23. 2014年8月28日 06:33:07
: jXbiWWJBCA
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140827/270455/?ST=print 日本に富裕層はいるのか?米シティ、日本戦略転換の理由2014年8月28日(木) 武田 安恵 最新テクノロジーを使用したシティバンク日本橋支店 「当惑の一言に尽きる」。米金融大手、シティグループが邦銀9行に対し、個人向け銀行業務の売却を打診しているとのニュースが駆け巡った8月20日、シティバンクのある社員は驚きを隠せなかったという。自分たちはこれからどうなるのか。今のところ、シティグループはこの報道について「シティが発表したものではない」とし、一切コメントを出していない。それだけに社員は不安な日々を過ごしている。
シティグループは英HSBCに次ぐ日本で2番目に古い外資系金融機関で、100年の歴史を持つ。店舗網も33と、手広く展開している。それだけに社員には「まさか自分たちが」という意識があったようだ。 しかし、外資系金融機関が個人向け業務から撤退・縮小する動きはこれにとどまらない。英HSBCホールディングスや英スタンダードチャータード銀行など、主だったところは既に手を打っている。これらはいずれも、日本の富裕層をターゲットに事業展開を目論んでいたところばかりだ。それは、シティグループが目指してきた方向性とも重なる。 3年前までは力を入れていた 「経営トップの方針転換であることは間違いないだろう」。ある関係者は話す。2012年末に今のCEO(最高経営責任者)のマイケル・コルバット氏が就任してから、シティグループが個人向け業務から撤退した国はトルコをはじめ5カ国に上る。不採算部門から手を引く動きは加速しているといってもいい。 わずか3年ほど前まで、シティバンクは個人向け業務に注力していた。2010年4月から「新型支店プロジェクト」と銘打ち、最新テクノロジーを駆使した新型支店を東京・丸の内と日本橋、新宿、名古屋に開店した。 これは、当時のシティグループでも世界初の試みで、「スマートバンキング」と呼ばれた。例えば日本橋支店には、1階にタッチパネル式の端末がズラリと並ぶ。顧客はこれを操作することで、商品情報や為替などの市況を確認できる。口座開設も、ワークベンチと呼ばれる専用端末の操作で完了。すべてペーパーレスだ。比較的所得の高い層が集まるエリアに、フラッグシップ的な支店を置いてシティの存在感を高める狙いもあった。 新型支店プロジェクトはその後、駅や商業施設など顧客の生活動線上に支店を配置する方向にシフトしていく。2011年4月には、羽田空港への乗り換え客をターゲットに新型出張所を浜松町駅に開設。ここでも最先端技術が活用されていた。だが、この出張所は開設から2年足らずの2012年末に営業を終了している。 低金利環境下で富裕層囲い込めず 2011年4月当時に出されたリリースには、「全国における支店の総数を35支店とすることを目標としている」と書かれている。だが、この目標は現在に至るまで達成されていない。その後、個人向け事業に誤算が生じたと考えられる。 シティバンクはグループの持つグローバルなネットワークを武器に、外貨両替や海外送金業務を得意としていた。海外ATMでも預金を引き出せたため、旅行やビジネスで海外を行き来することの多い人にとっては利便性が高かった。外貨預金を目的に口座を開設する人も多かった。 しかし、こうした手数料収入を見込んだ業務は利幅が薄く、そもそもシティバンクにとっての「本丸」ではなかった。それは、日本橋に開設された新型支店の2階を訪れれば分かる。投資信託などの金融商品の購入を検討している顧客向けに相談ブースが並んでいる。つまり、シティバンクのサービスを入り口にして付き合いのできた顧客に対して預かり資産業務を行う。これこそシティが目指す方向性であり、収益モデルであった。 しかし、日本を含む各国の金融緩和で低金利が続く中で、魅力的な商品を作り出すことは難しい。株式などのリスク商品を敬遠し、金利がつく商品を好む日本人を低金利の環境の中で攻略するのは「至難の業」だ。 「資産額の大きい富裕層はリスク志向が低い。利回り商品で安定的な運用を目指す傾向にある」と、あるファイナンシャルプランナーはシティバンクが魅力的な商品を提案できなかったと指摘する。 努力をしなかったわけではない。「プレミアム・デポジット」と呼ばれる満期時の為替に応じて受け取る通貨が変わる仕組み預金も開発した。円投資型、外貨投資型、クロスカレンシー型の3種類がある。 中でもクロスカレンシー型は、米ドル、ユーロ含む7通貨の中から組み合わせを自由に選べ、シティバンクの通常の外貨預金よりも高い金利がつく。円を介さずに外貨から他の外貨へ直接乗り換えることも可能な商品と注目を集めたが、為替変動のリスクが高い上級者向け商品である。「仕組みが顧客には分かりにくく、魅力ある存在にはならなかった」(前述のファイナンシャルプランナー)。 サービスの多様化で存在感薄れる 預かり資産業務が伸び悩むとともに、手数料収入に直結する他業務に関しても、優位性が薄れつつあった。もともとシティバンクは、ATMの24時間営業、一定の条件を満たせば他行での引き出しを含むATM手数料無料といったサービスをいち早く始めたことでも知られている。 しかし、銀行間のサービス競争が激しくなるにつれて、これらのサービスはもはや当たり前になってしまった。加えて、ソニー銀行などのネット銀行の台頭で、外貨預金などでも優位性をアピールできなくなってしまった。 海外送金に関しては、外国為替保証金取引(FX)の普及と共に、外貨両替(コンバージョン)サービスに乗り換える人が出始めた。これを使えば、低いコストで海外送金ができる。 国内金融機関のサービスが厚みを増す中、シティバンクとしての独自性が出せなくなっていることも、日本市場から身を引く背景にあると考えられる。 日本人の個人金融資産は1600兆円。そのほとんどは高齢者にある。魅力的な市場であるはずなのに、外資系金融機関はなぜ攻略できないのか。 2012年11月に発表された野村総合研究所の調査によれば、純金融資産1億円以上を持つ富裕層・超富裕層は81万世帯で、その純金融資産総額は188兆円。だが彼らの資産の内訳を見ると、現預金の割合が増加する一方、「金融商品を選ぶ際には、たとえリターンが低くても『安全・確実』を最優先にしたい」と回答する人が66%と、運用志向は低い。低金利という運用環境の悪さに加え、資産を増やそうとしない日本人の特殊性が浮かび上がる。 調査では、資産を殖やすよりも相続や遺言と言った「遺す」ことに関心を持つ傾向があることも分かった。日本の相続税が国際的に見ても高いことが影響していると考えられる。 このような事情も少なからず影響しているだろう。2兆9000億円もの預かり資産を有効に活用できなかったシティバンク。この膨大なマネーはどこに向かうのか。早くも熱を帯び始めた争奪戦の行方が注目される。 このコラムについて ニュースを斬る 日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
|