http://www.asyura2.com/14/hasan88/msg/211.html
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転載する論考の筆者は、元大蔵省官僚の松谷明彦政策研究大学院大学名誉教授である。
一昨年(12年)秋に感動を込めて投稿した「[人口減社会を考える]少子化前提に発想転換を: 久々に出会ったすばらしい論考」( http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/445.html )の筆者でもある。
今回の論考を読んでいっそう高く評価している。考え方に違いや対立もあるが、いちどお会いして話をしてみたいと切に思う。
※ 参照投稿
「欧米諸国の移民政策は「賃金の上昇抑制」を図りつつ「忌避職種の労働力充当」を達成することが目的」
http://www.asyura2.com/14/hasan87/msg/809.html
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外国人労働 活用の論点(中)
まず事業モデル見直しを
松谷明彦 政策研究大学院大学名誉教授
外国人労働者や移民の活用の是非について考えるとき最初に議論すべきは、いかなる社会制度、いかなるビジネスモデルを前提とするのかという点である。当然のことのようだが、そうした前提についての議論を怠ると、外国人をどう位置づけるかという社会にとっての重大な選択を、皮相的、短期的な視野で決定してしまうことになりかねない。昨今の外国人労働者(以下、移民を含む)の活用に関する議論において危惧されるのも、まさにそこである。
今、建設現場の人手不足問題に関し、外国人労働者の活用が議論されている。しかしその議論は入国管理などの規制緩和に集中し、例えばその建設需要をそうした形で満たすことが、果たして社会的に望ましいことなのかといった議論はみられない。あるいは医療・介護現場の人手不足についても、200万人もの失業者がいながら、なぜその分野で人手が不足するのかという議論はなく、外国人の活用方式ばかりが議論される。
そこでは、現在の社会制度やビジネスモデルの忠実な維持・存続が暗黙の前提になっている。だから議論はびほう策に終始する。しかし制度やモデルを変えるとすれば、全く違った展開になることも多いのである。その好例が、製造業などにおける外国人労働者の活用問題である。
きっかけは1980年代後半のバブル経済による人手不足だったが、海外市場における日本製品のシェア低下や将来の国内労働力の減少が明らかになるに従い、外国人活用論は勢いを増した。途上国と競争するには賃金の大幅な圧縮が必要であり、人口減少下で経済成長を確保するには労働力の維持拡大が不可欠というのが、その根拠である。
しかし賃金コストを圧縮したからといって、競争力を回復するのは難しい。価格の問題ではなく、製品それ自体の問題だからである。
製品開発は欧米先進国に依存し、競争力は量産効果に依存するというのが、戦後一貫した日本のビジネスモデルである。だから日本製品は今に至るも、ほとんどが「欧米発」である。そして途上国の製品もまた「欧米発」である。
その途上国がこのところ次々と日本に追いついてきた。当然、日本製品とコンセプトも機能も同じ製品が大量に世界市場に出回ることになる。それがシェア低下の理由なのである。今はまだ製品管理に一日の長があり、一定の競争力も残されているが、それもすぐに追いつかれよう。
競争力を回復したければビジネスモデルを変えるしかあるまい。他人が考えたものを上手にまねしてつくるのではなく、自分が考えたものを独占的につくるモデルへの転換である。途上国製品との競合が希薄になるだけでなく「日本発」の製品であることから、これまでよりはるかに高価格、高付加価値となる。
そうなれば、外国人労働者を活用してまで、あるいは一段の量産効果のために無理な設備投資をしてまで、大量生産に走る必要はなくなる。また、今後の労働力の縮小によって日本の生産数量は減少しても、付加価値率が大幅に上昇することで、付加価値生産額すなわち国内総生産(GDP)は逆に増加することも十分あり得る。
加えて経済も効率化する。GDPに占める機械化投資の比率は欧米先進国に比べ格段に大きく、大量生産のために貴重な経済資源が浪費されている(図参照)。それが消費に回れば、日本人はもっと豊かになる。これは人口減少時代に豊かさを実現するための有効かつ適切なビジネスモデルなのである。
現在のビジネスモデルでは外国人労働者を活用しても問題の解決にはならず、モデルを変えれば外国人労働者は必要ないのだから、随分と無駄な議論をしてきたことになる。もっとも、外国人労働者は不要だが、外国企業は最大限に活用されねばならない。新たなビジネスモデルでは製品開発力がその成否を分けることになるが、現在のような閉鎖的な技術開発環境では、国際的に競争力のある製品開発は困難だからである。
先進諸国の技術開発競争は大きく変貌し、人材獲得競争の様相を呈している。トップクラスの研究者・技術者を世界中から集められた国や企業が勝利を得る。技術開発力の考え方も変わった。例えば英国の技術開発力とは英国人の技術開発力ではなく、英国という地理的エリアにおける技術開発力を指す。
その中で日本だけが日本の技術開発力とは日本人の技術開発力と考え、政策には日本人への教育の改革と日本人への研究費の拡大が列挙される。一国民だけで世界を相手に勝てるはずもなかろう。しかも必要なのは日本人が比較的得意なロボットなどの生産技術の開発力ではなく、苦手とする「日本発」の画期的な新製品の開発力なのである。
しかし世界のトップクラスの研究者・技術者は、残念ながら日本には来ないだろう。彼らは彼らの研究開発コミュニティーに身を置いてこそ、貴重な情報と豊かな成功報酬を得ることができる。そこを捨ててまで、極東の、しかも閉鎖的な日本企業の研究開発現場に来るはずはない。だからこそ外国企業なのである。外国企業の支社や現地法人なら、本社を通して彼らはコミュニティーとつながれる。
欧米のように外国企業が3〜5割にもなれば、日本国内で国際的な技術開発競争が展開され、日本は競争力ある製品開発力を手に入れることができる。今後の日本経済に必要なのは低賃金の外国人労働者ではなく、優秀な研究者・技術者が所属するトップクラスの外国企業なのである。
では建設現場の人手不足問題にはどう対応すべきか。官民の社会インフラにおける今後の最大の問題は、投資能力の大幅な縮小である。少子高齢化で、労働力の縮小と貯蓄率の低下が急速に進行するため、将来、既存の社会インフラの維持・更新投資すら十分にできなくなる事態も想定される。今需要があるからといって、外国人まで活用して野放図にインフラを積み上げれば、耐用年数が過ぎても更新できず一部が廃虚となり、都市のスラム化を招くことにもなりかねない。
だから人口減少社会では厳密なストック管理が必要となる。具体的には現在と将来における社会インフラの優先度、維持・更新投資の将来予測、日本経済の投資能力の将来予測などを踏まえた超長期の整備計画と、その実効性を担保する法的規制である。既存ストックの縮小や、現在のいったん更地にしてから開発する手法の見直しも必要とされよう。そうした心配のなかった高度成長時代の意識のままの政府では困るのである。
最後に、医療・介護現場の人手不足について述べる。様々な事情もあろうが、仮に賃金水準が大幅に向上すれば事態は変わるのではないか。サービスに応じた適正な賃金水準が確保されていないために、労働力がその分野に向かわないのであって、基本的には公的保険であるための価格(賃金)の硬直性が人手不足の原因である。
その硬直性はそのままに、なんとかつじつまを合わせるための方策が外国人の活用なのだろう。しかし途上国の賃金水準も急速に上昇しているのだから、所詮は一時しのぎである。介護保険の廃止や閉鎖的な医師・看護師制度の見直しをも視野に入れた、持続可能な医療・介護のための抜本的な制度改革こそが対応策でなければならない。
外国人労働者の活用が、対症療法の手段であってはならないだろう。社会が払う代償に思いをいたすべきである。
○受け入れの前に前提となる社会像議論を
○欧米発ではなく日本発の製品の開発必要
○医療・介護の人手不足は低い賃金が原因
まつたに・あきひこ 45年生まれ。東京大経卒、旧大蔵省へ。専門はマクロ経済学
[日経新聞5月28日朝刊P.27]
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