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医療費削減狙う規制改革に「岩盤」 健康食品とサプリ、世界に遅れる規制緩和と経済的損失
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140617-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 6月17日(火)3時0分配信
本題に入る前に筆者の基本的な考えを述べると、安倍政権の集団的自衛権の行使容認に向けた動きには反対だが、いわゆるアベノミクスの「第三の矢」と呼ばれる成長戦略における規制改革、例えば農協改革や医療改革については概ね賛成だ。
特に産業活動において「新陳代謝」が緩やかな日本においては、規制改革によって既得権を打破していかなければ、能力とやる気のある新興勢力が新規参入できず、健全な競争にも促されずに、産業活動が次第に停滞していく。その結果、消費者は価格が高いうえに、サービスや商品の中身はたいしたことのないものを買わされる羽目になる。最終的なツケは消費者が払うことになる。
ただ、「新陳代謝」のプロセスでは、さまざまな問題が起こることも十分にあり得る。例えば、規制改革によって混合診療が認められることにより、先進的な医療行為を受けた患者が、想定外の副作用で苦しむこともあるかもしれない。しかし、これは誤解を恐れずに言えば、社会が大きく変化していく際にはどこかで支払わなければならない「代償」ではないか。当然ながら起こり得るリスクを想定してそれを排除する努力は重要だが、そこばかりに注力していれば、「石橋を叩きすぎて渡らない」といったことになりかねないだろう。
規制改革を進めていくためには、官庁が事前に利害関係者と調整して細かいルールをつくることよりも、大きな方向性を決めて自由に参入を促し、参入後に法律違反や倫理上の問題などがあれば厳しく罰したり、業界から追放したりする「事後監視型社会」への変貌が求められる。健全な自己責任型の社会への変貌が必要だともいえるだろう。そうでなければ大胆なイノベーションも起こらない。しかし、日本は「お上頼み」の国柄であり、国がつくった規制で守られることを国民が好む傾向にあるのではないか。こうした意識も変えていかなければ、大胆な規制緩和はできないだろう。
●厚労省、医師会、製薬業界の癒着か
冒頭にも述べたように規制改革は安倍政権の重要な経済政策のひとつだが、筆者が取材をしている分野では、昨年提示された規制改革の方向性が大きく後退している。それは、健康食品やサプリメントの機能性表示に関する規制改革でみられる。いったんは掲げられた規制改革の狙いや、現在に至って潰されそうになるまでの流れを以下に説明していく。
安倍晋三首相は昨年6月5日、「成長戦略第三弾」と題する内外情勢調査会での講演の冒頭で次のように語った。
「健康食品の機能性表示を解禁いたします。国民が自らの健康を自ら守る。そのためには的確な情報が提供されなければならない。当然のことです。現在は、国から『トクホ』の認定を受けなければ『強い骨をつくる』といった効果を商品に記載できません。お金も時間もかかります。とりわけ中小企業・小規模事業者にはチャンスが事実上閉ざされていると言ってもいいでしょう」
安倍首相の発言を補足説明すれば、日本ではこれまで「血圧が気になる方へ」といったような機能性表示は、国から認可を受けた特定保健用食品(トクホ)や栄養機能性食品にのみ許されてきたが、健康食品やサプリでも科学的なエビデンスがあるものには、機能性表示を認めるというものである。直後の6月14日には健康食品やサプリの表示規制の緩和を実施することを閣議決定した。
安倍政権が健康食品やサプリの機能性表示の規制を緩和させていく狙いには、医療費の削減がある。日本では年間に約1兆円ずつ医療費が増大し、健康保険財政などを圧迫している。ここに手を打たなければ、いずれ国民皆保険制度は維持できなくなる可能性がある。圧迫の大きな要因は、病院にかからなくていい程度の病気でも病院に行き、しかも大量に薬が処方されていることにある。筆者の知る限り、高齢者の間では、貼り薬や風邪薬を医者に頼んで他人の分まで処方してもらうケースがある。国民皆保険制度によって、本人の負担は少なくても、結局は健康保険財政の負担が増え、いずれそのツケは、保険料の値上げなど国民に回ってくる。
また、日本人の平均寿命は延びたものの、元気に生活できる「健康寿命」は男性で70.4歳、女性で73.6歳であり、平均寿命との差は10歳近くも開いてしまった。70歳頃に健康を害して、余命を薬漬けで過ごすケースも多い。こうしたことも積み重なって医療費の増大につながっている。適切に医療を受ける権利は否定されるべきではないが、薬への過度な依存には問題があり、自助努力で健康を守っていくことの重要性は指摘されるべきである。こうした構造がまかり通っている背後には、厚生労働省-医師-製薬業界が癒着した「業界トライアングル」があることも否定できないだろう。
規制改革の政策には、医療費の増大に対応すべく、国民が自助努力で健康食品やサプリを活用して自分の健康は自分で守り、薬漬けにならない健康的な生活を目指す社会を構築していくという狙いが含まれている。「セルフケア」や「セルフメディケーション」という考え方が大切になってくるだろう。
●グレーンゾーン広告が氾濫する背景
しかし、現状では薬事法などによって健康食品やサプリに機能性を表示することができず、消費者に適切な情報が開示できない。その結果、グレーゾーン的な広告が氾濫する。その象徴的なものが、グルコサミンの広告で女優が膝に手を当てて回しながら「ぐるぐるぐるぐる グルコサミン」などと口ずさむテレビCMだろう。薬事法では薬以外は部位指定や効能を表現することが禁止されているため、「膝に良い」とは文字で表現できないが、女優が膝に手を当てているだけで「膝に良い」とは言っていないので、グレーゾーンなのである。もちろん消費者は、膝が痛い人が飲むものと受け止める。
規制緩和によって、科学的なエビデンスがあれば、「膝の健康に良い」「関節の健康を促進する」などの表示ができるようになる。消費者に誤解を与えず、選ぶための情報を正確に提供していく狙いもあるのだ。消費者がその効果を正確に理解しないまま飲むということは、消費者保護の観点から見てもよくない。摂取することでどのような効果が期待できるのかを、明確にする必要がある。また、機能性をしっかり表示できるようになれば、薬との飲み合わせの注意も表現できるようになるはずだ。
安倍政権がモデルとしている規制改革は、米国が1994年から始めた「ダイエタリーサプリメント制度」にある。医薬品とサプリの区別やサプリ摂取の目的の明確化、サプリに対する知識と理解の促進、産業育成、医療費削減などの目的で始まったものだ。この結果、米国ではサプリや健食産業が急成長し、約20年間で商品数が16倍、業界全体の売上高も7倍の約4兆円にまでそれぞれ拡大した。例えば、エキナセアやイチョウ葉エキスなどは、加工方法や調整方法が進歩して品質が高くなるのと同時に、市場規模が拡大すると、他国からウコンなどの新しい素材も持ち込まれ、最新の加工法とミックスして機能性が強くなった商品もある。米国では規制緩和によって好循環が生じ、そこからイノベーションが生まれた。そのプロセスでは悪徳業者も出現したが、結局は消費者の選択肢が広がると同時に消費者の目が肥えて、優良業者のみが生き残る結果となった。
実は先進国でサプリや健康食品の定義が法的に明確になっていないのは日本だけである。ドイツでは「アポテイク」と呼ばれる薬局があり、そこでは医師が薬を飲むほどの症状ではないと判断すると、ハーブなどの健康食品を処方することもある。TPP(環太平洋経済連携協定)によって、健康食品やサプリの国際的な流通が増えることも想定されるため、機能性表示について各国間で整合性を取る動きも起きている。例えば、ASEAN(東南アジア諸国連合)は、米国のダイエタリーサプリメント制度を参考にしようとしている。日本もグローバルスタンダードに対応しなければ、世界で後れを取ってしまう可能性がある。
井上久男/ジャーナリスト
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