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「21世紀の資本論」が問う、中間層への警告 日本に広がる貧困の芽とは何か
http://toyokeizai.net/articles/-/43050
2014年07月21日 杉本 りうこ :週刊東洋経済編集部 記者
トマ・ピケティ教授による『21世紀の資本論』が異例の大ヒットになっている(撮影:今井康一)
一匹の妖怪が世界を徘徊している。ピケティという名の妖怪が――。マルクスの言葉をもじってそう言いたくなるようなブームが、欧米で巻き起こっている。フランス経済学校のトマ・ピケティ教授による『21世紀の資本論』が、経済書としては異例の大ヒットとなっているのだ。英語版で約700ページにも上る本格的な経済書だが、特に米国では書店から蒸発するように売れ、出版社が増刷を急いでいる。
マルクスの『資本論』をほうふつとさせるのはタイトルだけではない。本書は「資本主義は格差を拡大するメカニズムを内包している。富裕層に対する資産課税で不平等を解消しなければならない。さもなければ中間層は消滅する」と主張。この主張が米国では、「ウォール街を占拠せよ」運動に代表されるような格差の議論に結び付き、一般市民を巻きこんだピケティブームが巻き起こっている。米国の保守派は「ソフトマルキシズムだ」と反発するが、ポール・クルーグマンやロバート・ソローなど、ノーベル賞受賞経済学者はピケティの実証的な研究を高く評価している。
■中間層が消滅する未来
同書は日本でも2014年内をメドに、みすず書房から出版される見通し。書店に並べば、国内でも話題の一冊となることは間違いない。なぜなら、中間層が消滅する資本主義の暗鬱とした未来は、私たち日本人の足元でもさまざまな現象として現実味を帯びつつあるからだ。
たとえばリストラ。たとえば高齢化した親の介護、自身の病気。こういった不運だが誰の身の上にも起こるライフイベントは、収入の激減や支出の急増を招き、中間層の人生設計を容易に狂わせる。何も起こらなくとも、年収1000万円クラスのアッパーミドルにとっては、社会保障コストの負担が増える趨勢だ。
アベノミクスで景気が回復したといわれるが、好景気を実感できている日本の中間層はどれぐらいいるだろうか。かつては1億総中流と呼ばれ、誰もが成長を実感し、ささやかながらも豊かさを享受できた社会。それがすでに過去のものというのは、現代に生きる日本人の実感といっても、いいのではないか。好景気を実感するよりも、人生という長いレースで貧困側に転落しないか、その不安におののいている人のほうが多いのではないだろうか。
本誌では8ページにわたりピケティ氏本人のインタビューを実現した
本誌は今話題のピケティの『21世紀の資本論』を、国内ビジネス誌としては初めて特集して伝える。特に8ページにわたるピケティ本人のロングインタビューは、海外でも例のない読み応えだ。さらにピケティの提起する議論を端緒に、国内中間層をとりまく貧困の落とし穴についても考えた。
今回取材したが、紙幅が尽きて掲載できなかった問題のひとつに、教育がある。富裕層の所得が雪だるま式に増えるのと同様に、子どもの教育機会も親の所得に比例して充実する、という事実がある。東大生の親の年収は、950万円以上が半数以上、というのはよく知られた例だ。
■開成高校の学費免除の試み
親の所得が生み出す教育格差とその世代間連鎖が社会問題となる中、この流れに逆らおうとする動きもある。そのひとつが私立開成高校(東京都荒川区)の学費免除の試み。2014年度から、経済困窮家庭の生徒を対象に、入学金や授業料を全額免除する制度を始めるという。
同校ではリーマンショック後、経済状況が厳しくなる在校生が増えており、在校生向け奨学金の利用もじわりと増えている。新入生向けの学費免除制度の新設はこの傾向を考慮したものだが、同校にとっては決して慈善事業の類ではないとう。開成高校の葛西太郎教頭は「経済的に困難な生徒ほど、何事も一生懸命頑張るという傾向がある。学校の中に、現実社会と同じ多様性を維持するためにも、さまざまな生徒を受け入れたい」と話している。
資本主義社会に生きる以上、私たちは格差や貧困とは無縁ではいられない。それが今のところの現実だ。であれば、この現実にいかに向き合うか。教育界にとどまらず、すべての人に問われているのではないか。今回の特集を進める中で、記者が何度も考えたことだ。
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