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消費者庁、閣議決定を無視して「第2トクホ」新設へ 既得権者に配慮した規制改革潰し
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140619-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 6月19日(木)3時0分配信
規制改革は安倍政権の重要な経済政策のひとつだが、一部の分野では、昨年提示された規制改革の方向性が大きく後退している。例えば健康食品やサプリメントの機能性表示に関する規制改革において、その傾向が顕著にみられる。いったんは掲げられた規制改革が、現在に至って潰されそうになるまでの流れをみてみよう。
日本ではこれまで「血圧が気になる方へ」といったような機能性表示は、国から認可を受けた特定保健用食品(トクホ)や栄養機能性食品にのみ許されてきたが、昨年6月14日、政府は健康食品やサプリの表示規制の緩和を実施することを閣議決定した。
安倍政権がこの規制を緩和させていく狙いには、医療費の削減があるが、実は先進国でサプリや健康食品の定義が法的に明確になっていないのは日本だけである。ドイツでは「アポテイク」と呼ばれる薬局があり、そこでは医師が薬を飲むほどの症状ではないと判断すると、ハーブなどの健康食品を処方することもある。TPP(環太平洋経済連携協定)によって、健康食品やサプリの国際的な流通が増えることも想定されるため、機能性表示について各国間で整合性を取る動きも起きている。例えば、ASEAN(東南アジア諸国連合)は、米国のダイエタリーサプリメント制度を参考にしようとしている。日本もグローバルスタンダードに対応しなければ、世界で後れを取ってしまう可能性がある。
こうした流れを受けて、機能性表示を担当している消費者庁は昨年12月、「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」を設置。学者や業界、消費者保護団体の関係者らによって新制度の在り方が模索され、世界水準の新しい制度が生まれるかにみえた。ところが同庁は、首相の肝いりプロジェクトだけに官邸向けには見せかけの規制緩和を実施し、実態は改悪に近い制度の設置を画策し始めている。
●厚労省の天下り先に「トクホ利権」
その概要は健康食品やサプリメントを対象とする「第2トクホ」の新設ともいえるもので、規制緩和どころか、むしろ規制が強化される内容だ。例えば、トクホの開発では人体試験が行われ、開発側にとって都合の良いデータのみを利用できるが、今回の新制度では、医薬品と同様の事前登録制の臨床試験を求め、トクホよりも厳しいチェックをしようとしている。一見、消費者保護のためという大義名分は立つが、消費者庁はトクホを擁護していると見ることができる。
1991年に始まったトクホは不評で、市場規模も伸び悩んでいる。開発の初期投資に数億円、開発期間は平均で4年を要するため、大企業にしか開発できず、その割に新規性の乏しい植物繊維を混ぜただけの飲料などしか新製品が出てきていないとの批判も多い。また、トクホ関連のビジネスの一部は、厚生労働省の幹部の天下り先である公益財団法人「日本健康・食品栄養協会」の利権になっているとも指摘されている。
今回の規制緩和を担当している消費者庁の幹部も担当者も、厚生労働省からの出向組である。「厚労省の顔色を見て仕事をしている。薬事法があるので規制改革できないようなことを言っており、背後から厚労省の指示を受けているのではないか」(業界関係者)との指摘もある。一方で「厚労省側は我関知せずの姿勢を貫いている」(同)という。
さらに、消費者庁は新制度では健康食品やサプリについて、何が身体に良いのか「関与成分」を示すようにも求めている。この「関与成分」とは、薬の有効成分と同じ考えであり、薬並みの基準を求めているのである。これも考えようによっては消費者保護の大義名分が立つ。しかし、漢方薬の中には「関与成分」が明らかになっていないものもあり、「伝統」がエビデンスとなっている。「塩分を多く摂る地域は高血圧やがんなどの成人病にかかりやすい」といった伝統的食生活などを分析してデータを取る疫学的研究でも、関与成分が明らかになっていないケースは多い。
結局、優良なサプリや健康食品が普及するとトクホ市場が侵され、自助努力によって健康な人が増えると製薬市場にも影響する。ひいては厚労省、トクホ業界、製薬業界、医師会といった既得権益者の利権が崩れることにもつながりかねないのである。実際にトクホ市場は商品のバラエティーさに欠けることなどから07年度の6798億円をピークに市場は伸び悩み、13年度は6275億円だった。これに対して、サプリや健康食品はトクホの2倍以上の1兆4000億円にまで拡大。メーカーが自助努力でさまざまな商品を開発し、それを消費者が受け入れているからだ。既得権益者にすれば、規制緩和で新制度が発足すれば、トクホがさらに水をあけられると考えても不思議ではない。
日本では健康食品やサプリを愛用している人は多いとはいえ、いかがわしい業者が存在することも事実である。また、一流メーカーである花王が開発・発売した食用油として初のトクホ「エコナ」でさえも、発がん性物質が入っていたことが発覚し、トクホの信用を傷つけた。また、関西テレビの番組『発掘!あるある大事典』では、ねつ造されたデータで納豆にダイエット効果があることを示した問題も起こった。
こうした過去の事例から、健康食品やサプリは本当に身体に良いのか、逆に身体に害をもたらす物質が入っていないかと、消費者が疑念を抱くのも当然といえよう。その一方で、科学や技術は進化し、植物が過酷な環境下でも生きながらえるための物質「フィトケミカル」を利用したサプリなども誕生している。製造や安全管理の技術も進化している。また、埼玉県坂戸市では行政が「葉酸」を摂取する食事指導を行った結果、医療介護費を06年度と07年度で計22億円削減した実例もあり、科学的根拠のある機能性食品の摂取は一定の効果があることも示されている。規制緩和をして新しい製品を世に送り出しやすくすることが、真に消費者のためといえるのではないか。
●規制緩和と消費者保護のシステムの両立
消費者庁による規制改革潰しも問題ではあるが、業界は規制改革を求めると同時に、消費者被害が起こらないための制度づくりや商品の安全性が担保される認証システムの整備、悪徳業者が出た際の対応なども準備しておくべきではないか。また、サプリや健康食品は長い視点で見て健康を維持増進させるものであるのに対して、薬は症状を緩和させるためのものであるといった、サプリ・健康食品と薬の違いを消費者に教育していくことも求められる。規制緩和に伴う企業の自己責任の明確化も重要であろう。
米国では規制緩和によって企業の自主責任を謳いながらも、サプリや健康食品の新規原料の採用については発売75日前までに食品医薬品局(FDA)に届ける義務があるが、日本ではそのような制度はまだない。また、米国では第三者認証である「GMP(グッド・マニファクチャリング・プラクティス)」認証工場での製造義務も課せられているが、日本では同様の義務はない。さらに、米国では監督官庁のガイドラインは815ページにも及ぶが、日本はわずか5ページだ。
米国ではサプリや健康食品の市販後、重篤な副作用があった場合には報告を義務付け、違反すると厳しい罰則もあり、業界としてもFDAへの取り締まりに積極的に協力している。業界団体がサプリの正しい情報が得られるスマートフォン用アプリなども開発している。日本もこうした点も見習うべきである。
規制緩和と同時にこうした消費者保護のシステムも確立していけば、結局は優良製品を提供する企業しか生き残れなくなるはずであり、それこそが真の消費者保護につながる。今こそ規制緩和による市場の力を通じて、財政問題や健康問題を一石二鳥で解決していく発想が、国や企業、消費者に求められているのではないか。
井上久男/ジャーナリスト
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