http://www.asyura2.com/14/hasan90/msg/190.html
Tweet |
黄金の日日
http://onthegoldenhill.blog.fc2.com/
それでも賃金は上がらない
http://onthegoldenhill.blog.fc2.com/blog-entry-611.html
いわゆるリフレ派のシナリオによると、デフレ脱却→物価上昇→賃金上昇→個人消費増加→企業収益増加→(設備投資増加)→(雇用改善)→賃金上昇の好循環になるはずでした。
しかし、賃金は上昇していません。
デフレ脱却→物価上昇の最初の2つはどうでもいいのですが、賃金上昇→消費増加→企業収益増加→賃金上昇のサイクルはニワトリが先か卵が先かといったものではなく、賃金上昇がスタートになります。景気指標で何より重要なのは賃金上昇です。
賃金が上昇しない限り、景気はよくなりませんし、経済成長(GDP)も加速しません。経済成長が加速しなければ、莫大な国家債務を抱えた日本やアメリカはいずれ利子を払えなくなり破綻します。
アメリカでは、給料が上がらないので、中間層やサブプライム層は、ローンで個人消費を増やします。ローンで買った住宅の価格が上昇すれば資産効果によって、さらに借金をして消費を増やすこともできます。
しかし、このローンに依存した個人消費増による景気は、賃金が上昇しない限り持続しません。いずれ、ローン債務支払いによるデレバレッジの反動で景気を悪化させることになります。
ローンは将来の消費の先取りです。その利子と元本はいずれ支払わないといけません。ローンの利子率よりも賃金の伸びが低いといずれ支払いができなくなり不良債権になってしまいます。
賃金が上がらないのは、労働分配率が低下しているからです。賃金の上昇率は、短期の景気循環と多少は相関していますが、趨勢的に低下トレンドにあります。これは景気循環ではなく構造的なものです。これは、先進国を中心にした世界中の流れですが、新興国も例外ではありません。
そのなかでも、労働分配率の低さが特にめだつのが日本とアメリカです。
リーマン・ショック後、欧州では労働分配率が再び上昇傾向にあります。日本は横ばいです。一方、アメリカは中央銀行の金融政策によるバブル経済で、労働分配率の低下がさらに加速しています。
労働分配率の低下の要因は大別すると、@グローバル化、A労働生産性の低下、B資本市場による民主主義の抑圧の3つが挙げられると思います。
@グローバル化
グローバリゼーションによって、途上国から先進国へ労働力が移動しています。
製造業の中国などへの工場移転や、サービス業の同じ英語圏であるインドなどへのインターネットを利用したアウトソーシングなどです。コールセンター・テレアポなどがそうです。インドは伝統的に理数系に強い国ですから、SEもアウトソーシングが進んでいます。
アウトソーシングできない、医療や小売、レジャーなどの対面サービス業や、大工などのブルーカラーの仕事は比較的に賃金が安いものです。産業の空洞化は賃金の安い仕事だけを国内に残し労働分配率を低下させます。
このように、新興国と先進国の賃金均衡化によって、先進国の賃金と労働分配率が低下していきます。
新興国と先進国の賃金格差は縮まってきていますが、まだまだ大きな差があります。新興国の人々は皆、先進国と同じ生活水準を求めます。ネットが普及しているの周囲が皆貧乏ならそれで我慢できるというわけにいかなくなってきています。新興国と先進国の賃金均衡化の流れは不可避でしょう。
このようなグローバル化が労働分配率低下の主因であるなら、先進国とは逆に新興国での労働分配率が上がることにはなりそうですが、実際そうはなっていません。それは以下の要因もあるからです。
A労働生産性の低下
労働分配率が一定なら、1人当たり労働生産性の上昇率と実質賃金の上昇率は同じになります。すなわち、理論上は労働生産性が上昇すれば、労働分配率が上昇することになります。
その労働生産性の上昇が成熟経済化した先進国でピークアウトして、趨勢的に低下しています。これが、労働分配率が上がらない一要因となっています。
経済全体の労働生産性を低下させている要因として、製造業からサービス業への産業構造の変化が上げられます。労働生産性の高い製造業のシェアが減って、労働生産性の低いサービス業のウェイトが拡大しているのです。
次に、ロボットやITなどのテクノロジーの進化によって、工場労働者や事務職といった中程度の生産性のある仕事の多くが代替されました。これにより、中間所得者や大卒の仕事が奪われています。最近では、ITは、供給過剰で価格破壊がおきています。また、低金利とデフレにより設備投資のコストも引き下がっています。そのため、労働代替的な資本財への投資が更に加速しています。
また、産業構造のハードからソフトへの以降も、大企業の市場シェア寡占を強めることになり、製造業や中小企業の従業員の仕事を奪い、彼らをより生産性の低い仕事に締め出すことになっています。
さらに、産業構造の変化を別にして単体では生産性を高めるはずのIT自体もロバート・ゴードンの指摘するように頭打ちで付加価値の伸び代はなくなりつつあります。そのため比較的生産性の高かった高所得者の仕事の生産性の伸びも停まってきています。
B資本主義による民主主義の抑圧
もっとも、労働生産性の低下だけでは労働分配率低下の説明はできません。
米国では1970年代までは労働生産性と実質賃金の上昇は同程度でしたが、80年代にレーガンが金融資本家優遇の新自由主義に自国経済の路線に転じた以降、実質賃金が労働生産性を下回るようになりました。
1993〜2013年の20年間、労働生産性の上昇率は年率2.2%でした。これに対して、実質賃金の伸びは年率1.0%にとどまり、最近では、両者の格差はさらに拡大しています。これは労働分配率がさらに低下していることを意味します。
世界中で民主主義による頭数の多数決は、資本主義市場による資本的多数決に敗北しています。資本的多数決は選挙のように1人一票ではありません。資本主義の投票場は市場です。市場では金のある人がそれだけ多くの投票権をもつことになります。
そのため、民主主義による富の再配分が機能せず、労働分配率は世界中で低下しています。新興国も例外ではありません。
アメリカでは、直近の四半期に株主利益を極大化させたCEOが評価されて巨額の報酬を得ます。かれらは、一株利益向上のために、労働生産性を高めるはずの設備投資を削り、労働コスト削減のリストラに励みました。そのため、個々の企業は増益になりますが、社会全体の雇用・賃金環境が悪化して消費が落ち込むという合成の誤謬で、経済全体のパイが失われ、結局、その企業の長期安定的成長が害されるということになっています。しかし、CEOは巨額の報酬を手にしたらいつでも会社を辞めれますし、株主である資本家も好きなときに株を売って投下資本を回収できます。利益は自分だけのものでリスクの損失は国民全体の税金支払い任せのジャイアン状態です。
1%の資本家は株主として会社の利益を独占し、労働者にはほとんど取り分を分配しないでトンズラです。本来なら民主主義の多数決によって制定される法律による規制で富は再配分されるのですが、それがうまく機能していません。労働の付加価値とその対価との間に大きな齟齬が生じています。
彼らはマスメディアやIT企業のオーナー、スポンサーになって大衆をメディアコントロールしてきました。
大多数の富に恵まれない大衆の怒りを富裕層ではなく、他国やマイノリティに向けさせる扇動的な右翼政治家をメディアがスターシステムにのせます。彼らは人気を集め当選します。彼らは金持ち優遇の経済政策をするのですがそれはほとんど選挙のときにそれをアピールしません。結局、彼らに投票した貧しい多数派の大衆は自らの首を締めていることになります。
選挙で勝てば、金持ちに有利な法律を制定できます。
選挙に勝てなかった場合でもロビー活動で政治家を懐柔します。それによって法律を富裕層に有利なように運用できます。
運用が失敗した場合でも、法廷に持ち込めば、巨額の資金力で弁護士軍団を結成してゴリ押しできます。アメリカの裁判は証拠の収集力がある者、すなわち金のあるものが勝ちます。1人の弁護士では弁護士軍団の証拠収集能力に勝てません。
こうして、富の再配分は無力化されていきます。
ウィナー・テイク。オールです。
@のグローバル化、Aの労働生産性の低下よりも、Bの資本市場による民主主義の抑圧が、労働分配率をが低下して賃金が上がらない最大の要因です。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。