模だ。チャイナ・モバイルの総従業員約57万人のうち、その半分に相当する、約30万人の派遣労働者を解雇する、というのである。 かつて、リーマンショック後に、日本でも派遣切りが社会問題化したことがあった。今回の中国版・派遣切りでは、当時とは比較にならないくらいの大混乱を来すことになりそうだ。すでに、山東省や湖南省、福建省などから、大規模な派遣切りが始まっている。 事の発端は、中国政府による一連の派遣ルールの変更にある。13年7月に「労働契約法」が改正されたことに加えて、14年3月には、具体的な運用指針を盛り込んだ「労務派遣暫定規定」が定められた。主たる変更点は二つある。 第一に、全従業員に占める派遣労働者の割合(派遣比率)を10%未満にしなければならない点だ。上限を超えている場合は、雇用調整案を人力資源社会保障部(日本の厚生労働省に相当)に届け出を行い、2年以内(16年2月末まで)に派遣比率を10%未満へと下げる必要がある。 第二に、同一労働同一賃金の原則を順守する点だ。派遣労働者に対しても、正社員と同等の業務をしていれば、正社員と同じ報酬を支払わなければならなくなる。 派遣ルール変更の目的は、表面的には派遣労働者の処遇改善を目指す、ということになっている。 だが、中国政府の真の狙いは、過酷な労働環境にある派遣労働者が共産党政権の反乱因子となるのを回避することにある。これを機に、派遣という不安定な雇用形態を終息させて、安定的な直接雇用を中心とした雇用形態へと転換しようとしているのだ。 「派遣比率10%」までの猶予期間は2年。それに先立ち、各地方政府が「雇用調整プラン」の届け出期限を定め始めている。例えば、浙江省は4月末、北京市は8月末、上海市は10月末、湖北省は12月末といった具合だ。 チャイナ・モバイルの派遣切りは、こうした地方政府の動きを先取りしたものだ。チャイナ・モバイルの派遣比率は62%と高く、それを10%未満へ下げなければならない。中国電信(チャイナ・テレコム)などの同業者も、追随することが確実視されている。 労働力の大半を派遣労働者に依存している構図は、通信業界だけにとどまらない。これまで、製造業やサービス業など、仕事の繁忙期と閑散期の変動が大きな業界では、雇用調整をしやすい派遣労働者を“バッファー”として有効利用してきた。派遣を排除し直接雇用へ切り替えるとなると、ユーザー企業にとって、人件費の上昇は避けられない。また採用能力が乏しければ、たちまち労働力が不足する危機に直面する。 中国企業による派遣切りは、これから日系をはじめとする外資企業へと飛び火するのは必至だ。 日系企業にも飛び火 派遣比率50%超えのパナソニック、ソニー とりわけ、派遣比率の高い日系メーカーへの影響は甚大だ。 中国現地でのヒアリングによれば、派遣比率が50%を超えた、派遣依存度の高い企業として、パナソニック、ソニー子会社(ソニーデジタルプロダクツ、ソニー電子)、コニカミノルタ、住友電気工業などの企業名が挙がっている。 ただし、これらの企業群は氷山の一角にすぎない。ある日系電機メーカー幹部は、「ほぼ全ての日系メーカーの生産拠点において、派遣労働者を重宝している」と打ち明ける。 目下のところ、日系メーカーの多くは現地企業など周囲の対応を探りながら、様子見を決め込んでいる状況ではある。そもそも、派遣を直接雇用へ切り替えるなどの対応策が取れるのは、企業体力のある大企業や、派遣比率の低い業種に限定されているのも事実だ。 だが、いよいよ中国企業が派遣労働者の排除に向けて動き始めたとなると、無視できない。現地資本による派遣労働者への対応が、日系メーカーを含めた外資企業のモデルケースとなっていくためだ。 まず、地方政府への届け出義務を怠った場合には、行政処罰や民事上の賠償責任を問われるリスクがある。派遣ルールの変更に伴い、運用指針が開示されたことで、対応が遅れれば内部告発されるリスクすら高まっている。 賃金の高騰、慢性的な労働力不足、労働争議の頻発──。ただでさえ労務リスクが高まっていたところに、中国生産を維持する“足かせ”がまた一つ加わった。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子) http://diamond.jp/articles/-/58828 |