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混合診療拡大でどうなる?勝者は誰?約15年にわたる推進派・慎重派の攻防と、米国の影
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140704-00010003-bjournal-bus_all
Business Journal 7月4日(金)3時0分配信
公的な医療保険が利用できる保険診療と、利用できない保険外診療を併用する混合診療を拡大する「患者申出療養制度」(仮称)が、2016年度をメドに創設される見通しとなった。混合診療の拡大は安倍政権の成長戦略に盛り込まれる。
安倍首相の諮問機関、規制改革会議が3月に示した「選択療養制度」は患者と医師の合意があれば混合診療を幅広く認めるという内容だった。厚生労働省は「安全性が担保されない」と難色を示し、日本医師会も「国民皆保険が揺るぎかねない」と強く反発した。調整の結果、患者が希望した治療法について、実施の前例がないケースでは、専門家の合議機関が安全性を認めない限り、混合診療の対象にはしないことが明記された。混合診療の拡大を規制緩和の柱に据えながらも、慎重派に配慮し、決着が図られた。
混合診療の拡大に反対していた日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3団体の代表者は6月13日、記者会見を行い、「患者申出療養制度」を容認する姿勢を示した。日本医師会の横倉義武会長は「安全性について最低限の担保がなされた」ことを、容認した理由に挙げた。
混合診療をめぐり日本医師会は、安倍政権と1年以上にわたって攻防を繰り広げてきた。新制度に対しては「攻防の末に生まれた妥協の産物」と評価する声もある。「こんなんじゃだめだ。患者のニーズに合わない」。政府の調整がヤマ場を迎えた5月、安倍晋三首相はこう述べ、制度の拡大を指示した。原案は混合診療が受けられる医療機関を京大病院、慶應病院など国内15カ所の臨床研究中核病院に限定していたが、患者のニーズを重視し、対象を大幅に拡大するように求めた。
日本医師会が混合診療に猛反対してきたのは、高度の医療を提供できる病院とそうでない病院との間に格差が生じ、病院の経営が難しくなると考えたからだ。そのため、対象をどこまで広げるかが焦点になった。患者が希望した治療法について、実施の前例のないケースは国が審査することで安全性を担保し、中核病院で診療を実施する。副作用の強い薬を複数組み合わせるリスクの高い治療法は、中核病院などのある程度の規模と設備が整っている病院に限定する。一時は、混合診療を実施する医療機関が大幅に拡大される見通しも浮上したが、最終的には47都道府県の大学病院にとどまるため、一般病院の経営にはほとんど影響がない。
安倍政権は混合診療を47都道府県に拡大したことで「名」を取り、日本医師会は混合診療を大学病院に事実上限定したことで「実」を取った。「実」を取った日本医師会にしてみれば、新制度は名ばかりで現行制度の延長にすぎず、振り上げた拳を下ろしたのだ。
●米国の影
混合診療の拡大をめぐっては、過去約15年にわたり推進派と慎重派の間で攻防が繰り広げられてきたが、推進派の背後には米国の影がちらつく。
1993年、当日の宮澤喜一首相とクリントン米大統領の首脳会談で、日米双方が年1回、「年次改革要望書」という外交文書を交換することで合意した。同要望書には農業、流通、金融、投資、医療、情報通信などの個別産業のほか、規制緩和や行政改革、独占禁止法と公正取引委員会、入札制度や業界慣行などが網羅され、日本の産業、経済、行政から司法に至るまで、そのすべてを対象に実にさまざまな要求が列挙されていた。
2001年の「年次改革要望書」で米国は、医療制度に市場原理を導入するよう提言した。小泉政権の元で医療制度改革を推進したのが、総合規制改革会議議長の宮内義彦氏(オリックス前会長)である。米国と二人三脚で医療制度改革に取り組んだ。そして同年12月、総合規制改革会議は、保険がきく診療と保険がきかない診療を併用する混合診療の全面解禁を求める答申をした。保険診療には健康保険を適用し、残りの自由診療の費用は患者が全額自己負担するという仕組みだ。
攻防の第1ラウンドでは、無制限に自由診療を認めることに慎重な厚労省の抵抗が強く、総合規制改革会議の答申は日の目を見なかった。第2ラウンドは04年4月から始まり、規制改革・民間開放推進会議の議長に就任した宮内氏は、改革の目玉として混合診療の解禁を取り上げた。同年の米国からの「年次改革要望書」も混合医療を導入するよう提言した。米国の製薬、医療サービス、生命保険業界が三位一体となって医療制度の規制緩和を求めた。その狙いは、公的医療保険が縮小することで、保険会社のビジネスを拡大させることだった。米国系の保険会社は、この分野に強みを持っていた。そして06年6月、ついに小泉政権の下で混合診療の解禁を一部盛り込んだ医療制度改革法が成立した。
●医療費増大の懸念も
攻防の第3ラウンドは13年1月に始まった。第2次安倍政権が規制改革会議を復活させ、小泉内閣で果たせなかった「岩盤規制」の改革に取り組んでいるが、その背景にはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉が影響している。これまでの経緯から混合診療の全面解禁や株式会社による医療への参入、医薬品や医療機器の価格統制(公的医療保険制度の中で、医薬品や医療機器の価格は公的に決められていること)の撤廃の3点を米国は強く要求してきた。米国の要望に応えるかたちで、規制改革会議は「選択療養制度」を答申したが、厚労省や日本医師会が強く反発。政府は譲歩し「患者申出療養制度」という“玉虫色”の改革プランに落ち着いたが、今後、推進派が巻き返す可能性もある。
混合診療が全面解禁された場合、国民1人当たりが負担する医療費が上昇するとの見方が強い。自由診療が基本の米国では、個人が高額な医療費に備えて保険会社と契約するため、1人当たりの医療費は日本の2.6倍だ。さらに、保険会社と契約ができない高齢者や低所得者の医療はメディケアという公的な医療保険が適用される仕組みになっているが、同様の仕組みが日本でも導入されれば、公的支出の増加につながるため、結果としてさらなる国民負担増を招く懸念もある。
混合医療の拡大をめぐっては、さまざまな利害関係者の思惑が交錯するが、医療費を抑制しつつ、かつ国民が低コストで適切な医療を受けられる制度の確立のため、公平な議論が求められている。
編集部
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