03. 2014年7月04日 06:04:58
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と言うよりアベノミクスのお蔭で、問題の先送りができなくなったということだな http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140703/267967/?ST=print 「磯山友幸の「政策ウラ読み」」 働き方を見直さなければ成長はできない アベノミクスが直面する労働力不足
2014年7月4日(金) 磯山 友幸 安倍晋三内閣は6月24日、新たな成長戦略である「日本再興戦略改訂2014」を閣議決定した。昨年6月にまとめた「日本再興戦略」の見直しという位置づけだが、昨年は切り込めなかった労働市場や農業、医療といった分野のいわゆる「岩盤規制」の改革方針を示している。中でも労働市場改革は、これまでの日本人の働き方を大胆に変えていくことを狙っている。 新成長戦略では「改革に向けての10の挑戦」として、次のような項目が掲げられた。「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」ための政策が5つ、「担い手を生み出す〜女性の活躍促進と働き方改革」として3つ、「新たな成長エンジンと地域の支え手となる産業の育成」として2つの合計10の政策が掲げられた。 メディアは「担い手」に注目 「稼ぐ力」は企業のコーポレートガバナンス(企業統治)改革など、「成長エンジン」には農業改革や医療改革が盛り込まれたが、2番目の「担い手」に多くのメディアがスポットライトを当てて報道していた。働き方という生活に直結するテーマであることももちろんあるが、これまでの労使交渉などで積み上げてきた「労働者の権利」を損ないかねない内容に、労働組合や左派系政党、それに同調する左派系メディアが反対の声を上げたのである。 「担い手を生み出す」で示された3つの政策は「女性のさらなる活躍促進」「働き方改革」「外国人材の活用」の3点。中でも「働き方改革」には、これまで労働組合などが激しく反発してきた改革が盛り込まれた。 最も反発を買っているのが「時間ではなく成果で評価される制度」の導入を打ち出したこと。年収1000万円以上の職務領域が明確な専門性の高い労働者については、勤務時間の対価として賃金を支払うのではなく、成果に対して賃金を支払えるようにしようというものだ。 左派系メディアは「残業代ゼロ制度」と噛みついている。「多様な正社員の普及・拡大」に対しても、一部メディアは「地域限定社員となり、もしその地域の仕事がなくなれば、簡単にクビにされる」といったネガティブキャンペーンを展開した。 「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」は、安倍内閣が昨年来目指している労働規制改革の柱。安倍政権発足後すぐに設置された「産業競争力会議」で、「解雇法制の整備」が打ち出されたが、これにはメディアなどが「クビ切り自由化」だと噛みついた。 本来は、解雇する際のルールが不明確で、紛争になり訴訟が起こされた際に、会社側が勝てるのかどうか予見可能性が低いことが問題視されていた。日本では解雇ルールが法律で明文化されておらず、判例の積み重ねである「解雇四原則」が実質的なルールになっている。 労働力不足が本格的な課題に これを金銭で紛争解決するなど事前に契約で決められるようにしようというのが、そもそもの発想だった。ところが余りのネガティブキャンペーンに、参議院議員選挙を控えた官邸は尻込みし、昨年の成長戦略に盛り込むのを断念した経緯がある。今回は表現は穏当ながら、解雇法制の整備を掲げているのだ。 なぜ、安倍内閣は雇用制度の改革にここまで一生懸命なのか。その答えは、ひとくくりにされている政策の柱を見れば明らかだ。前述の通り「働き方改革」は「女性のさらなる活躍促進」「外国人材の活用」とセットになっているのである。女性の活躍促進も安倍首相が就任早々取り組んでいる課題だ。 安倍首相は、女性の地位向上といった社会政策としてではなく、経済政策として女性力の活用が不可欠だと繰り返し述べている。そこに外国人材の活用が加わっている。つまり、女性や外国人を活用し、従来の働き方を見直さなければならない状況が、今後の日本に迫っているということなのだ。 それは労働力不足である。 厚生労働省は6月27日、5月の有効求人倍率(季節調整値)が1.09倍になったと発表した。バブル経済の余韻が残っていた1992年6月の1・10倍以来、21年11カ月ぶりの水準だという。有効求人倍率はハローワークで仕事を探す人1人に対して何人分の求人があるかを示す指標で、長年1倍を割り込んでいたが、アベノミクス効果もあり上昇が続いている。都道府県別では、トヨタ自動車の本社などがある愛知県が1.57倍に達している。景気の回復で労働力不足が一気に顕在化してきたのだ。 総務省がまとめた2013年10月時点の推計人口によると、15歳から64歳の、いわゆる「生産年齢人口」が32年ぶりに8000万人を割り込み、7901万人になったという。定住外国人を含む総人口に占める割合は62.1%。一方で65歳以上の高齢者は過去最高の25.1%に達した。急速に進む高齢化によって、労働力のベースになる生産年齢人口自体が大きく減っているのである。この傾向はますます激しくなる。 長期にわたるデフレに対処するために、企業は従業員の数を必要最小限に絞り込んできた。また、正社員よりもコストが低いパートやアルバイトといった非正規雇用の割合をどんどん増やしてきた。ところが、そうした人事政策が裏目に出ている。景気が反転しインフレになった途端、多くの産業、企業に人手不足が一気に広がったのだ。 余剰な人員を抱えていないのだから、一斉に人を採用しようとすれば、人材は払底する。しかも、すでにみたとおり働ける人の数自体が減っている。 真っ先に居酒屋チェーンや牛丼チェーンなど外食産業やコンビニエンスストアなどの深夜営業で、働く人が払底した。もともと「ブラック企業」などと後ろ指をさされるほど、仕事の環境が厳しいこともあり、若者が敬遠しているのだ。大手コンビニの幹部は「都心部など、深夜は時給2000円を出しても人が採れない」とぼやく。深夜営業を取りやめる外食店まで出始めた。 それに加えて、東日本大震災の復興事業に膨大な予算が付いていることもあり、東北地方の建設現場に人材が吸い寄せられている。これも全国的な人手不足に深刻な影響を与えている。 今回の新しい成長戦略では、2020年の東京オリンピックに向けた建設作業員の確保に向けて、建設現場に外国人労働者を入れる特例措置が盛り込まれた。ところがその特例の対象に、最終段階になって「造船」という文字が付け加えられた。オリンピックとどう造船が関係するのか。 最後に「造船」が特例措置になったわけ 実は愛媛県の今治造船が悲鳴を上げたことが、きっかけだった。造船業の作業員の多くは溶接や塗装工で、こうした人材が東北の活況によって、どんどん引き抜かれているのだという。今治造船だけで1000人近い作業員が転職し、その結果、造船の作業効率が1割低下した。 このうえ、建設分野にだけ外国人雇用の特例が認められれば、造船業は外国人労働者すら採用できなくなり、死活問題になる。そう自民党に泣きついたらしい。それほど現場の人手不足は深刻化しているのだ。 安倍首相は移民受け入れについては否定的な発言を繰り返しているが、女性や高齢者の活用、働き方の見直しだけでは労働力不足は賄えないのは明らかだ。特に、かつて「3K(キツイ、汚い、危険)」と呼ばれたような仕事は、日本人の若者はまず就かない。有効求人倍率など統計に出てくる以上に、こうした仕事の人手不足は深刻だ。 これまで外国人労働者の受け入れは「高度人材」に限るというのが建前だった。弁護士や企業幹部などには簡単に入国許可が出るが、誰でもできるような仕事に就こうとする外国人は受け入れない。 誰でもできる労働を受け入れると日本人の雇用を奪いかねないという配慮があったのは明らかだ。ところが、今起きているのは、そうした「誰でもできる労働」を日本人の「誰もがやりたがらなく」なっているわけである。 今回の新成長戦略では、この点にも風穴をあけている。 外国人家政婦を認める方向性 国家戦略特区の中に限って、外国人家政婦を認める方向性が示されているのだ。家政婦を簡単に雇うことができるようになれば、日本人女性がもっと職場で活躍することができる。女性の活躍を促進するための試みとして導入されるのだ。 従来の方針なら、家政婦のような「誰でもできる」仕事に外国人を受け入れることはタブーだった。だが、今の日本では家政婦のようなキツイ仕事は「誰もやりたがらない」仕事になりつつある。安倍内閣は発想を大転換したわけだ。 今後ますます若者の人材が減っていく中で、どうやって労働力を確保していくか。人手不足が日本経済の成長を阻害する最大の要因になることは間違いないだけに、今後も雇用ルールの見直しなどが矢継早に行われていくことになるだろう。 このコラムについて 磯山友幸の「政策ウラ読み」 重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載) |