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バーバリーに逃げられた!名門・三陽商会の「苦悩と決断」売り上げの半分を失う……会社は大丈夫なのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39553
2014年06月16日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
「自社でやるから、御社はもう必要ない」。約半世紀にわたる盟友から突きつけられた三行半。「それでも大丈夫」と強気な経営幹部を見て、社内は余計に騒然。絶体絶命のピンチは、突然やってきた。
■「本業喪失」の危機
「バーバリーから契約打ち切りを迫られているのは社員ですらわかっていたのに、経営陣はバーバリー後について本気で対策を打ってこなかった。それでいて交渉の過程は社員に知らせずに、バーバリーに逃げられることが決まったこの期に及んでも、他の事業で補えば3年ほどで業績は回復できると夢のようなことを語っている。もうこの会社に未来はない。私もバーバリーみたいに会社から逃げ出すつもりです」
ある現役社員がこう憤れば、別の中堅社員も次のように語る。
「社員の私が言うのもなんですが、いますぐ大規模なリストラをしないと会社存続の危機になりかねない。それなのに、経営陣は経営責任を取らされると思って、『リストラをするつもりはない』と言っているんです。自分たちはあと数年役員報酬をたっぷりもらって高額の退職金を受け取って、逃げ切るつもりなんでしょう」
真っ白なタイル敷きの床、壁には趣ある巨大絵画が飾られており、シンプルながら瀟洒な雰囲気が漂う。受付は「電話だけ」といういまどきの最先端オフィスとは違い、入り口には2人の受付対応の女性が座る。防衛省から目と鼻の先、東京・新宿区に立つ三陽商会本社ビルを訪ねると、名門企業らしいシックな雰囲気を醸し出していた。
しかし、そんな落ち着いた佇まいからは想像もできないような騒ぎが勃発し、同社内ではいま1943年の会社設立以来、最大級の混乱が巻き起こっている。
事の発端は5月19日、三陽商会が会見を開いて、英バーバリー社と結んでいた高級ブランド『バーバリー・ロンドン』のライセンス契約が2015年6月で終了すると発表したことだ。
同時に派生ブランドである若者向けの『バーバリー・ブルーレーベル』『バーバリー・ブラックレーベル』についてはライセンス契約を継続するが、「ブランド名からバーバリーの名称は外す」という条件での契約更新であることを公表した。
「三陽商会にとって、バーバリー事業は派生2ブランドも含めて売上高の半分を占めるといわれるほどの主力事業ですが、今後はバーバリーの名を冠した事業が行えなくなる。要は『本業喪失』の危機に陥っている。同社の直近の売上高は1000億円ほど。最悪の場合、そのうち500億円が吹き飛ぶ可能性すらあります」(大手アパレル幹部)
そんな経営の根幹を揺るがす非常事態にもかかわらず、三陽商会の経営陣は「ウィンウィンになれる結果を探ってきたので、その点では良い形になった」などと嘯くばかり。そのため社員の不満は爆発、経営陣への疑心暗鬼が溢れている。
「社員が特に怒っているのは、ブラック、ブルーレーベルについて、バーバリーの名前が使えないのにライセンス料を支払う『不平等条約』を結んだこと。バーバリー特有のマイクロチェック柄は使っていいという契約だが、そんなものにライセンス料を払う必要があるのか、というわけです」(アパレル業界の取材をする経済ジャーナリスト)
バーバリー側との交渉の責任者を務めてきたのは、副社長の小山文敬氏である。
三陽商会の会議室内に設けられた電話会議システムを使って英国本土のバーバリー幹部らと話し合いを重ね、時にロンドンに赴いての直接交渉も行ってきた。
今回の契約解消は、日本事業の直営化を進めたいバーバリー側の方針に沿ったもので、小山氏は、「すべてのバーバリー事業を継続できないとなれば経営への衝撃が大きすぎる」として、「日本独自ブランドであるブルー、ブラックレーベルだけは継続させて欲しいという交渉を行ってきた」と三陽商会関係者は言う。
「小山氏ら幹部は、ブラック、ブルーレーベルについてはバーバリーの名前がなくても売れると考えています。彼らの理屈は、三陽商会は東北の工場で多くの商品を作っているため、『メイド・イン・ジャパン』のブランドが効くというもの。そのため、今回の交渉でブラックとブルーの継続を勝ち取れたことを、『良い形になった』などと語っている」(前出・ジャーナリスト)
■甘すぎる「巻き返し策」
しかし、バーバリーの名前がないブランド商品をどれだけの人が買いたがるかは「かなり難しい」(前出・中堅社員)というのが現場の率直な意見。バーバリーの銀座店には旅行で訪れた中国人が大量買いする姿も見られるが、彼らも「メイド・イン・ジャパン」ではなく、「バーバリー」の名前に魅かれて財布の紐を緩めているのが実情だ。
「社内では小山氏は三井物産にいいように食い物にされているとの声も出ています。バーバリーとのライセンス契約は、三陽商会のほか三井物産も結んでおり、今回ともに契約打ち切りとなった。一方で、三陽商会は三井物産が'12年末に買収した米ブランド『ポール・スチュアート』のライセンス先となっており、バーバリーなき後の三陽商会の店舗でこのポール・スチュアートを展開することもありうる。つまり三井物産としては、バーバリーを失っても、三陽商会から多くのライセンス料を取れるチャンスがある。小山氏が三井物産出身なだけに、そんな疑心暗鬼が現実味をもって語られている」(専門誌記者)
三陽商会の杉浦昌彦社長は、バーバリーとの契約解消会見で、同時に「中期5ヵ年経営計画」を発表している。計画には、以下のような政策が並んだ。
●『バーバリー・ロンドン』の後継として、英の老舗ブランド・マッキントッシュ社とライセンス契約する事業を据え、これまでバーバリーを売ってきた百貨店内の店舗をマッキントッシュに置き換えていく。
●マッキントッシュ事業に加えて、三井物産とライセンス契約するポール・スチュアート事業、オリジナルブランドの『エポカ』事業を基幹3事業として、これを拡大していく。
●ブラック、ブルーレーベルはeコマースの新規展開などで事業を拡大する。
結果、バーバリー事業を失ったことで2016年度は営業赤字になるものの、これらの施策を打つことで2018年度には現状と同規模の売上高まで力強く回復する―。
もちろんその通りにいけば文字通りのV字回復となるが、この計画にはさっそく大手証券会社がケチをつけている。
「三菱UFJモルガン・スタンレー証券が計画発表の翌日に『さよならバーバリー』というレポートを出して、『楽観的であり未達になる可能性が高い』と酷評しています。その根拠として、'18年までにマッキントッシュ事業で300億円、ポール・スチュアート事業で200億円、エポカ事業で150億円、合計650億円を稼ぐという三陽商会の計画については、『不可能であり、3ブランド合計で250億円程度に留まる』と予測。ブルー、ブラックレーベルも『各30億円程度の減収は不可避』として、'16年12月期から'18年12月期まで『3期連続の営業赤字となる』としています。衝撃的なのは、目標株価をこれまで320円としていたのを185円にまで引き下げていること。株価がほぼ半減すると見ている」(大手証券会社日本株担当アナリスト)
■アディダス・ショックの再来
証券業界にとどまらず、「取引先」である百貨店など小売業界からも「?」が投げかけられている。三越伊勢丹現役社員が言う。
「三陽商会さんはバーバリーの空いた店舗にマッキントッシュやポール・スチュアートなどを出したいようですが、ほかのブランドさんからも入りたいという声は出ているので、そのまま入れ替わりでどうぞというのは難しい。うちがかつて不動産会社の秀和から株を買い占められそうになった時、三陽商会さんは秀和から株を買い取ってくれた一社。その恩はありますが、ブルー、ブラックレーベルについても、バーバリーの名前がなくなれば扱いたくないというのが本音です」
三陽商会がバーバリー事業で百貨店に展開していた店舗は100店以上あると見られているが、その「跡地」を奪おうとする他社の動きはすでに過熱している。
「地方の百貨店では、すでにオンワード樫山との交渉が始まっているそうです。ほかにもセレクトショップ大手のユナイテッドアローズが百貨店向けのブランドを開発しているという情報もある。三陽商会の陣地は競合他社にかなり浸食されていくでしょう」(前出・ジャーナリスト)
三陽商会は百貨店以外での店舗拡大も見越しているが、ここにも厚い壁がある。
「かつてバーバリーの勢いがすごかった時に、量販店各社は『三陽商会詣で』をして、是非うちに入って下さいとやったけれど、高飛車で全然相手にしてくれなかった。量販店側からすると、三陽商会というのは百貨店以外の量販店を最初に見限った会社なんです。仮にその会社がいまさら商売をしようと言ってきて、どれだけの会社が相手をするか」(元大手量販店役員)
バーバリーと三陽商会の付き合いは、'65年に三陽商会がバーバリーのコートの輸入販売を始めて以来、約半世紀に及んできた。そんな盟友関係が突然打ち切られたことの代償は、かくも大きい。そしていま語られているのが、「アディダス・ショック」の再来である。
スポーツ用品大手のデサントが'98年に、それまで28年間提携関係にあった独アディダス社から一方的に提携解消を突きつけられた一件は、いまでもアパレル業界の語り草になっている。当時のデサントは売上高約1000億円のうち400億円ほどをアディダス事業で稼いでいたため、業績は急降下。社員の約3割にあたる希望退職を募集したが、アディダス以外の事業の育成を怠ってきたため赤字が止まらず、「あと3年で倒産する」という危機にまで陥ったのだ。
「当時のデサントの社長は、『所有者から返してほしいと言われれば、どんな事情があっても返さなければいけない』とライセンス契約の恐ろしさを語っていた。直営で日本でビジネスをやりたいというのが当時のアディダスの理屈で、状況が今回のバーバリーと三陽商会の関係と酷似している。ちなみにデサントは倒産危機をどうにか乗り切ったものの、提携解消前の業績水準まで回復できたのは今年になってから。本業喪失で失ったものを取り返すまでに約15年かかった」(前出・アナリスト)
■裏切りの契約
オリジナルブランドを一から育成するには、時間とカネが莫大にかかる。一方ですでに確立しているブランドにライセンス料を支払って商売をするのは、ブランドを買収するほどの巨額が必要ではないし、広告宣伝費をあまりかけずにヒットも飛ばせる。一度その「甘い汁」を吸ってしまうと抜け出せなくなるが、ライセンス元が「やめた」と言えばゲームセット。抵抗する術を持たずに、会社は足元から一気に崩れ落ちる。
「'97年には鐘紡が仏クリスチャン・ディオールとの33年間に及んだ提携関係を解消された。当時の鐘紡のファッション事業の売り上げは約700億円で、そのうち300億円ほどを失うインパクトがあった。ライセンス契約が『裏切りの契約』といわれる所以です」(前出・アパレル幹部)
儲かっている事業があるうちに次の柱を育てなければいけないのだが、好業績に胡坐をかいてサボってしまう経営陣のいかに多いことか。三陽商会も同様に、バーバリー以外の本業を育ててこなかったツケがいま回ってきている形だ。
「三陽商会が今後もバーバリー事業の成功体験に縛られて、ブルー、ブラックレーベルに固執していると、現在はまだ残されている体力が奪われて、手を打てなくなる危険性がある。いまは売上高の半分を失っていいという覚悟で、思い切った事業転換を図るべきでしょう」(コア・コンセプト研究所の大西宏代表)
元JPモルガン証券アナリストでアパレル業界をウォッチし続ける塚澤健二氏もこう指摘する。
「三陽商会はアジア人の体型に合った衣服を作る高い技術やノウハウを持っている。そうした技術力を活かせば、新しい食い扶持となるビジネスは十分に立ち上げられるはずです。今回のバーバリーとの一件を業態転換の好機と捉え、ライセンス依存のビジネスモデルから脱するべきです」
今回、三陽商会が発表した戦略は、バーバリーとのライセンス契約解消で失われた分を、ほかのブランドとの新たなライセンス契約で補おうとするものだ。経営陣のその「決断」が正しいのか、間違っているのか。結論が出るまでに、時間はそれほどかからないのかもしれない。
「週刊現代」2014年6月14日号より
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