01. 2014年8月04日 10:03:25
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今のような健保も年金も、産業の生産性が伸びなければ、じきに破綻する 当然、競争が厳しく、斜陽産業の企業のものなど頼みにならない 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
2014年8日03日:Vol.313 <Vol 313:年金は、将来も大丈夫なのか(1)> テーマの領域:年金の財政検証を読み解く バックナンバーはHPで: http://www.cool-knowledge.com/ (過去の有料版も、抜粋し載せています) 著者への感想等 ⇒ yoshida@cool-knowledge.com 無料版の登録/解除: http://www.mag2.com/m/0000048497.html 有料版の登録/解除: http://www.mag2.com/m/P0000018.html 著者:Systems Research Ltd. Consultant 吉田繁治 こんにちは、吉田繁治です。今回は、政府財政と経済の根幹に横た わる最大の問題、年金の将来についてです。 「政府は、現在の公的な年金額を、現在の価値(商品の購買力)を 維持した上で、支払い続けることができるのか」、ということです。 (注)本シリーズは、有料版としては、先月送ったものです。 主旨は、同じですが、無料版では若干書き換えています。 【厚労省の、財政検証の義務】 政府には、将来の年金が、どれくらい支払い可能かを、5年に一度、 「財政検証」として試算することが、義務づけられています。 前回から5年目に当たる2014年6月3日には、『国民年金および厚生 年金に係る財政の現況および見通し(財政検証)』が、厚労省によ って作られて、公開されています。報道があったので見られた方も 多いと思います。 本稿を書く理由は、『財政検証』がとてもわかりにくいものだった からです。政府と国民の関係では、公的年金は、もっとも肝心なも のでしょう。 しかし、メディアが分かるように報じているとは、全く言えません。 というより、記事を見る限り、論評するのに必要な中身の解読がな かった。多くは、8つのGDPのケースを想定していて、ややこしいと いうものでした。 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf 本稿はこれを解読し、その上で、将来の年金はどうなる可能性が高 いかを示すことを、目標にします。 わが国の人口の、年齢構造は世界でいちばん歪(いびつ)です。 その歪さでは、ドイツとイタリアが2番目でしょう。 http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/kouhou/useful/u01_z19.htm 【団塊の世代が、年金世代になった】 1947年生まれ(66歳)から5年間、1951年生まれ(63歳)までの世代 を、一般に「団塊(だんかい)の世代」と呼んでいます。 各年の平均が200万人、合計で1000万人の人口という世代です。 (注)現在生まれる世代は、この200万人の半分で100万人です。 昨年の2013年から、毎年200万人、国民年金、厚生年金、公務員共 済年金を受け取りはじめる年齢の65歳になっています。 2014年は、公的年金の支給額が大きく増える分岐点になる年度です。 「現在の年金支給額を、政府は、今後も支払えるのか」という問題 が、浮上しています。「高齢化本番」が、いよいよ始まるのが今年 です。 【社会保障費の総額は、110.6兆円膨らんだ:2013年度】 2010年代は、政府の「一般会計の赤字(収入の不足)」が、1年に4 0〜45兆円と大きくなっています。 新規に40〜45兆円の国債を発行し、それを「異次元緩和」として日 銀が買い取って(13年4月〜)、増刷されたマネーを使って補填し、 年金が支給され、医療費が支払われています。 2013年度での、公的年金の支給額は、53.5兆円です。3942万人(国 民の31%)に対し、支払われています。街で会う3人に1名が年金 受給者です。この年金受給者は、毎年、100万人も増えてゆきます。 公的年金の次に大きいのが、36兆円(2013年度)の医療費です。 他に、介護費(9兆円)を含む社会保障費21.1兆円があります。 合計で、110.6兆円(名目GDPの23%)の、社会保障費です。 社会保障費の増加のため、政府は、40兆円以上の赤字を続けます。 赤字はお金の不足です。そのお金を、政府は、国債という借用証を 発行して(金融機関に売って)、調達しています。 年金と社会保障費の問題は、1年に40兆円規模の国債の新規発行を、 いつまで続けることが可能かなのかという問題でもあります。 10年続けると、国債は確実に400兆円増え、20年なら800兆円は増え ます。20年後には2000兆円の国債残になっているかもしれません。 そんなことが、可能なのか? 10年後に年金をもらい始める人は、現在は55歳、20年後なら45歳で す。それに、現在もらっている人がいる。 年金は、日常では考えない長い期間のものです。受給期間も、平均 寿命なら20年と長い。このため、10年後、20年後はもちろん、30年 後までも想定せねばならない。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol 313:年金は、将来も大丈夫なのか(1)> 2014年8月3日 【目次】 ■1.公的な年金は、現在、いくら支給されているか? ■2.公的な年金は、どう支払われているのか ■3.年金受給世帯の、収入と消費支出 ■4.社会保障費の、支出入の総体 ■5.単純化したまとめ ■6.政府の一般会計で不足分が、新規の国債発行になる ■7.国債の発行の目的 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.公的な年金は、現在、いくら支給されているか? 年金の将来を考えるには、前提として「現在の年金が、どう支払わ れて、金額はどれくらいか」を知っておく必要があります。 当方もそうですが、自分の年金のことについては、ほとんど知識が ない。ここから始めます。 現在の公的年金は、支給の平均額では、以下です。 (1)【国民年金】 自営や専業主婦が対象の「国民年金」が1人平均額6.6万円/月の支 給。過去40年間(20歳から60歳まで)、夫婦2人が満額の保険料を 払ってきたとき、65歳からの支給が13万2000円/月です。年額で158. 4万円です。 (2)【厚生年金】 法人の雇用者が対象の「厚生年金」では、夫婦2名の平均額は、23. 2万円/月の支給です。年額で278.4万円です。 世帯への支給額23.2万/月は、夫の勤務中の「標準月額報酬」が36 万円で、妻は年金保険料を払っていない専業主婦であった場合です。 会社に勤務する人は、ほぼ38歳のときもらう報酬が、生涯の平均の、 標準月額報酬に近い。 (注)夫が勤務し、妻が専業主婦を続けていた世帯での、厚生年金 の最高は360万円(30万円/月)くらいです。現役時代の報酬が高く ても、年金を計算する標準月額報酬では、62万円/月を上限にして いるからです。ほぼ38歳のころ62万円の報酬で、勤務を続けた人で、 月間で30万円の厚生年金ということです(夫婦2人分)。 以上の、「現在支給されている平均的な金額」を調べるだけでも、 結構、苦労します。それくらい分かりにくいのが、公的年金です。 自分が、概算でどれくらい公的年金をもらえるか、65歳以下の人で 知っている人は、おそらく少ない。当方も、今回調べるまで、年金 の全容は、知りませんでした。 ▼(1)国民年金だけの世帯:2人分:13万2016円 勤務期間がなく、国民年金だけなら、夫婦2人が40年間欠かさずか けた世帯(夫+妻)で、「1人6万6008円×2=13万2016円/月」です。 国民年金の掛け金は、所得額にかかわりなく、定額です。 かけていない期間があると、その分が、減額されます。 【掛け金は、1万5250円/月の定額】 国民年金の月額の掛け金は、1人、1万5250円/月です。20歳から60 歳まで、所得がないという理由で免除されている人を除き、国民の 全員がかける義務があります。 支払い義務は、受給資格の期間(25年から10年に短縮された)を満 たしている人は60歳までです。受給資格がないときは、70歳まで、 任意加入します。 【未納者が36.5%】 2013年末での、納付率は63.5%と厚労省が計算しています。かける 義務がある人10人のうち、4人くらいが、かけていない。かけてい ない人は受給資格がない。国民年金は、もらえません。所得がない 学生も、かける義務があります。 ▼(2)厚生年金の世帯:妻は専業主婦:平均23万2592円の支給 厚生年金は、国民年金(基礎年金とも言う)の上の、2階建て部分 を含む年金です。国民年金は、国民全員が、掛け金(1万5250円/ 月)と、もらう額(1人6万6008円/月)が一律です。 この基礎年金の上の、厚生年金の部分は、個人の所得によって掛け 金が増え、もらえる額も、30万円/月を上限として増えます。 【専業主婦の世帯の、平均】 夫が勤務して厚生年金をかけ、妻が専業主婦の世帯は、夫婦2人分 で、国民年金より約10万円多い23万2592円/月です(2010年度)。 65歳のあと20年間年金を受け取るとすると、総額は、[23.2万×12 ヶ月×20年=5568万円]という大きな年金額です。 (注)現在の受給者の世帯平均額は、これより若干低い21万円くら いです。 上記の23万2592円は、現役時代の標準月額報酬が、平均的な36万円 のときです。38歳ころの報酬が36万円だと、生涯の標準月額報酬が 36万円くらいになります。これより低い所得のときは掛け金も少な くなり、受給額も23万2592円より少なくなります。高いときは、受 給額が30万円/月を上限に増えます。 なお、65歳の高齢者世帯では、夫婦2人の厚生年金(平均受給額が2 1万円)では足りず、毎月、世帯平均で5万円くらい預金の取り崩し が行われています。 21万円+5万円=26万円/月、年間では310万円くらいの生活費が、6 5歳以上の、年金世帯の平均です。年金世帯は、 【必要な預金額】 85歳までとすれば、65歳のあとが20年です。[月5万円×12ヶ月×2 0年=1200万円の預金]が65歳時点で必要です。 月10万円を崩して、若干は余裕のある支出のためなら、この2倍の2 400万円の預金が必要になります。 50代のときの現役並みの支出(月45万円)なら、24万円×12ヶ月× 20年=5760万円の預金または金融資産です。あるいは、住宅を現金 化して売るリバース・モーゲージの不動産です(住宅ローンの逆)。 しかしこれらも、将来、10年後、20年後、30年後も、現在と同じ水 準の年金が支払われるという前提でのものです。政府は、この年金 を払い続けることができるのかというのが、本稿のテーマです。 【厚生年金給付の上限は、30万円/月】 標準月額報酬が36万円より多く、平均より高い掛け金をかけ続けた 人の場合、夫婦2人での厚生年金では、最高月額が30万円(年額360 万円)です。この30万円/月が、厚生年金の支給額の上限で、これ 以上はありません。(注)会社に企業年金があれば、その分は別で す。 ただし、サラリーマンの妻が、夫とは別に厚生年金をかけていると きは、かけた期間分の厚生年金が加算されることは、当然です。 【掛け金は17.12%】 掛け金は、標準報酬月額の17.12%(13年9月以降)です。 個人が、給料の中から8.56%、会社が8.56%負担し、支払っていま す。 http://www.nenkin.go.jp/n/data/service/0000012996BOVV9Rekkc.pdf 17%の所得税を払っていないほとんどの人にとって、厚生年金(会 社と合わせて17.12%)と、健康保険(標準報酬月額の9.97%)の、 両方の合計[報酬×27%]は、税よりはるかに重い負担です。毎月、 報酬の3割くらいを引かれています。手取りは7割でしょう。 年金の掛け金は、会社と折半で払っていますが(お互いに8.56%)、 事実上は、社会保険料として、個人の人件費に該当する報酬です。 厚生年金は、適用される事業所に勤めている場合、70歳までは、掛 け金を払う義務があります。掛け金を払いながら、65歳から年金を もらうことはできますが、所得額の大きさによって減額されます。 ▼(3)公務員共済年金は、厚生年金の、ほぼ20%増し 国家公務員、地方公務員、私学には、厚生年金より上の「共済年 金」があります。同じ報酬額の人の厚生年金と比べると、約20%増 しの「職域加算(3階建て部分)」がつきます(20年以上勤務のと き)。厚生年金に、「企業年金20%分」が加算されるイメージです。 あなたは、このうち、どれに該当しているでしょうか。 ■2.公的な年金は、どう支払われているのか 以上の公的年金は、何を財源にして支払われているのか。 ここを見ます。 年金、医療費、介護費などの社会保障費の保険料収入と支出、およ び積み立ては、それぞれ、特別会計です。 その特別会計からの支給額に足りない分を、一般会計から、国は29. 7兆円、地方が11.2兆円補填するという形をとっています。 「29.7兆円+11.2兆円=40.9兆円」が税からの補填ですが、40兆円 と言えば、ほぼ、国税の総額に該当する大きな金額です。 現在は、国債の発行によって、年金・医療費・介護費の支払い補填 の資金(約42兆円)を得ています。 以下は、社会保障費の総体の、支出入です。 (注)2013年度予算。 ▼総体の社会保障の給付と、財源の内訳 バランスシート(B/S)のように、右側を資金源、左側を支給額として、表 記しています。保険料(62.2兆円)でまかなわれているのは、110. 6兆円の給付のうち56%です。 40.9兆円(37%)が、政府部門から補填(その財源は国債と税収) され、7.5兆円(7%)が、基金の取り崩しと資産処分です。 【2013年度予算額】 社会保障費給付額(支出) その財源(収入) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・年金の給付 53.5兆円 ・保険料 62.2兆円 ・医療費の給付 36.0兆円 ・国庫負担 29.7兆円 ・介護、福祉他 21.1兆円 ・地方負担 11.2兆円 (うち介護費 9兆円) ・基金取り崩し等 7.5兆円 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 給付合計110.6兆円 財源合計 110.6兆円 ↓『日本の財政(2014年2月)』から、作成しています。 http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/sy014_26_02.pdf 2013年度の社会保障給付の全体は、巨大になっていて、110.6兆円 です。一瞬、目を疑うくらい大きな金額です。中央政府の一般会計 の金額(95.8兆円:2014年度予算)を上回っています。 ・年金は、「年金特別会計(歳入・歳出が79兆円)」から、 ・医療費は、各地の「健康保険特別会計」等から行われているため、 中央政府の一般会計に現れているのは、社会保障費の補填(ほて ん)分の、年間29.7兆円だけです。 新聞では、時々、社会保障費は29.7兆円と誤記している場合があり ます。これは、中央政府の一般会計から特別会計への、補填金だけ のことです。 ●繰り返せば、年金、医療費、介護費を含む社会保障費は29.7兆円 ではなく、110.6兆円になっています。 ●そのうち、年金の支給額が53.5兆円です。世帯の所得総額は280 兆円くらいですが、この中に、公的年金の支給が53.5兆円(構成比 で約20%)含まれています。 このため、2ヶ月一度の、年金の支払日である偶数月(2月、4月、6 月、8月、10月、12月)の15日には、店舗の売上が急に増えます。 【3種の公的年金の、支給の内訳】 2011年度の、公的年金(52.2兆円)の支給の内訳は、 ・国民年金19.1兆円(37%:受給者2912万人:平均6.5万円)、 ・厚生年金26.3兆円(同50%:受給者3048万人:平均8.6万円)、 ・公務員共済年金6.8兆円(同13%:受給者424万人:16万円)でし た。 (注)厚生年金と共済年金は、国民に共通の基礎年金である国民年 金に上乗せされて、支給されます。 【年金支給は、毎年2兆円(4%)くらい増えて行く】 公的年金の必要な支給額は、毎年4%(2兆円)くらい大きくなりま す。 ●これは、今後、名目GDPが4%以上大きくならないと、今以上に、 財源問題が大きくなって「支払い困難」になってゆくことを意味し ます。ここが、肝心なことです。 GDPが増えないことは、世帯所得が増えないことであり、世帯所得 が増えないと、支払いに充てている年金を含む社会保険の保険料(6 2.2兆円:年金、医療、介護、他の社会福祉)の収入が増えません。 同時に、所得税が増えないため、一般会計からの補填(国庫から29. 7兆円、地方から11.2兆円)が困難になってゆきます。そして、基 金の取り崩しは増えてゆき、いずれ、涸渇(こかつ)してゆきます。 年金の支払いは、65歳で退職のあと20年、または30年と長い期間の ものです。 このため、1年にインフレが3%でも、30年先は1.03の30乗2.4倍で す。物価が仮に平均で年3%上がると、年金額が同じなら、[1÷2. 4=42%]の価値に下がります。この価値とは、商品の購買力のこ とです。 (注)長期インフレの場合、「マクロ経済スライド」で、若干は調 整されるでしょうが、物価上昇を全的にカバーはできないでしょう。 ■3.年金受給世帯の、収入と消費支出 ▼年金世帯の平均所得額のうち、216万円が年金 退職した高齢者世帯(世帯主が65歳以上)の平均収入は、308万円 (2010年)です。 このうち、公的年金(国民年金と厚生年金)の給付が、夫婦二人分 で216万円(世帯の収入での構成比は70%)を占めています。 【3867万人】 3大公的年金(国民年金、厚生年金、公務員共済年金)の総受給者 数は3867万人(2011年度)です。 国民(1億2700万人)のうち、すでに、30%にも達しています。200 7年は3480万人でしたから、4年間で387万人増えたのです。 【年金受給者の増加】 今後、公的年金の受給者は、年間平均で97万人(年金額で2.1兆円 :約4%)の増加を続けます。 2013年からは、団塊の世代が1年に約200万人も、年金を受給する65 歳になるからです。他方、年金をもらっていて、物故される人々が 1年に100万人です・・・年金は、無常な人生も映します。 ▼生涯所得がもっとも高い、50〜59歳の世帯所得との対比 生涯所得がもっとも高い50歳から59歳の、世帯平均所得は731万円 (2010年)です。 65歳以上の年金世帯の平均収入(預金取り崩しを含む)である308 万円は、その42%です。 29歳以下の世帯の平均所得は、301万円です。65歳以上で退職後の 世帯所得308万円と、29歳以下の世帯所得はほぼ同じです。 この意味は、退職後は、年金(夫婦2人で平均216万円/年)を含む と、30歳未満の世帯の所得(301万円/年)に戻るということです。 http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-01.pdf 20代の夫婦とほぼ同じ300万円が、年金生活世帯の収入と支出です。 ■4.社会保障費の、支出入の総体 社会保障給付の総体は、前述のように、 ・年金(53.5兆円)の他に、 ・医療費36兆円、 ・介護と他の福祉が21.1兆円であり、合計110.6兆円です。 ▼110.6兆円の社会保障費を支出する財源 財源を見ると、社会保険料が62.2兆円です。給付額に対して、保険 料の収入は56%しか占めていません。給付には、44%も足りません。 足りない分は、政府の一般会計と地方から、補填されています。 ・政府部門(国+自治体)が40.9兆円を補填し、 ・さらに年金基金と健保基金からの取り崩しが、7.4兆円です。 【取り崩しが始まった年金基金】 150兆円余の残高がある年金基金からの取り崩し額(7.4兆円/年) は、厚労省が言いたくないことに属します。増えていた基金は、支 給額が増えた数年前から、取り崩しの時代に入りました。 【政府部門からの負担】 地方の負担分(11.2兆円)は、国から地方に給付している「地方交 付税(16.1兆円:2013年度)」に含まれています。 国の一般会計(95.8兆円:2014年度予算)の中で、社会保障費は30. 5兆円です。更に国は、「地方交付税」を16.1兆円を、国税の地方 分として移管していますが、この16.1兆円からは、地方が社会保障 費として11.2兆円を給付しています。 以上から、[30.5兆円(国の一般会計の社会保障費)+11.2兆円 (自治体の社会保障費)=41.7兆円]が、国家からの、社会保障費 の補填(ほてん)と見ていい(2014年度予算)。 ところがこの41.7兆円は、国の税収として不足している分です。 このため、これが、1年に40〜45兆円の新規国債の発行になってい ます。 借り換え債を除いた新発国債の発行は、平均で45兆円くらいです。 その使途は、年金給付(53.5兆円)、医療費給付(36.0兆円)です。 年金と社会保障では、(1)特別会計、(2)政府の一般会計、(3)そ れに地方の社会保障費の3つがからむため、ごちゃごちゃとしてい ます。 可能な限り単純化してまとめると、以下になります。 単純化しないとわからないからです。 国民が分からないと、官僚主導になります。 TVでの発言を聞くと、社会保障の枠組を決める政治家も、分かって いない感じが見えます。(注)安倍政権になって、政治家のTVへの 登場や発言が激減していますが、なぜでしょうか? ■5.単純化したまとめ 社会保障費の合計は、前述のように、110.6兆円です。 保険料の収入から、62.2兆円が支払われています。 ●110.6兆円の内訳は、 ・年金(国民年金、厚生年金、公務員共済年金)が53.5兆円、 ・医療費が36.0兆円、 ・介護・福祉として21.1兆円です。 ●総額で62.6兆円に増えている社会保険料は、年金では、国民年金 保険料、厚生年金保険料、公務員共済年金保険料です。 医療費では健康保険料、介護費では介護保険料です。 【保険料では48兆円不足している】 保険料収入だけでは、社会保障費の総額110.6兆円の支払いには、4 8兆円が不足しています。(注)消費税では、税収2兆円が1%にあ たりますから、24%分の不足です。 【そのため、社会保障費の補填が48兆円】 この48兆円の不足分は、以下の2つの方法で、補填(ほてん)され ています。 ・政府の財政(中央+地方)から41.7兆円を支出し、 ・社会保障基金の取り崩し等で、7.4兆円を補う。 次に、社会保障費を41.7兆円も補っている政府の予算(一般会計) は、どうなっているのか。これを、以下で見てゆきます。 ■6.政府の一般会計で不足分が、新規の国債発行になる 財務省(主計局)の官僚になったつもりで、国の予算(一般会計) を見てゆきます。「つもり」というのは、考えるとき大切です。例 えば、ソニーのCEOになったつもりで、ソニーの再興戦略を考える とか。 以下の予算は、国会で審議を経ます。TVで実況がある予算委員会が これです。議員としての機能は、果たしているでしょうか。会社で 言えば、投資を含む支出予算です。世帯で言えば、家計簿の予算で す、 【政府一般会計:2014年度の支出の予算:95.8兆円】 ・社会保障費 30.5兆円 ・地方交付税 16.1兆円 ・公共事業 6.0兆円 ・文教および科学振興費5.4兆円 ・その他予算 9.7兆円 ・国債費 23.3兆円 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 合計支出予算 95.8兆円 ▼社会保障費の補填(ほてん)額は、41.7兆円
2014年度の政府予算では、上記のように、一般会計の支出は95.8兆 円です。この一般会計から、上記の社会保障費の不足分41.7兆円を 補填(ほてん)しています。 直接に補填する社会保障費としては、上表の掲載の30.5兆です。地 方自治体が補っている分が11.2兆円です。 (中央政府30.5兆円+地方11.2兆円=41.7兆円) (注)政府の一般会計からは、地方に回す地方交付税が、16.1兆円 支出されています。地方は、この交付税の中から11.2兆円分を、地 方が支出する社会保障費に回しています。 ▼国の一般会計では、支出は95.8兆円、税収が54.6兆円: お金の不足額が41.2兆円(2014年度予算) 【政府一般会計:2014年度の収入の予算:95.8兆円】 ・所得税 14.7兆円 ・法人税 10.0兆円 ・消費税 15.3兆円(消費税は8%に上がった) ・その他物品税等 9.9兆円 ・その他の政府収入 4.6兆円 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 税収等合計 54.5兆円 収入の不足 41.2兆円 ↓ 国債発行収入 41.2兆円(日銀が70兆円を買っている) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 政府一般会計の、合計の支出は、95.8兆円でした(2014年予算)。 ところが、税収などの収入は、上表のように54.5兆円です。 [95.8兆円-54.5兆円=41.3兆円(赤字率43.1%)]も不足します。 不足した分を支払えないと「デフォルト」、つまり最近のアルゼン チンのような国家財政の破産です。政府の財政が破産すると、公務 員の給料、社会福祉費(年金・医療・介護)、公共事業費、文教費 等を、税収分の54.5兆円にまで、それぞれ43.1%削減しなければな らない。 借金ができず、取り崩預金もないときの企業と世帯と同じです。 そこで、国債という借用証を印刷し、金融機関に買ってもらう。 (注)現在は国債で券面はなく、預金通帳のようなものです。 国債には、返済される償還日と金利が書いてあります。この国債の 新規の発行が41.2兆円です。現在、10年債で0.5%レベルの、異常 に低い長期金利で、借りることができています。 (注)2013年4月からの日銀の「異次元緩和」開始の後、日銀が、 年間で70兆円くらいの国債を買い切っています。新規発行分の全部 (41.2兆円)と、借り換え債の分(発行は120兆円くらい)です。 ■7.国債の発行の目的 1990年代は、国債発行の目的は、1年に40兆円と大きかった公共投 資でした。(米国から内需の振興を求められための公共投資でし た) ・この公共投資は、小泉内閣の時代の構造改革で20兆円台(2013年 度は24兆円)に減り、 ・年金(53.5兆円)と医療費(36兆円)が増えた2006年からは、国 債の発行目的は、社会保障費の支払いに変わってきています。 【金額を一致させるのが、主計局の作為】 奇(き)しくも、社会保障の支払い110.6兆円、その保険料62.2兆 円。不足分が48.4兆円です。 年金基金や医療保険の基金をとり崩さないとすれば、48.8兆円の不 足になります。実際には7.5兆円くらいの取り崩しがあるので、不 足額は41.3兆円です。 以上の結果、社会保障費の不足額41.3兆円と、国債の新規発行額41. 2兆円は、計ったように一致しています。 理由は、財務省主計局が政府予算を作るとき、「国債発行は、国民 への社会保障費の支払いに充当する」と表現したいからです。 【消費税か】 一般会計の財源として不足している41兆円を、政府が消費税で得る とすれば、1%で2兆円の税収ですから、41÷2≒20%になります。 [現状の8%+新たに20%=28%]に上げねばならない。これは政 治的な決定としても、政権の支持が得られないため不可能でしょう。 【国債の増発を続けることで、年金と医療費は、維持可能なのか】 政府が国債を発行し、国債残高を45兆円から50兆円(向こう10年で4 50兆円〜500兆円)も増やし続けることで、現在の給付水準の持続 が可能なのか。これを、本稿で検討します。 (注)早まった結論を言えば、あと数年で、限界に達する感じです。 急激に減っている経常収支の黒字(2013年で3.2兆円)が、赤字化 する時期が危ない。 日本国債を買っている海外(中国、アジア、中東)が、資本輸入国 になった日本を、経常収支の赤字化で、認識するからです。経常収 支が赤字になった国は、米国や英国のように、海外に国債を買って もらう必要があります。 以上の前提で、次稿は、『将来の年金の財政検証』に進みます。 See You Soon ! 【後記】 世界の中央銀行の上に位置されている世界中央銀行のBIS(国際決 済銀行)が、金融緩和による、資産価格(特に株価)の高騰に警鐘 を鳴らしています。(注)BIS年次報告書2013/2014 http://www.bis.org/publ/arpdf/ar2014e.htm 異例なことです。リーマン危機のあと、世界の中央銀行は合計で、 1200兆円($12兆)のマネーを増発しています。金額が大きすぎ、 イマジネーションが働かないくらい多額の、マネーが注がれていま す。 世界の総負債(政府、世帯、企業)は、GDPの3倍に増えています。 この負債が、資産バブルを生んだ原因です。 BISが想定するのは、世界的な資産(株価と不動産)価格の崩壊で す。現在は、「嵐の前の静かさ」で不気味だとも言っています。
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