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6月24日、安倍晋三政権が来年度からの法人実効税率引き下げを正式決定する。都内で昨年4月撮影(2014年 ロイター/Toru Hanai)
焦点:法人税下げ見切り発車、試される官邸の財政再建本気度
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0EZ09E20140624
2014年 06月 24日 12:52 JST
[東京 24日 ロイター] - 安倍晋三政権が来年度からの法人実効税率引き下げを正式決定する。市場は実現に向けた政権の強い意志を評価するが、下げ幅や代替財源など具体策は年末の制度改正に先送りされ、見切り発車のツケは、下げ幅をめぐる政府内の対立として早くも表面化している。
安定財源確保に向け、歳出の切り込みも争点になりそうで、2020年度の基礎的財政収支(PB)黒字化を約束している安倍官邸の財政再建への本気度が試されている。
<市場の期待つなぎ留めには成功、米格付け機関も評価>
政府は24日の臨時閣議で、法人実効税率の引き下げを来年度から開始する方針を明記した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を決定する。
開始時期が明記されたことで、市場では「過去、方向性を示すにとどまる傾向が強かったことと比較すると、政府・与党が具体化を相当意識していることを強く感じる。規制緩和と税制面で、企業活動の刺激に具体性を持った内容になったと高く評価している」(RBS証券)との声が出るなど、期待をつなぐことには成功した。
森信茂樹・中央大学法科大学院教授は「議論が煮詰まっていない段階で、ここまで決めたことは、これまでにない意志決定だ。画期的なこと」と評価する。
米格付け機関のムーディーズも今月19日、法人税率引き下げは「政府の信用力にとってポジティブ」と評価するコメントを発表。安倍首相が20年度のPB黒字化達成へのコミットを再確認したことを挙げ、「政府が財政規律の枠内で、税制改革を実施していくことを示唆している」と位置づけた。
ただ、この点に狂いが生じれば、日本の財政への信認が揺らぎかねない危うさへの警告と受け取ることもできる。
<呉越同舟>
実際、法人税改革をめぐって、積極論の首相官邸と、慎重論の自民党税調・財務省との議論で一致できたのは「来年度からの実施」と、数年で実現させる「段階的な引き下げ」まで。財政規律に腐心した形跡は見られるが、財源論は立場によって解釈が可能な「玉虫色の決着、呉越同舟」(森信氏)だった。
甘利明経済再生相は、法人税改革の目的について、日本の立地競争力強化とともに、「法人実効税率を国際的にそん色のない水準に引き下げることを目指し、成長志向に重点を置いた法人税改革に着手する」との表記を譲らず、粘り勝ちで押し込んだ。財界筋は「これでかなり減税志向に傾いた表現になった。なければ大きく落胆する結果になった」と安どする。
他方、隔たりが大きい代替財源では「アベノミクスの効果により日本経済が構造的に改善することを含め」との文言で、税収の上振れ活用余地を残した。一方、「2020年度のPB黒字化目標との整合性を確保する」との文言を挟むことで、税収上振れの活用にも一定の歯止めがかかる表現になった。
さらに「課税ベースの拡大による恒久財源の確保」と明記し、財務省や与党税調がこだわった「恒久減税には恒久財源確保」の方針も明記した。
恒久財源確保と税収上振れの活用の両論に含みを残したが、慎重論者は、恒久財源確保に「二重三重の旗」が立っていると指摘する。
財源が固まらないなか、首相の政治決断の形で「数年で20%台」と踏み込んだものの、下げ幅は「29%台か25%も視野に入るのか」、期間は「3年なのか5年なのか」など不透明なままだ。
複数の関係者は、当面は29%台まで5、6%の下げが念頭にあることを明かすが、積極論者は「国際的にそん色のない水準の最終ゴールが、20%台後半か20%台半ばかは明確にしていない」と慎重派をけん制。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均であり、日本企業の競争相手となる中国や韓国の税率とも並ぶ25%程度への下げ余地を残した内容との声も出ている。
<下げ幅めぐり、政府内の対立表面化>
下げ幅をめぐっては、引き下げの基点となる現在の税率を全国平均(34.62%)にするか、東京都(35.64%)にするかで麻生太郎財務相と甘利経済再生相が認識の違いを見せ、見切り発車のツケが早くも露呈している。
麻生財務相は「全国平均の34.62%から20%台に下げることが目標だ」と述べ、下げ幅は5%を軸としているとの認識を示す。甘利経済再生相は東京都の35.64%から6%近く下げなければならないと主張している。
<経済効果は限定的との声も>
経済効果については「10%の減税で国内総生産(GDP)を35.3兆円押し上げる」(経団連試算)との楽観的な見通しから、限定的との見方までまちまち。
法人減税だけで国内への投資や雇用増につながるかどうか疑問視する声が多く、SMBC日興証券・シニアエコノミストの渡辺浩志氏は「法人税減税は上場企業を中心に、業績改善要因になり、株価にポジティブな影響が出るだろう」とする一方、「安倍政権としては減税が対内直接投資を促進し、設備投資増加につながることを期待しているのだろうが、効果が表れるには時間を要する。実体経済へのインパクトは法人税減税だけでは限定的」とみる。法人実効税率を10%下げた場合の実質GDP押し上げ効果は「0.2%程度」と見通した。
<具体化は「秋」以降か、「数合わせ」では構造改革不十分>
今後、主戦場は、具体的な制度設計を担う自民党税調に移る。関係者によると、議論再開は秋となる見通し。税収減を穴埋めする財源をどう確保するかが最大の焦点だ。
法人実効税率1%引き下げによる減収は4700億円程度。6%で約3兆円程度の代替財源確保が必要となる計算だ。
代替財源の候補としては、減価償却制度の見直しや特定業界に恩恵がある政策減税(租税特別措置)の縮小、繰越欠損金制度の見直し、赤字企業にも応益負担を求める法人事業税(地方税)の外形標準課税拡充などが挙がる。
なかでも外形標準課税の拡充は、税収を減らさずに税率を下げる秘策の1つで、最有力候補とみられる。対象は資本金1億円超の企業で、その負担増が検討される見通しだ。政府税調幹部など専門家は、いずれは適用対象を資本金1億円以下の中小企業にも広げ、産業構造の新陳代謝を促す改革につなげていくべきと指摘するが、来年4月に統一地方選を控え、来年度税制改正では踏み込めないとの見方が大勢だ。
森信氏も「将来の産業構造を見据えて、改革のマインドを持ち込まないと、単に『数合わせ』に終わってしまう。構造改革もできず単に税率を下げただけに終わってしまう」と警告。租税特別措置のあり方について「研究開発も設備投資減税も必要なことはわかっているが、過剰ではないか。租特はゼロベースで見直し、期限が来たものは全部やめるべきだ。実態は延長が繰り返され、事実上の恒久減税化している。それをやめることで、減税があるからやるという投資はなくなる」と本格的な構造改革を訴えた。
<安定財源確保には、歳出削減が不可欠>
一方、自民党税制調査会は、「骨太の方針」に先駆けて取りまとめた法人税改革の考え方で、税収上振れ活用を封じた文言を削除し、活用の余地を残した。首相の強い意向を受けて早々に軌道修正した格好だが、代替財源では「恒久的な財源、制度的に担保された安定財源を確保する必要」とし、税体系の見直しに加え、社会保障関係費など制度改革による歳出の切り込みに踏み込んだ。
政府も骨太の方針で、2020年度PB黒字化に向け「具体的な道筋を早期に明らかにできるよう検討」と明記し、15年度以降の歳出・歳入改革の具体化にかじを切る方向性を示した。もっとも、「収支改善が可能なときにはできる限りの改善を図る」では、実行力は心もとない。
年末には、15年10月に予定される消費税率10%への引き上げの最終判断、来年度からの法人税引き下げ具体化を盛り込んだ来年度税制改正大綱、消費税率10%時に導入することを決めている軽減税率の適用範囲と財源問題など、重い決断が相次ぐ。
野党転落時の自民党が「ばらまき」と批判し続けた民主党政権でも、減税措置にはペイ・アズ・ユー・ゴー原則を貫いた。代替財源が不確かであれば野党の批判を浴びかねない。
政治主導で決めた法人実効税率の引き下げに、文字通り「経済成長と財政再建の両立」を果たすことができるか、首相官邸の本気度が試される。
(吉川裕子 編集:石田仁志)
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