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国の経済全体の状況をできるだけ実感に合ったかたちで表現しようとするマクロ経済学
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140621-00010001-jindepth-bus_all
Japan In-Depth 6月21日(土)1時5分配信
マクロ経済学では、一般にある国の経済全体の状況をできるだけ実感に合ったかたちで表現しようとする。とはいえ、現実の経済活動は複雑かつ多様なので、それをそのまま表現することはとうてい不可能だ。そもそも、単純化によってとくに重要な関係性を浮き上がらせようとするのがマクロ経済研究の目的のひとつでもある。
そう考えると、マクロ経済において、いったい何を知りたいのかということがまず重要になる。思い付くままに並べてみる。経済規模(GDP)、成長率、物価水準、物価変動率(インフレ/デフレ率)、金利、為替レートなどなど。そのほかにも、失業率、株価、対外収支等々、重要なマクロ指標はたくさんある。
そうしたマクロ経済変数の相互の連関を関数形式で表現するのがマクロ経済モデルだが、当然、採り上げる変数が多くなればなるほど、そのモデルは複雑化する。何本の方程式が最低限必要になるかは、連立方程式のことを思い浮かべればよい。たとえば、解くべき変数が3つなら、3本の方程式が必要だ。
連立方程式を解いた経験は誰しもあるだろう。変数がx、y、zくらいまでは、まあまあ解けるが、それが4つ、5つと増えていくと、簡単な連立方程式でも解くのにとても手間が掛かる。
マクロ経済モデルも同じで、関心のある変数を絞れば絞るほどモデルは解き易くなる。そこで、例えば失業率は成長率が分かればほぼ分かるとか、対外収支は成長率と為替レートが分かれば大丈夫と言った割り切りをして、変数を絞り込んでいくことが多い。
今日のマクロ経済学の教科書で、最も標準的なモデルのひとつは、実質経済成長率、物価変動率、金利、為替レートの4つの変数を採り上げるものだ。したがって4本の方程式が必要になる。その4本をどう設定するかがエコノミストの腕の見せ所になるが、多いのは、
(1)全体としてみれば生産・支出・分配の3つの側面から計測した経済活動の規模が一致するという性質
(2)物価変動率と需給ギャップの関係
(3)金利決定
(4)為替レート決定
の4つを表現する方程式で構成されたモデルだ。
マクロ経済モデルとしては、『一般理論』で有名なケインズの念頭にあった経済構造をヒックスが定式化した「IS-LMモデル」が有名だ。
その最も単純なものは、上述の1と3だけから構成され、説明できる変数は経済規模と金利の2つだけだ。したがって、そのモデルからは物価とか為替レートがどうなるかについては何も言えない。
一方、インフレ/デフレは貨幣的現象だとの主張がなされる時、物価水準を説明する「交換方程式」が良く引き合いに出される。もし、その1本の方程式だけで議論するのであれば、経済成長率など物価水準以外の重要なマクロ経済変数がどうなるかはまったく分からない。つまり、デフレから脱却すれば経済状況は好転するといった主張は、その1本の方程式だけからは出てこないのである。
直観的には、ここで例示したような代表的マクロ経済変数は、通常は相互に密接に連関する。だとすれば、常に関心ある変数をすべて含んだ連立方程式の枠組みで考えないと、マクロで経済全体を考えたことにはならない。
マクロ経済の部分にだけ着目した論理展開は、方程式が少なくなり、解き易くなる分、明快になる。
しかし、それでは全体をみたことにはならない。都合の良い一部だけの摘み食いでは、マクロ経済学的には論理的な議論とはいえないのである。
神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)
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