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消費税増税の悪影響を認めたくないあまりに分析までおかしい「2014年度経済財政白書」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39956
2014年07月28日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
政府は25日、2014年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。例によって論点が盛りだくさんだが、筆者としては消費税増税の影響に興味があるので、その点に絞ってみよう。
冒頭に甘利明・経済財政相による「平成26年度年次経済財政報告公表に当たって」がある。この部分は、甘利大臣がサインするので、事務方が用意するものの、ここだけは大臣自身が必ず読んでいる。はじめの部分を引用しておこう。ここが経済白書のポイントであることは間違いない。
〈日本経済が、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」の効果もあって着実に上向く中、2014年4月に消費税率が8%へと引き上げられました。
景気は、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動によりこのところ弱い動きもみられますが、緩やかな回復基調が続いています。今後については、駆け込み需要の反動の影響が次第に薄れ、各種政策の効果が発現する中で、緩やかに回復していくことが期待されます。
ただし、海外景気の下振れなどのリスクを注視していく必要があります。日本経済は、デフレ脱却へ向けて着実に進んでおり、今後は適度の物価上昇が安定的に実現する正常な姿に戻っていくことを期待しています〉
簡単に要約すれば、消費税の影響は大丈夫で、リスクは海外要因だと言っている。
本当だろうか。本コラムを読んでいる読者であれば、最近の経済指標は軒並み良くないことをご存知だろう(→7月21日付「政府月例経済報告に異議あり!消費税増税の悪影響を認めたくない政府に騙される政治家とマスコミ」など)。
5月の家計調査、機械受注、住宅着工が既に出ている。これらの統計は、民間消費、民間企業設備投資、民間住宅投資を占う統計なので重要だ。何しろ民間消費、民間企業設備投資、民間住宅投資でGDPの7割を占める。
しかし、これらのいずれも過去の消費税増税の時と比べて悪い数字なので、筆者としては、消費税増税の影響が出ていると判断している。
これらの統計数字を図にしておこう。
■政府の強気の根拠は日銀短観
そこで、経済白書がどのような分析になっているのか気になっていたが、冒頭のとおりだ。もちろん、その分析を本文の第1章第1節「景気の基調と消費税率引上げの影響」とはじめにもってきているのは、さすが経済白書だが。
消費については、消費税率の引き上げ幅が大きかったことから駆け込み需要の上振れは前回と比べて大きめだったと分析している。であれば、その反動減も大きいはずだ。
さらに、増税は可処分所得を減少させるが、この点は、所得が伸びるように「期待される」と逃げている。企業設備投資については今後を楽観しているが、それは日銀短観の設備投資が根拠になっている。日銀短観については、あとでも言及したい。住宅投資については駆け込み需要の反動減が続くと、これは正直に現状をみている。
これらをみると、企業設備投資に関して政府の強気が、消費税増税の影響を認めない根拠のようだ。
では、その強気を支えている日銀短観とは何か。正式名称は、短観(全国企業短期経済観測調査)。日銀が約11000社に対して四半期ごとに調査票を配り、回収して作成している統計だ。この統計は、景気判断に重要な役割を果たしている。
経済白書では設備投資について、
〈日銀短観における設備過剰感は、製造業ではリーマンショック前(2008年6月調査:2)、非製造業ではバブル期直後(1993年2月調査:▲2)以来の低い水準となっており、消費税率引上げ後も過剰感が高まるとはみられていない〉
としている。
また、景気の先行きに大いに関係する在庫について、
〈国内での財・サービス需給についての企業の判断は、日銀短観(2014年6月調査)によると、駆け込み需要の反動減からやや過剰方向へと変化した。もっとも、製造業・非製造業ともに、前回の消費税率引上げ時の水準を大きく上回った状態にある。今のところ、企業部門では在庫調整圧力は高まっていないと評価できる。今後は、駆け込み需要の反動減が薄れ、需要が回復を続ける中で、企業の生産活動も次第に高まっていくものと見込まれる〉
とし、ここでも先行き楽観を示している。
■「変化の方向性」に意味はあるが「水準」に意味はない
在庫に関するこの記述は、先週の本コラムの分析(→こちら)とまったく異なっている。筆者は「意図せざる在庫が増えているおそれ」を指摘したが、経済白書では「過剰方向だが、水準が前回と違う」という。
要するに、筆者と経済白書では「変化の方向性」は同じだが、経済白書は「水準」に着目して、違う結論を出している。
経済白書では、日銀短観の数字の水準を使って「先行き大丈夫」というわけだが、はっきり言えば、これはまずい。
日銀短観は、数字の変化を見る限り、景気の動きをよくフォローできるが、その数字の水準に大きな意味があるというのは間違っているだろう。
それは、日銀短観の調査表(→こちら)を見てもわかる。判断項目のところの、たとえば業況で「1.良い、2.さほどでもない、3.悪い」の3択になっている。他の政府統計では、「3ヶ月前と比べて」と具体的な時点と比べて判断を聞いているが、日銀短観では現状がどうかと聞いているだけだ。
そうなると、1を選んだ数は時とともに変化する。といっても、調査の時系列でみて、上がったか下がったかには意味がある。つまり、日銀短観の数字の「変化の方向性」には大きな意味があるが、「水準」にはないのだ。
これは、内閣府の景気動向指数の推移と日銀短観の推移を見てもわかる。下図は、1985年からの両指数の推移であるが、日銀短観は、最近時点においては、数字の「水準」がずれている。ただし、その「変化の方向性」は景気動向指数とほぼ一致している。
経済白書で消費税の影響がないと言いたいばかりに、分析までおかしくなっているように思える。筆者の取り越し苦労であればいいが。
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