http://www.asyura2.com/14/hasan88/msg/793.html
Tweet |
6月24日の会見で「日本再興戦略」を安倍首相は自画自賛したのだが・・・
「安倍成長戦略」実現は疑問だらけ。崖っぷちの電力にほっかむりして「株価つり上げ(PLO)」優先するむなしさ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39711
2014年07月01日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
安倍晋三政権は先週(24日)の臨時閣議で、アベノミクスの目玉である「成長戦略」の『「日本再興戦略」改訂2014 ― 未来への挑戦』を閣議決定した。改革のポイントは10項目に整理されており、その中には「コーポレートガバナンスの強化」や「外国人材の活用」のように、大いに期待したいものも含まれている。
しかし、全体を通してみると、安倍首相の自画自賛とは裏腹に、依然として改革を目指す項目の羅列に終始しており、本当に実現できるのか疑問符を付けざるを得ないものが少なくない。
経済運営の喫緊の課題に目を向けると、「この夏も崖っぷち」とされている電力の安定供給問題にほっかむりする一方で、株式市場の「PLO」(価格つり上げ策)に躍起になっているのが実態だ。これでは、実態を覆い隠し、政権の経済運営の成功を演出するための改訂と批判されてもやむを得ないのではないだろうか。
■安倍首相は自画自賛、市場は「失望売り」
24日の臨時閣議後、首相官邸で18時半から開いた記者会見で、安倍首相は、自身の成長戦略をこれ以上の褒め言葉はないと言ってよいほどの調子で、自画自賛した。冒頭で、「本日、その成長戦略を大胆にパワーアップしました」と切り出すと、「安倍内閣の成長戦略にタブーも聖域もありません。あるのはただ一つ、どこまでもやり抜く強い意志であります」と胸を張ったのだ。
そのうえで、具体策にも言及して、「岩盤のように固い規制や制度に果敢にチャレンジしました。多様な働き方を実現する労働制度改革や能力ある外国人材の活用に踏み込みます。60年ぶりに農協の抜本改革を断行します。医療でも患者本位の新しい制度を導入します。国家戦略特区も規制改革のメニューをさらに増やし、速やかに実行に移してまいります」と宣言した。
ところが、政権支持率と並んで、安倍政権がその動向に神経質になっている株式市場の翌日(25日)の反応は、冷ややかなものだった。日経平均株価が、前日比109円63銭安の1万5266円61銭と、3日ぶりの反落になったのである。
加えて、証券取引所の商いそのものも大きく減少、東証1部の売買代金(概算)は、1兆6325億円とほぼ2週間ぶりの低水準にとどまった。
株式相場の世界では、新しい政策や企業業績の好転を期待して、あらかじめ株式を買っておく。実際に好結果が出たら、それ以上の買い材料はないと判断する投資家が多く、結果として、売りものがちになり相場が下げるケースが珍しくない。
こうした株価形成のパターンに「材料出尽くし」の相場という名前が定着しているほどだから、今回の『「日本再興戦略」改訂2014』を受けた相場も、「材料出尽くし」だったと取り繕えないことはないかもしれない。
しかし、安倍政権の成長戦略の発表と言えば、「材料出尽くし」というよりは、「中身が期待外れ」として失望売りを呼ぶのが常だ。
日経平均株価が発表日から2日間で227円下げた「成長戦略の当面の実行方針」(昨年10月1日、日本経済再生本部決定)や、同じく2日間で411円下げた「産業競争力の強化に関する実行計画」(今年1月24日、閣議決定)のケースは、あまりにも記憶に新しい。
そして、今回も肝心の中身を見ていくと、これら2つの前例と同じように失望売りが先行したのは明らかだ。ただ、「期待外れ」なのは「期待通り」なので、それほど失望売りが多くなかったという感はある。
■「労働」で厚労省に風穴を開けていない
安倍首相が自画自賛し、経済から「風穴をあけた」と新聞各紙に多くの称賛のコメントが寄せられた「雇用、農業、医療の岩盤規制」は典型的だ。これら3分野について個別に見ていくと、なぜ胸を張って成果だと主張できるのか、その認識に首を傾げざるを得ない。
まず、労働だが、これは「柔軟で多様な働き方の実現」として、10項目の1つに位置づけられている。その具体策として盛り込まれたものの代表が、@労働時間ではなく、成果に賃金を払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入、A外資系企業を中心に要望が強い「労働紛争(解雇)の金銭解決」――の2つだ。
しかし、ホワイトカラー・エグゼンプションについては、「対象範囲や手続きを見直し、『裁量労働制の新たな枠組み』を構築することとし、労働政策審議会で検討し、結論を得た上で、次期通常国会を目途に必要な法制上の措置を講ずる」としか記されていない。
ここでいう「労働政策審議会」は、厚生労働大臣の諮問機関だが、実態は、これまで改革に反対してきた厚生労働官僚が、その施策にお墨付きを得るために使ってきた“隠れ蓑”である。中身だけでなく、実現の時期も、切られた期限が法案提出期限の目途に過ぎず、いつになったら実現するのかまったく予断を許さない状況になっているのだ。
また、「労働紛争(解雇)の金銭解決」についても、具体策として盛り込まれているのは、「2015年中に幅広く検討を進める」ことだけだ。なんら実現を担保したものではないのである。
■農業、医療の改革も実現のメドなし
こうした形で具体策も実施時期も明示できないまま、単に実現すべきことを列挙したにすぎないという点では、農業分野で規模拡大などの障害とされていた「農協改革」もよく似ている。
言葉として「農協改革」が盛り込まれただけでも前進だという意見もあるが、その書きぶりは「今後、5年間を農協改革集中推進期間と位置付けて自己改革を促すとともに、自己改革が円滑に進むよう次期通常国会に関連法案を提出することを目指す」とあるだけで、具体策や実現のめどは心もとない。
同じ農業分野の企業による農地所有についても「(関連法の)5年後見直しに際して、それまでリース方式で参入した企業の状況等を踏まえつつ検討する」とまったく先行きの展望がない。
医療分野で抵抗が大きく改革の難航が続く「混合診療」の本格的な導入の問題は、さらに実現が疑問視される。「保険外併用療養費制度の大幅な拡充により多様な患者ニーズへの対応と最先端技術・サービスの提供を両立する」と精神的な目標を掲げたにとどまっているからだ。
付属文書で、患者の申し出による新たな保険医療と保険外医療の併用を認める制度=「患者申出療養制度」(仮称)の創設のための関連法案を次期通常国会に提出するとしているものの、適用できる医療機関の範囲などがまったく定かになっておらず、掛け声倒れが懸念されている。
このように中身を検証してみると、『「日本再興戦略」改訂2014』は、単なる改革候補のリストに過ぎず、肝心の実現のめどがまったく立っていないことは明らか。安倍首相が自画自賛しても、株式市場から失望売りが出るのは無理からぬ面がある。
■崖っぷちの電力事情には「ほっかむり」
その一方で、大変に気掛かりなのが、電力の問題だ。『「日本再興戦略」改訂2014』は、問題を地球温暖化や発送電分離など電力システムなどに限定し、今夏、崖っぷちに直面している西日本などの電力事情にまったく言及していないからだ。
実は、電力10社の今春の経済産業省に対する報告で、今年8月が昨年並みの猛暑になった場合、電力の予備率が関西電力で1.8%、九州電力で1.3%と、それぞれ安定供給に最低限必要とされる3%を割り込むことが明らかになっている。
電力業界では、中部電力が火力発電所などをフル稼働して、電気を関西、九州両電力に融通することで、この危機を乗り切りたいとしているが、フル稼働が必要な発電所には事実上の廃棄処分になっていた老朽化設備も多く含まれており、突発的な大規模停電のリスクが囁かれている。
政府は、今回の『「日本再興戦略」改訂2014』で、恒久財源がないばかりか、消費増税に苦しむ庶民が不公平感を募らせかねない問題を顧みず、法人税減税を断行して、内外の企業の誘致を図る構えだ。
しかし、企業はそれほど単純ではなく、税負担の多寡だけで事業所の立地を決めるような真似はしない。エネルギーの安定供給は、立地決定の決め手のひとつだけに、崖っぷちの電力事情の現実を覆い隠して何ら対策を講じようとしない安倍政権の姿勢が内外の企業から不信感をもたれるリスクは大きい。
■GPIF改革は最悪
最後に、以前にも本コラム(『「年金破たん危機」を隠ぺいするGPIF改革の虚妄』)で警鐘を鳴らしたが、『「日本再興戦略」改訂2014』でも安倍政権」が方針を改めず、株式市場でGPIFを使ったPLOに突き進んでいると囃し立てられている現状は、最悪だ。
過去の積み立て不足を是正して国民の信頼を取り戻し、納付拒否の再燃を未然に防ぐ必要があるにもかかわらず、リスクの高い株式などへの資金シフトで事態を改善しようとするのは、所得で生活費を賄えない人が賭博で補おうとするようなもの。
しかも、政権主導の年金運用における株式への資金シフトによって、株高と経済運営の成功の演出を狙っていると国民にみなされれば、『「日本再興戦略」改訂2014』だけでなく、政府と年金制度そのものが国民の不信の対象になりかねない。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。