http://www.asyura2.com/14/hasan88/msg/621.html
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地域独占や総括原価方式に嫌悪感を抱き、自由化や発送電分離を称揚する人もいるようだが、こと電力の供給に関してそのような評価は、メディアの宣伝や言葉のイメージに囚われた錯覚に基づくものでしかない。
総括原価方式は、電力会社に人件費に余裕や利益を過大に与える運用に問題があるのであって、総括原価方式そのものに問題があるわけではない。総括原価方式を厳しく運用すれば、“目標原価”を達成するよう誘導することさえできる。
電力自由化で先行する欧米諸国で生じたメリットは、新規参入事業者で投資活動が増加したこと、電力卸売市場が活性化したこと、電力供給会社の利益が増加したことなどであって、一般家庭向けの電力料金が“自由な競争”で安くなるということはなかった。電力コストには石油やガスの価格が大きく影響するが、石油やガスの価格(発電コスト)が下がっても、電力小売価格が下がらない状況が生まれている。(これまでの日本は、石油やガスの輸入価格変動で電力やガスの小売価格も変動する)
ドイツは、送電費用が分離されたことで、電力消費量が大きい企業向けに送電費用を免除することで価格を引き下げる政策をとり、そのツケを一般家庭に回している。(この政策はEUで不正競争として問題視されている)
転載する記事のなかにも、「自由化市場での「規制なき独占」。購買力のある大手が規模のメリットを頼みに新電力を駆逐すればガリバー型の市場支配に陥りかねない。」((4)迫る小売り全面自由化 独占回避が不可欠 )と書かれているが、発電所の建設や送電線の敷設が膨大な時間と資金を要するインフラ事業ということを考えれば、電力供給の95%を占めている旧電力の“強み”は計り知れないものがある。
電力など基礎的インフラは、誰もがミニマムコストで享受できるほうが、自由闊達な事業活動や経済成長により資するのである。
※ 参考データ
「諸外国における電気料金の実態調査」(三菱総合研究所:平成23年度電源立地推進調整等事業)
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2012fy/E002274.pdf
「米国の過去40年間の電気代推移」
http://d.hatena.ne.jp/YukioSakaguchi/20121231/1357015170
※ 参照投稿
「電力・ガスが自由化されている英国は、ガス卸売価格が38%下落してもガス・電力の小売価格は下がるどころか上昇で大騒動」
http://www.asyura2.com/14/senkyo166/msg/668.html
「“旧電力”9社で発電総量の96.5%シェア:その自由化が電力会社に対する“勝手気まま優遇政策”になると理解されぬ日本」
http://www.asyura2.com/12/senkyo141/msg/816.html
「「電力自由化」と電力供給活動の特殊性:「電力自由化」は電力会社の勝手気ままな利益追求を許しかねない政策」
http://www.asyura2.com/12/senkyo142/msg/113.html
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電力システム改革の課題
(1)来年から実施段階に 法整備の遅れ 懸念
欧米に遅れること約20年。日本の抜本的な電力システム改革が来年ようやく実施段階に入る。
東日本大震災と福島原発事故で既存の発送電一貫体制は脆(もろ)さや非効率を露呈した。このため経済産業省は2012年2月、総合資源エネルギー調査会総合部会に電力システム改革専門委員会(委員長=伊藤元重・東大教授)を設置。
専門委は(1)電力需給を広域で調整する広域系統運用機関設立(15年)(2)電力小売りの全面自由化(16年)(3)法的分離(分社化)による発送電分離(18〜20年)――と3段階で改革を進める内容の報告書を提出した。
これをもとに政府は昨年4月、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定。通常国会に改革の第1段階となる広域運用機関設立や付則に改革スケジュールを盛り込んだ電気事業法改正案を提出したが、国会の混乱で一度廃案になった。
自民党が参院選で大勝した後、昨年秋の臨時国会に法案は再提出された。その際、改革により電力会社の著しい経営悪化が見込まれる時には競争条件を緩和するという業界に配慮した施策などを追加。改正電気事業法は昨年11月に成立した。
改革の第2段階となる電力小売りの全面自由化を実現する電事法改正案は今月11日、成立した。改革は着々と進んでいるようにもみえるが、専門委メンバーだった高橋洋・富士通総研主任研究員は「自由化が進む市場を監視する規制組織は、広域運用機関と同時に発足するはずなのに、全容がまだ明らかになっていない」と法整備の遅れを懸念する。
(編集委員 安西巧)
[日経新聞6月16日朝刊P.18]
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(2)規制緩和、欧米が先行 送電網 中立性カギ
欧米で電力システム改革が本格化したのは1990年代。サッチャリズムやレーガノミクスに代表される「新自由主義」の流れから規制緩和による市場機能重視の経済政策が採用され、電力事業が国有・地域独占から民営・自由化にシフトする例が相次いだ。
流れを加速させたのが93年の欧州連合(EU)発足。加盟国の電力市場統合のためEU電力指令が96年に制定され、発電や小売りの自由化に加え、電力会社に発電・送電・配電の会計分離や独立した送電系統運用者(TSO)設置を義務づけた。
EU電力指令は2003年に改定され、TSOの電力会社からの法的分離(別会社化)を促した。09年の再改定では機能分離(中立組織によるシステム運用)や所有分離(資本関係の切り離し)によりTSOにさらなる独立性や中立性を求めた。
州単位で電力システムが異なる米国では、90年代初めに電力コスト引き下げのための発電の自由化が広がった。96年に連邦エネルギー規制委員会は発送電一貫会社に、新規発電事業者にも送電線の利用を同じ条件で開放することを義務づけた。その後は電力会社から独立して送電系統を運用する独立系統運用機関(ISO)の設置を促した。
発送電一貫の電力会社から送電網を分離・開放することを欧米では「アンバンドリング」と呼び、電力改革のキーワードになっている。送電網の中立性や独立運用を重視するのは「利用者に公平に公開することが競争の促進に不可欠」(八田達夫著「電力システム改革をどう進めるか」)だからだ。
(編集委員 安西巧)
[日経新聞6月17日朝刊P.27]
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(3)カギ握る「広域機関」 地域間連系 強化を
電力システム改革プログラムの第1段階として「広域的運営推進機関」が来年4月に業務を開始する。これまで一般電気事業者(電力10社)の営業エリアごとに分断されていた電力系統(送電網)を全国一体化して運用する組織だ。
今年1月の準備組合設立総会には、東京電力など一般電気事業者やエネット(東京・港)など新電力、東京ガス、パナソニック、丸紅など計48社が組合員として参加した。
「広域機関」は電力会社の枠を超えた国内全体の電力供給計画をとりまとめるほか、系統運用や需給調整、系統情報の収集・公開、苦情処理など幅広い役割を担う。
実は2003年からの第3次電力自由化で欧米に倣った「発送電分離」が議論された際、業界の反発で「分離」が見送られ、代わりに送電網利用の公平性確保と監視を目的に電力系統利用協議会(ESCJ)が設立された経緯がある。だが、電力大手幹部が理事に名を連ねるこの組織は既得権益に切り込まず有名無実化。ESCJは「広域機関」に機能を引き継ぎ今年度末で廃止される。
失敗を繰り返さないため「広域機関」は、自由化された電力市場全体が円滑に機能するように目を光らせる必要がある。中でも地域独占に安住する電力大手が抵抗してきた、北海道―本州や50ヘルツ地域(東)―60ヘルツ地域(西)などの地域間連系の強化を実現できるか注目される。
大島堅一・立命館大学教授は「地域独占で『部分最適』を求めてきた電力市場を『全体最適』に転換するには強力な規制機関が必要」と指摘する。
(編集委員 安西巧)
[日経新聞6月18日朝刊P.29]
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(4)迫る小売り全面自由化 独占回避が不可欠
家庭向けなど小口契約(50キロワット未満)を含む電力販売の全面自由化は2016年。経済産業省の試算によると、販売電力量の約4割を占める7兆5千億円の市場が開放される。内訳は東京電力管内が2兆7千億円、関西電力管内が1兆2千億円、中部電力管内が9600億円などとなっている。
巨大な自由化市場をにらみ電力小売りへの新規参入が続く。トヨタ自動車や王子製紙、NEC、大和ハウス工業、ソフトバンク、オリックスなどが本体や関連会社で新電力(特定規模電気事業者)に登録。昨年3月末に79社だった新電力は6月9日現在、3倍強の244社に急増している。
既存の電力大手も中部電力や関西電力、中国電力が相次ぎ首都圏へ進出する動きをみせている。迎え撃つ東京電力も全国の電力小売り参入を表明するなど、地域独占の殻を破った攻防が早くも熱を帯びている。
大手と新電力が入り乱れてのシェア争いになると、懸念されるのが自由化市場での「規制なき独占」。購買力のある大手が規模のメリットを頼みに新電力を駆逐すればガリバー型の市場支配に陥りかねない。「競争が機能せず、料金査定の歯止めもなくなれば、自由化が一般消費者の災厄となりかねない」(松村敏弘・東大教授)
このため今国会で成立した改正電気事業法には、一般消費者保護のため一定期間料金規制を継続するほか、東北電力並みの発電力を持つJパワーの卸売り規制(電力大手への供給義務)を撤廃し、新電力にも電気を売りやすくするなどの対策が盛り込まれた。
(編集委員 安西巧)
[日経新聞6月19日朝刊P.28]
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(5)発送電の分離で完了 早期実施へ圧力も
改革の最終段階である「発送電分離」は2018〜20年の予定。電力会社を機能別に発電会社、送配電会社、小売会社の3社に分社化(法的分離)し、それぞれ独立した経営体制を確立して発電や小売りの分野で新電力との競争を促す。
「発送電分離は手段であり目的ではない」と欧米の電力事情に詳しいスプリント・キャピタル・ジャパンの山田光代表は強調する。「分離」後の市場を機能させるには、送電網運用者が中立公平でありオープンアクセス(開放)を保証することが前提になる。
例えば、送配電会社と発電会社は法的分離では同じ系列にとどまるため、仮に情報を共有すれば送配電会社が特定の発電所に有利な取引を持ちかけることもできる。市場が信頼を維持するには厳格な情報管理規制や罰則規定に加え、透明性確保のために発電会社を細かく発電所単位に分社化することも必要になる。
「発送電分離と小売りの全面自由化は実施の順序が逆」(奥村裕一・東大客員教授)であり、送電網の中立性確保のために電力大手の分社を優先すべきだという議論もある。
電力業界は分社化の手続きやシステム構築に時間を要するとの理由から「分離」の時期を先送りにしてきた。しかし、ここにきて東京電力に続いて関西電力でも、16年をメドに社内分社を実施する計画が浮上している。
電力システム改革はアベノミクスの成長戦略の一つにも位置づけられており、「分離」の実施繰り上げを求める圧力は一段と強まりそうだ。
(編集委員 安西巧)
=この項おわり
[日経新聞6月20日朝刊P.31]
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