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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第88回 税収弾性値
http://wjn.jp/article/detail/1106417/
週刊実話 2014年8月21・28日 合併号
現在の日本は、いまだ完全雇用を達成しておらず、さらに法人企業の過半が赤字の状況で、利益を出せていない有様だ。失業者は、所得税や住民税を支払っていない。また、法人企業は法人税をほとんど支払わない。
逆に考えれば、今後の日本が好景気になれば、就職した元・失業者や黒字化した企業が、“新たに”税金を支払い始めることになる。
好景気とは何を意味するかといえば、今回は「名目GDPが成長する」になる。
我々国民は、生産者として働き、モノやサービスを生産し、別の誰かに「消費・投資」として支出(購入)してもらい、日々の所得を稼いでいる。
国内の「生産」「支出(消費・投資)」そして「分配(された所得)」の合計こそがGDP(国内総生産)であり、「生産面のGDP」「支出面のGDP」そして「分配面のGDP」の三つは必ず一致する。これをGDP三面等価の原則と呼ぶ。
さらに、国民は生産者として稼いだ所得から税金を支払っている。税金とは、政府への所得の分配という意味を持つのだ。
そして、所得の合計“も”GDPの面の一つである。というわけで、政府の税金の「源泉」は名目GDPになるわけだ。
完全雇用が達成され、あらゆる企業が黒字の状況であれば、政府の税収は「名目GDP×税率」に限りなく近づく。
逆に、完全雇用が達成されておらず、赤字企業が多い場合、景気が好転し、名目GDPが拡大すると、税収は名目GDPの成長率“以上に”増えることになる。
税収の伸び率が、名目GDPの成長率の何倍に達するか。これを「税収弾性値」と呼ぶ。
名目GDPが1%成長したとして、税収弾性値が3であれば、税収は3%増える。名目GDP100兆円、税収40兆円の国でシミュレートしてみよう。
■1年目:名目GDP100兆円 税収40兆円
●2年目 ケース(1)
名目GDP101兆円 経済成長率(名目)1% 税収41兆2000億円 (税収弾性値3)
●2年目 ケース(2)
名目GDP103兆円 経済成長率(名目)3% 税収41兆2000億円 (税収弾性値1)
●2年目 ケース(3)
名目GDP103兆円 経済成長率(名目)3% 税収43兆6000億円 (税収弾性値3)
上記の通り、税収弾性値が3の場合、名目GDP(実質ではない)が1%成長するだけで、税収は3%増える。あるいは、税収弾性値が1であっても、名目GDPが3%成長すると、税収はやはり3%増える。
実質ではなく「名目」であるため、GDPデフレータベースのインフレ率が3%になるだけで、税収弾性値が1であっても、税収は3%増えることになるわけだ。
さらに、名目成長率3%、税収弾性値が3の場合は、税収は実に9%も増加する。
税収弾性値が存在する理由は、名目GDPがプラス成長になると、
「これまで税金を支払っていなかった赤字企業や失業者が、黒字化、就職し、税金を支払い始める」
ためだ。
上記の税収弾性値が「現在の日本ではいくつなのか?」は、極めて重大な問題だ。ちなみに、財務省は「1.1」という、現実離れした数値を公表している。
実際の我が国の税収弾性値はいくつなのだろうか。
税収弾性値の「実際値」について解説する前に、
「なぜ、税収弾性値について正しく理解する必要があるのか」
について書いておきたい。
理由は、デフレから脱却し、名目GDPが成長すれば、それ以上の速度で税収が増えることを理解してはじめて、消費税増税の理由を明確に否定できるためである。
今後の日本において、介護、医療等の社会保障支出が拡大するとしても、金額的には精々1.2兆円「程度」に過ぎない。1.2兆円「程度」の支出増など、税収弾性値を無視したとしても、名目GDP3%成長「程度」で賄える金額なのである。
そして、名目GDP3%成長とは、GDPデフレータベースのインフレ率を3%「程度」にすれば、実質GDPが成長しなくても(実際にはそんなことはあり得ないが)達成できる数値になる。
加えて、我が国の昨今の税収弾性値は高まっているため、実際に税収を1.2兆円増やすには、3%の名目GDPの成長すら不要なのである。
要するに、
「税金は所得から徴収され、所得の合計が名目GDPであるため、名目GDPと税収は相関関係にある」
「税収弾性値が高い時期は、税収は名目GDPの成長率以上の速度で増える」
上記の二つを理解すれば、「社会保障の財源のために消費税を増税する必要がある」といった、財務省のプロパガンダ(特定の思想によって個人や集団に影響を与え、その行動を意図した方向へ仕向けようとする宣伝活動の総称)に騙されることはなくなるのだ。
前述の通り、財務省は我が国の税収弾性値について「1.1」と、現実離れした数値を言い張っている。
法人企業の7割超が赤字の国で、税収弾性値が1.1などという低い水準であることは“絶対に”あり得ない。
それでは、実際の税収弾性値はどのくらいなのか。
2013年度の名目GDPは1.9%成長だった。それに対し、税収は6.9%の増加。すなわち、税収弾性値は3.7。
税収弾性値を3と置き、名目GDPが今後、2%のペースで成長していくと想定してみよう(低い成長率だが)。すると、税収は6%ずつ増えていくことになる。
現在の税収が50兆円であると仮定すると、毎年3兆円のペースで税収が増えていくことになるのだ。社会保障費の1.2兆円「程度」の増加など、余裕で賄い続けることが可能になるわけだ。
今の日本政府は、IMF式マクロ経済モデル、平均概念の潜在GDPなど、明らかに現状に即していない「狂った羅針盤」で経済政策を講じている。
税収弾性値「1.1」も狂った羅針盤の一つであり、我が国の国民を貧困化させる増税路線を後押ししているのである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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