02. 2014年8月07日 10:33:50
: nJF6kGWndY
課税される価値のある不動産があるだけマシだなhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140806/269728/?ST=print 「寝に帰る」から「寝たきり」に変わるベッドタウン 都心回帰で深刻化する郊外問題 2014年8月7日(木) 林 英樹 東京西部に広がる多摩ニュータウン。かつて憧憬の的だったベッドタウンに、深刻な高齢化問題がのしかかる(写真=学研/アフロ) 神奈川県下の私鉄沿線に念願のマイホームを手に入れたのは30年前。年齢とともに増え続けるであろう給料を見込み、35年の長期で住宅ローンを組んだ。片道1時間半の通勤時には満員電車にもまれるが、家族のことを思えば苦にならない。退職金でローンを完済し、その残金で二世帯住宅に建て替えれば、子供夫婦とも一緒に暮らせる。老後の面倒を見てもらう代わりに、あいつにこの家をあげよう――。
1960〜70年代、都心で働くサラリーマンの多くがこのような人生設計を描いていた。東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏の人口は1960年に50年比で37%増、70年には60年比で35%増と驚異的な伸びを示した。 急増したサラリーマンの受け皿となったのが、都心より地価が安い郊外に造成されたベッドタウンだった。多摩や千葉などのニュータウンに代表される、都心から半径10〜30キロメートルのエリアに次々と一戸建てやマンションが建設された。 首都圏内で起こる地殻変動 2000年代に入ると、首都圏の人口増加は鈍化した。2000年は1990年比で5%増にとどまり、それ以降も毎年1%前後の増加率に収まっている。ただ地方からの過剰な人口流入はなくなったが、すでに首都圏は全人口の4分の1以上が密集する“異常な状態”に成り果てた。 今、その首都圏の中で大きな地殻変動が起きている。それが都心回帰だ。 「小児科が引っ越し、工場がなくなり、スーパーが閉店した。若者がいなくなった結果、夜に誰も出歩かなくなり、町がどんよりと暗くなった」 都心から電車で45分。埼玉県の南部に位置する、人口約7万人の志木市は典型的なベッドタウンとして知られる。同市で2001年から2005年まで市長を務め、現在はNPO法人・地方自立政策研究所長として地方分権の推進役を担う、穂坂邦夫氏はこう振り返る。 例えば、1980年に30歳で入居したベッドタウンの住民は今年、64歳になる。バブル崩壊後、不動産価格が頭打ちになり、彼らの子供世代は長期ローンを組み、わざわざ郊外に持ち家を持つことを志向しなくなった。ベッドタウンから消えた若者は都心で賃貸のマンションに住む。こうしてベッドタウンでは人口減少と同時に、高齢者ばかりが残るようになった。 志木市の場合、全人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合である高齢化率は約20%。2000年は11.7%だったため、この十数年間で8ポイント以上増えたことになる。 郊外は都心問題の象徴 若者の流出は今後も続く。10年後の高齢化率は約26%、20年後には30%近くに上る見通しで、まったく歯止めがかからない。これは志木市だけの特異な事例ではなく、首都圏のベッドタウンの至る所で同じような現象が起きている。 「若者の流出で町が暗くなった」と話す穂坂・元志木市長 首都圏の高齢者人口は2035年前後に1000万人を突破すると予測されているが、昼間人口と比べ、夜間人口が飛躍的に増える、実際の居住者が多いベッドタウンで高齢化問題がより深刻化するといえる。
高齢の両親の面倒をみるべき子供世代は離れた都心に住む。一方で、日経ビジネスの8月4日号の特集で紹介したように、特別養護老人ホームの建設には制約があり、入所を待つ待機高齢者数は減る気配を見せない。寝たきりの高齢者ばかりのベッドタウンというのは、大げさな表現ではなく、現実の問題として目前に迫っている。 穂坂氏は「郊外の自治体はこれまでの人口増から何もしなくても市民税が入る状態にあぐらをかいてきた」と指摘する。確かに、住民に「寝に帰る町」として受け入れられたベッドタウンが、今から別の魅力を作り、売り込むことは至難の業のように思える。 この問題に民間の立場から立ち向かおうとする動きがある。 都合のよい郊外に 「東京にとって都合のよい、必要な郊外になることが重要だ。それができなければ、首都圏の自治体はどこも生き残れないだろう」 東京駅から直行バスで約2時間。千葉県鴨川市にある亀田総合病院の亀田信介院長はこう話す。同院は国内外の優秀な外科医を集め、いち早く電子カルテの活用を決めるなど、進歩的な医療サービスで知られる。利便性は悪いが、評判を聞きつけ、全国から患者が集まってくる。 先進的な取り組みで知られる亀田総合病院の亀田院長 だが亀田総合病院がユニークなのは、事業展開を医療サービスに限定しない点にある。昨年4月には、4年制の医療大学を新設。都心の人気美容室を地元に誘致したほか、最近は2020年に開催する東京パラリンピック向けの練習設備の誘致にも動いている。「いずれはディズニーランドのようなテーマパークを持ってきたい」(亀田氏)と夢は壮大だ。
もちろん完全なボランティアとして動いているわけではない。鴨川市の魅力が高まれば、移住者も増える。気軽に通院できる地元の患者が増えることは、収益率の向上に直結するからだ。 幸せな転居促す新サービス 郊外で増加する高齢者をターゲットに据えたビジネスも出てきた。旭化成ホームズが今年4月に立ち上げたシニア事業推進部。一人暮らしでかつ比較的健康な高齢者を対象に、サービス付き高齢者住宅の提供を検討している。 岡田義弘部長は「寝たきりになった高齢者向けの施設はあるが、その前の段階で住み替えられるような住居はなかった。“幸せな転居”をキャッチフレーズに新たなサービスを手掛けたい」と話す。 新コンセプトの住宅は、100〜150坪程度の広い敷地を持つ、同社ブランド「へーベルハウス」の顧客から土地を買い上げて建設する計画だ。必然的に都心ではなく、広い土地が多い郊外で事業展開を進めることになる。入口の土地の確保から、サービス提供という出口まで一気通貫で手がけられる強みを生かす考えだ。 郊外で車のファン作り 「エンジンが変わったと聞いたのですが」「4気筒から燃費効率がいい3気筒になりました。振動を抑えてくれて、走りも快適ですよ」 顧客からの自動車に関する質問に気さくに答える店員。ディーラーでよく見かける光景だが、実はここはダイハツ工業が6月下旬、神奈川県鎌倉市にオープンしたカフェだ。鎌倉野菜を使ったラップサンドが人気で、昼どきには地元住民のほか、通りすがりの観光客らで賑わう。 「コペンローカルベース・鎌倉」の店内では、ダイハツが今年から順次発売する新型軽オープンスポーツカー「コペン」を1台展示しているが、いわゆる自動車の販売スタッフはいない。ストアマネージャーを務める佐藤享さんは「車を売ることが目的ではありません。ゆったりと寛ぎながらコペンのことを知ってもらえれば」と話す。カフェの店員はコペンに関する知識を習得しており、顧客からのどんな質問にも答えることができる。実際、カフェでコペンに興味を持ち、ディーラーに話を聞きに行った顧客も数組出てきている。 「コペンローカルベース・鎌倉」では地元密着のイベントを開く(撮影:丸毛透) メルセデス・ベンツやアウディなど外資系自動車メーカーもカフェを運営している。ただ六本木や神宮前など都内のおしゃれスポットで展開しており、若者向けにブランド認知度を高める狙い。ダイハツの戦略とは明確に異なっている。
もともと軽自動車は都心の利用者が少なく、郊外や地方で「2台目の車」として売れる傾向がある。だが主要顧客である若者の人口流出に加え、若者の車離れにも拍車がかかっており、従来のビジネスモデルが崩れつつある状況に陥っている。 2人乗りのスポーツカーである新型コペンは「子供が独立した後の夫婦」がターゲットの1つ。都心から電車で1時間半かかる鎌倉にカフェを置き、時間をかけて地元で50〜60代のファンを作っていく。7月23日には地元の花火大会に合わせてイベントを開催。今後は地元の観光協会や商工会と連携し、ご当地野菜の直売会などを企画している。近く、関西にも同様の店舗を設ける予定だ。 そこに住んでいない人が集まる都心ではなく、多くの人が実際にその地で暮らす郊外や地方に足がかりを作ることで、国内市場での生き残りを図る。 三井物産が出資するエームサービス(東京都港区)は全国で産業用給食サービスを展開している。病院や福祉施設向けの売上高は約450億円で、この十数年間で3倍に拡大した。売上高全体の3割強を占めるのが関東だ。 最近は、福祉施設が多く集まる首都圏郊外を主要ターゲットの1つに据える。最近増えている小規模な施設でも採算が合うように、「昼間に作った食事を、夜も新鮮な状態で食べられるような新製品を開発し、人件費を抑える努力をしている」(河村眞一 上席執行役員)という。 郊外にターゲットを絞った産業用給食サービス 仲間を集いやすい利点も
限界都市・東京が直面する諸問題が高純度に集積しているのが、郊外のベッドタウンといえる。これまでは「寝に帰る町」という一側面にしか注目が集まらなかったが、それ以外の新たな価値を創出しないと生き残れない時代に突入した。先述したように、決して簡単に解が見つかる問題ではないが、自治体が民間の力を生かし、復活を図るのは1つの手だろう。 一方で、ベッドタウンの高齢化はネガティブな話ばかりではないようにも思う。都心に1〜2時間でアクセスできる距離は、毎日の通勤に適しているとまでは言えなかったが、定年後にたまに都心に出かけることを考えれば、大きな魅力ではないだろうか。 ベッドタウンには年齢が近く、同じような価値観を持つ仲間が多く住んでいる。もしかしたら、地域振興やボランティア運動など何かアクションを起こすには、最高のベッド(土台)がある町なのかもしれない。 このコラムについて 限界都市・東京〜一極モデル打ち破る新未来図 人口減少で2040年までに半数の自治体が消滅する可能性がある――。増田寛也・元総務相らが警鐘を鳴らした「増田ショック」の余震が続いている。この問題を語る際、抜け落ちがちな重要な視点がある。ヒト、モノ、カネ、情報が一極集中し、人口減の影響とは無縁の存在と受け止められていた東京。これこそが、この問題の本質だということだ。東京圏では今後、高齢者数の激増が確実だ。介護や行政サービスに支障を来す懸念が強まり、これ以上の一極集中は災害リスクを拡大する。限界都市・東京。危機を回避するには、息の長い多様な手立てがいる。東京と多様な地域が共存する。処方箋はここにある。 |