02. 2014年7月22日 12:45:34
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140717/268831/?ST=print 「ドイツ人経営学者は見た!日本のかっこいい経営」 終身雇用と成果主義は、同時に実現できます 日本雇用構造における3つの“S”を考える2014年7月22日(火) ウリケ・シェーデ 日経ビジネスオンラインの読者の皆さまの方が、私より日本の雇用構造について詳しいのは事実でしょう。とはいえ、皆さんはこの構造の「内側」にいるため、何らかの偏見を持っているかもしれません。 今日は、海外の研究者から見た、昨今の日本の雇用構造の変化における新しい機会と課題について取り上げます。3つ重要なポイントがあります。1つ目は、終身雇用はとても重要な制度であり、もっと柔軟なシステムに進化させられさえすれば、制度をいじらなくてもむしろこれからも存続可能であることです。2つ目は、実現可能な終身雇用のため、査定制度が生産性と効率性を基準とするものに切り替わるべきであることです。最後は、企業が多様性を求めて社員を採用していけば、現在の就活における様々な問題が解決されていくことです。 日本の非正規社員は、そもそもとても少ない 下の表は、厚生労働省の労働力調査を基に作られた、2013年における雇用の平均データです。この数値の中に2項目だけ、国際平均と比較して際立つ項目があります。 1つ目は、失業率の低さです。これには多くの理由がありますが、経済学者の中には、これが女性や若者などをはじめとした人たちが労働市場から抜け、労働力人口に含まれなくなるからだ、と考えている人もいます。2つ目は、50%以上の労働者が正規雇用であることです。日本における「非正規」の社員は、海外と比較してそもそも、とても少ないのです。 労働力調査 平成25年度(2013年度)平均 男女計(万人) 労働力人口の% 15歳以上人口 11,088 労働力人口 6,577 100 完全失業者 265 4.0 就業者 6,311 96.0 そのうち 就業者の% 自営業主・家族従業者 728 11.5 雇用者 5,553 88.0 そのうち 役員を除く雇用者 5,210 82.6 正規の職員・従業員 3,302 52.3 非正規の職員・従業員 1,906 30.2 そのうち パート・アルバイト 1,320 20.9 契約社員 273 4.3 ソース:総務省統計局●第1表 就業状態別15歳以上人口、産業別就業者数、求職理由別完全失業者数 しかしこの数値だけでは、日本の雇用の変化に関する課題は、はっきりとは見えません。それは日本の雇用構造が、企業や個人、そして経済全体にとって、柔軟性に欠けた、とてもお堅いシステムだからです。日本の雇用構造を分析するベストな方法として、三大“S”に注目していきましょう。 終身雇用の「S」: 柔軟な労働市場に向けて 何年も前から議論されている話ですが、日本では非正規雇用が増えています。昨今の女性の就業率の増加と並び、安倍首相の基本方針における重要なトピックです。(そしていうまでもなく、この2つは関係しています。)この非正規雇用の増加は、終身雇用の終わりを意味している、と嘆く人もいます。そこでここでは、非正規雇用、そして終身雇用の柔軟化が、未来の日本の企業競争力のために必要だという逆の考え方について、お話しましょう。 終身雇用制度の起源は明治時代までさかのぼるのですが、現在のシステムは、1950年代後半の高度成長期にできあがりました。この時代の産業政策は、政府が大企業をサポートする一方で、成長が見込まれたこれらの企業が社員の福利に責任を持つ、という原理の下で成り立っていました。皆が安定した仕事に就いていれば、公的な雇用保険制度があまり必要ではありませんでした。また大企業が医師や歯科医を社内診療所などで用意していれば、企業が時間を節約できるだけでなく、政府が医療保険の予算を減らすこともできたのです。 そもそも終身雇用制度は日本の労働基本法ではなく、複数の裁判所の判決に基づいて作られました。その結果、再建やリストラ、組織の再編成を目指す企業は、まず社員に早期退職を勧めたり、非正規雇用者を解雇したりする必要がありました。 しかし、1998年から2003年の経済危機を通じてこのような戦略が不十分だと分かり、裁判所の判決が改正され始めました。大企業の縮小化、つまりリストラが、少しずつ認められ始めたのです。解雇された人々は、政府にとっては気がかりな失業者、もしくは非正規雇用者となりました。 これらの出来事に、ほとんどの日本人は恐怖を感じました。確かに、終身雇用には利点もたくさんあります。まず社会にとって、終身雇用は安定した社会基盤をもたらします。人々は、解雇されるかもしれないという不安に常に駆られる必要がないため、長期的な視野で子供の教育などの計画を立てることができ、安定した明るい生活を送れます。これは社員のストレスだけではなく、家族、そして社会全体のストレスを減らすことができます。 第2に、企業にとっても、終身雇用は多くの利点があります。特に重要な例として、社員が忠実かつ献身的になるため、より仕事に励み、チームと協調するようになります。長期雇用の社員が、実務の中でその企業で働くために必要な能力を修得する中、企業は、投資の見返りが期待できるため、海外留学などを通して社員教育に力を入れることができます。 社員は、あまり本意ではないジョブ・ローテーションや、さらには他の都市への単身赴任を受け入れるようになります。年配の社員は、地位を奪われる危険性がないため、若い社員とより知識を共有しようとし、組織的学習に貢献します。これら全てが、企業の成功のために必要な要素なのです。 米国版サラリーマンは「オーガナイゼーションマン」 補足ですが、実は過去に米国やドイツでも、似たようなシステムが使われていました。米国では、1980年代の初めまで、“サラリーマン”のことを“オーガナイゼーションマン”と呼んでいました。しかし、日本とこの2国の大きな違いは、米国とドイツが日本より10、20年早く労働市場の流動化に力を入れ始めたことと、この2国には、日本にあるような堅実な給料制度がなかったことです。 98年から始まった経済危機は、日本の雇用制度を変えることこそありませんでしたが、システムの限界を浮き彫りにさせました。まず明らかだったのは、この制度が機能するには、急速な成長が必要なことです。成長率が遅いと、社員数の成長率も遅くしなければなりません。 社員の解雇ができない場合、これは2つのことを意味します。まず、90年代の「失われた世代」の引き金である若手社員の採用の減少です。そして労働力の高齢化による、人件費の非競合的レベルへの増加です。これは勤務年数や役職で給料が決まる、年功序列制度がある日本では特に顕著です。 第3に、日本経済にとってより大きな障害となっているかもしれないのが、大幅に硬直化したシステムです。まず大事なのは全員がサラリーマンになりたいわけではない、ということです。人々は皆、階級制度、厳しい規則や法律、そして統一された融通の利かないキャリア・パスに縛られた大企業で働きたいわけではありません。これは女性にだけではなく、多くの男性にも当てはまります。 しかし、目指す目標が人によって違っていても、日本の硬直化した終身雇用制度のせいで、中々自由に進路を決めることができないのです。 このように柔軟性が低い大きな理由は、終身雇用が給料や昇進に直接繋がっているため、中途採用のための労働移動が制限されているためです。これについては読者の皆様も良くご存じでしょうし、説明するまでもないと思います。米国やドイツと違い、日本における給料は昔から会計、エンジニア、営業などの職務ではなく、企業規模と勤務年数により決まってきました。このため現在の職務に不満を持つ40代のサラリーマンにとって、転職は手段が少ないだけでなく、財政的にも賢くないのです。 1998年の金融危機は、この問題を浮き彫りにさせました。経営学や心理学の研究によって、人々は、同僚と仲良く、職務に誇りと責任を持ち、昇進などの仕事への報酬がはっきりと見えているほど、生産性とモチベーションが上がることが分かっています。つまり、終身雇用は、企業、職務、上司や同僚が好きな場合、社員のモチベーションをたくさん上げることができる、ということです。 この、生産性と見返りの高い労働環境こそ、維持しなければならないものなのです。しかし、真逆の環境、つまり自分が「ゾンビ企業」で働いていて、馬鹿みたいな上司、気持ちの沈んだ同僚達に囲まれていた場合はいかがでしょうか。自分に専門的でかつ付加価値の高いスキルがない限り、この場合の終身雇用は牢獄のようになります。このように完璧とは言えない労働環境で働くサラリーマンが増えるにつれ、変革への関心が芽生え始めてきました。 企業から見ても、このお堅いシステムには、いくつかの課題があります。1つは、終身雇用制度によって労働費用が実質固定費用になることです。ほかには、利益が見込めないビジネスからの撤退など、企業戦略の幅が制限されることです。しかし、企業にとって最も大きな課題は、「ハイヤリング・ミステイク」、つまり「採用ミス」です。昔は、この採用ミスで採用された社員達は「窓際族」と呼ばれていました。この表現はもう適切ではないかもしれませんが…。要するに、企業が業績の低い社員を解雇できないため、採用がよりリスク回避型になるのです。 採用ミスを取り返せるなら、終身雇用は維持される これには矛盾があります。それは、もし企業が「採用ミス」で入社した社員を解雇できるなら、より終身雇用で社員を雇いたくなるということです。終身雇用制度が企業にもたらす利益を考慮すると、企業はよりこの制度を導入しようとします。つまり労働市場がより柔軟になればなるほど、企業はより長期雇用したくなるのです。 規制の多い労働市場により、今までの日本企業は「採用ミス」を避けるために、非正規雇用者を増やすという手段しか選択できませんでした。当時の規制や制度を考慮すると、これは理にかなった、戦略的な対策です。公平な報酬に関する課題はいくつかありますが、全体を通して見れば、派遣会社の誕生や雇用機会の増加により、労働市場がより多くの就職希望者に開かれたのは事実です。そしてこの先、労働市場全体が柔軟になり「採用ミス」への対策がより簡単になると、企業はより多くの社員を長期雇用したくなるのです。 また、労働構造を成長率の低い21世紀に適応させるために、参考にするべき前例がない、という問題もあります。米国のシステムは重大な問題が多いため、雇用は不安定であり、雇用者は不満を抱えています。ドイツのシステムはある程度参考になるかもしれないのですが、日本ではほぼ不可能であろう60%の所得税をベースに機能しています。 日本が取り組むべき課題は、以前のシステムの多くの利点を失わずに、より柔軟な独自のシステムを、自分のペースで築き上げていくことです。これこそが転換期に長い時間がかかっている理由です。変化はとてもゆっくりですが、正しいアプローチだと思っています。 信じがたいかもしれませんが、やがて訪れる労働者不足は、この転換を手助けしてくれるかもしれません。それは、労働供給が減少すると、企業の需要が変わるからです。企業は、より長期的な雇用を求めるようになるため、終身雇用制度は存在し続ける、と予想されます。 例えば労働者不足のため企業が、労働者が満足できるような職務内容を提供するなど、様相が変わります。また労働要員の空きを埋めるために中途採用を始めるため、社員の引き留めが難しくなります。そして日本の労働市場が、労働供給によって決まる「売り手市場」になったとき、就業規則がより労働者の利益を反映するようになるのです。 これについてはまだはっきりと証明されていませんが、ほとんどの雇用者が、職務内容に満足でき、成功や昇進から報酬をもらえ、夜の7時ごろに帰宅し家族と夕飯を食べる、などといったワーク・ライフ・バランスに融通の利く仕事を求めていると推測できます。更には昇進や報酬に公正で、意見やアイデアに多様性がある、面白い労働環境も求めているとも考えられます。 どうしたら望ましい労働環境を提供できるのか それでは、どうしたら企業は、そうした労働環境を提供できるのでしょうか。これはとても複雑です。短くまとめると、企業は労働者不足のとき、最も優秀な社員を引き付け保持するために多種多様な社員を雇い、有意義でやりがいのある仕事を与え、早い昇進で報酬を与える必要があるのです。 査定の「S」: 企業への貢献度で定められた報酬に向けて これまでの内容に共感していただけた方々なら、社員の査定がいかに重要か、予想できると思います。日本企業の約80%は「成果主義」に切り替わったと公言しています。この「成果」を測るために、昇進、給料、ボーナスを決定する査定が行われています。誰一人として、査定が好きな人に出会ったことはありません。査定する側からすると、査定は、長い時間を要し、正確に遂行することが難しいことに加え、査定する側への適切な訓練が足りないそうです。査定される側からすると、公正ではないなど、皆さんがご存知のように様々な理由から、嫌われています。 まず知っておくべきことは、この問題は世界中にあるということです。誰も、査定が好きな人などいないのです。日本は別段特殊なわけではありません。この問題を解決するため、アメリカのビジネススクールの教授達は、「360度評価」や「バランスト・スコアカード」などの査定方法を編み出してきました。しかしこれらはどれも、査定を簡単にするどころか、難しくするものでした。 世界中のどの会社にとっても、第1の課題は、誰に対しても「平均以上」という評価を下してしまう傾向です。これは経営者が、特に終身雇用制度の場合、社員のやる気を失わせたくないと思うからです。当たり前ですが、社員がたくさんいれば、彼らのスキルや功績は正規分布のように分布するはずです。しかし実際に企業の評価結果の分布を見てみると、左に歪んでいます。これが、多くの社員が査定制度は不公平だと批判する理由です。業績の悪い社員や問題社員の評価が、平均的社員の評価とあまり変わらないのです。 第2の課題は、ほとんどの人にとって、誰かに残念な意見を伝えるのが辛いことです。知っている人に面と向かって、ネガティブな評価を伝えるのは難しいのです。衝突をなるべく避けると言われている日本では、これは更に大きな問題となります。 この工程を容易にするため、「360度評価」を使って、複数名の意見を混ぜるという手段もあります。それでも誰かが評価を直接伝えなければならないため、実際には、少ししか評価を伝えなかったり、何も伝えなかったりもします。これはとてももったいないです。なぜなら、建設的なフィードバックを与えることは、社員と企業の成長を促すための、いい機会だからです。 日本で成果主義が導入される以前、多くの企業は「長時間労働をしているか」「頑張っているか」などといった基準で社員を評価していました。言うまでもなく、これは業績を評価する上では重要ではないのですが、実行しやすい評価方法でした。企業への本当の貢献度を測り、社員がより効率的に働くように促すフィードバックを与えるのは、それよりはるかに難しいのです。 社員を区別し、業績の優れた社員に高い報酬を与えない限り、日本は新しい、内容重視の職場に切り替わることができません。そのためには、長時間労働や勤務態度ではなく、「この人は仕事ができるか」、「効率的に働くことができるか」、などといった評価指標が必要です。これらを測る指標はいくつかありますが、仕事内容の評価に関しては、ほかと比べてより困難です。 米国のビジネススクールの人事専門家によると、最も大事なアドバイスは、社員の成長を促すフィードバックと、給料や昇進の決定を別々にすることです。それは社員が、給料や昇進について上司とミーティングしている場合、フィードバックについては、集中して聞くことができないからです。この2つは、別々のミーティングで社員に伝えるべきなのです。 大事なのは建設的なフィードバック さらに大事なのは、建設的で役に立ち、そして企業目標に向かってより一生懸命に働けるフィードバックを社員に与えることです。やがて訪れる労働者不足と、優秀な社員を維持する必要性を考慮しても、いいフィードバックを与えることは企業にとって重要なスキルです。前の例にあった、「長時間働いた」というのは、ただの記述的なフィードバックです。それよりも、どうして長時間労働が目標達成のために必要だったのか議論することの方が、断然意味のある会話になります。 この新しい査定制度が経営者にとって難しい理由は、日本の企業の多くが、目標を明確に決めていないからです。成果主義を導入していても、社員が何を達成する必要があるのかを伝えずに、経営者が査定を一任しているケースが多いのではないかと感じています。これは企業戦略の問題です。その企業は、業界一の利益率が欲しいのか、それとも業界一のイノベーションなのか、もしくは業界一安い製品を売りたいのか、といった目標の選択です。 もちろん、企業は上記の目標を全て同時に目指すべきではないため、目標は明確に選択されているはずです。経営上層部が企業の競争方法をはっきりと設定し、企業戦略を明確に規定している企業では、企業目標への本当の貢献度が公正に評価できるため、査定が一段と簡単になるのです。 ほとんどの社員はいい評価を貰いたいと思っているため、企業から何が求められ、どうしたら成功できるのかを理解していれば、これを達成しようと努力します。つまり理想の査定制度とは、まず目標を明確に記述し、社員がその目標を達成できるよう年に2回のミーティングを開いて彼らを助け、そして昇進や給料の決定と切り離すことにより構築されるのです。簡単そうに聞こえますが、世界中のほとんどの企業はこれに四苦八苦しています。態度を評価するシステムから、企業の成功のための貢献度を評価するシステムへの切り替えが難しいのは、想像に難くありません。 就活の「S」: 被雇用者の多様化に向けて 最後は、被雇用者についてのお話です。私の仲の良い友人(田中さんという名前だと仮定します)の話から始めましょう。田中さんは50歳頃、日本で最も大きく、海外でも最も成功しているグローバル企業の1つに、研究開発担当の執行役員として転職しました。素晴らしい経営者である彼は、自分を含む研究開発部の課長クラス以上の全社員総勢数百名で、性格テストを受けました。 その結果は驚くもので、外部から来た田中さん以外、全員全く同じプロファイルだったのです。言うまでもなく、これは研究開発において重大な問題です。社員が皆同じような性格だと、創造的思考や新しいアイデアを生み出すことが難しくなるからです。 この結果は、田中さんだけに限った話ではないと、私は確信しています。私が今までに出会った日本の企業に勤める社員はほとんど、同僚たちと内面が似ているからです。前回のコラムで、「ストロング・カルチャー」についてお話しましたが、社員の性格が似ていると、企業全体の規範や価値観が社員から賛同されやすくなります。これは、皆同じ目標を共有していた高度成長期ではうまくいきました。しかし21世紀のグローバル競争においては、「みんな同じ」という特徴は、障害となるのです。 就活制度は多くの人から批判されていますが、その批判の理由は見当違いのものが多いと私は感じます。良く聞く批判は、学生が皆同じスーツを着て、同じ髪型をし、同じ履歴書を提出し、同じ答えを準備してくるため、就活が奇妙なものになっていることです。これは事実で、大きな問題でもあります。しかしこれは就職希望者のせいではなく、募集者である企業に責任があります。学生は、与えられたインセンティブに素直に対応しているだけです。 就活の本当の問題は、日本の企業の雇用の仕方がいかにリスク回避型であるか、というところにあります。とある日本の大企業の人事部長で、筆者から見てあまり偏見がない友人に聞くと、海外で勉強した学生や、筆者が勤めるカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のような大学で修士課程を修めた学生を雇いたくても、中々できないことが課題だそうです。というのも、終身雇用制度があるため、「採用ミス」をしてしまうと、彼らの立場が危うくなってしまうからです。 「採用ミス」を避けるためには、出身大学の階級、そして企業DNAと完璧にマッチしているかどうかを基準に採用しなければなりません。これなら採用ミスがあっても、基準通りに採用した人事部のミスにはならないのです。 とっても特殊な日本の大学ランキング ところで日本の大学ランキングが、かなり特殊であることを知っていましたか? どの国にも大学ランキングはあるのですが、ほとんどの国では、学部または専門分野ごとにランキングを発表します。もし、とある有名な教授が他の大学に異動すると、ランキングが少し変わることもあります。日本では、海外と比べて教授同士の競争が少なく、給料が市場主義で決められていないため、教授の異動が比較的少ないです。そして、私の知る限りでは、ここ30年間、日本の大学ランキングは変わっていません。誰もが、一流大学がどこで、二流大学がどこで、と名前を挙げることができるのです。 企業が大学のランキングを基準に雇用するということは、学生の選別を大学に外部委託しているのと同じです。一流大学を卒業した学生は、二流大学を卒業した学生より頭がいいと考えられているため、人事部にとってはトップの大学からたくさん学生を雇ったほうが安全です。しかし、大学入試で求められている能力は、企業で成功するための能力とは全く異なります。つまり大学ランキングを基に雇用してしまうと、企業の成功に関係のないスキルを基準に雇用することになるのです。 結果的に言うと、就活制度そのものは問題ではありません。単純に就職希望者をより分けし、それを企業へ繋げるための効率的なシステムなのです。良く聞くように、企業が年に2、3回採用を行ったほうが、海外の大学の卒業生や転職者が秋から仕事を始められるという点で、良いかもしれません。これはシステムを少し改造するだけで、比較的簡単に成し遂げられます。より重大な問題は、リスク回避型の企業の姿勢にあるのです。 多種多様な社員を雇いたいと真に表明する企業には、多種多様な就職希望者が集まります。これはとても簡単なプロセスなのです。しかし、多くの日本企業の人事部では、特殊な経歴を持つ者、ユニークなスキルを持つ者、「珍しい」履歴書を送る者を雇うリスクを回避しています。 就活制度を改善するためには、大企業のトップの経営者が、人事部がリスクをとるように促さなければなりません。そのため人事部に対する査定は、リスク回避や安定性の度合い、「採用ミス」の数などではなく、多種多様に優れた新入社員の採用を基準とするべきです。これは昔と比べて大きな変化であり、企業のトップが先導するべき変革です。 現在起きている変化に問題はない 全てのポイントがどう繋がっているのか、見えてきたかと思います。終身雇用制度が柔軟になれば、企業は「採用ミス」の心配が減り、 ユニークな経歴を持つ人、海外で学位を修めた人、今までにない才能を持った人などを含め、より多くの人を雇う意欲が高くなります。これにより、職場がもっと面白い場所になるでしょう。それから、企業の成長を促すためには、適切な目標を設定し、公正に報酬を与えなければならないため、査定制度と企業全体の目標をマッチさせなければなりません。これらが達成されてやっと、就活で自分の特長やユニークな能力について、喜んで話してくれる就職希望者が現れるのです。 最後に、皆さんの中には、私がどうしてこのコラムで女性の雇用について具体的な話をしないか、疑問に思っている方もいるかもしれません。女性の就業には様々な問題が関係します。これらの多くが社会的な問題であり、社会によって解決しなければならないものだ、と私は思っています。 しかし、先ほどお話した変革、つまり柔軟性の高い長期雇用や中途採用、労働時間よりも正しく企業への貢献度が測れる査定制度、そして多種多様な労働力を求めた採用が導入されれば、もしかしたら男性以上に、女性が恩恵を受けるかもしれないと私は期待しています。 嬉しいことに、変革は既に始まっています。雇用の保証と個人の目標達成を組み合わせるのはとても困難で、長い時間がかかりますが、多くの素晴らしい日本の企業は、既に変化し始めています。やがて訪れる労働力不足は労働者の権力を強め、頑固な企業の労働力は弱くなるでしょう。 また、安倍首相の新しい労働改革は、皆正しい方向に向かっています。労働市場などに関する規制や法律の改正なら政府にできます。しかし、それ以上の、市場構造そして労使関係の改善は、企業や労働者一人ひとりが考え方を変えていかなければ、成し遂げられないのです。 よりよい未来のために、読者の皆さんも頑張ってください! このコラムについて ドイツ人経営学者は見た!日本のかっこいい経営 アベノミクスの中で、復活の兆しが取沙汰される日本経済。「失われた20年」と言われ続けたけれどもさにあらず。国外から見ると、日本の経営にはたくさん素晴らしいところがある。ドイツ人経営学者が見た、「ニッポン型経営」の新しい魅力。
[12削除理由]:関連が薄い長文 |