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鋭い商品、なぜ売れない?“出来の悪い”試作品がファンを獲得?日米企業比較で検証
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140605-00010003-bjournal-bus_all
Business Journal 6月5日(木)3時0分配信
経営コンサルタントには、売れっ子とそうでない人がいる。そして売れっ子のコンサルタントは、実はそれほど“鋭い”コンサルタントではなかったりする。
クライアントから案件を受注する際に鋭いコンサルタントは、えてして次のような失敗をする。例えば役員から、「売り上げが低迷しているので商品開発人材を強化したい」という相談を受けて、あれこれ情報を集めて分析し、「御社の売り上げが低迷しているのは商品開発に関わる人材の問題ではなく、顧客とのコミュニケーションプロセスに問題があるようです。だから……」というように最初から鋭い提案を行う。提案が芯をくえば受注できるが、それでうまくいくケースは多くはない。
一方で、普段はそれほど鋭いコンサルタントではない地道なコンサルタントは、最初に相談を受けると、すぐに“できの悪い”提案書(素案)のようなものを持って役員氏を再訪する。すると役員氏は、「うーん、ちょっと違うんだな。私が言いたいのはこういうことで、提案書のここを直してくれないかな。それとこの部分についてはA部長の意見を聞いて反映してほしい」などと修正注文をつけてくる。
地道なコンサルタントはその箇所を忠実に修正し、またA部長にもアポをとってヒアリングしてその結果を役員氏に伝え、提案書に反映させる。その結果、鋭いコンサルタントからみるとそれほどインサイト(洞察)に富んだものではない普通の提案書ができあがる。ところがコンサル業界ではよく知られた話だが、クライアントは自分が一生懸命手直しした提案書のほうを採用する傾向があるのだ。
●出来の悪い試作品を発売する狙い
さて、最近の商品開発の成功事例を観察すると、これと同じことがスケールを拡大して起きている。それがリーンスタートアップとかグロースハッカーと呼ばれる手法の本質でもある。
詳しい解説はこのふたつのキーワードを扱った記事や書籍がたくさんあるのでそちらを参照いただくとして、簡単にいえば商品やサービスを開発するのに当たって、最初に出来の悪い、というか出来が悪くて構わないけれど最小のコストでつくれるような試作品を開発して実際に発売し、そのような商品でも興味を示してくれるユーザーを見つけて使ってもらいながら、意見を集めて改良していくという商品開発手法である。よくウェブサイトやアプリのサービスで用いられる開発手法のように思われているが、それだけではなくリアルな商品の世界でも、この開発手法を採用した企業が、伝統的な大企業を押しのけてシェアを拡大する事例が増えている。
「ロングテール」という言葉を提唱したことで知られるクリス・アンダーソン氏(米雑誌「Wired」元編集長)によれば、最近ソニーと米国ベンチャーPebbleが相次いで第二世代のスマートウォッチを発売したが、最初から熱狂的にユーザーの支持を得ているのはPebbleのほうだという。その理由は、Pebbleは開発過程で多くのユーザーを巻き込んでフィードバックを得てきたこと、そしてPebble自体がプラットフォームをオープンに提供して多くの開発者を参加させているところにあるというのだ。
振り返ってみればソニーのスマートウォッチSW2の開発手法のほうが伝統的であり、かつ冒頭の「鋭いが売れっ子ではないコンサルタント」的である。つまり、開発者が世の中を驚かせてやろうという野望をもって、秘かに新商品開発に没頭する方式だ。実際にソニーの開発者にはこのような傾向がある。その結果誕生する画期的な新商品がことごとく討ち死にし、そうではなく出来が悪い試作品だと思われていたライバルの商品が、第二世代の改良された商品が発売されると、たくさんのファン層、サポーター層を獲得する。そして、そちらのほうが圧倒的に売れる商品になっていく。
●米テスラはなぜ人気?
電気自動車の世界では技術的には日産自動車が先を行っているかもしれないが、評判的には米シリコンバレーのテスラモーターズのほうが先行しているように感じる。テスラは日産のリーフのように、最初から重要の大きいワゴンタイプの乗用車ではなく、新しい商品・サービスを好み、発売初期に購入する、イノベーターやアーリーアダプターが多いスポーツカーを初期製品として投入した。
発売当時、筆者もシリコンバレーでテスラのロードスターを試乗してみて感じたが、運転席が地面すれすれで、電気自動車らしく加速性能が良く、表現は悪いが、カリフォルニアのハイウェイを疾走するには最適なおもちゃだと感じた。車好きなセレブなら、3台目のドライブ専用車として1台持っておきたい、そんな車なのだ。
だからこそ、電気スタンドのインフラが普及せず走行距離も短く、電池の価格が高いなど、さまざまな問題がある時期にもかかわらず、アーリーアダプターの顧客層が購入するのだ。そして、彼らは喜び、製品としての改良点をテスラにフィードバックし、一方でその魅力をフェイスブックやツイッターを通じて拡散させていった。同社の実用的なセダンが発売される頃には、テスラのファン数が日産のそれを上回るようになっていく。実際、アメリカで最も裕福な富裕層が住むといわれるスーパージップ(米国の郵便番号)上位の地区では、人気の乗用車ブランドは伝統を持つメルセデスベンツとテスラだという。
このように、現代は鋭い開発者が求められる時代ではなく、開発過程でファンやサポーターを増やせる開発スタイルが求められる時代なのである。
鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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