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ソニー、なぜ“緩慢な自殺”進行?パナとの明暗を分けた危機感の欠如と、改革の学習経験
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140528-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 5月28日(水)3時0分配信
2014年3月期、ソニーとパナソニックの業績は大きく明暗が分かれた。ソニーは、13年10月、14年2月、同5月と3度にわたる下方修正の末、売上高7兆7672億円、純利益1283億円の赤字に対して、パナソニックは13年10月に上方修正の後、売上高7兆7365億円、純利益1204億円の黒字だ。
なぜ、両社の業績は、これほど明暗が分かれたのか。その理由の一つとして、両社社長の経営手腕の差が指摘されている。パナソニック社長の津賀一宏氏は、就任直後から聖域とされた本社機能に大胆にメスを入れ、B2B(企業間取引)への事業戦略の転換、事業部制の復活、プラズマテレビからの撤退など、次々と改革の矢を放ってきた。業績回復の背景には、車載と住宅事業の健闘がある。
ソニー社長の平井一夫氏は、スマートフォンやタブレットなどのモバイル、カメラやイメージセンサーなどのイメージング、ゲームの3事業を中核事業と位置付けた。しかし、3事業とも競争が激しく、結果を出すのは容易ではない。米国本社ビル、旧ソニーシティ大崎など、次々と資産売却を繰り返してきた。結果、13年3月期決算では5年ぶりに黒字化を果たした。しかし、それは所詮売り食いに過ぎない。その証拠に、14年3月期は再び赤字に戻った。15年3月期について平井氏は、5月22日に開かれた経営方針説明会の席上、次のように語った。
「中期目標には遠く及ばず、徹底した構造改革を進めることとなり、500億円の最終損失となる見込みです」
翌16年3月期には4000億円の営業利益を見込むが、その実現を疑問視する声は多い。それも当然といえよう。他社に比べ、事業の選択と集中が遅れた。パソコン事業の売却、10年間赤字を垂れ流してきたテレビ事業の分社化を発表したのは、今年2月だ。本社改革がスタートしたのも、平井氏の社長就任から2年を経た今年4月である。
もとより、経営者の手腕の差が、両社の業績の明暗を分けたすべての理由ではないのは確かである。企業体質を含めて、分析する必要があるだろう。
私は、ソニーとパナソニックの業績回復力の差について、両社の「改革」に対する危機感の差に注目したい。
●パナソニックの危機感
よく知られるように、パナソニックは旧松下電器産業時代、バブル崩壊後に経営不振に陥り、02年3月期には純利益4310億円の赤字を計上した。窮地を救ったのは、00年に社長に就任した中村邦夫氏の「中村改革」である。中村氏は「破壊と創造」という強烈なメッセージを掲げ、「幸之助の経営理念以外、すべてを見直す」と公言して大改革に乗り出した。01年には幸之助が1933年に導入した事業部制の廃止に踏み切ったほか、研究・開発・設計体制の改革、セル生産の導入、在庫削減、コストダウンなどの構造改革を矢継ぎ早に行った。
私は当時、パナソニック関係者を多く取材したが、社内からは強烈な危機感が感じられた。なかには「本当に潰れるかもしれない」と口にする者もいた。組織の末端にまで危機感が行き渡っていた。その点、パナソニック社員はソニーに比べて泥臭い。改革に愚直に取り組み、痛みに耐えた。
「中村改革」において、社員は危機感を共有して改革に一丸となって取り組み、03年3月期に1266億円の営業利益をあげてV字回復を達成する。パナソニックは、「中村改革」によって「改革」のなんたるかを学習したといっていい。
しかし、そのパナソニックは12年3月期、再び7700億円の巨額赤字を計上した。これを受け、同年6月にトップが交代した。社長に就任した津賀氏は、前述したように次々と改革を打ち出した。13年3月期には7650億円と2年連続の巨額赤字を計上したが、翌14年3月期には、冒頭に触れたように黒字転換を達成した。V字回復といっていいだろう。
●改革に伴う痛みへの許容力があるパナソニック
なぜ、「津賀改革」は、かくも早く成果を上げたのか。「中村改革」を抜きにしては考えられないというのが、私の見立てだ。パナソニック社員は「中村改革」を経験したことによって、危機に敏感になり、必要とあれば新しい試みにチャレンジする習慣が身に付いたと考えられる。いってみれば、「改革」を行うことに躊躇がなかった。「改革」の学習効果である。「改革」に際して、即座に危機感を共有し、団結力を発揮して、変化の痛みを許容する企業体質を培ってきたからだといえる。
中村氏に対しては、ここ数年、厳しい評価が目立っている。プラズマテレビへの巨額投資が大赤字に陥った最大の要因といわれた。また、中村氏が廃止した事業部制は、14年に津賀氏が復活させた。これらの結果だけを見れば、「中村改革」は、間違っていたと批判されるのも無理からぬことかもしれない。
しかし、「中村改革」なくして、今回の「津賀改革」はないと思う。「改革」のなんたるかを社内に浸透させたという意味で、中村氏の功績はもっと評価されていいだろう。
●「改革」の学習経験がないソニー
一方、ソニーには、「改革」の学習経験がなかった。いや、ソニーはここ10年以上にわたって、「改革」に取り組んできたというかもしれない。そうだろうか。少し振り返ってみよう。
95年に社長に就任した出井伸之氏は、99年に社長兼CEO、00年に会長兼CEOに就任し、05年に退任するまで10年間にわたってソニーの経営の指揮をとった。その経営手腕には、毀誉褒貶がつきまとう。
出井氏は、「このままではソニーがダメになる」という強烈な危機感をもち、ソニーを変えようと苦闘、苦悩した経営者であったことは間違いない。
例えば、コーポレート・ガバナンスの視点を取り入れた執行役員制度の導入や、生産部門を「ソニーEMCS」として子会社化したり、早期からネットワーク時代の到来を予見しIT構想を展開したことは、「変わらなければ」という危機感の表れであり、着眼点としては間違っていなかった。「EVA(経済的付加価値)」の導入は、米国型成果主義を導入しようとするあまり、短期志向に陥ったと批判される。それはその通りだが、従来の日本型経営を維持していては、米企業の進化についていけないという危機感の表れだったと見ることができる。
ただ、残念なことに、出井氏には実行力が欠けていた。これらの構想を実現できなかったことについて、サラリーマン社長の身の出井氏は、「自分には創業者のような求心力がないから……」と嘆いたものだ。出井氏の危機感は社員に行き渡らず、「改革」と呼べるだけの「改革」にはつながらなかった。
03年、ソニーの業績悪化を受けて株価が暴落する“ソニーショック”が起き、05年6月に出井氏は退陣した。その後継として、初の外国人トップとなるハワード・ストリンガー氏が会長兼CEOに就任した。私は、日産自動車の「ゴーン改革」による再生劇のように、青い目によるソニー改革を期待した。しかし、ストリンガー氏はなんの成果ももたらさなかった。事態はむしろ深刻化した。
もとより、現在のソニーの経営不振は、歴代トップに責任があるだろう。いずれの経営者も「改革」を起こすことはできず、社員の強い危機感を引き出すことができなかった。社員は一度も大きな危機感をもつことがないまま、つまり「改革」に反応する力を身に付ける機会を逸したまま、衰退の道を歩み続けた。加えて、出井氏に誤りがあったとすれば、後継者にストリンガー氏を選んだことではないかと思う。
●ソニーに欠如する危機感
私はパナソニックと同じかそれ以上にソニーを取材してきたが、正直、ソニーの社員の誰からも、「会社が潰れるかもしれない」という痛切な言葉は聞いたことがない。存亡の危機にあるにもかかわらず、パナソニック社員に比べてソニー社員に危機感がないのは、エリート意識が邪魔しているからではないかと思う。笛吹けど踊らず――である。そのことをいえば、社員以上に経営陣から危機感を感じたことがない。経営陣の危機感の欠如は、かねてから不思議でならないのだ。ソニーの役員を見ていて感じるのは、彼らは“ソニーの役員”を演じているだけで、“プロの経営者”の役割を少しも果たしていないことだ。
実際、社外取締役をはじめとする日米ソニー役員の顔ぶれを見れば、必要以上に豪華なキャストが揃い、多額の報酬が支払われている。いまだにストリンガー氏の弟がコロムビアレコード会長として残るなど、ストリンガー時代の残党が生き残っている。これでは、末端の社員に危機感が行き渡らないのは当然であろう。
ソニーは今、緩慢なる自殺への道を一歩一歩、進んでいるように思われてならない。その歩みは、日本経済が「失われた20年」の間、徐々に世界的な地位を落としていった歩みとかぶって見える。戦後の混乱の中から生まれ、世界的ブランドへと一気に飛躍したソニーの成功物語は、日本人の誇りであった。その宝は、このまま損なわれてしまうのか。「改革」を後回しにしてきたソニーは、もはや立ち直ることはできないのだろうか。ソニーの経営陣が頼りにならない以上、いまこそエリート意識を捨て去り、社員が立ち上がるべきではないのか。ソニーの改革は、そこからしか始まらないのではないか。今度の危機は、その「改革」を起こす最後のチャンスである。
ソニーの再生が一筋縄ではいかないことは確かであるが、だからこそソニーの再生に期待がかかる。どん底まで落ちたソニーの再生は、一企業だけの成果にとどまらず、日本全体に勇気と元気を与えるに違いないからだ。
片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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