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ニュージーランドで育児団体を訪問する英王子夫妻。英国は先進国としては出生率が高いほうだ。一方、日本はドイツ型に(Press Association/アフロ)
「ゆでガエル」状態になりつつある日本 人口動態はウソをつかない
http://toyokeizai.net/articles/-/39909
2014年06月12日 中原 圭介 :エコノミスト 東洋経済
さて、今回は人口動態について考えてみたいと思います。経済予測の中でも、将来人口の動向は比較的高い精度で予測ができます。株価や為替相場などは、さまざまな要素が複雑に絡み合うため、正確に予測することは困難です。ところが、将来人口については、予測するうえで必要になる要素が主に出生率と平均寿命の2つしかありません。この要素の少なさが、高い精度で予測できる要因です。また、人口の増減は、景気動向にそれほど左右されない点からも予測しやすくなります。
■ 出生率で二極化する先進国
そのため、2020年〜2025年までに、出生率に劇的な変化がなければ、かなりの精度で50年後の少子高齢化の姿を描くことができるのです。 少子化が進む日本ですが、先進国を出生率で見ると、多産の国と少産の国に分かれます。出生率(合計特殊出生率)とは、1人の女性が生涯に産む子供の数の平均です。多産の国を代表するのがアメリカ、フランス、イギリスで、出生率はアメリカが2.1、イギリスが2.0、フランスが1.9になります。少産の国の代表は日本、ドイツ、イタリアで、出生率はいずれも1.4です。
多産の国と少産の国を比べてどこが違うかといえば、1つは女性の初産の年齢です。パリ大学の人口動態を調査している専門家によると、フランスの女性は30歳までに第一子をもうけるのに対して、ドイツの女性の初産は30歳を過ぎてからが普通だといいます。日本の女性の平均初産の年齢も2011年に初めて30歳を超えました。
こうした背景には、女性の社会進出が大きく影響しています。ドイツでは、まず職場で自身のキャリアを確立してから出産を考える女性が多いのですが、この点、日本もドイツ型になりつつあるのかもしれません。
問題は、30代での初産には、流産など出産に伴うリスクが高くなることです。しかし、初産を20代で経験しておくなど、すでに出産をしたことがある人は、そうした高齢出産のリスクが軽減されるといわれています。ですから、初産はできるだけ早いほうがいいわけです。
さらに育児の面でも、30代後半になると、肉体的にきついという女性が多いのです。そうなると、第二子をもうけることを躊躇してしまいます。こうした点からも、初産をなるべく早くできるように、国が社会の仕組みを変えながら、女性の出産を支援するようにしたいものです。
■ このままでは、年間の出生数が100万人割れに
こういうと、「個人の問題に国が関与すべきではない」と考える人もいるでしょう。しかし、日本の人口動態や社会保障制度などを考えると、結局それは、私たち自身の将来の不安を増大させる可能性があります。
やはり女性には20代半ばぐらいで初産を経験してもらうのが理想です。そのためには、企業も国も、女性が子供を産むことに対して、大歓迎の姿勢をとる必要があります。企業にとっても、高齢者医療への負担増などを考えれば、子供が誕生し、若い世代が増えることはプラスになります。きちんと説明すれば、大多数の国民は納得してくれるでしょう。労働力人口の減少をできるだけ抑えて、社会保障制度を維持するためにも、女性に子供を産んでもらう必要があること、子供の数が増えれば社会は活性化することを説明すべきです。
しかし日本では、たとえ出生率が現在の1.4から2.0に上がったとしても、人口は増えるどころか、減少し続けていきます。なぜなら、子供を産む女性の絶対数が減っているからです。子供の9割以上は20代と30代の母親から生まれていますが、その年齢層の女性が激減しているのです。
2012年以降、日本では出生率が16年ぶりに1.4台に乗りました。しかし、2012年の出生数は103万7100人、昨年は102万9800人と、相も変わらず減り続けています。このままでは5年以内に100万人の大台を間違いなく割り込んでしまうでしょう。
その一方で、高齢化の問題は深刻で、高齢者の人口は年々増えています。
日本の年齢別人口について、国立社会保障・人口問題研究所が次のように試算しています。2014年は総人口1億2695万人に対して65歳以上は3308万人(人口比26%)ですが、2025年になると、総人口1億2066万人に対して65歳以上は3657万人(30%)になります。
また、2035年には総人口1億1212万人に対して65歳以上は3741万人(33%)、2050年には総人口9708万人に対して65歳以上は3768万人(39%)と予測しているのです。2086年には、65歳以上の人口比率は41.3%とピークを打ち、高齢化の上昇はこのあたりで止まる予測です。
■ 1人の働き手で、1人を支えることができるのか
さらに、働き手となる年齢の人口も減少しています。これまで1人の働き手が支える平均扶養人数は、1960年代後半から2000年頃までは0.4人でしたが、2010年には0.6人になり、2060年には約1人へと増加していく見込みです。
ここまで少子高齢化と社会保障の問題を先送りし続けてきたツケを、日本国民は支払わなければならなくなります。甘い試算に基づく年金制度や社会保障制度がいつまでも成り立つわけがないからです。
とくに、社会保障の中核である年金制度は、かなり甘い試算に基づいて設計されています。年金の予定利回りがそうです。年金の予定運用利回りと現実の収益との乖離は、先進国共通の課題といってよく、日本でも国民年金・厚生年金の積立金の「運用利回りを4.1%」としています。しかし、過去10年を見ても、そんな利回りは出ていないのです。また「物価上昇率1.0%」「賃金上昇率2.5%」という前提条件も、とても現実的な数値とは言えません。
社会保障や財政に関しては、時の政権や厚労省のトップが責任をかぶりたくないために、甘い見通し、甘い試算に終始しています。ですから状況は、マスコミでいわれているよりも相当に悪いのです。先ほど、将来人口の予測は精度が高いと述べましたが、私は国の試算よりも少子高齢化が若干進むのではないかとみています。その理由は、医療の進歩によって、平均寿命がさらに延びる可能性が高いからです。
現在の高齢化に関する試算では、医療の進歩を考慮に入れていません。2025年には、すでに医療技術の発展で、日本人の死因のトップを占めてきた「がん」が死の病ではなくなっているかもしれません。平均寿命はさらに5歳くらい延び、なおかつ高度な医療であるために高額の医療費が財政を圧迫するようになるでしょう。しかも、いまの60代、70代は昔に比べて肉体的にずっと若く、将来ますます健康的に暮らす人が増えていきます。これからの日本では、そうした点を考慮しない国の試算は当てにならない部分があるのです。
政治は高齢者に痛みを求める努力を放棄しているといわれていますが、65歳以上の人をこれまでどおり「高齢者」と気遣い続ければ、いよいよ社会は立ち行かなくなります。「そんなことはない! 」といっているのがポピュリズムの政治家たちです。財政では収入と支出がはっきりしているわけですから、そのことを丁寧に説明すれば、国民の大半が納得できるのではないでしょうか。それを一部の経済評論家や政治家が「経済が4%の成長を続ければ、日本の財政は消費増税がなくても再建できる」などというものだから、話がおかしくなるのです。
しかし、4%の成長が本当に可能なのかどうかは、好景気に沸いた小泉政権のときですら2%の成長を掲げながら、実質成長率の平均は1.36%しか達成できなかったのです。当時よりも日本の潜在成長率が落ちていることを考えると、4%という数字は非常に困難なことがわかります。そういう経済評論家は、自分のビジネスを増やすために、国民受けがいい大風呂敷を広げているといわざるをえません。
さらに悪いことに、こうした論法に乗っかってしまう愚かな政治家がじつに多いのです。冷静に財政状況を考えれば、国債の急落リスク、それによる長期金利急騰のリスクを回避するためには、国は増税せざるをえないという結論が出てくるはずです。もちろん、社会保障制度を破綻させないためには、増税と同時に歳出削減が実行されなければなりません。
ところが、歴代政権は社会保障に関する歳出削減の先送りばかりしてきました。それでも、次の政権か、その次の政権は、歳出削減からもう逃げられないと思います。
予算の収支を示す指標として、日本はプライマリーバランス(基礎的財政収支)を用いています。プライマリーバランスとは、税収と日銀からの納付金などの税外収入を合わせた財源から、社会保障などの政策経費を差し引いたものです。2013年度のプライマリーバランスは23.2兆円の赤字です。
世界を見ると、ドイツではすでに黒字を実現しており、イギリスとフランスは2017年に赤字をGDP比で1〜2%程度に抑える目標を掲げています。しかも、これら欧州諸国の数値は日本と違って歳出面で政策経費に国債の利払い費まで加えたものです。日本の数字が国際基準から見て、いかに過少に見積もられているかがわかりますが、それでもプライマリーバランスの黒字化を達成できないわけです。
政府は2020年までにプライマリーバランスの黒字化を掲げていますが、その前提として実質2%、名目3%の成長を条件としています。この経済成長率も甘い見通しであるといわざるをえません。
このまま危機を危機として意識しない状況があと10年も続けば、日本は「ゆでガエル」状態になってしまうのではないでしょうか。
次回は、これからの日本が具体的にどうすればいいのかを指し示したいと思います。
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