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国税3連敗! 注目裁判で当局が負け続ける功罪とは
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39453
2014年06月05日(木) 伊藤 博敏「ニュースの深層」 現代ビジネス
国税当局が負け続けている。
相手は、ストックオプション(自社株購入権)で巨額報酬を得た外資幹部、巨大企業の日本IBM持ち株会社、不動産取引で巨利を得た弁護士と元妻の公認会計士……。
■注目裁判で負け始めた国税局
かつて国税当局は、国家権力そのものとして君臨。裁判所も国税と同じ国の側に立つものとして判決を下していたので、国税は無敗神話を誇っていた。
だが、証拠捏造事件など検察不祥事が相次ぐなか、裁判所が、脱税事件を仕上げる検察との一体感を見直すようになった。また、裁判員制度の導入がそれを後押し、「起訴状頼みの判決文」といった“悪弊”は見直され、裁判官が自らの頭で判断するようになった。
国税3連敗は、善くも悪しくもその帰結である。
今年1月31日、東京高裁は約1億3200万円を脱税したとして所得税法違反の罪に問われたクレディ・スイス証券元部長の八田隆被告の控訴審判決で、「故意があったと認めるには疑問が残る」として無罪を言い渡した昨年3月の一審判決を支持、検察側の控訴を棄却した。
八田氏は、「会社から支給される給与と同様に、源泉徴取されていると思っていた」と、捜査段階から一貫して無罪を主張。検察側は、「不合理な弁解で、脱税の故意は明らかだ」としていたが、その「故意」を裁判所に認めさせることができなかった。
続いて、5月9日、東京国税局から約4000億円の申告漏れを指摘された日本IBMの持ち株会社「アイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホールディングス(APH)」が、課税処分の取り消しを求めた訴訟の判決があり、東京地裁は課税処分を取り消した。
東京国税局が問題視したのはAPHの節税スキームである。APHは、米IBMが保有する日本IBMの全株を取得。これを複数回に分けて安く日本IBMに売ったことで4000億円超の赤字を計上。それを日本IBMの黒字と相殺した。
「APHはペーパーカンパニーで、株売買の条件に経済合理性がない」と、東京国税局は主張したが、東京地裁はAPHの「持ち株会社としての一定の機能」を認めたうえで、「税逃れの意図があったとは認められない」と、国側の主張を退けた。
■「租税法律主義」と「裁量課税」
弁護士の小谷平被告と元妻で公認会計士の小谷真理子被告という「士族」との争いは、両被告が個人で行った不動産取引を、関係会社が行ったように装うことで、約22億7600万円を隠したとして所得税法違反の罪に問うた検察に対し、両被告は「会社取引」と主張。東京地裁は、「取引の主体が被告だったとは認められず、利益も被告に帰属するとは言えない」と、無罪を言い渡した。
5月21日の判決日、両被告が10年3月に起訴され、2年3ヵ月も拘留されていたことから、東京地裁の鹿野伸二裁判長は、「長期の拘束は裁判所としても反省する」と述べており、国税、検察を含め、国としての過ちを認めた。
納税は国民の義務だが、民主主義国家では法律によってのみ課税されることになっており、これを「租税法律主義」と呼び、日本では憲法第84条に定められている。
ただ、現実には、課税の範囲と金額は、国税当局の“さじ加減”で決まり、それは「裁量課税」と呼ばれてきた。
■潮目を変えた「武富士」創業者一族めぐる最高裁判決
それが大きく変化するのは、消費者金融大手「武富士」を創業した武井保雄氏の長男・俊樹氏への課税処分を、2011年2月18日、最高裁が取り消し、国に利子を加えた2000億円の還付を命じてからである。
保雄夫妻から贈与を受けた時点で、俊樹氏は住居を香港に置いており、海外居住者の国外資産の贈与は、非課税扱いが認められていた。ところが国税は「武富士役員として報酬を受けるなど居住実態は日本。香港在住は租税回避」として、約1650億円の申告漏れを指摘した。
「居住実態」というところがミソである。住民票を海外に移し、年間の半分以上を海外で過ごせば「非居住者」となるが、それを「実態」という“裁量”でクリアしようとし、最高裁はそれを認めなかった。租税法律主義を貫いたともいえる。
以降、潮目は変わった。
■正しい「税の在り方」とは
裁量課税は認められない。外資幹部も日本IBM持ち株会社も弁護士夫妻のケースも、かつてなら検察=国税の主張通りに国側勝訴だったかも知れない。だが、厳密に被告の言い分をチェック、「国家の利益に沿うべきだ」という“予断”を排した。
国家VS巨大企業・富裕層の争いは、国に唯々諾々と従わなくともいいことがハッキリした以上、今後、ますます増えそうだ。
国税を酷税と感じるようになれば、富裕層は海外に資産を移し、将来の相続税に備えようとする。資産だけでなく、海外に居住地を移す富裕層も少なくない。HOYAの鈴木洋CEO(最高経営責任者)はシンガポール、サンスターの金田博夫会長はスイス、ベネッセの福武総一郎会長はニュージーランドに、それぞれ移住した。
国は、海外との比較において住み易い税環境をつくるように努力すべきだし、脱税の穴を塞ぐには、法律で対処するしかない。
そのせめぎ合いは、日本だけでなくどの国でも行われていることで、それが国家と個人(法人)の通常の在り方だろう。
そういう意味で、国税3連敗は税収という意味では国の損失でも、「税の在り方」を国民に伝えたという意味では、それほど悪い結果をもたらしたとは言えまい。
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