http://www.asyura2.com/14/hasan88/msg/667.html
Tweet |
世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第81回 ECBのマイナス金利政策
http://wjn.jp/article/detail/0631611/
週刊実話 2014年7月3日 特大号
欧州中央銀行(ECB)が、ユーロ域内の銀行が自行(ECB)に余剰資金を預ける際の金利を「マイナス」にするという、いわゆるマイナス金利政策の実施を決断した。
ECBの「金融的実験」は、日本の今後を考える際にも極めて参考になりうるので、本連載でも取り上げておきたい。
ドイツ人ビジネスジャーナリストであるウォルフガング・ムンチャウ氏が、英紙フィナンシャルタイムズにおいて、イタリア経済について論評し、
「レンツィ首相がいくら成果を上げようとも、ユーロ圏のインフレ率が直近の平均値2%から1%まで低下すれば、イタリアは債務不履行(デフォルト)の道をたどることになるだろう。同国では、日本のような債務水準と経済成長率、インフレ率の組み合わせや、ユーロ圏周縁国のような金利水準に耐える余裕はない('14年4月7日 [FT]緊縮策に抵抗する仏伊新首相の険しい道)」
と、書いていた。
現在のイタリアの失業率は、直近で12.6%と、極めて高水準である。ギリシャやスペインと比べると「良く」見えてしまうが、12.6%の失業率とは、過去の日本人が一度も経験したことがないレベルの雇用環境の悪化になる。
もっとも、イタリアの長期金利は2.76%と、一年前(4.6%)と比べてむしろ「低下」している。すなわち、国債が買い込まれているのだ。
さらに、消費者物価レベルのインフレ率は4月が0.5%、3月が0.3%、2月が0.4%と、超低迷状態にある。
長期金利の低下と、インフレ率の低迷。要するに、現在のイタリアはデフレ化しつつあるのだ。
また、「ユーロ圏の直近のインフレ率」は、すでに2%どころか、1%を切っている。少なくとも、昨年10月以降のユーロ圏のインフレ率は、毎月1%を下回っているのだ(4月は0.7%)。
ムンチャウ氏の主張は、恐らく下記の主旨だと思う。
「インフレ率が低迷し、名目GDPが伸びなくなると、イタリア政府の税収が減り、財政赤字が拡大し、政府の負債対GDP比率が悪化し、国債金利が急騰してデフォルトする」
イタリアはユーロ加盟国であるため、日銀やFRB、イングランド銀行のように「中央銀行の国債買入」で金利を引き下げることは不可能だ。少なくとも、イタリア政府の勝手にはできない。
ムンチャウ氏の主張のポイントは、例により「国債金利が急騰して」の部分になる。
国債金利が上昇するためには、金融市場に「お金の借り手」が十分に存在しなければならない。民間企業や家計の資金需要が乏しく、反対側で国民が預金ばかりを増やすとなると、日本同様に銀行の貸出先が「国債」に偏り、国債金利は上昇しない。
と言うより、現状のイタリアの国債金利の劇的な低下(何しろ、一年間で半分近く落ちた)は、民間の資金需要が国内に十分には存在しない、ということを示唆しているのではないか。
結局のところ、ムンチャウ氏にしても「セイの法則(供給はそれ自身の需要を創造する、という古典派経済学の仮設)」や「民間には常に十分な資金需要がある」ことを前提にしており、現在の環境に対応できていないように思う。
イタリアのみならず、現在はユーロ加盟国の多くはインフレ率が低迷している。結果、ユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)は定例理事会において、ユーロ高とデフレ化を阻止するために、ついにマイナス金利導入を決定したのである。
ECBは現在、ユーロ域内の企業向け融資を増やすことを公約した銀行に対し、最長4年満期の低利資金を供給している。とはいえ、不良債権化を恐れるユーロ域内の銀行が、ECBが供給したお金を、再び「ECBの当座預金」に預けてしまうと、物価には何の影響も与えない。
日本も同様だが、ユーロ圏もまた、中央銀行が金融政策を拡大しても、銀行から民間にお金が貸し出されず、物価が低迷するという問題を抱えているのだ。
というわけで、ECBは域内の銀行が「ECBの当座預金」に余剰資金を預けた場合、金利を「徴収する」決断を下した。お金を預けた方が、金利を支払わなければならないという話で、まさにマイナス金利政策である。
今後、ユーロ域内の銀行は、資金をECBで眠らせておくと、金利を「支払う」ことになるため、民間への貸し出しは伸びる“はず”だ。
怖いのは、ここまでやってもユーロ域内で銀行から民間への貸し出しが増えないケースである。
銀行側に融資の意思があったとしても、果たして借り手(企業、家計)側に資金需要が存在するのか。民間に資金需要がない場合、銀行は余剰資金で国債を購入し、各国の国債金利は更に低下するだろう(まさに「日本化」だ)。
さらに、銀行から民間にお金が貸し出されたとしても、それが果たして「所得」を生み出すよう使われるのか、という問題もある。
民間が借り入れたお金でモノやサービスを購入せず、株式や土地への「投機」に回してしまうと、物価には直接的には影響を与えない。モノやサービスが買われない以上、国民の所得もほとんど創出されない。所得とは、国民が働き、生産したモノ、サービスに誰かが支出をしない限り生まれないのだ。
ECBのマイナス金利政策は、
「銀行に強制的にお金を貸し出させれば、融資を受けた民間がモノやサービスの購入に回し、国民経済が成長する(=所得が増える)“はず”」
という前提に基づいているのである。
リーマンショック以降の世界(日本は橋本龍太郎政権以降)において、「民間に資金需要がある」前提の政策が巧くいったケースは、筆者が記憶する限り存在しない。
現在の欧州が日本と全く同じ問題(お金が銀行から貸し出されない)を抱えている以上、今回のECBの「マイナス金利」効果については、大いに注目する必要があると思うのだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。