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午後3時取引終了では、「アジア一の金融市場」にはもどれない? photo Getty Images
東証の取引時間延長問題が解決しないと「アジア一の金融市場」復権の道はない!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39917
2014年07月22日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
今春までに結論を出すはずだった東京証券取引所の現物株の取引時間の延長問題が迷走を続けている。
■「空白の時間」をアジアのライバルに奪われている
原因は、当の取引所や証券会社といった関係者たちの利害の錯綜だ。
表面的には、それぞれの関係者が利用者、つまり投資家の利便性向上を盾にとって取引時間延長の是非を論じているものの、一皮むけば、各社が自社の利益拡大に躍起になっているのは明らかだ。
本来、現物株市場は、企業のかけがえのない資金調達の場であり、常に発展を図らなければならない社会的なインフラである。
加えて、かつてニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界3大市場の地位にあった東京市場の復権は、日本経済の活力回復のためにも是非とも成し遂げなければならない課題と言ってよい。
建設的な結論を出すためには、世界の資本市場を俯瞰して、この問題を考え直してみるべきではないだろうか。
そうすれば、日本時間の夕方3時から5時頃にかけて、東証の現物株市場が取引を終えてから本格的に欧州市場が開くまでの空白の時間帯の取引を、アジアのライバルたちに奪われないための対応の重要性が最も喫緊の課題であることが浮かび上がってくるはずである。
■JPXは前のめりだが、取引延長の議論はまとまらず
6月17日付の本コラムでも紹介したが、「取引時間延長」問題の発端は、東証と大証の経営統合で誕生した日本取引所グループ(JPX)が今年1月末に、「現物市場の取引時間拡大に向けた研究会」(座長・川村雄介大和総研副理事長)を設置したことだった。
JPXの斉藤惇代表執行役グループCEOはその日の定例記者会見で、「多くの人が取引したいとおっしゃれば、取引所としては、ある程度それに応えなければいけないという使命もある」と、投資家のニーズを理由に、導入に前のめりの姿勢を明らかにした。
東証の取引時間は、現在、午前と午後に各2時間半ずつ、合計で5時間だ。これが、アジアや欧米の主要な証券取引所と比べて短いのは事実。ちなみに、東証によると、主要取引所の取引時間は、香港(5時間半)、韓国(6時間)、ニューヨーク(6時間半)、シンガポール(8時間)、ロンドン(8時間半)という。
そこで、東証は、同研究会に対し、現在は午後3時で終わる取引を午後5時ごろまで延ばす「夕方案」と、いったん閉めて午後9時以降に再開する「夜間案」の2案を提示。今年2月、3月の2ヵ月程度の短期の審議で結論を出すよう諮問した。
だが、結論を急ぐJPXの斎藤CEOや東証の意向に反して、議論は容易にはまとまらなかった。同研究会は6月11日までに5回の会議を開いたものの、真っ向から意見が対立し、一つの方向に収束せず、結論が出なかったのだ。
研究会は近く再開し、1、2回の会議を経て報告書のとりまとめに臨む方向だが、水面下では依然として調整が難航しているという。
混乱の最大の原因の一つは、かつて東証の現物株の取引時間(立会い)中に活発に行われていた企業の情報開示(記者会見)を「株価形成が混乱する」という理由で取引終了後に行うように指導した東証のその場しのぎの対応にある。そのことは、本コラムで以前に述べた通りだ。
また、多くの証券会社は、「東証の取引時間の延長によって、競争相手である(“ダークプール”や私設取引システム(PTS)を使った)取引所外取引を潰し、以前のように株式の現物取引を独占したいというJPXグループの本音が透けて見える」という。中でも外資系証券などPTS運営に深くコミットしたところを中心に、東証への反発は根強い。
■ネット証券が求めるのは「夜間案」
そして、もうひとつ見逃せないのが、「夕方案」では不十分であり、本格的な「夜間案」に基づく取引延長を求めているネット証券の意向だ。
「現物市場の取引時間拡大に向けた研究会」の委員もつとめる松井証券の松井道夫社長は、最近発売された金融誌のインタビューで、「信用取引ができないことが、個人投資家がPTSで取引しにくい理由ともなっている」と指摘。そのうえで、オンライン証券5社の個人投資家アンケートで、「2〜3日に1回」「月に数回」といった投資家の方が夜間取引の利用意向が強かったと述べている。
松井社長らネット証券は、信用取引をテコに夜間取引の取引層を、これまであまり売買の実績のない個人投資家を中心に拡大していく意向と言ってよいだろう。
ここで、ネット証券のアンケート対象が恣意的に選ばれていないかという問題はさておくとしても、信用取引の拡大は重要な問題だ。
というのは、信用取引はすでに個人投資家の6割前後を占めているが、代金の3割程度の保証金を担保に株式の売買資金を証券会社から借りて行うものであり、通常の取引に比べてリスクが大きいからだ。相場が激変すれば、投資家が背負いきれない被害を蒙ることがある。
これ以上の信用取引の安易な拡大は、市場が混乱するリスクを増幅するものと言わざるを得ない。
■対面取引重視の証券会社は「時間延長」そのものに反対
専業のネット証券と対照的に、顧客との対面取引を重視する証券会社の多くは、取引時間の延長そのものに反対する姿勢をまったく崩していない。
例えば、7月9日付の日経QUICKニュースは、「(東証社長に対し、)全国の証券会社50社が反対意見書を提出していたことがわかった」「投資家が限られるため、流動性が確保されず、公正な価格形成が損なわれる」などと伝えている。
こうした意見の背景にあるのは、取引延長に必要なシステム投資コストの拡大や人件費の増加の割に、全体としての取引の拡大が見込めない問題だ。言い換えれば、投資倒れになりかねないというのである。前述した取引所への不信もあり、証券各社は取引時間延長に慎重になっている。
■香港、上海、シンガポール市場への対抗策を
とはいえ、「東証の取引時間の延長を考える場合、アジアのライバルの存在をまったく勘案しないのはナンセンス」(東証幹部OB)かもしれない。
東京を中心に世界の株式市場の開場状況を見た場合、ニューヨーク市場が取引が終えてから東京市場が開くまでの5、6時間前後と、東京市場が取引を終えてからロンドンなど欧州市場が開くまでの1、2時間前後の間に、それぞれ空白期間帯がある。
特に夕方の欧州市場が開くまでの間の空白時間帯については、香港、上海、シンガポールなど、その時間帯の主力市場の座を争うアジアのライバルがひしめいている。そうした地域や都市に拠点を置き、積極的な売買を行っている機関投資家は多く、それらの売買注文の獲得も無視できない課題だ。
そういった意味から、この時間帯をカバーするために、「夕方案」を軸にした取引時間の延長を議論するのは、それなりに説得力のある話なのである。
■東京市場が復活しないと「日本の未来はない」
「夕方案」であっても、東証が新たな市場を開設する案には大きな問題がある。新市場の創設となると、現在の市場の取引を延長する(「本則市場方式」という)のと違い、従来の投資家保護のための様々な規定や仕組みが準用されないからだ。
また、取引延長問題では、企業が決算の際に採用する株式の評価額をどうするかも事務的な面から大きな問題として議論の的になっていた。
この点でも、本則市場方式には、従来通り、3月決算会社は3月31日の引け値(引けの時間は夕方3時から、4時とか5時といった新たな引け時間に変わる)を採用できて、大きな混乱を避けられるメリットがある。様々な弊害を承知で、それでも取引時間の延長を強行するならば、弊害を最小限に抑えるのが「本則市場方式」なのである。
専門的なことを言えば、本則市場の取引時間を延長する場合、従来、大口のバスケット取引などを行う特殊な市場として運営されてきた東証の「ToSTNeT(Tokyo Stock Exchange Trading NeTwork System)取引」市場の統合・縮小もしくは制度的・時間的な調整が必要な可能性は残る。
東京都の舛添要一知事は今月11日の記者会見で、東京の金融センター化の必要性を強調し、推進会議を設置すると発表した。その席で、「東京がウォール街やシティと並ぶ地位を回復しなければ、日本の未来はない」と語ったという。
取引所や証券会社には自社の都合に合わせて投資家の利益を論ずるのではなく、東京市場が過去の勢いを取り戻すための改革を考えていただきたい。
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