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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第80回 品確法と業法の改正
http://wjn.jp/article/detail/8735516/
週刊実話 2014年6月26日 特大号
筆者が政府の移民政策や「外国人労働者受け入れ拡大政策」に反対しているのは、別に外国人について何か含むところがあるためではない。
業種により、
「日本国民が供給能力を維持し続けなければ、日本国の安全保障が損なわれる」
分野があるためだ。代表的な「業種」は、もちろん土木・建設分野である。
我が国は世界屈指の自然災害大国だ。日本列島の国土面積は世界のわずか0.25%に過ぎないが、マグニチュード6以上の大地震の20%は日本で起きる。
さらに国土が弓形で、台風の通り道に位置しており、川の上流から河口までの距離が極めて短く、急流で、雨季(梅雨)もあり、水害や土砂災害が多発する国なのだ。その上、豪雪があり、竜巻もあり、火山が噴火し、高潮も来る。我が国は、自然災害のデパートである。
自然災害が発生した際に、真っ先に助けてくれるのは各地の土建業者になる。東日本大震災のときも、地元の土建業者が真っ先に現場に入った。
そんな我が国が、土木・建設の供給能力を「外国人に依存する」などとやっても構わないのだろうか。
外国人で人手不足を埋め続けた結果、いずれ、日本国民が、
「土木・建設業は外国人がやるもの」
というような認識を持つに至ってしまったとき、経済政策云々とは無関係に、今の「日本国」は終わる。
何か、別の(※旧:日本)に変貌を遂げるのだろう。
総務省の調査によると、建設業における29歳以下の就業者の比率は、わずか11.8%。全産業平均(17.3%)を大きく下回り、若者の建設業離れが顕著である。
若い世代が建設業に就きたがらないのは、単純に仕事内容に比べて賃金水準が低いためだ。すなわち、解決策は賃金を上げることになる。
何しろ、「市場」が賃金を上げるようにメッセージを投げかけているのである。当然、日本政府も「市場の賃金水準」を反映するべく、公共事業の予定調達価格を引き上げなければならない(一応、やってはいる)。
このまま若い世代の土木・建設離れが続くと、現役世代の技術、技能、ノウハウ等が将来に継承されない可能性がある。そうなると、30年後の日本は、自国民では大きな橋を架けられず、高層ビルを建てられず、自然災害の復興もできない発展途上国と化していることだろう。
とはいえ、政府は別に若年層への技術継承問題について、手をこまねいているわけではない。5月29日、技術継承問題の解決をも含む「公共工事の品質確保の促進に関する法律改正案」(以下、品確法)及び「建設業法等の一部を改正する法律案」(以下、業法)が、衆院本会議において全会一致で可決、成立した。
驚くべきことに、社民党や共産党の議員たちまでもが賛成に回ったのだ。
品確法では、公共工事の品質確保と、中長期的な人材、担い手の確保・育成が基本理念として据えられている。
例により、日本の大手マスコミで品確法や業法について取り上げているところは皆無であるため、中身を簡単にご紹介しよう。
今回の法律改正は、
「ダンピング受注防止」
「担い手の確保・育成」
「公共事業従事者に対する労働環境の改善」
「市場の実態を反映した予定価格の設定」
「事業の特性に応じた多様な入札契約方式の選択」
など、橋本(龍太郎)政権、小泉(純一郎)政権期に実施された各種の規制緩和とは「真逆の方向」に公共事業を「正常化」することが目的になっている。
規制を強化することで、我が国の土木・建設の供給能力を回復させ、将来への「引継ぎ」をも実施するわけである。
誰も表立っては口にしないが、結局のところ橋本政権や小泉政権による公共事業や建設分野の規制緩和(一般競争入札化、独占禁止法強化による談合防止など)は、失敗に終わったという話なのだ。
両政権による大々的な規制緩和により、確かに公共調達の「価格」は下がった。一時は「一円落札」までも話題になるような有様に至ったのだ。
貧すれば鈍するという言葉通り、価格の下落と引き換えに公共事業の品質は劣化していった。
品質を高めるためには、余裕が必要だ。金銭的余裕、人的リソースの余裕、時間的余裕が十分でなければ、企業は「無駄がない」状況で仕事をせざるを得ない。
無駄がないといえば聞こえはいいが、効率化をひたすら追求していくと、安全性は落ちざるを得ない。大変、残念な話なのだが、「効率性の追求」と「安全性の追求」は、トレードオフの関係にある。
効率性や「安さ」を追求していくと、「非常時に安全ではない」システムにならざるを得ないのだ。いや、公共インフラの場合は、平時ですら「安全ではない」建築物になる可能性があり、極めて問題だ。
というわけで、ようやく政府はこれまでの「価格重視」を改め、公共調達について「品質の重視」へと政策を大転換することになったのだ。
上記が「法の精神」通りに実施されれば、少なくとも土木・建設分野における発展途上国化は食い止められる「方向」に向かうはずだ。
特に、業法に、
「建設業者、建設業者団体及び国土交通大臣の責務として、建設工事の担い手の育成及び確保とその支援に関する責務を追加する」
という理念が盛り込まれている影響は大きい。
土木・建設分野の「担い手の育成と確保」は、国土交通大臣の責務として実施しなければならなくなったのだ。
両法律が理念通り施行され、日本の公共インフラの品質が高まり、若年層への技術継承が実現するか。本問題は、まさに我が国の将来を決定づけてしまうほどの重要な問題であることを、読者にも知って欲しいわけである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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