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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第83回 不思議な法人税減税議論
http://wjn.jp/article/detail/4361504/
週刊実話 2014年7月17日 特大号
現在、政府が検討を進めている法人税の実効税率の引き下げ、すなわち「無条件の法人税減税」の議論は、本当に不思議だ。何しろ、「何のために法人税を無条件に引き下げるのか」について、説得力がある説明がなされていない。
安倍晋三総理を含む法人税減税論者の説明は、「法人税は下げなければならないため、下げなければならない」としか聞こえないのである。
一応、それなりに説得力があるというか、「聞こえがいい」法人税減税推進の理由は、
「法人税を引き下げることで、外国企業の投資を呼び込む」
というものだ。世界最大の対外純資産国で、国内に資金も、企業も、技術もある先進国である我が国が、なぜ発展途上国のごとく「外国企業に投資して頂く」必要があるのか意味不明だが、とりあえずその話は置いておこう。
アメリカという国がある。アメリカの法人税の実効税率は、日本よりも高い。外国企業の自国への直接投資(工場建設や支店開設など。株式等への証券投資は含まない)を「対内直接投資」と呼ぶ。日米両国の対内直接投資残高対GDP比率を比較してみよう(2012年)。
◆日本=対内直接投資残高対GDP比率 3.5%
◆アメリカ=対内直接投資残高対GDP比率 32.2%
日本よりも法人税が高いアメリカは、GDP比で日本の10倍近い直接投資を外国から受け入れている。
アメリカという事例がある以上、
「日本は法人税が高いため、外国企業が投資しない」
という理屈は成り立たないのだ。
というよりも、日本の対内直接投資残高対GDP比が低いのが問題だとして、その理由は、
「長期のデフレで、企業が利益を上げにくい環境であるため」
が主因に決まっている。
利益とは、企業にとって「所得」になる。所得とは、企業が生産活動(サービス供給を含む)に従事し、生産されたモノ・サービスを誰かが消費、投資として購入してはじめて創出される。
長期のデフレに苦しめられた我が国では、物価の下落(生産されたモノ・サービスの価格下落)が所得拡大のボトルネックになっていた。
我が国の企業が利益(=所得)を増やせなかったのは、完全にデフレが原因なのだ。
デフレで利益を上げられない我が国に、外国企業がこぞって投資をするなどあり得ない。そもそも、利益を上げられない環境が続いていた以上、法人税の高低は対内直接投資残高とは無関係なのだ(もしくは「無関係に近い」)。
逆に言えば、法人税が高くても、多額の「利益」を上げることが可能な国であれば、外国企業は喜んで投資をする。
要するに、現在の法人税議論における「外国企業の投資を増やす」は、日本が「投資をすれば利益を上げられる」環境であることが前提になっているのである。すなわち、投資利益率が高いという話だが、現実は異なる。
国内企業ですら「投資利益率が低い」という理由で、投資を増やさない(真っ当な判断である)日本国に、法人税を引き下げた程度で外国企業の投資が増えるだろうか。
ちなみに、筆者は別に日本が対内直接投資を増やすべきだとは考えていないが、それにしても議論がお粗末極まりないのだ。
利益を増やせない以上、法人税が低かろうが高かろうが、企業にとってはどうでもいい話だ。
その法人税とは「税引き前利益」から支払われるのである。
結局のところ、現在の政府の法人税議論は、「日本は投資をすれば、利益を上げられる」環境であることが前提になっているように思え、色々な意味で突っ込みどころ満載なのだ。
日本が投資をすれば利益を上げられる国ならば、これほど長期間、デフレに苦しむはずがない。
現実の法人税減税議論では、「利益」や「デフレ」以前に、なぜか財源問題ばかりがクローズアップされている。
特に、日本経済にネガティブな影響を与えることになりそうなのが、赤字企業でも課税される外形標準課税の中小企業への適用の拡大だ。
外形標準課税とは、企業が稼ぐ利益ではなく、「事業そのもの」に課される税金である。建前としては、企業がビジネスを展開するに際し、自治体の各種行政サービスの提供を受けており、利益と無関係に行政サービスの経費を分担するべき、という考え方になっている。
現在の日本において、外形標準課税の適用を受けているのは、資本金1億円超の法人のみである。すなわち、中小企業は対象外なのだ。
外形標準課税の適用範囲が広がると、税引き前利益がマイナスの状況でも、中小企業ですら付加価値や資本金(及び資本積立金額)に応じて税金を徴収されることになる。
日本の「企業数」に占める中小企業・小規模事業者の割合は、何と99.7%(2012年時点)だ。従業員数の割合でみると、およそ7割になる。
実のところ、我が国の「雇用の担い手」は、大企業ではなく中小企業なのである。
日本経済において、生産や雇用の大半を担っている中小企業の税負担を重くし、法人税税率を引き下げ、一体何をしたいのか、と思いたいところだが、「何をしたいのか」はわかっているのだ。
法人税の実効税率を引き下げれば、配当の原資(純利益)が増えるため、日本の株式市場において「取引の主役」を務める外国人投資家が日本株の買いに入り、日経平均が上がる“かも知れない”。
さらに言えば、グローバル市場を主たる標的市場とする企業の内部留保や、対外直接投資が増える“かも知れない”。
外国人への配当金や、企業の内部留保、「外国」への投資が増えても、日本国民の所得や雇用は増えない。日本国民の「豊かさ」に貢献しない政策を、国内の多数派である中小企業の「損」に基づき実施するとなると、筋が通らないどころの話ではない。
いかなる政策であっても、「得をする人」と「損をする人」が出てくるのは確かだ。
とはいえ、現在の日本で中小企業の損に基づき、法人税を引き下げるとなると、「得をする人」と「損をする人」のバランスがあまりにも悪すぎはしないか。
安倍政権は、法人税を引き下げる「理由」について、より論理的に、具体的に説明する義務がある。「企業の活力を…」といった抽象論で推進するには、あまりにも「損をする人」が多すぎるのだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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