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苦境ソニーが陥った構造的問題と打開策を検証 「ハードとソフトの相乗効果」という罠
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140822-00010005-bjournal-bus_all
Business Journal 8月22日(金)6時0分配信
●想定外の好決算
情報家電大手8社の業績回復が鮮明だ。2014年4-6月期の連結決算で、パナソニックなどの営業利益が対前年で大幅増となった。パナソニックが28億円から822億円、日立製作所が45億円から801億円、ソニーが97億円から698億円と大幅な増益となった。
苦境に陥っていた情報家電メーカーは再生したのか。同期の日本メーカーの業績がよかったのには、2つの要因がある。
1つ目は、予想外の大きな駆け込み需要が寄与した点だ。勤労世帯でみると、消費増税直前である3月の駆け込み需要を推計すると一世帯当たり平均で約5万5410円。可処分所得の約36万9000円の約15%が余分に支出された。ちなみに全世帯の3月の駆け込み需要は計3兆円ほどである。エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの白物家電を中心に、前年同月比で倍以上の売り上げ増があったとみられる。その結果、ヤマダ電機などの大手家電量販店4社の配送遅れは商品代金ベースで1000億円に達した。この想定外の特需で、家電量販店各社の13年度の決算も久しぶりに増収増益に転じた。
2つ目は、企業向けの需要が好調であることだ。アベノミクスによる円安で輸出企業の収益回復、株価や地価の上昇による資産効果が発生した。その結果、企業の設備投資や需要が回復。具体的にはビッグデータなどの情報技術関連への投資、海外で伸びる自動車向けの車載機器や部品、発電や鉄道などのインフラ系、さらには集合住宅などの建設投資が伸びた。特に、2020年東京五輪に向けた建設需要は活発である。従って、企業向けの製品や部品の比重の高い、日立製作所、三菱電機、東芝などに加え、車載に強いパナソニックの業績も好調である。
このように情報家電大手の好業績は、主に短期的な駆け込みと景気が上向いたことによる企業向け需要の好調さを反映したものである。テレビなどの消費者向け事業をリストラし、企業向け事業にシフトして、駆け込み需要で少し潤っているのが実態だ。
●なぜソニーのひとり負けなのか?
一方、ソニーのように、白物家電を持たず、企業向け売り上げ比重が低い事業構造の企業は逃げ道がなく、いまだに構造的な問題に直面している。ソニーは14年度の最終損益も赤字予想を発表している。消費者向けAVなど黒物家電の不振を象徴するかのように、7月には中高年には懐かしい「オーディオ御三家」といわれた山水電気が破産した。
それでは日本メーカーは、消費者向けのICT(情報通信技術)を生かした事業は切り捨て、企業向けの部品供給によって生き残る道しか残されていないのか。1980年代、ウォークマンに代表されるオーディオ、ビデオ、テレビで世界市場を席巻した日本の情報家電メーカーの復活はないのか。
日本の情報家電メーカーが直面している共通の構造問題は、主に3つである。
1つ目は、スマートフォン(スマホ)やタブレットの次の商材である新しい製品(アプリケーション)を開発できないことだ。そもそも成熟商品である情報家電は差別化しにくい上に、製品差別化ができない。
2つ目は、コスト競争力がないことである。スマホも先進国では成熟段階に入っている。新興国では、同等の品質でより低価格な製品を武器にした中国企業が躍進し、コストではまったく勝てない。採算月額人件費が2万円以下の競争である。とても国産では勝てない。
3つ目は、国内市場では利益が出にくいことだ。日本市場では、大手家電量販店の寡占化が進んでライバルも多く、メーカーが買い叩かれており、利益が確保できない。
これらの低収益構造は、テレビなどの黒物事業を持つ、すべてのメーカーが陥っている状況である。その中でも、この問題に最も苦しんでいるのが、白物や企業向けに逃げ場のないソニーだ。
ソニーの13年度連結売り上げは6.8兆円、営業利益は963億円である。そのうち黒物事業をはじめとするエレクトロニクス(エレキ)関連が約4.5兆円で6割以上を占めるが、1345億円の赤字。その一方、映画、音楽、金融などのコンテンツやサービスは、2308億円の利益を稼ぎ出している。ちなみに、音楽、映画と金融サービスの売り上げは約2.2兆円で、営業利益率は11%になる。投資家からエレキ事業の切り捨ての声が高まるのも無理はない。
●構造問題から逃げられないソニー
ソニーは平井一夫社長の下で、VAIOブランドのパソコン事業撤退、テレビ事業の分社化、5000人の人員削減、旧本社地域の資産を売却、年功序列賃金の廃止などのリストラを進める。一方で、Xperiaなどのスマホやタブレットへの集中、音楽や映像の新しい配信サービスの事業拡大、画像センサーへの350億円の設備投資を行っている。しかし、構造的な問題への解決策と生き残りの道筋は明確には見えないのが実情だ。
第1に、成熟製品に代わる新しい製品カテゴリー開発の見通しがない。ソニーは、スマホ、タブレットやゲーム機などの限られた製品分野に重点を絞り、高品質を武器にしたハイエンド市場の開拓とシェア確保を進めようとしている。高精細カメラ、高音質などのハードのスペック面、楽曲や映像コンテンツとの連動性などでどこまで差別的な価値を提供できるかが鍵である。
第2に、どこまでコスト差を詰められるかである。世界市場でソニーは、量産優位を構築することはできない。14年のサムスンのスマホの年間販売数量は約3.6億台、アップルが1.7億台とみられるが、ソニーは約4300万台にすぎない。情報家電業界には、販売数量が2倍になれば、1台当たりのコストは20〜30%低くなる、という傾向がある。つまり、同じ部品ならば、サムスンはソニーの半分以下の約41%で、アップルも約56%のコストでつくれることになる。さらに現在、中国市場などの新興国市場を席巻しているスマホは1万円台の機種である。安さの秘密は、メディアテック(台湾)などのファブレスメーカーの格安チップセットを利用し、品揃えを絞った量産だ。
第3に、利益が取れるように、家電量販店との価格交渉力を持つことである。しかし、ソニーストアなど独自のインターネット直販チャネルも持つが、製品差別化とブランド力以外に、交渉力はないのが現実だ。
つまり、これらの業界の構造的問題への解決策が見いだせていない。この泥沼から抜け出す方法は3つの選択肢しかない。1つ目は、エレキから撤退し、音楽、映画と金融サービスに集中することである。2つ目は、エレキの高級品市場を開拓することだ。自動車にベンツやBMW、レクサスなどの高級車市場があるように、世界のハイエンド市場だけにターゲットを集中することである。3つ目は、ソニーの独自の強みであるエレキとコンテンツ、両事業の相乗効果を生かすことである。ネット時代を迎えてソニーは、この3つ目のオプションを追求し続けているが、成果を生んでいないのが現実だ。
●エレキとコンテンツの融合への答え
ソニーの最大の問題は、エレキなどのハード事業と、コンテンツやサービスなどのソフト事業の相乗効果を追求できるビジネスモデルの構築である。ソニーは、これまではエレキで稼いだキャッシュをコンテンツなどのソフト事業の買収や投資に費やしてきた。音楽や映画では世界で有数のコンテンツホルダーである。現在はソフト事業の収益でハード事業の赤字を補填している。ソフトとハードは相互補完関係にある。手袋や靴下と同じで、左右両方がなければ役に立たない。ソニーには、この両方の事業があることがユニークである。しかし、現実には相乗効果をうまく引き出せないので、マイナス効果のほうが大きい。
ハードを売るには、ソフトはたくさんあって、なおかつ無料がいい。テレビなどのエレキ=ハードが普及したのは、放送=コンテンツが豊富で無料だからだ。一方で、ソフトを売るには、ハードは選ばず、利用できる端末が多いほうがいい。グリー、DeNAやガンホーなどゲームのプラットフォームビジネスの収益性が高いのは、携帯電話やスマホなどの端末=ハードを選ばずに、専用端末を購入しなくていいからだ。
ソニーは、ソフトとハードの両部門があるので、両者の収益性を追求せざるを得ない。そのため、端末に固有のキラーコンテンツを開発して、互換性のない端末を販売するという「バインド(一括販売)モデル」にこだわり、顧客を囲い込むことになる。
例えば、分社化の決まったテレビ部門も4Kテレビで品質優位性を持つが、普及に不可欠な4Kコンテンツは提供されていない。そうなると、自社コンテンツを武器に、独自の4K配信によって持続的な差別性をつくろうとする。オーディオ事業の「ハイ・リゾリューション」規格の高音質追求も、同じバインド路線である。このバインド戦略の行き着く先は、「ソニーの4Kコンテンツはソニーの4Kテレビで」という、ユーザーにとっては利用が制限される囲い込みになる。コンテンツ部門にとっては、ハードの売り上げ支援のために、コンテンツの販路が制限されることになる。
ソフトとハードの融合は難題である。近年、端末(ハード)に参入したマイクロソフト、アマゾン、グーグルなどのソフトやネットワーク企業は、ソニーと同じソフトとハードの融合によるビジネスの相乗効果を狙っている。しかし、どの企業も成功しているとは言いがたい。
ソニーは、さまざまなアカウントを「ソニーエンタティメントネットワーク(SEN)」に統一して、ゲームソフトの配信をテコに、音楽や映像コンテンツを配信するクラウド型の定額有料配信サービス、「ミュージックアンリミテッド」や「ビデオアンリミテッド」などを拡充させている。スマホ、タブレット、オーディオ、テレビなどの端末で共通に利用できるエンターテインメントサービスであり、ソニーの難題への最新の答えである。これがソニーを復活へ導く導火線となるか、大きなカギになるといえよう。
松田久一/JMR生活総合研究所代表
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