http://www.asyura2.com/14/hasan89/msg/853.html
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小屋 洋一(こや・よういち)
(株)マネーライフプランニング代表取締役 CFP(R)、1級ファイナンシ ャル・プランニング技能士、首都圏ファイナンシャル・プランニング技能士会理事。 慶應義塾大学経済 学部でファイナンスを学び卒業後、リース会社に就職。2004年から不動産ベンチャー企業にて営業、企画を担当しながら不動産投資実務についても研究。2008年個人のファイナンシャルリテラシーの向上をミッションとした株式会社マネーライフプランニングを設立。現在個人を中心にコンサルティング業務を行う。投資勉強会や株式投資クラブの運営など、活動の範囲は幅広い。 主な著書に『35歳貯金ゼロなら親のスネをかじりなさい』(すばる舎リンケージ)、『くらしの相続Q&A〜もめない相続のために』(新日本法規 共著)、『いわゆる「当たり前の幸せ」を愚直に追い求めてしまうと、30歳サラリーマンは、年収1000万円でも破産します。』(東洋経済新報社)などがある。
急増する教育費貧乏〜現代ニッポン 新たな貧困の形〜
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140819/270044/?rt=nocnt
2014年8月21日 鈴木 信行 日経ビジネス
ファイナンシャルプランナーの小屋洋一氏に聞く
子供の将来を考え、塾や習い事に通わせたいと思うのは、親として当たり前のことだ。ただ最近はそれがエスカレートし、家計が中長期的に破綻しかねないレベルまで教育費が膨らむ家庭が増えている。“教育費破産”の恐ろしい点は、子供が小さい間はその予兆に気付きにくいこと。子供が大学受験を迎える時期から家計が本格的に圧迫され始め、親の役職定年を経て一気に顕在化する。もともと余分なカネがない平均的家庭より、年収1000万円程度の小金持ちの方が陥りやすいという教育費破産の罠。その現状と対策を専門家に取材した。
(聞き手は鈴木 信行)
■セレブ家庭が20年で自己破産の危機に
具体的にどのような家庭が、教育費によって危機に瀕しているのでしょう。
小屋:例えばこんなケースがあります。ご主人、奥さん共に38歳で、4歳になる娘さんが1人います。ご主人は外資系企業の社員で年収は約1000万円、奥さんもお勤めで約300万円の年収があります。
世帯年収1300万円。手取りで1000万円弱といったところですか。なかなかのセレブじゃないですか。
小屋:ところが、現在の支出状況からこの家庭の将来資産をシミュレーションすると、娘さんが大学受験の準備を始める時期から急速に預金残高が減り始め、世帯収入もご主人が役職定年を迎える50代後半から大きく落ち込みます。その結果、ご夫婦が60歳になった時点で預金残高はマイナスに転落します。その後、夫婦の年金が想定通り支給されても、借金は毎年膨らみ続け、65歳で1000万円、70歳の時点では3000万円を突破してしまいます。
まるで借金で借金を返済する、多重債務者状態じゃないですか。
小屋:こうなると資産を切り売りして細々と食い繋いで行くしかなくなってしまいます。
年収1300万円の一家がわずか20数年後に、そんな状況になるとはにわかには信じられないんですが。
小屋:最大の原因は、娘さんに対する高額の教育費にあります。このご夫婦は娘さんの教育に極めて熱心で、今現在、バイリンガルの幼稚園に通わせており、月額14万円、年間約170万円の保育料を支払っています。小中高も私立に通わせ、大学では留学も経験させる計画です。それらの費用を塾代などまで含めて計算すると、教育費は総額で4000万円を超えることが分かりました。夫婦は二人とも英語が堪能で、奥さんも独立する前は外資系にお勤めでした。お二人ともに「娘が大人になる頃はさらにグローバル化が進み、異文化の人たちと対等に渡り合える力が生きる上で欠かせない。だから、英語も留学も絶対に必要だ」と考えているわけです。
それはそうでしょうけど、その代償として、自分達が70歳過ぎて「住所不定無職」にでもなれば本末転倒でしょうに。
小屋:本来、これだけ高額の教育プランを立てるなら、子供の教育費が本格的に上昇する高校入学前までに、相応の預金を貯めておかねばなりません。でもこの家庭は、教育費以外の支出も多く、貯蓄があまり増えない構造になっていました。
確かにシミュレーションを見ると、娘さんが16歳を迎える時期の貯蓄額が2000万円弱ですか。ご夫婦はその時50歳代前半。年収、年齢の割には少ないようにも思えます。貯金額はそこがピークで、後はどんどん減っていきますね。
小屋:その頃から、教育費の支出が本格的に増えますから、致し方ありません。
■当事者に分不相応の投資をしている自覚なし
「乾坤一擲の教育投資を注ぎ込んだ子供が将来成功して、家賃から小遣いまで一切合財、面倒を見てくれる」という一発逆転の展開もあるんでしょうが、それにしてもリスクの高いプランに思えます。当然、ご夫婦自身にも、自分たちが、かなり分不相応な教育費をこれから支出しようとしているという自覚はある?
小屋:いえ、強い危機感はないようでした。教育費が将来的に家計をどう圧迫するか中長期的なライフプランを立てたことがなく、「もともと子供は2人欲しかったが、結果として1人になったので、他の家庭より2倍の教育費を投じても大丈夫だろう」とのお考えでした。
今は、シミュレーションを元に、教育費を始めとする消費行動を見直した、と。
小屋:いえ、今のところ、具体的な行動には移されていないようです。
破産することが分かっているのに!?
小屋:子供の教育費が本格的に上昇するのは高校からで、小さい頃は、自分たちの教育費投資が分不相応であると実感しにくい部分もあるんです。
確かに試算を見ても、子供が16歳になるまでは預金残高も順調に増えています。“教育費破産”の恐ろしい点は、子供が小さい間はその予兆に気付きにくいこと、というわけですか。こんな家庭が他にも増えているんですか。
小屋:明らかに増えています。理由は簡単で、先ほどのご夫婦同様、子供の教育費について「いつ、いくらくらいかかるのか」イメージを持っていない人が少なくないからです。文部科学省が公開しているデータなどから試算すると、幼稚園から高校まですべて公立に通わせると平均で約550万円ですが、幼稚園から高校まですべて私立だと約1600万円必要です。
高校までで1人1600万円ですか…。
■“普通の進路”でも3人兄弟で総額4500万円
小屋:これに、大学が加わります。国公立の場合、年間130万〜150万円なのに対して、私立の場合は200万円ほどかかります。これは、自宅以外から通勤した場合で、生活費も含んでの平均値です。こうした数字を足し合わせると、幼稚園から大学まですべて私立に通った場合、1600万円+(200万×4年分)で合計2400万円の教育費が発生することになります。
もう少し一般的なパターンで、中学まで公立で高校から私立だとどうなりますか。
小屋:約1490万円です。これはあくまで一人っ子の話で、子供が3人いれば、当然、冒頭の事例同様、単純計算で4000万円を突破します。
つまり、バイリンガルだの何だの言い出さず、ごく一般的な進路を選ばせたとしても、子供の数次第では、結局、教育費破産する家庭が出かねないというわけですか。
小屋:試算上はそうなります。
ならば、もう無理をせず、ずっと公立というわけにはいかないんでしょうか。
小屋:個人的意見を言えば、それでも問題ないと思います。確かに、今の日本では、高等教育が非常に費用対効果の高い「投資」であるのは事実です。概算で、大卒男子と高卒男子を比較すれば、生涯賃金で約7000万円、女子ですと約1億円の差が開きます。だから子供を大学に進学させようとすること自体は合理的な選択です。
ですが、そこまでの進路は公立であろうと私立であろうと、大きな問題はない?
小屋:子供の成長に最も影響を与えるのは結局、学校や塾ではなく、親の姿勢です。教育の大半は家でやるべきことなんです。親が子供ときちんと向き合い、人生に大切なものをしっかり教えれば、公立でも私立でも子供は立派に育ちます。学習意欲にしても、親自身がプロフェッショナルとして日々勉強を重ねる姿を家で見せていれば、子供も自然と勉強に興味を持つようになるはずです。
なるほど。
小屋:ただ、ここからがポイントなのですが、教育費過多の家庭の親御さんの中には、「私立と公立では教育の質が違う」と考える方も多い。「私立の方が公立よりも、より教育の本質に近いものを学べる」という考えを持っています。そうした考え方には一理あると私も思っています。そもそも公立教育は戦後、優秀な工業労働者を育てることを目的に設計されたものです。時間と規律を守り、上から指示を守り、周りと同じ行動を優先し、余計なことは考えない。「そんな人間に自分の子供をしたくない」という思いで私立に通わせたがる親御さんがいるのは事実です。
■「公立でもいいよね!?」と子供に言えない理由
子供をいじめに遭わせたくないから公立ではなく私立に通わせたいという親も多いと聞きます。
小屋:とりわけ中学までを比較した場合、公立と私立の大きな違いは、私立はその教育方針に従わない“危険分子”を退学という形で排除することができるが、公立は義務教育であるがためにそれが出来ないという点です。
クラスの中に手が付けられない問題児がいた場合、私立は予防策が打てるが、公立は“事”が起きるまで抱え込むしかないといった事態に陥る可能性もゼロではない、と。
小屋:私立に行けば子供が立派になる、いじめに遭わずに済む、というのは安易な考えだとは思います。でも、子供の教育のためと考えて、できれば私立に通わせたいと思う親御さんの気持ちも、また理解はできます。
うーん、だとすれば、子供に高額の教育プランを組みたいが、そのままでは己が老後、路頭に迷いかねない親たちはどうすればいいのでしょう。
小屋:「教育費が嵩んでしまって、自分たちの老後の資金が足りなくなるかもしれない」。そんな家庭が打てる手は大別すると、3つしかありません。一つは転職などで現在の収入を上げる、もう一つが運用によって資産を増やす、最後が、教育プランなどを見直して支出水準を下げる、です。
収入増加や資産運用に比べれば、最後の支出見直しが最も確実な手に思えます。が、例えば、小学校までを私立で過ごした子が、急に地元の中学へ通うとなると、カルチャーショックを受けてしまう恐れはありませんか。
小屋:もしも、お金の問題で子供の進路を変更せざるを得ない場合にはなるべく早い時期の方がいいし、子供に対して選択肢を提示してあげるべきです。そして必ず子供の同意を得て実行すべきです。家計の実態を正直に話し現実を子供に理解させ、その上で奨学金の貸与を受けて将来自分で返済する方法や、あるいは子供がアルバイトをしてでも今の進路を続けたいと言えば、そのような手段を支持してあげるべきです。大学の費用を子供自身に負担させてもいい。現実に、日本でも奨学金をもらっている学生の比率は既に大学の学部生でも50%を超えています。半額でも自分で学費を負担するようになれば、多くの学生が今よりずっと真剣に大学での勉強に取り組むようにもなるでしょう。
なるほど。
■横並び意識、見栄での習い事は実を結ばない
小屋:また学費ではなく、習い事を絞り込むなどして支出を下げる方法もあります。お子さんの将来の教育資金も貯められない状況なのに、小さな頃から習い事にお金を使うのは、再考すべきです。誤解がないように言っておくと、別に子供にピアノや水泳を習わせること自体を否定しているわけではなく、明確な目標を持って習い事に通っているのであれば構わないとも思います。ただ、そうではなく隣近所との横並び意識や見栄、あるいは「何となく情操教育によさそうだから」といった曖昧な理由で続けている場合は、見直した方がいいでしょう。そんな状況で、習い事を惰性で続けてもまず身に付かないし、将来、実を結ぶこともありません。
よく分かりました。最後に、ものすごく基本的な質問をさせてください。そもそも何故こんな状況になってしまったのでしょう。冒頭に登場した教育費4000万円のケースはともかく、「子供を高校から私立に通わせる」程度のことは、そんなべらぼうに贅沢なこととは思えないんです。事実、読者の中にも、高校や大学から私立に行かせてもらった方は沢山いるはずです。でも、多くの場合、親は別に破産などしておらず、普通に暮らしています。
小屋:そうだと思います。
「自分が親にしてもらったことぐらいは、自分の子供にもしてやりたい」と思うのは当然でしょう。でも、今の時代にそれをやると、将来破産してしまうと言う。ほんの数十年前にできたことが、なぜ今、できないのでしょう。
小屋:その背景には、この20〜30年の日本経済の構造変化があります。最も大きいのが終身雇用・年功序列制の崩壊です。我々の親世代は給与が年々増えるのが当たり前でした。現役時代に子供の教育のためお金を使いすぎても、給与増加と退職金によってカバーすることもできた。でも、今は給与の将来的な伸びを期待することはできませんし、定年まで会社に籍を置ける保証もありません。
冒頭のシミュレーションでもご主人が40歳から50歳代中盤まで給料がほぼ変わらないという前提での試算になっています。
小屋:そうです。仮に給与カーブが上がっていくのであれば、老後の資産状況もここまで悪化しません。
■「当たり前の幸せ」を求めると破産しかねない時代
なるほど。日本経済の構造変化で言えば、土地神話の崩壊も影響していませんか。昔は若い頃に無理をしてでも家を買えば資産価値が膨らみ、一財産になりました。老後、それを売って住み替えればかなりのキャピタルゲインが発生し、一気にチャラになった。
小屋:もちろんそれもあるでしょう。いずれにせよ、今は、かつての「当たり前の幸せ」を追い求めてしまうと、たとえ年収1000万円の家庭でも破産しかねない時代だという事実を、子育て世代はもう一度、噛みしめる必要があると思います。
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