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再雇用・再就職 新聞・テレビは「いい話」しか伝えないが「65歳で働くこと」その現実
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39322
2014年08月14日(木) 週刊現代 :現代ビジネス
40年間、真面目にコツコツ働いてきた。でも悠々自適の老後なんて夢のまた夢。妻に尻を叩かれ、再就職してみたものの、そこで待っていたのは外国人留学生や若者に罵倒される、苦悩の日々だった―。
■私の人生は何だったのか?
医療機器販売会社の営業職を定年まで勤め上げ、近所のスーパーに再就職したAさん(65歳)は語る。
「『ナンドイッタラワカルノ!』。スーパーで中国人留学生に、毎日叱られています。先日は特にひどかった。雨が降ったら店の前の荷物を仕舞わないといけないのですが、ついそれを忘れてしまった。おかげで、お客さまの前で『ホント、ツカエナイネ、ナンデヤメナイノ?』と責め立てられました。40年以上懸命に働いてきたのに、外国人にカタコトの日本語で説教される日々。『すんません』と口では言っていますが、私の人生は一体なんなのかと虚しい気持ちになります」
定年後、余裕のある生活を送れるほど、退職金や年金が潤沢だという人は、実はほとんどいない。妻と二人の老後のために、働けるうちは働き続けるしかない、というのが実情だ。たとえ定年延長で65歳まで会社にいられても、その先は、まったく新しい仕事を探すことになる。
コンビニや警備員、介護といった現場では人手不足が叫ばれており、猫の手でも借りたい状況だ。当然、こうした業界が「65歳フリーター」の受け皿になる。
彼らの再就職は、新聞やテレビでは、スキルを生かした転職に成功、地域に貢献といった「いい話」として取り上げられる。しかしその現実は厳しい。
広告会社を退職したBさん(65歳)は定年後、コンビニの深夜バイトに就いた。
「忙しい昼や夕方の時間帯は体力的に厳しく、若者に囲まれて働くのは難しいと思い、深夜を選びました。深夜は基本的に、中国人留学生と二人で勤務。向こうのほうが先輩だけど、長年働いてきたプライドがあるから、頭を下げて仕事を教えてもらうことに抵抗があります。
だから、仕事はあまり覚えられません。宅配便の依頼とか公共料金の支払いとか、いまだにレジ操作がよくわからない。お客さんの前で手間取っていると、留学生が舌打ちをしながら助けてくれますよ……」
Bさんの時給は深夜のため1250円。週に3日シフトに入っており、月収は16万円程度だ。
「これだけストレスをためて働いても、家ではカアチャンに『あなたの稼ぎが16万円ぽっちでは私もパートを辞められないわ……』とため息をつかれる。かといって、これ以上稼ぐ方法は思い当たりません」
慣れ親しんだ職場で再雇用される人は幸せかと言えば、実はそうでもない。勤め上げた印刷会社と2年の再雇用契約を結んだCさん(63歳)は語る。
「再雇用といっても、いままでと全然関係ない事務の職場で働かされた。もちろん、まったく歓迎されていない。飲み会で、かつて部下だった男に『Cさん、この会社が好きなんですね』と嫌みを言われて、逆上して『オレたちが会社を支えたんだ』と説教してやった。でも次の日から、仕事がないので一日中ネットを眺めているだけ。周囲の白い眼が耐えきれないからもう辞めたい」
厚生労働省の調査によると、昨年の外国人労働者数は71・8万人。人口が減り続ける日本ではこれからも増加の一途を辿る。再雇用ではなく新しい業種にアルバイトで飛び込む65歳にとっては、こうした外国人たちが「同僚」となる。
■中国留学生にナメられる
大手百貨店を定年退職し、現在食品製造工場で働くDさん(65歳)は言う。
「どうしても中国人留学生たちとうまくやれない。彼らは契約外の仕事は絶対にしない。たとえば、新人なら誰よりも先に工場にきて掃除をしたり、休憩時間にお茶を配るといった不文律があるのですが、彼らは一切しないから、それは私の仕事になる。周囲がどれだけ忙しくても、彼らはきっちり時間通りに帰ります。問いただしても、『中国ではサービス残業なんてアリエナイ』とまくしたてられるだけ。文化の違いだと頭で理解していても、どうしても納得できません」
とはいえ、元々が社交的な性格のDさん。仕事を円滑に進めるためにも、仲を良くしておいたほうがいいだろうと考えた。
「親睦を深めるために、仕事が終わった後で飲もうと誘いましたが、あっさり断られました。私と飲んでもメリットがないという判断なんでしょう。彼らは、査定に直結する社員にはゴマをすりますが、それ以外の人間には露骨に横柄な態度を取るんです。
私が『そこに置いてある消毒液を貸して』などちょっとしたことを頼んでも、『それは私の仕事じゃナイヨ。アナタは私に命令できない』と言って断る。ですが、上司の前では、『はい、ワカリマシタ』とやけに素直なんです」
カネについての考え方の違いで、苦労することもある。元タクシー運転手でいまは訪問介護のドライバーを務めているEさん(67歳)は、中国人の同僚から突然次のような質問をされたという。
「休憩時間にこちらに近づいてきたと思ったら、『アナタのお給料はいくらデスカ?』と聞いてくるんです。日本人同士ならあり得ないでしょう。どうやら仲間内でも給与明細を見せ合ってがやがや何か喋っている。自分たちが会社からどのような評価をされているのか、つねにチェックしているんです。
彼らにとって仕事とはカネを得るための単なる手段にすぎない。正当に評価されていなかったり、ほかに条件のいい職場を見つければすぐに移ってしまう。引き継ぎもちゃんとしないので、なぜかドライバーの私に、新任者が患者さんのことを聞いてきて困っています」
■若者にバカにされる
中国人労働者には契約や金銭へのこだわり以外にも特徴がある。それは時間の感覚だ。中堅メーカーの管理職を経て、現在、清掃会社に勤めるFさん(68歳)は指摘する。
「基本的に彼らは時間にルーズです。日本人なら5分前行動が常識ですが、彼らは10分、20分の遅刻は当たり前。当初は大目に見ていたのですが、何度注意しても直らない。彼らがゴミ捨てをサボるから、連帯責任で私たちまで会社に怒られるんです。文句を言っても、『ノルマはちゃんとこなしているんだから問題ナシよ』と言い訳する始末。そんな彼らと給与面での待遇は同じだから……現役時代よりもはるかに疲れます」
見られていなかったらサボるのは当然、契約上のノルマを達成すれば遅刻しても悪びれず、おカネを支払う人にしか興味がない―。日本人とは真逆とも言える労働観を持つだけに、中国人労働者のいる職場は苦労が絶えない。
一方、同じ外国人労働者でも韓国人は仕事に厳しく、競争意識が高い。保険会社でのセールスマンとしての腕を買われ、家電量販店に再就職したGさん(67歳)は驚いたという。
「2年ほど前に、マッサージチェアの売り場からパソコン・携帯の売り場に異動しました。そこで、韓国人留学生と一緒になりました。職場の先輩としてアドバイスをしてくれるのはいいのですが、それが常軌を逸している。『明日までにこの売り場の携帯の機種や機能をすべて覚えてね』と言うんです。家に帰ってから必死で勉強しましたが、とても無理でした。すると次の日、『そんなことじゃ他の売り場に勝てないよ』と厳しく叱責された」
Gさんは数年前に腎臓の病気を患い、トイレが近くなった。管理者には伝えてあり、了解を得ていたが、同僚の韓国人は許してくれなかった。
「ある日、呼び出され『就業時間中にたくさんトイレに行きましたね』と難癖をつけられました。証拠だといって、この2週間の内にトイレに何回行ったのか、1回につき何分かかったのか詳細にメモした手帳を突き付けられました。『合計すると142分になる。あなた、これドロボウだよ』と。彼は現場の責任者というわけでもなく、単なるアルバイトなのに、そこまでするかと、唖然としました。このまま勤め続けられるか、悩んでいる最中です……」
再就職の現場で過酷なのは、外国人労働者と働くことだけではない。日本に生まれ育っても、60代とはまったく異なる価値観を持つ若者たちと働く苦悩もある。
いまの65歳以上が若かったときのように大きな夢や希望をもたない。それよりも地元で仲間と楽しく過ごすことに価値を置き、欲しいものといえばミニバンや大型テレビ程度。日本の若者のマジョリティをなしている彼らは『マイルドヤンキー』と呼ばれている。
自動車部品工場に再雇用されたHさん(65歳)が言う。
「私のもっている技能をぜひとも若い世代に伝えてあげたくて給料が低くても現場であれこれ指導している。しかし、悲しいかな、まったく響かない。『人と差をつけるには、この資格を取ったほうが良い』などとアドバイスしても『わかりました』と答えるだけで、何もしないんです」
若い従業員への接し方に悩むHさんは、ある日の休憩時間に衝撃的な言葉を耳にする。
「いつもより休憩を早く切り上げ、職場に戻ってくると、若い連中が歓談している声が聞こえてきた。思わず耳を疑いました。彼らは『あの説教じじい、マジ老害だよな』『あと何年居座るわけ?』と陰口で盛り上がっていたんです。私たちの前では決して口には出さないけれど、内心、邪魔者扱いしていたんですね」
冷めた若者の態度に自分の立場を思い知らされた、と語るのは、警備員として働くIさん(67歳)だ。
「一昨年この仕事についたときは、やる気がありました。誰も見ていない夜間の見回りでも、さぼらずやったりね。でもある日の休憩中、一緒に働く24歳の若者に、『所詮バイトなのに、なんでそんな頑張ってんすか?』と言われたんです。そのとき無性に虚しくなった。どんなに張り切っても、世間からは『貧乏で可哀想なおじいさん』としか見られないんだなと、悟ってしまったんです」
■プライドを捨てるしかない
博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーで、『ヤンキー経済』などの著書がある原田曜平氏は解説する。
「いまの若い子は、上から目線が苦手です。フラットで平等な人間関係が主なソーシャルメディアで育ってきた世代ですから、先輩後輩の縦社会が理解できない。
それに年長世代とは働くという行為への価値観がまったく違います。いまはがむしゃらに働いても給料があがるか保証のない社会です。出世や報酬を期待せず、職場の人間関係や居心地を重視します。もし、年長世代への不満や悪口を言っていたとしても、本当にそう思っているというより、仲間内のノリを大事にしたいからかもしれません。一人一人と話せば、素直ないい子もいるはずです」
文化摩擦の絶えない外国人労働者と、価値観の全く異なる若者。定年後の再就職で遭遇する彼らとうまくやる方法はあるのか。
市役所を定年まで勤め、現在ホームセンターの園芸コーナーを手伝っているJさん(77歳)は比較的円満に仕事をしている。
「中国人労働者だっていやがらせがしたいわけじゃない。時間にはだらしないかもしれないけれど、逆に言えば仕事には忠実。みんなと相談して、シフトを組み直したり、仕事の役割分担をはっきりさせたら、驚くほどトラブルが減りました」
一方、若者たちの前では、「俺は人生の先輩だ」と威張らないことが、唯一仲よくする道だという。
大手ファミレスチェーンに勤めるKさん(66歳)は大きくうなずく。
「ある時気づいたんです。自分はどこか過去の経歴や年長であることを鼻にかけているんじゃないか、と。つまらないプライドにしがみついていても仕方ない。
その日から、自分が注文ミスなどをしたらいままでのようにごまかさず、『すみません』と素直に告白して謝るようにしたんです。すると、いままで頑なだった若い子たちが次第に私の話に耳を傾けてくれたり、助けてくれるようになりました。うれしい変化でした。やっぱり、同じ人間同士でわかりあえないことなんてないんです」
プライドを捨てろ―。口で言うのは簡単だが、孫ほど年の離れた若者たちに、そうそう頭を下げられるものでもないだろう。
65歳からの再就職、そこではまるで新社会人のように、「人生の理不尽」と向き合うことを余儀なくされるのである。
「週刊現代」2014年5月24日号より
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