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製薬業界、世界的に激化する合従連衡と市場争奪戦 国内大手はM&A苦戦で世界進出遅れる
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140606-00010003-bjournal-bus_all
Business Journal 6月6日(金)3時0分配信
米ファイザーの最終提案を英アストラゼネカが拒否し、世界の薬品業界を揺るがした製薬大手同士の大型M&A(合併・買収)は失敗に終わった。5月26日、「買収を断念する」とファイザーは発表した。
ファイザーは4月28日、アストラに買収を提案したと発表した。買収額は1000億ドル(約588億ポンド、約10兆2000億円)。実現すれば製薬業界としては過去最大のM&Aが成立したことになる。ファイザーは5月2日、買収額を43億ポンド積み増し631億ポンドとし、さらに18日には、693億ポンドと1割上乗せし、ファイザーは“本気具合”をみせた。これに対してアストラの取締役会は5月19日、「当社の価値を過小評価している。株主に不確実性とリスクをもたらす」との声明をあらためて発表した。
ファイザーによると、同社は14年1月にアストラゼネカ株を1株46.61ポンドで買収すると提案したが、アストラが断った。ファイザーはいったん提案を取り下げた後、4月26日に再び交渉を申し入れたという。買収案はアストラの株価に30%のプレミアムを付けた上で、アストラの株主に対し、現金で3割、残り7割をファイザーの株式で支払うかたちにするというものだった。ファイザーのイアン・リード会長兼CEOは声明で「世界中の患者たちが、私たちが共有する研究開発から利益を得られると考えている」と述べた。13年の売上高は両社合わせて773億ドルに達する。
ファイザーは5月16日にはアストラの株主に1株当たり53.5ポンドを割り当てる提案を示した。アストラの取締役会は、この提案を10%上回る水準(58.85ポンド相当)に引き上げれば「株主に(M&Aに)賛同を勧める用意があった」としている。しかし、ファイザーの最終提案は同55ポンドにとどまり、アストラの取締役会は拒否を決めた。
ファイザーは敵対的TOB(株式公開買い付け)の可能性は否定している。それでも世界首位を目指す戦略をあきらめたわけではない。いったんは仕切り直しになったが、次はどんな球を投げてくるのだろうか、世界の製薬業界が注目している。
●アストラ、政府の側面支援受け徹底抗戦
ファイザーのリードCEOはキャメロン英首相に書簡を送り、M&Aに理解を求めた。だが、キャメロン首相はニュートラル(中立)との見解を示し、英議会は強くこのM&Aに反対した。
現在のアストラはスウェーデンの旧アストラと英国の旧ゼネカが合併した会社で、英国、スウェーデン政府の側面支援もあり、現アストラ経営陣はファイザーの4度にわたる提案に強く「ノー」を突き返した。
その間、アストラは23年までに売上高を13年実績比75%増となる450億ドル(約4兆5800億円)とする収益見通しを発表し。アストラ側は独自に10年後の収益拡大策を示し、自社の企業価値が高いことを株主に納得してもらう作戦に出た。これもM&Aに対する有効な自衛策である。
●J&J、GSK、バイエル…加速する合従連衡の動き
独製薬・化学大手のバイエルは5月6日、米製薬大手メルクの一般用医薬品などのコンシューマーケア事業を142億ドル(約1兆4500億円)で買収すると発表。バイエルは買収で一般医薬品の事業規模を一気に74億ドルに拡大する。メルクのコンシューマーケア事業で、日本でもなじみがある商品はアレルギー治療薬の「クラリチン」や日焼け止め「コパトーン」などだ。バイエルは「アスピリン」という看板商品を持っている。
製薬業界では4月にもう一つ大きな動きがあった。英グラクソ・スミスクライン(GSK)がスイス・ノバルティスと大衆薬事業の統合で合意した。
ノバルティス日本法人は降圧剤ディオバンの臨床研究データを操作した事件で二宮義泰社長が4月に引責辞任し、スイス本社からドイツ人の新社長が赴任した。疑惑の発覚を恐れ、関係書類の隠蔽を部下に指示したとされる部長級ら数人を解雇したことを、ノバルティスのスイス本社のデビッド・エプスタイン社長が都内で会見して明らかにした。GSKはノバルティスとの合弁会社に63.5%出資する。売上高の単純合計は100億ドルに達する。
業界最大手の米ジョンソン・アンド・ジョンソン(13年12月期の売上高:147億ドル)を、欧州勢のGSKとバイエルが激しく追いかける構図となってきた。
●国内大手は蚊帳の外に
そんな中、国内に目を転じてみると、武田薬品工業(長谷川閑史社長)のスイス・ナイコメッド買収、第一三共(中山譲治社長)の印ランバクシー・ラボラトリーズ買収が典型例だが、日本の製薬会社による海外M&A(合併・買収)の失敗が相次いでいる。その背景について、事情に詳しいアナリストは次のように解説する。
「日本の製薬会社には目利きがいない。グローバル競争に勝てないから規模拡大のためのM&Aを目指す。そうすると、情報を聞きつけた投資銀行からさまざまなM&A案件が持ち込まれるが、慌てて投資銀行の話に乗っかると、結果的に傷物をつかまされる。さらに、日本の製薬会社にM&Aされた途端に優秀な人材が逃げ出すケースも多い」
武田は4月8日、糖尿病治療薬アクトスをめぐり米ルイジアナ州ラファイエットの連邦地裁の陪審から、60億ドル(6200億円)の懲罰的な賠償を命じられた。懲罰的賠償とは、陪審が被告に制裁を与えるべきだと判断して課すものだ。裁判を起こした米国の男性は、この薬の投与が原因で膀胱がんを患ったと主張している。それまで米国で製薬企業が支払った賠償最高額は英グラクソ・スミスクラインの30億ドルだったが(12年)、武田の賠償額はその2倍にあたる。アナリストは賠償額が減額になることはほぼ確実とみているが、控訴審で判決が覆る可能性もあり、訴訟の行方は不透明だ。
同陪審評決は、武田と米製薬大手イーライ・リリーに両社併せて90億ドル(9000億円)という記録的な損害賠償の支払いを命じている。内訳は、武田は前述のとおり60億ドル、イーライ・リリー30億ドルとなっている。しかも、この裁判では「膀胱ががんを発症する可能性があることを示す証拠を両社が隠していた」との疑惑が浮上していた。アクトスは武田薬品が開発し、米国ではイーライ・リリーと共同で販売してきた。日本企業はこれまでも訴訟大国、米国での裁判の対応に苦慮してきたが、訴訟リスクの大きさが武田の判決で改めて浮き彫りになった。
アクトスは、ピークの07年度には世界で3962億円を売り上げていた。製薬業界では売上高1000億円を超えるヒットを飛ばした医薬品をブロックバスターと呼ぶが、11年に特許が切れるまで武田の屋台骨を支えてきた。
しかし、次々と特許が切れてブロックバスターを喪失した結果、武田は高収益会社の看板を降ろさざるを得なくなった。この苦況を乗り切るために海外企業のM&Aに踏み切り、M&Aに2兆円もの巨額資金を投じたが成果が思うようについてこない。
そんな状況を打破すべく、武田は11年に1兆円超で買収したナイコメッドなど海外部門の立て直しを図り、昨年、新興国の医薬品市場で豊富な経験を持つクリストフ・ウェバー氏を次期社長に据えることを発表。6月下旬の株主総会で社長に就任するウェバー氏が最初に直面するのが、この巨額賠償リスクである。
●買収先の品質管理問題に翻弄された第一三共
第一三共は4月8日、4900億円で買収したインドの後発医薬品大手ランバクシーの全株式を売却すると発表した。インドの後発薬大手サン・ファーマシューティカル・インダストリーズが年内をメドに株式交換方式でランバクシーを吸収合併する。ランバクシーに63.4%出資していた第一三共は合併後の新しいサンの株式の9%を握るが、後発医薬品の世界戦略の根本的な見直しが必要になる。新生サン株9%分の価値は2100億円と見積もられている。第一三共は5年間で単純計算で2800億円を失ったことになる。
第一三共は当初、ランバクシー買収により同社を起点に新興国と欧米の後発品市場を取り込むシナリオを描いていた。ランバクシーはインドの工場で低コストで生産した後発薬を米国など世界市場で販売して成長してきたが、第一三共による買収が決まった直後から、インド主力4工場の品質管理問題に翻弄され続けた。
FDA(米食品医薬品局)がランバクシー製品の米国への禁輸措置を決めたため、ランバクシーの株価は大暴落した結果、買収半年で第一三共は3595億円の評価損を計上する事態に陥った。ランバクシーも米政府に500億円の和解金を支払ったが、後発医薬品メーカーによる和解金としては過去最高額である。ランバクシー買収は失敗に終わり、第一三共は新たな柱と期待された後発薬事業で挫折。新興国への進出計画の大幅な修正を強いられることとなった。
第一三共は三共と第一製薬が経営統合して05年に発足した会社だが、ランバクシーの買収は初代社長で三共出身の庄田隆・現会長が主導し、第一製薬出身の中山・現社長は猛反対したといわれており、社内での反対論を押し切って買収に踏み切った庄田会長の引責辞任は避けられないとの見方が強い。社内では旧第一製薬の勢いが増しているが、合併前の旧社間抗争の種をランバクシー買収の失敗が宿したといえる。
海外の大手製薬勢による合従連衡の動きが激化する中、蚊帳の外に置かれた格好となった日本勢は、今後、世界市場においてさらに厳しい戦いを強いられる。
編集部
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