01. 2014年8月14日 08:39:49
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米国株:S&P500種2週ぶり高値、経済統計利上げ観測遠のく
8月13日(ブルームバーグ):13日の米国株 は上昇。S&P500種株価指数は2週間ぶり高値をつけた。米小売売上高が前月比変わらずだったことで、米金融当局は利上げを急がないとの観測が広がった。 アマゾン・ドット・コムは上昇。チャンネルアドバイザーによると、7月の既存店売上高は40%増加した。バーテックス・ファーマシューティカルズを中心にヘルスケア関連株が上昇した。一方、百貨店のメーシーズは下落。利益が予想に及ばなかったことが影響した。 S&P500種株価指数は前日比0.7%上昇の1946.72。7月30日以来の高値。ダウ工業株30種平均は91.26ドル(0.6%)高の16651.80ドル。 RWベアードのチーフ投資ストラテジスト、ブルース・ビトルズ氏は「米国外での出来事が若干落ち着き始めたとの感触はある。また小売売上高の統計内容を見ると、米当局が近く積極的に利上げに動くことはないと言えそうだ」と述べた。 米商務省が発表した7月の小売売上高(速報値)は季節調整済みで前月比ほぼ変わらずと、ここ6カ月間で最悪の結果だった。特に自動車が落ち込んだほか、賃金の伸び鈍化で消費者の買い控えが見られた。 先月発表された第2四半期の実質国内総生産(GDP、 季節調整済み、年率)速報値は前期比4%増加。米雇用者は7月までに6カ月連続で20万人超の増加だった。 S&P500種は7月24日に記録した過去最高値からは最大3.9%下落した。イラクやイスラエル、ウクライナでの紛争によって世界経済の成長ペースが減速するとの懸念が背景にある。この日の終値は最高値を2.1%下回った。 イラク情勢 過激派武装組織「イスラム国」が勢力を広げたイラク北部では、クルド人部隊が拠点奪還を目指し戦闘を繰り広げている。一方で同国のマリキ首相は、各国からの支持を失いつつも続投に固執する姿勢を崩していない。 フィラデルフィア・トラストの最高投資責任者(CIO)、リチャード・シーシェル氏は、「数多い地政学的な問題が今のところやや落ち着いたか、後回しにされている」と述べ、「投資家にとっては、ポジションを積み増すかどうかを見極める機会となり、実際にこの日はそういう動きだった」と続けた。 シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX)は8.7%下げて12.90だった。 10指数いずれも上昇 S&P500種産業別10指数はいずれも上昇。特にヘルスケア関連株と情報技術関連株が値上がりした。バーテックス は3.9%高と、S&P500種銘柄の中で最も値上がりした。 バイオテクノロジー企業インターミューンは14%高。同社は仏サノフィやスイスのロシュ・ホールディングなど複数の欧州製薬大手から買収案を提示されたと報じられた。 アマゾンは2.2%高。チャンネルアドバイザーは同社売上高の伸び率は年初から毎月上昇していると指摘した。 メーシーズは5.5%安。集客のための値下げが利益マージンを圧迫し、利益が予想を下回った。 原題:S&P 500 Climbs to 2-Week High as Slow Retail Sales FuelFed Bets(抜粋) 記事に関する記者への問い合わせ先:ニューヨーク Elena Popina epopina@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:Lynn Thomasson lthomasson@bloomberg.netJeremy Herron 更新日時: 2014/08/14 06:49 JST NY外為:円が対ドル1週間ぶり安値−世界的低金利を見込む 8月13日(ブルームバーグ):ニューヨーク外国為替市場では円が対ドルで1週間ぶりの安値。世界的に低金利政策が長期化するとの見方が広がり、円に逃避する動きが後退した。 朝方は7月の米小売売上高統計を受けて、ドルは下げる局面もあった。賃金の伸び鈍化による買い控えで、小売売上高は前月比ほぼ変わらずだった。ポンドは4カ月ぶり安値付近。イングランド銀行(英中央銀行)は賃金の伸び悩みを指摘した。ブラジル大統領選に出馬する候補者が飛行機事故で死亡したことを受けて、レアルは不安定な動きとなった。株式相場は世界的に堅調。 クレディ・アグリコルのマクロストラテジスト、マーク・マコーミック氏(ニューヨーク在勤)は「主要10カ国を眺めてみると、それぞれの中央銀行間で経済成長見通しのばらつきが顕著になっている」と指摘。「日本では弱い国内総生産(GDP)統計が発表された。これで日銀の追加緩和の可能性が再び注目される。恐らくは来年だろう」と述べた。 ニューヨーク時間午後5時現在、円は対ドルで0.2%安い1ドル=102円42銭。一時は6日以来の安値となる102円54銭を付けた。円は対ユーロでは0.1%下げて1ユーロ=136円88銭。ドルは対ユーロでほぼ変わらずの1ユーロ=1.3364ドル。ポンドは0.7%下げて1ポンド=1.6688ドル。 主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は1021.18でほぼ変わらず。 セスナ機墜落、米小売売上高 レアルは0.7%高から0.6%安の間で高下した後、0.2%安の1ドル=2.2816レアル。エドゥアルド・カンポス候補が乗った9人乗りのセスナ機は悪天候でいったん着陸をあきらめた後、墜落した。 米商務省が発表した7月の小売売上高(速報値)は前月比ほぼ変わらず。ブルームバーグ・ニュースがまとめたエコノミスト予想の中央値は0.2%増だった。6月は0.2%増。7月の自動車を除く小売売上高は0.1%増と、前月の0.4%増から減速した。 シティグループの主要10通貨(G10)戦略の米州責任者、リチャード・コチノス氏は「統計の詳細に目を向けると上方修正される可能性がやや気になったため、大きな反応はなかった」と指摘。「明日のドイツGDPが非常に心配だ。対ドルでユーロが伸び悩んだのはそのためだ」と説明した。 ブルームバーグがまとめたエコノミストやストラテジスト37人の予想中央値では、4−6月(第2四半期)の独GDPは0.1%の縮小とされている。1−3月期は予想を上回る0.8%成長だった。 GDP6.8%減 円は主要16通貨の大半に対して下落。4−6月期のGDP 速報値は前期比年率で6.8%減と、2四半期ぶりのマイナス成長となった。 イングランド銀行のカーニー総裁は13日、利上げを急がない方針を示した。英国の景気回復に対する国外リスクと賃金の伸びの弱さを理由に挙げた。これを受けてトレーダーらが予想する2007年以来で初となる英利上げのタイミングは先送りされた。 三菱東京UFJ銀行の通貨ストラテジスト、リー・ハードマン氏(ロンドン在勤)は「日本や英国、ユーロ圏の経済統計はこれまでの緩和的な金融政策の反転を中銀が急いでいないことを示唆している」と指摘。「それは流動性と高利回り資産を押し上げる効果がある。リスク・オンのセンチメントが広がっているのは恐らくそのためだ」と述べた。 原題:Yen Declines to Lowest in a Week on Central Banks; PoundDrops(抜粋) 記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Anchalee Worrachate aworrachate@bloomberg.net;ニューヨーク John Detrixhe jdetrixhe1@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先:Dave Liedtka dliedtka@bloomberg.netKenneth Pringle 更新日時: 2014/08/14 06:36 JST コラム:公的年金の株式「高値つかみ」リスク=佐々木融氏 2014年 08月 13日 14:57 JST 佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長
[東京 13日] - 日本の株価が軟調に推移しているからなのか、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産運用に関する報道が目立ち始めた。 8月7日、複数の政府・与党関係者への取材で判明したとして、ロイターが「GPIFの運用改革は、焦点となっている日本株への配分を20%超に増やすことを想定し、9月末にかけて調整を本格化させる見通しである」と伝えた。その週末の10日には日本経済新聞が、9月にGPIFの新たな資産割合が決定されるまでの暫定措置として、日本株の保有上限(18%)が撤廃されたと報じた。 正直なところ、筆者を含む市場関係者はこれで株価が上下動するので喜ぶが、長期的視点に立てば、この種のニュースで短期売買が助長されても、プラスにはならない。5月12日付の本コラム「公的年金の株式投資拡大は賢明か」でも指摘したように、一部の投資家が一時的に株式投資を増やして、その結果株価が上昇しても、企業収益が増加しないのであれば、結局株価は元に戻るだけだからだ。プラスになるために本当に必要なのは、誰かに株を買わせることではなく、企業収益が上がることである。 何も、日本の経済や株式市場のことだけを慮って、理想論を振りかざしているわけではない。率直なところ、自分が将来受け取る年金も心配になっている。 これから買おうと考えている資産を、事前に「買いますよ」と宣伝しているファンドマネージャーに資金を預けるのは賢明ではない。もちろん、宣伝しているのはGPIFではないことは分かっているが、周囲が伝えれば結果的には同じことになってしまう。このままだとGPIFが本当に株式投資を拡大する時には、先回りした市場参加者により、すでに株価は押し上げられてしまっていて、GPIFは「高値つかみ」させられてしまうのではないだろうか。 政府は、機関投資家が投資先企業の企業価値向上や持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図ることを目指すため、「責任ある機関投資家」の諸原則、「日本版スチュワードシップ・コード」を定め、各機関投資家に受け入れを求めている。 日本の公的年金基金もこれに従い行動し、責任ある機関投資家として、受益者の中長期的なリターンの拡大に貢献できるように、周囲が気をつける必要があるのではないだろうか。 <公的年金のリスクテイクに潜む個人のリスク> そもそも、公的性質を有している機関が積極的にリスクテイクすることについて、筆者は根本的に違和感を抱いている。というのも、公的機関の資金には、投資家になることを選択していない個人の資金も大量に含まれているからである。 個人投資家はある程度積極的にリスクを取ろうとする種類の人間だ。換言すれば、収益に対する期待と引き換えに相応の損失を被る覚悟をしている。しかし、日本では個人投資家は、金融商品取引法などでかなり手厚く保護されている。もちろん、損失は補てんされないが、なるべく過度なリスクを取らないように、金融商品を販売する側に様々な規制が課せられている。 一方、年金基金など公的性質を持つ資金の中には、投資家になるつもりはなく、預金に預けて損失をなるべく被りたくないと考えている個人の資金がかなり多く含まれている。それにもかかわらず、政府当局はこうした資金で積極的にリスクテイクを行うことを推奨している(さらに悪いことに、買うことを先に宣伝してしまっている)。 個人投資家がなるべく過度なリスクを取らないように配慮することは重要だと思うが、投資家になることを選択していない個人の資金をリスクに晒すべきではない。日本の経済やマーケットの行く末を考えるなら、より多くの個人が、自らの意思で投資家となって、積極的にリスクテイクをするような環境を作ることが重要だろう。その点、少額投資非課税制度(NISA)は期待できる制度である。 <海外長期資金の流入を促す正攻法とは> 製造業の多くが海外に生産拠点を移し、日本の産業構造はすでに変わりつつある。今後、日本は金融資本市場を活発化させ、多くの資金を世界から惹きつけることによって、金融主導で経済・産業を引っ張っていくことも考えなければならないだろう。 しかし、現状のように、政府当局が介入してくる金融資本市場には長期的視野に基づいて投資をするプレーヤーは参加しないだろう。短期的な取引に従事するプレーヤーにとっては、当局者の発言などによって相場が上下動するので魅力的な市場に見えるかもしれないが、実体の伴わない市場には長期的な運用をする投資家は惹きつけられないし、リスペクトもされない。 マーケットは、短期的な取引に従事する投資家と、長期的な運用を行う投資家の双方が存在して初めて健全なマーケットと言える。また、リスクテイクによる結果に対する責任の所在を明確にすることで、本当にリスクを取ろうとしている投資家が増加すればマーケットは活発化するだろう。 誰かに株を買わせることではなく、日本企業の収益が上がるような施策を打つことこそ、結果的には、長期的な資金をより多く惹きつけ、自らリスクを取ろうとする投資家が増え、株価が長期的な上昇トレンドを辿ることにつながるのではないだろうか。 *佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
焦点:2%成長軌道のGDPに残る不安材料、当局と市場の神経戦続く 2014年 08月 13日 15:53 JST [東京 13日 ロイター] - 大幅なマイナスとなった2014年4─6月期の国内総生産(GDP)だが、実は政府関係者は胸をなで下ろしている。1─6月期をならすと、2%成長の軌道を走っている結果になったからだ。ただ、雇用者報酬の大幅減少や在庫の積み上がりなど不安材料もあり、政府部内に懸念も残る。
10%への消費再増税が果たして可能なのかどうか、追加の政策対応も含め、当局とマーケットの神経戦が、秋が深まるまで継続しそうだ。 <増税の目安、「ならせば成長軌道」> 「1─3月期と4─6月期を平均して、実勢をみることが重要だ」──。消費増税に伴う反動減の深い谷を警戒する声が広がっていたGDP発表直前、政府関係者は繰り返し強調していた。4─6月期の落ち込みだけを見て国民のマインドが悪化することを回避したい、との思いがあったようだ。 フタをあけてみれば、1─6月期の平均実質GDPは2013年10─12期を上回る530兆円規模。前期比0.6%、年率にすれば2%を超えており、13年度の2.3%成長の成長軌道上から外れていない。 前年の1─6月平均と比べれば1.3%上回っており、甘利明経済財政相は「これまで政府が示してきた景気認識に変わりはない」とコメント、8%への消費増税を実施してもアベノミクスの効果は揺るがずとの印象を強調する。 7─9月期も、民間の42調査機関の平均(8月発表フォーキャスト調査)で年率4%台の高成長が見込まれている。これには「ゲタ」という技術的な要素も絡みあう。 4─6月期の平均よりも、6月単月のデータが強ければ、7─9月期は「プラスのゲタ」を履くと表現され、7─9月期に横ばいでも統計上はゲタの分だけブラスとなって示される。 GDPの消費項目を占う上で重要な消費総合指数は、7─9月期にかけてプラスの「ゲタ」が高く、それだけで実質GDPを年率2.3%も押し上げる(三井住友アセットマネジメント・チーフエコノミスト・宅森昭吉氏の試算)という。 そのほか設備投資の回復や、前倒し執行の効果が集中する公共投資の押し上げが加わり、大幅なプラス成長になりそうな展開となっている。 その結果として、数字上は消費増税の実施を経ても景気に変調はなく、14年7─9月期のV字回復達成の可能性が高まっている。政府にとっては、事前シナリオ通りの順調な出来ばえが確実になっている。 <消費と生産に不安大きく> しかし、「7─9月期は、反動減の影響縮小というテクニカルな要因によって高めの成長となりやすく、成長率そのものが景気の実力を必ずしも反映しない」(ニッセイ基礎研・経済調査室長・斉藤太郎氏)との指摘も少なくない。 特に民間エコノミストがこぞって懸念しているのが、個人消費と輸出の下振れのリスクだ。 GDP全体では成長軌道に乗っているとはいえ、民間消費を取り出してみると、14年1─6月期の平均は13年10─12月期よりも下振れている。 特にその背景にあると思われるのが、増税に伴う物価上昇が招いた実質所得の大幅な減少だ。実質雇用者報酬は14年4─6月に前年から2.2%も減少。一気に減少幅を拡大している。 内閣府幹部も、消費が単に駆け込みに対する反動であるのか、所得減少による需要減退なのか「今後注視していかねばならない」とみている。 回復が期待されていた輸出も、14年4─6月期は前期比減少に転じてしまったため、夏場も不透明感が漂う。 けん引役となりそうな米国向け輸出の4割を占める自動車は、ホンダやマツダのメキシコ工場の稼働に伴い、今年初めから徐々に輸出が減退。実はこうした海外移転により、自動車の生産能力は1年前より5%程度削減されており、国内生産の回復は見込みにくい状況だ。 また、日本が得意とする生産財の出荷の多い東南アジア諸国連合(ASEAN)向け輸出も、弱々しい回復にとどまっている。 消費や輸出の停滞を受けて、在庫投資増加の寄与度は14年4─6月期に前期比1.0%上昇、これほどの増加はリーマンショック時以外に例を見ない。 民間エコノミストの中では、夏場以降の生産調整につながると懸念の声が広がっている。実際、鉱工業生産統計をみると、「在庫積み増し局面」の入り口に到達してしまっている。第一生命経済研究所では、基本シナリオとして、夏場に向け公共投資が出てくることや設備投資の回復を前提に消費や輸出が持ち直してくれば、年率3%程度の回復は十分見込めるとしながらも、「足元の景気状況が、数カ月前に予想されていたよりも低調に推移していることは確かであり、リスクは下振れ方向にある」(主席エコノミスト・新家義貴氏)とみている。 <10%消費増税前提に政策対応も> 政府にとって14年7─9月期のGDPの数字がある程度のプラスを確保できれば、10%への消費税引き上げは可能という見方が、市場でほぼコンセンサスとなってきている。 ただ、景気の実力が数字よりも見劣りする場合も十分考えられ、何らかの経済対策実施や、増税の先送りといった選択肢を政府が決断することも否定できない。 甘利再生相は、現時点で今年度補正予算の編成の必要があるかと問われ、「その必要性を感じているわけではない」と述べた。 もっとも 「その必要性」が表面化して補正予算を組むといっても、公共工事の効果は、足元の資材高や人手不足により予算規模ばかりが水膨れし、実際に工事の進ちょくは遅れがちになるとみられている。予算をつければGDPを押し上げることに結びつくが、財政赤字増大の影響だけでなく、実際の効果という点で、政府は頭を悩ませているとみられる。 一方、今回の大幅なマイナス成長は、日銀が掲げる2%の物価目標の実現を遠ざけてしまったのだろうか。 SMBC日興証券・チーフエコノミスト・牧野潤一氏によれば、GDPギャップは14年1─3月期にほぼゼロまで改善したが、再度2.2%程度に開いてしまったという。 今後、前期比・年率2%成長を続けたとしても、GDPギャップが再びゼロ近傍となるのは15年後半になると試算している。 もっとも、日銀の14年度コアCPI見通し(増税分を除く)1.3%に対し、6月の実績値は1.3%に達している。人手不足に伴う賃金上昇や過去のコスト増加を価格転嫁する動きは足元で一段と顕在化しており、今後もさまざまな値上げが予定されている。 このため日銀にとって「物価見通しに沿っている間は、追加緩和という、限られたカードをあえて切ることはしないだろう」(SMBCフレンド証券・チーフマーケットエコノミスト・岩下真理氏)との見方が根強い。 14年7─9月期にGDPデータが跳ね上がるとのメーンシナリオは、どうやら政府・日銀と市場との間で共有されているようだ。 だが、実体を伴って景気の体温が上がってくるのかどうか、不透明感が依然として色濃く、景気下振れへの懸念が起点となって、政策期待が市場にくすぶり続ける展開となりそうだ。 (中川泉 編集:田巻一彦)
コラム:政治がいざなう「89年型バブル」への道=丸山俊氏 2014年 08月 12日 13:17 JST 丸山俊 BNPパリバ証券 日本株チーフストラテジスト [東京 12日] - 二度の国政選挙を制し、自民党内で圧倒的な求心力を維持してきた安倍晋三首相だが、昨年の特定秘密保護法案の提出に続き、集団的自衛権行使容認の閣議決定を受けて、内閣支持率が一時50%を割り込むなど求心力にやや陰りがみられる。 消費税率引き上げ前の駆け込みの反動と節約志向から家計の消費意欲はなかなか戻らず、企業は(設備)投資をためらうなど、国内景気の足取りは鈍い。 その上、ウクライナや中東でくすぶる地政学リスクや、順調な景気回復を受けて利上げを模索する米国株式市場の調整により、東京株式市場では内外環境への手詰まり感と並行するかのように「政策相場」再来への期待が高まりつつある。 以下では、政治が株高を呼び込むメカニズムについて考えてみたい。 <厚労相人事で試される改革の本気度> 安倍首相が夏休み明けの9月上旬に行う内閣改造と自民党役員人事が、政策相場の幕開けになりそうだ。麻生太郎財務相、菅義偉官房長官、甘利明経済再生相ら主要閣僚は留任の方向だが、半数以上の閣僚が入れ替え対象となり、安全保障法制と地方創生を担う担当相がそれぞれ新設される見通しである。 また、前回の自民党総裁選で最多の地方票を取り、2015年9月の自民党総裁選でもライバルと目される石破茂幹事長の処遇も注目される。安倍首相は石破氏を党運営の実権を握る幹事長から外して閣内に取り込み、さらに閣僚を大幅に入れ替えることによって、政権安定と次期総裁選での再選に向けた布石を打つ腹積もりと言われている。 自民党には衆議院当選回数5回、参議院当選回数3回のいわゆる「大臣適齢期」に差し掛かっている中堅議員が60人もいる。過去、自民党総裁・首相は選挙後などの節目に内閣改造を行い、大臣ポストを派閥に割り振ることで党内における求心力を保ってきたと言われるが、安倍首相は13年7月の参院選後に内閣改造を行わなかった(副大臣・政務官人事では大幅な入れ替えを行ったが、派閥の推薦は一切考慮しなかったとされている)。 これは永田町の常識からすれば考えられないことだったが、安倍政権の政策に異を唱える自民党議員は大臣にも党内の役職にも就けないと告げられたことも同然だったため、党内に強力な支持基盤を持たなかった安倍首相の求心力をかえって高めることになった。 しかし、ハネムーンが過ぎて「アベノミクス」の魔法も解け始めた今、内閣改造・党役員人事という切り札を切ることによって安倍首相の求心力が一段と高まり、来年の自民党総裁選での圧倒的優位が再認識されれば海外投資家はこれを好感するだろう。 また、閣僚人事では、厚生労働大臣人事が、財政再建と日本経済の成長力底上げに必要な改革に対する安倍首相の本気度を測る試金石になるだろう。厚労相が担当する政策分野には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的年金資金だけでなく、医療・介護・年金の社会保障制度改革や労働市場・雇用制度改革などマーケットの注目度が高いものが集中している。その成果が最初にみられる公的年金資金の運用見直しは、内閣改造後の9月末に発表される見通しである。 <秋の臨時国会は「経済」が主役に> 7月の滋賀県知事選挙で自民党は、前民主党衆議院議員(当選4回)の三日月大造氏に惜敗した。もっとも、滋賀県は岩手県や山梨県などと並び自民党の選挙基盤がもともと弱く、いくら民主党の党勢が衰えたとはいえ、そうした状況下で当選してきた民主党の現役議員はやはり選挙に強いことなどを考えれば、自民党の惜敗は驚く結果ではないだろう。 集団的自衛権行使容認の閣議決定などが影響したと書き立てるメディアもあったが、自民党内の受け止め方は「想定の範囲内」だったと推察される。 問題は10月の福島県知事選挙、11月の沖縄県知事選挙である。特に沖縄県知事選挙は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古(名護市)移設が大きな焦点となっており、昨年、安倍政権の求めに応じて辺野古埋め立てを承認した現職の仲井真弘多知事に対し、辺野古移設に反対で元自民党県連幹事長も務めた翁長雄志那覇市長が挑む保守分裂の構図となっている。 勝敗のカギは、自民党と公明党の選挙協力によって組織票がまとまるかどうかだとみられている。ちなみに、公明党は県本部が辺野古移設に反対しているため14年1月の名護市長選で自民党候補を推薦せずに自主投票とし、結果、自民党候補が敗北した。その後、一転して公明党は14年3月の石垣市長選挙、同年4月の沖縄市長選挙では自民党候補を推薦し、自公協力が功を奏して保守系候補が勝利した。 一方、滋賀県知事選挙では公明党の支持母体である創価学会の支援が鈍かったとの指摘もあり、安全保障政策をめぐって自民党と公明党の関係がぎくしゃくしていることが影響した可能性があると言われている。 いずれにしても、自民党は15年春の統一地方選までは公明党の選挙協力が必要であり、そのことが支持率低下と相まって安倍首相に集団的自衛権関連法案の提出を来年の通常国会に先送りすることを決断させたとみられる。 その結果、9月に召集される見通しの臨時国会では補正予算の編成や成長戦略の実行、法人税率引き下げや少額投資非課税制度(NISA)の増額、確定拠出年金(日本版401k)の拠出額上限引き上げといった税制改正、GPIF改革、カジノなど経済政策に十分な時間を割くことが可能になるだろう。秘密保護法案の審議で棒に振った昨年の臨時国会の二の舞は避けられそうである。 <株価2万円なら実力比でバブル> さらに15年以降の政治日程を展望してみると、日本株はいよいよ80年代後半と同じパスを辿るのではないかと思えてくる。 東証株価指数(TOPIX)は、プラザ合意後の円高不況対策として積極財政と公定歩合引き下げに踏み切ると86年に49%上昇。87年は米国で起こったブラックマンデーの影響を受けて10%の上昇にとどまった。88年は景気が回復して37%上昇し、89年には景気が過熱してさらに22%上昇した。資産価格の高騰を受けてようやく政府が引き締めに転換した90年に、株価は40%下落しバブルは潰えた。 この5年間の軌跡は、1年目の政策相場、2年目の踊り場、3年目の景気拡大、4年目のバブル生成、5年目のバブル崩壊と言い表せるが、明確にバブルが発生したのは政府の引き締め転換が遅れたことで、経済成長が減速していたにもかかわらず株価が上昇した4年目の89年である。 翻って、15年9月には自民党総裁選が予定されている。仮に安倍総裁が再選されたとすると、第二次安倍内閣にとっての最大の仕事は16年7月の参議院選挙で自民党に単独過半数を獲得させることに尽きる。 周知の通り、参議院でキャスティングボートを握る公明党と安倍政権の政策スタンスは、安全保障政策は言うに及ばず、原発再稼動や雇用・年金改革などの主要政策で隔たりが大きい。そもそも、自公連立は98年の参院選で自民党(橋本龍太郎政権)が過半数を失ったため、後を継いだ小渕恵三政権が99年に公明党と連立を図ったことに始まる。ねじれ解消のためとはいえ、両党の政策には隔たりも大きく、公明党の持つ創価学会という選挙基盤を当てにしたという側面もあった。 しかし、15年春の統一地方選が終われば、公明党との選挙協力の必要性は薄れるだけでなく、憲法改正の発議要件を3分の2から過半数(2分の1)に引き下げる憲法96条の改正を実現すれば、自民党単独での憲法9条改正に大きく前進することになるだろう。 いずれにしても、第二次安倍政権は16年7月の参議院選挙に勝利するまで、経済重視路線を止められない。当然、政権は政治的な要請から日銀に対しても、参議院選挙前に株価が暴落しかねない金融緩和縮小を控えるよう、プレッシャーを掛けるだろう。実際問題として、15年10月に消費税率引き上げが予定されていることから、16年中の金融緩和縮小は困難と思われる。 その結果、16年まで財政・金融政策の総動員がずるずると続く可能性が高く、ちょうど4年目にあたる同年に89年型のバブルが生成される可能性が高いのである。 反対に参議院選挙が終わってしまうと(第二次安倍)政権はもはや支持率を気にする必要がなくなり、経済重視から安全保障重視に一挙に拍車が掛かる可能性が高い。さらに、黒田東彦日銀総裁の任期は18年3月までだ。 バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)前議長がそうであったように、遅くとも退任の半年前までには執行部の責任において「量的・質的金融緩和」の出口に向けて市場との対話を始めると考えるのが自然である。ちょうど東京オリンピックに向けた建設需要が17年に盛り上がりをみせることも、金融緩和からの出口戦略を容易にするのではないか。 こうしてみると、政治スケジュールまでもが80年代後半のバブル相場とよく似た株価パスを示唆しているように思われる。BNPパリバ証券では、日本株は15年に15%上昇し、16年にはさらに10%上昇し、日経平均株価が2万円に到達すると占っている。17年は引き締め転換によって、90年と同様に株価は調整するだろう。 人口動態や資本ストック、不動産バブルの有無、金融規制、過剰融資など80年代後半と現在では異なる点も多く、バブルとは言っても3年目(15年)および4年目(16年)の株価上昇率は当時のせいぜい半分程度であるとみている。日本経済の実力からすれば、それでも十分にバブルだろう。 *丸山俊氏は、BNPパリバ証券の日本株チーフストラテジスト。早稲田大学政治経済学部卒業後、三和総合研究所に入社し、クレディ・スイス証券を経て2011年より現職。 ブログ:内閣支持率「再浮揚」のカギ 2014年 08月 12日 10:33 JST 伊藤 武文 [東京 12日 ロイター] - 安倍内閣の支持率再浮揚がなるか、いよいよ秋口から正念場を迎える。株価や経済にダイレクトに効く経済政策が待たれており、法人税減税、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用改革などにスピード感を持って対応できるかがカギを握る。 直近の世論調査で、安倍内閣の支持率が低下している。支持率が節目となる50%を下回る調査結果もあり、2012年12月の内閣発足後、最低水準にある。日銀の異次元緩和導入時期の2013年4月の調査では、70%を超える驚異的な支持率を誇っていただけに、低下が強く印象付けられる。 支持率低下には、集団的自衛権の行使容認、国内の原子力発電所の再稼働問題が強く影響したようだ。この2点は賛否両論が激しくぶつかる課題だが、国民にはなかなか受け入れがたい面があるということだろう。 問題は内閣支持率の低下が、この2点に絞られるのではなく、安倍内閣の「経済政策」に対して厳しい見方が増えつつある点だ。 2013年はアベノミクス効果で日経平均株価は1万6000円台に上昇、2014年に入っても上値追いが想定されていた。ところが、年前半は底堅いものの上値が限られ、変動幅が小さい相場展開が続くことになる。 円債相場も同様に極めて狭いレンジで推移し、盛り上がりを欠いた。「こう着相場」の結果、2014年4─6月期の主要証券会社の決算は軒並み収益が鈍化。前年の反動があるとはいえ、株式や投資信託の手数料収入が大きく落ち込んだところが多い。特に個人営業部門の減速が目立つ。 メガバンクも同様で、株式や国債などの売買低迷が市場部門の収益を圧迫した。マーケットでは、すでにアベノミクス効果の限界がささやかれ始め、安倍内閣の支持率を支えた最大の要因とも言える株高の勢いが削がれるとともに支持率が低下傾向になったとの見立てだ。年後半に入っても深刻化する地政学リスクの影響もあり、日経平均株価は一時1万5000円を割り込む厳しい状況にさらされている。 経済・景気指標の内容も気掛かりな数字が並ぶ。厚生労働省が7月31日に発表した6月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、所定内給与は前年同月比0.3%増となり、2年3カ月ぶりにプラスに転じた。春季労使交渉で、ベースアップが広がったためとみられている。これは政府・日銀にとっても歓迎すべきことだ。ところが、現金給与総額を、物価の上昇を差し引いた実質ベースでみると、前年同月から3.8%も減っている。賃金は確かにアップしているが、消費増税などによる物価上昇に追いついていない実態が浮き彫りになった。 さらに経済産業省が7月30日に発表した6月の鉱工業生産指数速報値は前月比3.3%低下と大きく減ったことで、生産の基調判断が「弱含み」に引き下げられた。この結果を受けて、内閣府が8月13日に発表する4─6月期の実質国内総生産(GDP)成長率(1次速報)が、消費税率を3%から5%に引き上げた直後の1997年4─6月期以上に落ち込みが大きくなるとの見方が大勢だ。 個人消費が冷え込み、企業の設備投資も期待外れになる可能性が高まっており、7─9月期の回復も鈍いとの見方まで出ている。これでは内閣支持率が低下傾向になるのは無理もない。消費税率10%への引き上げ判断も極めて難しくなる情勢だ。 「強く期待に働きかける経済政策が支持率浮揚のカギを握る」とは国内金融機関のマーケットエコノミスト。安倍内閣の経済政策は、ある意味で「期待」に働きかけるものだという。 秋口となる9月第1週に安倍内閣発足後初の内閣改造・自民党役員人事を行い、与党内での求心力が高まることが期待されている。そのうえで、株価や経済にダイレクトに効く経済政策が待たれている。基本的に「第3の矢」の具体化が急務となり、マーケット関係者、国民の期待に応えなければならない。法人税減税、GPIF運用改革などにスピード感を持って対応できるかが安倍内閣の命運を握る。 コラム:労働生産性革命で株価1万8000円へ=竹中正治氏 2014年 08月 11日 17:27 JST 竹中正治 龍谷大学経済学部教授
[東京 11日] - 日本経済はデフレから抜け出した途端に人手不足、労働需給のひっ迫に直面している。これは何を意味するのか。 足もとではイラクなどでの地政学的な緊張で株価が少し不安定化し、日本経済についても消費税増税後の4―6月期の消費と生産の落ち込み(反動減)の深さと、7―9月期にそれがどれだけ回復するかに関心が集中しているが、本稿ではもっと長い時間軸で考えてみよう。 結論から言うと、日本経済はデフレを抜け出し、長期にわたる景気拡大につながる好位置に立ったと筆者は見ている。労働需給のひっ迫は今後、労賃の上昇、家計所得の増加、最終消費需要の増加、生産と設備投資の増加という好循環が始まる可能性を意味している。 ただし、長期の持続的な経済成長が実現するためには、いくつかの課題を乗り越える必要もある。その点をご説明しよう。 <小泉政権上回る出来栄えは本物か> まず、安倍政権発足以来の経済的なパフォーマンスを実質国内総生産(GDP)成長率の内訳で見ておこう。 2013年1―3月期から14年1―3月期までの四半期ベースの実質GDPの平均成長率は3.3%(前期比年率換算の平均)だ。ただし、14年1―3月期の成長率は消費税率引き上げを控えた駆け込み需要で6.7%となっている。これは4―6月期のマイナスで相殺されるはずだから、13年だけの成長率で見ると平均2.5%だ(12年10―12月期比の成長率)。 これを比較的長い景気回復が持続した小泉政権期と比べてみよう。小泉政権期の当初1年間の景気後退局面(01年4―6月期から02年1―3月期)を除いた時期(02年4―6月期から06年7―9月期)の同様の平均成長率は1.8%だから、2.5%はそれを上回る出来栄えだ。 ところが、成長率の内訳(各項目の寄与度)を見ると、小泉政権時代とは対照的な点がある。上記の期間について両政権期の実質GDP、2.5%(安倍政権)と1.8%(小泉政権)の内訳(各項目寄与度%)を以下に示そう。 民間最終消費支出(安倍1.5、小泉0.6)、民間企業設備投資(安倍0.2、小泉0.6)、民間住宅投資(安倍0.3、小泉0.0)、公的固定資本形成(安倍0.9、小泉−0.5)、純輸出(安倍−0.5、小泉0.7)、その他(安倍0.1、小泉0.4)。 ひと言で言うならば、小泉政権期は米国と世界経済の好況を背景にした輸出の伸びに支えられた面が大きかったが、今回の安倍政権期は円安にもかかわらず、純輸出がマイナスとなる一方で、公共事業依存度が比較的高い。同時に民間企業設備投資の伸び率が低い点にも注意しておこう。 以上を念頭に考えると、現在の労働需給のひっ迫には2つの側面がある。第1は建設業などで公共事業(公需)による民需労働力の「クラウディングアウト」が生じていることだ。平たく言えば、民間部門が活用すべき労働者が公共部門に奪われている。背景には東日本大震災の復興作業もあるが、安倍政権が掲げた国土強靭化政策を反映した面もある。 しかし、これは長期的には持続不可能なコースだ。短期・中期では需要面に配慮しながらも長期では財政再建路線を堅持しなければ、持続可能な成長にはならない。とりわけ過去に建設された公共インフラを維持・更新するためのコストは今後ますます増える。したがって、公的資本形成の徹底的な絞り込みが不可欠だ。東北沿岸に計画・着工されている「マンモス堤防」なども含めて見直す必要があろう。 <構造的不適応に陥った日本の雇用慣行> 第2の側面は、労働需給のミスマッチの縮小と低労働生産性分野でのビジネスモデルの変革を含めた技術革新や設備投資が求められていることだ。これはより重要だ。 その点を説明するために、長期にわたる失業率と有効求人倍率の変化を下の掲載図でご覧いただきたい。一般に有効求人倍率(=求人数/求職者数)と失業率は反対に動く負の相関関係(図上で右肩下がりのトレンド)がある。 ところがその分布傾向の違いで、1980年以降現在までを明瞭に3つの時期に分けることができる。第1の時期は、80年から94年までであり、失業率は2―3%と低く狭い範囲にとどまる一方、有効求人倍率の変化は大きかった。第2の時期は95年から99年で、銀行不良債権危機に揺れ、企業の破綻、リストラの嵐で失業率が急上昇した。 第3の時期は2000年から現在であり、失業率は80年代に比べると高いが、有効求人倍率と失業率の右肩下がりの安定的な関係が回復した。安倍政権がスタートした12年11月(白い丸)から14年6月(黒い丸)までの変化を見ると順調に右下方に下がり、現在は2000年代で最も右下方に位置したゾーンにある。 2000年代が80年代と比較して分布の近似線の傾きがやや急であるのは、企業がパートや派遣など非正規社員の雇用比率を高めた結果、景気の変動に合わせて雇用調整が大きくなる構造にシフトしたからだ。 景気循環の波があっても、次の山が前の山よりも高いという高めの経済成長が期待できる環境では、終身雇用で正規社員中心の雇用慣行に企業経営上の合理性があった。景気後退期に一時的に余剰労働力を抱え込んでも、次の景気回復期には必ず労働力不足になったからだ。 しかし、90年代以降の低成長の環境では、好景気時に正規社員中心に増やせば、景気後退期には必ず雇用余剰となり、次の景気回復時まで辛抱しても雇用の過不足は中立に戻るだけだ。つまり、企業の側から見ると景気後退期の過剰雇用分だけ賃金コストがかさみ、景気後退時の赤字の程度によっては破綻のリスクが高まる。 そういう意味では、終身雇用と正規社員中心の戦後の日本的な雇用慣行は、日本経済の低成長への移行に伴って構造的な不適応に陥ったわけであり、その結果が90年代以降の非正規雇用の増加と言えるだろう。 また、同じ求人倍率水準に対応する失業率が2000年代には高くなっていることは、雇用のミスマッチを反映している。 業種別に有効求人倍率を見ると、職種間のばらつきが実に大きい。有効求人倍率が高い分野は、例えば建設・土木・測量技術者(3.4倍)、医師・歯科医・獣医師・薬剤師(6.2倍)、保健師・看護師・助産師(2.4倍)、接待・給仕(2.5倍)、建設躯体工事(6.5倍)などである。その一方で有効求人倍率が最も低いのは、事務的職業(0.28倍)であり、とりわけ一般事務は0.22倍という低さだ。 90年代以降のコンピューターや情報通信を中心とした技術革新で、かつてのホワイトカラーが担っていた事務労働の多くが機械に代替されるようになった。また、製造業では産業ロボットと自動化の普及で、今日の工場では驚くほど労働者が少ない。その一方で、建設、医療・介護、飲食業接待・給仕の分野では機械での代替が困難な仕事が多い。結果として労働需給のミスマッチが拡大し、それが長期にわたって持続しているため、穏やかな景気回復でもこうした分野で人手不足が著しくなる。 <すき家に見る日本的サービスの無理> したがって、デフレがとりあえず終焉し、労働需給もひっ迫してきた日本経済が、今後長期の成長経路に乗ることができるかどうかは、次の課題克服にかかっていると言える。第1にアベノミクス「第3の矢」で強調されている女性や高齢者の就労促進に加えて、労働需給のミスマッチを縮小することだ。 そのためには職業再訓練への取り組みが官民双方で必要だ。長寿化の結果、健康で働ける年数は長くなる一方、技術変化は速くなってきた。ひとつの業務分野だけで人生を全うできる時代ではないと覚悟しよう。 第2の課題はこれまで省力化が進んでいなかった分野、つまり現在人手不足が強まっている分野での省力化投資と労働生産性の引き上げだ。この問題は業種、職場ごとに様々に異なる状況に応じた対応が必要だから、一律にこうすれば良いという包括的な解決法はない。いくつかの事例をあげてみよう。 ひとつは、ゼンショーホールディングス(7550.T)が展開する牛丼チェーンの「すき家」だ。第三者委員会の報告書が過酷な労働実態を明らかにしたことで、同社は今後、すき家の経営と雇用の抜本的見直しを迫られるだろうが、ビジネスモデルの転換も必要になるだろう。 例えば顧客の視点で見ただけでも、店員は厨房と客席カウンターの間を注文聞きに1回、料理の給仕に1回、食器の片付けに1回、合計3回も往復しなくてはならない。これを夜間の時間帯に1人で厨房の仕事もしながらやれと言われれば(いわゆるワンオペ)、過酷になるのは当然だ。 不思議に思うのだが、料理の美味さと安さを売りにするならば、大学の食堂などで一般化しているセルフサービス方式をなぜ採用しないのだろうか。顧客が機械で食券を買って、厨房前のカウンターに並び、料理を受け取って席に座る。食事が終ったらトレイに載せたまま食器を戻す。こうすれば店員は厨房仕事に専念できるので、労働量はかなり減るはずだ。 推測だが、店員が顧客に注文を聞く、料理を運ぶ、顧客は座っているだけで良いというサービス内容に対して、すき家は何かしらの価値を期待していたのかもしれない。しかし、それは価格競争の中で付加価値としては実現せず、ただ店員の労働量の増加、過酷さという結果を生んでいるだけではなかろうか。こうしたサービス内容を低賃金・低価格で維持しようとするのは日本的な過剰サービスの無理であろう。 すき家にかぎらず、人手不足と労働コストの上昇に対応できないサービス、ビジネスモデルはこれから淘汰されるだろう。飲食ビジネスは、対面接待を充実させた高価格(高付加価値)型と、サービスの省力化が徹底された低価格型に2極化していくのではないかと思う。 <労働集約産業でも省力化投資加速に期待> 建設現場でも自動化・省力化の試みが進み始めている。例えば建設大手の大林組(1802.T)は、資機材の運搬作業を省力化する「自動搬送システム」を開発した。同社の発表資料によれば、「建設現場で資機材の運搬にかかる作業は、単純な繰り返し作業が主体にもかかわらず、多くの時間を占めるため、これらを自動化・省力化することは、生産性の向上に大きく貢献します」という。 ちなみに、このシステムは、「建設現場で使用する資機材に搬送先を明示したICタグ看板を置くだけで、潜り込み式AGV(Automated Guided Vehicle)台車が、自動で資機材を積み込み、目的位置に搬送」「搬送経路は磁気テープを床に貼り付けるだけで簡易に変更が可能」という優れものだ。 また、民家を利用した小規模デイサービス「茶話本舗」を全国800店舗で提供する日本介護福祉グループの藤田英明会長は次のように語っている。 「この先の人材難を見越して考えているのが、介護ロボットの開発です。現場で職員をアシストするようなロボットが開発されれば、少ない人数でも効率的に介護できるようになります。具体的には、顔認証システムと医療のデータベースを連動させて、今、その利用者がどのような精神状態にあるのか、快調なのか不快なのか、職員が気付くことができるシステムです。・・・(中略)加えて、直接触れなくても、カメラで撮影するだけで脈拍、呼吸、血圧が測れるシステムもメーカーと開発を進めています」(「日本人の生き方を変える7人の起業家」(森部好樹、日経BP社、2014年)より引用) ソフトバンク(9984.T)の「Pepper(ペッパー)」のような、感情認識機能を搭載した人型ロボットが介護分野で実用化される時代がすぐそこまで来ているようだ。 前述した13年の実質GDP成長率の内訳で、民間企業の設備投資の寄与度が低かった(0.3%)ことを思い出していただきたい。設備投資が伸びなかったのは需要不足の結果と一般には思われているが、そればかりではあるまい。需要変化の中で陳腐化した設備が遊休化する一方で、上記に例示したような従来の業務のあり方を根本的に変革し、労働生産性を向上させるような設備投資は不足していたのではなかろうか。 労働需給が余剰で賃金も低下した局面ではそれでも済んだであろう。しかし、人手不足と賃金上昇圧力が強まり始めたこれからは、これまで労働集約的だった事業分野でも省力化のための設備投資が進むことが期待できる。 <1万8000円を展望できるステージへ> 最後にインフレと株価の見通しについて触れておこう。足もとまでの消費者物価などの上昇が円安による輸入物価上昇要因に負うところが大きかったことは各種の分析で確認されている。円安の動きが一服したことで多くの民間エコノミストはインフレ率の鈍化、黒田日銀総裁の消費者物価プラス2%目標(除く消費税率の影響分)は依然達成が困難と予想している。 しかし、労働需給のひっ迫を背景に賃金上昇トレンドが強まれば、それが今年後半以降、円安にとって代わる物価上昇要因として働く可能性がある。実際、賃金と物価の相関関係は比較的強いことが知られている。 株価については昨年1月11日掲載の本コラム「1―2%インフレなら株価はどこまで回復するか」で「資本利益率が03―07年の平均値まで回復すると、株価理論値は59.6%上がり、TOPIXでは1312、日経平均では1万5079円」という水準を中期的な目途として提示した。 企業利益も株価も、ほぼこの予想水準前後まで回復した現在、日本経済が上記の課題を克服しつつ景気回復が続けば、資本収益率の03―07年の平均値超えにともなって、1万8000円近辺への上昇が中期的に展望できるステージに入ったと思う。 *竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。 最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社2013年5月)。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here) http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0GB00420140811?sp=true |