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超高速取引が問うもの
http://www.asyura2.com/14/hasan88/msg/143.html
投稿者 あっしら 日時 2014 年 5 月 28 日 03:13:30: Mo7ApAlflbQ6s
 


[大機小機]超高速取引が問うもの

 米国でHFTと呼ばれる高頻度トレーダーの実態をドキュメントした書籍「フラッシュ・ボーイズ」が話題になっている。高頻度トレードはもともと、ニューヨークの現物市場とシカゴの先物市場の裁定取引を超高速で行い、確実な利益を得ることを目的に成立した。その後取引が多様化したことで、市場に様々な問題をもたらす可能性が指摘されている。話題の書籍はそのドキュメントで、HFTの問題は次の4つに分けられる。

 第1はミリ秒単位での超高速取引と通常の人間的速度での取引が混在する市場で、公正な取引が担保できるのかという問題である。顧客の注文による取引に先立って、証券会社の自己勘定の取引が高速で行われてしまうという問題だ。
 その価格差がHFTに帰属するため、市場の公平性に疑問が投げかけられている。不公正を防ぐにはどのようなルールを確立すべきか。超高速のF1と自転車が一緒に走っているレース場での勝負に意味があるのか。両者の市場は分けるべきではないか。

 第2はHFTが市場の効率化に役立っているかという疑問に答えられていないことだ。HFTで大量の株式が取引されることで、流動性を高めるという貢献はしている。だが、それが市場の価格形成の合理性や納得性を高めているかは疑わしい。企業の評価に関して、人間よりもコンピューターの方が合理的な判断ができるのであれば、そもそも市場の意味はなくなってしまう。

 第3は高頻度トレーダーの取引シェアが高まることで懸念される問題である。証券市場は多様な人々の意見を集約する機能を果たしている。少数のHFTが市場取引の3〜4割を占めるようになった時、多様な意見を集約するという市場の機能は果たせるのだろうか。

 第4の問題も取引シェアとかかわる。HFTのシェアが高いということは、取引所に対するHFTの影響力が高まることを意味する。取引所も最近は営利企業なので、利益を考えた時、このようなトレーダーを効果的に規制できるだろうか。

 証券取引所は上場企業のガバナンスに対してルールを作るという機能を果たしている。自らのガバナンスについての厳しい規律付けが必要となる。利益よりも大切な社会的機能があることを忘れてはならない。(猪突)

[日経新聞5月27日朝刊P.19]
 

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コメント
 
01. 2014年5月28日 15:56:12 : nJF6kGWndY

HFT業者は、取引所の一部として、高価な設備投資とマーケットメイカーとして膨大な流動性提供し

テールリスクを引き受けるかわりに、裁定利益を獲得していると見ればいい

http://www.camri.or.jp/annai/shoseki/gekkan/2014/pdf/201405-2.pdf
HFT(高頻度取引)をどう捉えるか
〜米国での議論を再燃させた『フラッシュ・ボーイズ』を踏まえて〜
公益財団法人日本証券経済研究所主任研究員
福田  徹

4 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
■1.はじめに
 米国においてHFTを巡る議論が再燃して
いる。そのきっかけとなったのは、証券市場
の内幕をテーマに数々の著作を執筆したこと
で知られる小説家マイケル・ルイスの『フラ
ッシュ・ボーイズ』の発刊である。このノン
・フィクション小説は今年の3月末に発売さ
れると同時に大反響を呼び、米国アマゾンの
ベストセラー・ランキングの第1位となって
いる(4月9日現在)。当然ながら株式市場
関係者の間でも議論を巻き起こしており、そ
の対象はHFTのみに限らず、電子化された
証券取引所やダーク・プールの功罪まで及ん
でいる。
 さて、本稿では最初に『フラッシュ・ボー
イズ』を引用しながらHFTの取引戦略を紹
介する。加えて、米国株式市場における
HFTの現状を整理する。そして、HFT登場
の背景にある情報化の進展が米国株式市場に
対して与えた影響について取引コストを用い
ながら評価する。最後に、情報化によって変
容した米国株式市場でのHFTの果たすべき
役割を考察する。
■2.HFTの取引戦略をおよび現状
⑴ HFTの取引戦略
 『フラッシュ・ボーイズ』の主人公カツヤ
マ氏はRBC(ロイヤル・バンク・オブ・カ
〈目 次〉
1.はじめに
2.HFTの取引戦略をおよび現状
3.ニューヨーク証券取引所上場銘柄に
おける長期的な取引コストの変化
4.HFTはマーケット・メーカーの役
割を果たせるのか
5.おわりに

■レポート─■
5 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
ナダ銀行)の株式トレーダーであった。同氏
は2006年の終わりに奇妙な経験をする。注文
板上に自分が取引可能な株数が存在すること
を確認した上で注文を送っても、その1部の
みしか執行されないのである。注文板上にあ
ったはずの多くの株式は、同氏の注文がぶつ
けられるのを避けるようにその価格から無く
なってしまっていた。このような事象が頻繁
に起こるようになったことを受けて、同氏は
専門家を雇い入れて調査を開始した。その結
果、明らかになったことは、HFTによる先
回りである。具体的にどのようなことかと言
うと、同氏の送った注文は様々な証券取引所
へ分割されて発注されるが、その到達タイミ
ングの時間差をHFTが利用しているのであ
る。つまり、同氏の注文が最も早く到着する
バッツ証券取引所においてその情報を得た
HFTは、同氏の注文が届くよりも早くそれ
以外の証券取引所へ自分たちが有利になるよ
うな注文板を作り上げて待ち構えているので
ある(図表1)。例えば、インテルの20ドル
の買い注文が発注された場合には、HFTは
注文板上で20ドルまでのインテル株を購入し
てそれより高い売り指値注文を行っていると
いった具合である。これが、注文板上の株式
がある価格から消え去った理由である。同氏
は、このような状態を評して、「株式市場は、
不正な手段で操られている(rigged)」とした。
 そして、カツヤマ氏はさらに様々な調査を
行った上で、HFTの取引戦略を3種類に分
類した。その1つは、ある証券取引所に新た
な注文が到着したことを注文板の動きから確
認し、その注文が他の証券取引所にも送られ
ると推定した上でそれを待ち構えるというも
のである。もう1つは、指値注文を執行して
もらうことで得られるリベートを獲得すると
いう取引戦略である。最後のものは、証券取
引所をまたぐ裁定取引である。取引所それぞ
れで異なった価格が提示されていた場合、そ
のサヤを抜くのである。なお、これらの取引
(図表1)カツヤマ氏が直面した問題
カツヤマ氏からの
株式注文の情報
株式注文の発注







カツヤマ氏バッツ証券取引所HFT 業者
A 証券取引所
B証券取引所
C証券取引所
(出所)筆者作成
6 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
戦略を実行するに当たっては、通信スピード
の迅速性が死命を制するといって過言では無
い。従って、HFT業者は交換機やコンピュ
ータの機種、証券取引所へと繋がる通信経路
などに関して細心の注意を払い最高の迅速性
を実現しようとしている。
⑵ HFTと証券取引所の関係
 一方、証券取引所も取引量のほぼ半分を占
めるHFTからの注文を取り込むために様々
な便宜を図っている。便宜の基本的なパター
ンを分類すると、HFTの通信スピードの迅
速性を増大させるもの、注文を執行する順序
において有利な位置を得やすくするものに大
別される。当然ながら、いずれも株式取引に
係る制度を遵守することが条件となっている。
 前者については、我が国においても既に提
供が始まっているコロケーション・サービス
が挙げられよう。これは、証券取引所の取引
システムを備えるデータセンター等の近くに
証券会社の取引システムを設置して接続した
上で売買の受発注を行うというサービスであ
る。取引システムの間近で売買の指示が出せ
るため、ネットワーク上の通信スピードの高
速化が図られる。従って、様々な取引処理の
応答時間の短縮化が可能となるのである。
 後者については、特殊な取引注文の形態が
指摘される。その1つである「ハイド・ノッ
ト・スライド」(hide not slide)について簡
単に説明したい。これを利用して指値注文を
発注した場合、その証券取引所のみでしか執
行できないことになる。また、他の証券取引
所でそれと対当する注文があった場合、発注
を受けた証券取引所はそれを注文板に反映さ
せない(注1)。そして、他の証券取引所の対
当する注文が無くなって初めて、「ハイド・
ノット・スライド」で発注した注文が注文板
に表示されることになるのである。その場合、
それは最も優先度の高い指値注文となってい
るであろう。つまり、指値注文を執行しても
らうことで得られるリベートを獲得するとい
うHFTの取引戦略が実行しやすくなるので
ある。
⑶ 米国株式市場におけるHFTの現状
 さて、株式取引を行う上で多くの優位性を
持つHFTであるが、米国における存在感は
どの程度であろうか。調査会社タブ・グルー
プによると、2013年におけるHFT業者の米
国での株式取引全体に占める割合は50%弱と
いった水準になっている。これは、ピークで
あった2009年の61%と比較すると低下傾向に
あると言えるだろう(図表2)。HFT業者の
取引高は、黎明期であった2005年頃から2009
年まで急拡大したが、その後頭打ちとなって
いる。つまり、米国株式市場におけるHFT
の存在感は伸び悩んでいるのである。
 HFT業者によって計上された利益水準に
ついては、もっと厳しい状態にあるようだ。
こちらもの調査会社タブ・グループのものだ
が、2009年に50億ドル近くまで増加したもの
の、2012年では、10億ドル強まで急低下して
7 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
いる(図表2)。2012年10月14日ニューヨー
ク・タイムズ紙上において、この理由として
HFT業者が行った取引額が減少する一方で
コストが増大していることを挙げている。特
にコストについては、情報関連投資がかさん
でいるとする一方で、他のHFT業者との競
争に勝ち抜くためには必要不可欠であると述
べている。
■3.ニューヨーク証券取引所
上場銘柄における長期的な
取引コストの変化
 次に、HFTが登場する背景となった情報
化が米国の株式市場へ与えた影響を長期的な
視点から眺めて見る。特に投資家が支払う取
引コストは、情報化を評価する上で重要であ
る。ニューヨーク証券取引所上場銘柄につい
ては、1970年代頃から取引コストの計測が行
われており、ここではその長期的な変化をト
レースする。なお、取引コストとしては、気
配スプレッド(注2)と実効スプレッド(注3)
を利用する(図表3)。
 気配スプレッドについては、Cohen and
Conroy[1990]によると1980年代の初めに
0.253%程度であった。続くBattalio[1997]
の1980年代後半では約0.173%となっている。
これは、Cohen and Conroy[1990] や
Battalio[1997]が指摘しているが、第3市
場(注4)の参入効果があったためであるかも
しれない。ただし、Battalio[1997]の標本
は第3市場の業者が好む流動性の高い銘柄に
偏っていると想定され、市場全体の気配スプ
レッドはもう少し高かったと考えられる。
2000年を対象としたKam et al.[2003]では、
0.144〜0.181%となっている。これらの結果
から、2000年頃までは気配スプレッドがある
程度のペースで低下した時期であったと言え
(図表2)米国におけるHFT業者の株式取引に占める割合および計上した利益
2
4
6
8
10億株
’05
0
米国における1日当たり
全株式取引高
HFT業者による売買高計上した利益
’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12
21%
1
2
3
4
10億ドル
’08
0
’09 ’10 ’11 ’12
26%
35%
52%
61%
56%
55%
51%
米国におけるHFT業者による
1日当たり株式取引高
全HFT業者の年間利益額
(最大評価ベース)
(資料)ニューヨーク・タイムス
(出所)タブ・グループ
8 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
るだろう。その理由としては、この期間にお
いてニューヨーク証券取引所の競争力を急激
に低下させるような制度変更等の環境変化は
存在せず、取引シェアも全くと言って良い程
変化は見られなかったことから、真剣に競争
すべき相手を見いだせなかったことが挙げら
れよう。言い換えれば、総合気配表示システ
ム(注5)のデータに基づいて値付けを行う第
3市場は、ニューヨーク証券取引所に対して
価格形成という面で寄生しているに過ぎない
存在であったと評価される。
 しかしながら、2000年代になると状況は一
変する。Weaver[2011]によると気配スプ
レッドは、2010年において0.036%まで急低
下しているのである。これは、2000年と比較
して1/4〜1/5の水準である。その理由
(図表3)ニューヨーク証券取引所上場銘柄の取引コストの推移
論文名期間対象
気配スプレッド
(ドル)
実効スプレッド
(ドル)
Cohen and Conroy[1990] 1981年5月〜1983年6月3027銘柄0.253341) ー
Lee[1993] 1988年1月〜1989年12月500銘柄ー0.184〜1942)
Battalio[1997] 1988年1月〜1990年12月3)
81銘柄(1988年)、
117銘柄(1989年)、
129銘柄(1990年)
0.1734014) 0.1406〜0.23205)
Kam et al.[2003] 2000年4月〜2000年6月1671銘柄0.144〜0.1816) 0.102〜0.1277)
Weaver[2011] 2010年10月1456銘柄0.0368) 0.0559)
(注)
1)各月取引初日の終値ベースの気配スプレッドを銘柄毎に計算した後に平均している。原著では19c−3適用銘柄等6
グループ毎の平均値のみ記載されており、ここでは筆者が全体の平均値を再計算している。
2)取引毎の実効スプレッドの平均値。原著では流動性プレミアムを算出しており、ここでは筆者がその値を2倍して
実効スプレッドへ再計算している。また、原著では1988年、1989年の2グループ毎で計算していたため、それぞれに
ついて示している。
3)厳密には、この期間は検証の対象となった銘柄についてのバーナード・マドフ証券投資会社が取引に参入したタイ
ミングを意味している。取引コストの計算に利用されているのは、各銘柄について同証券投資会社が取引に参入した
タイミングの前後15日である。
4)気配スプレッドの時間加重平均値。
5)取引毎の実効スプレッドの出来高加重平均値。原著では流動性プレミアムを算出しており、ここでは筆者がその値
を2倍して実効スプレッドへ再計算している。また、原著では、気配スプレッドが1/8、2/8、3/8、バーナ
ード・マドフ証券投資会社取引参入前後の組み合わせである6グループ毎で計算していたため、その中の最小値、最
大値を示している。
6)気配スプレッドの時間加重平均値。原著では、19c−3適用と非適用、390条廃止前後の組み合わせである4グルー
プ毎で計算していたため、その中の最小値、最大値を示している。
7)取引毎の実効スプレッドの出来高加重平均値。原著では、19c-3適用と非適用、390条廃止前後の組み合わせであ
る4グループ毎で計算していたため、その中の最小値、最大値を示している。
8)気配スプレッドの時間加重平均値。
9)取引毎の実効スプレッドの出来高加重平均値。なお、原著ではTAQベースとルール605ベースと2通り算出してい
るが、他と同様の計算方法を用いている前者を示している。
(出所)各種資料より筆者作成
9 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
としては、3点指摘できる。1点目としては、
市場および市場関係者の情報技術の活用が挙
げられよう。市場参加者はスマート・オーダ
ー・ルーティングを通じて全ての市場の気配
値を一瞬のうちにチェックして最も有利なも
のを簡単に選択できるようになり、有利な指
値注文の執行可能性が一層高められたのであ
る。これは、不完全であった市場間取引シス
テムに代わって、市場参加者側からの対応で
あったとも言えるだろう。2点目としては、
取引所の多くが執行された指値注文に対して
リベートを提供し始めたことが指摘される。
これはより執行されやすい指値注文の発注を
促す効果をもたらし、気配スプレッドを縮小
させたと考えられる。なお、このような手数
料体系も情報技術の活用によって可能になっ
たと言える。つまり、市場運営者にとって、
指値注文は注文板を厚くするというメリット
がある一方、手作業の場合において成行注文
と比較するとより管理に手間がかかるという
デメリットがあった。管理が電子化されるこ
とで、後者が無くなり、前者を生かそうとす
る手数料体系になったと考えられる。3点目
としては、レギュレーションNMSの実施が
指摘される。このルールによって、立会場で
あるために提示が遅れるニューヨーク証券取
引所での気配値が最良であるかについて気に
する必要が無くなったのである。以上から、
投資家は同証券取引所以外の自動執行可能な
市場により多くの注文を送ると同時に取引相
手に対してより有利な指値を提示するように
なったのである。これはまた、気配スプレッ
ドの水準を決定する主導権が、同証券取引所
から離れて行ったことを示唆していると思わ
れる。
 実効スプレッドについては、1980年代後半
にLee[1993]が0.184〜194%、Battalio[1997]
が0.1406〜0.2320% としている。それが、
2000年について検証したKam et al.[2003]
では、0.102〜0.127%となっている。こちらも、
1990年代を通じて低下傾向を示していると言
えるだろう。これは、気配スプレッドが低下
していることも一因になっていると考えられ
る。
 さて、2000年代であるが、Weaver[2011]
によると、実効スプレッドは0.055%まで大
幅に低下する。これは、気配スプレッドと同
様である。ただし、Kam et al.[2003]では、
実効スプレッドが気配スプレッドを下回る傾
向にあったのに対して、Weaver[2011]で
はそれと反対の関係となっている。これは、
最良気配値の間で価格が決定する取引の割合
が減ったことを意味している。見方を変えれ
ば、縮小する気配スプレッドによって収益性
が低下する中、ニューヨーク証券取引所のス
ペシャリストは余裕の無い状態に追い込まれ
ていたと判断されよう。
 以上のように、情報化に対する市場参加者
の適応および制度の対応によって、投資家の
支払う取引コストは格段に下落したと言える
だろう。ただし、HFTの果たした役割につ
いては、不透明であることも確かである。
10 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
■4.HFTはマーケット・メー
カーの役割を果たせるのか
 株式取引のみならず多くの市場において、
マーケット・メーカーは存在する。マーケッ
ト・メーカーとは、売値と買値を提示して顧
客からの取引に応じることで収益を獲得する
というビジネスを行う業態である。一見、右
から左へとモノを動かすだけで稼いでいるよ
うに思えるのだが、経済学的な意義という見
地から重要な役割を担っていると評価されて
いる。具体的には、必ずしも取引相手を即座
に見つけられるとは限らない中、それに対応
することで市場に流動性を与えているのであ
る。
 ニューヨーク証券取引所の立会場において
も、指定マーケット・メーカー(以前のスペ
シャリスト)が取引に参加している。彼らは、
同証券取引所から割り当てられた銘柄につい
て最良の売値と買値を提示し、場合によって
はそれに応じることを義務付けられている。
一方、その役割を果たすために様々な特権が
与えられているのも確かである。その中で最
も大きい利点は、投資家からの注文の内容や
注文板の状況を最も早く知ることができると
いうものだろう。これらの特権によって、指
定マーケット・メーカーの期待利益はプラス
になっているのである。つまり、株式流通市
場の目的である流動性の供給を達成するため
に、指定マーケット・メーカーがビジネスと
して成立するよう特権を与えていると考えら
れる。また、取引を行う上での公平性は、目
的を達成するための手段に過ぎず、完璧なも
のではないと判断されているのかもしれな
い。
 一方、HFTは指定マーケット・メーカー
といくつかの類似した点を持っていると思わ
れる。その1つは、先んじて投資家からの注
文の内容や注文板の状況を把握して取引を行
うという点である。
 さて、その優位性が指定マーケット・メー
カーの担っている役割を果たしているのだろ
うか。『フラッシュ・ボーイズ』で指摘され
ていたHFTが実行する3つの取引戦略を下
敷きにしながら考察を加えてみたい。それら
取引戦略の中で指値注文を執行してもらうこ
とで得られるリベートを獲得するというもの
は、指定マーケット・メーカーによる最良の
売値と買値を提示するという義務を代替して
いるかもしれない。つまり、HFTは最良の
気配値となる指値注文を発注し、それが執行
された報酬としてリベートを得ていると考え
ることができる。証券取引所をまたぐ裁定取
引については、市場間の価格の不一致を是正
する役割を果たしていると言えるだろう。
 ただし、大きな違いとして、指定マーケッ
ト・メーカーに対しては証券取引所が課す自
主規制が存在するのであるが、新たに登場し
たHFTへのそれは不十分であるという点が
挙げられる。また、規制の実施についても、
立会場で仕事を行う指定マーケット・メーカ
11 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
ーは衆人環視にさらされているのに対して、
HFTはそのような状況でないために困難で
あるのかもしれない。その意味では、HFT
が野放図に振舞う可能性を否定できない。
 現在、ニューヨーク証券取引所の立会場の
取引は、同取引所上場銘柄に占める割合に限
って見ても20%弱まで落ち込んでいる。つま
り、指定マーケット・メーカーによって十分
な流動性を供給できる状態にはないと判断さ
れよう。HFTがその代替を果たせるような
んらかの方法で規律付けすることが、より流
動性の高い株式流通市場を構築するためのカ
ギになるのかもしれない。
■5.おわりに
 カツヤマ氏は、新たなPTSであるIEX
(Investors Exchange)を2013年10月25日に
立ち上げた。このPTSの売り物は、HFTの
影響を受けないように工夫されていることで
ある。そして、その点を評価した大手の投資
銀行から多額の注文が舞い込み始めたという
ところでこの物語は終わっている。取り敢え
ずのハッピー・エンドと言えるだろう。ただ
し、現実においては巨額の取引量を誇る
HFTにとって有利な仕組みを持つ証券取引
所が存在しており、それらと競争を行わなけ
ればならないのも確かである。さて、最終的
な勝者はどちらとなるだろうか。以上のよう
な状態は、情報化という新たな技術を手にし
た我々にとって、どのような市場構造が株式
取引に最も適しているのかについて様々な実
験を行っている途上にあることを意味してい
るのであろう。
(注1) 証券取引所等全体で最良の売り気配値と買い
気配値が表示上同一になるといった状態は、ロッ
クト・マーケット(locked market)と呼ばれ、制
度上禁止されている。
(注2) 最良の売り気配値と買い気配値の差。取引コ
ストの代理変数とされるのは、株式を売り気配値
で購入して買い気配値で売却すると想定すると、
その差額である気配スプレッド分を投資家が負担
することになるからである。
(注3) │株価−最良気配値の仲値│×2。最良気配
値の仲値は株価が付く直前のものを用いる。株価
と最良気配値の仲値の差は、取引が行われるきっ
かけとなった注文に対して見積もられた情報の価
値の部分とその注文に応じた市場関係者が負う
様々なコストの部分の合計と見なされる。
(注4) 証券取引所外で業者がマーケット・メークを
通じて主に機関投資家と取引を行うというもの。
(注5) 各証券取引所など市場の最良気配を統合して
提供する情報システム。1975年に制度化された証
券取引所法の第11A条に基づき整備された。
【参考文献】
・(公益財団法人)日本証券経済研究所[2013],『図説
アメリカの証券市場2013年版』,(公益財団法人)日
本証券経済研究所。
・福田 徹[2014],「ニューヨーク証券取引所上場銘
柄における取引市場分散化と取引コスト」『証券経済
研究』,公益財団法人 日本証券経済研究所,3月号。
・Battalio, H. Robert[1997],“Third market broker―
dealers:Cost competitors or creamskimmers?”,
Journal of Finance 52, pp.341―52.
・Bodek, Haim[2013], Problem of HFT:Collected
Writings on High Frequency Trading & Stock
12 月
刊 資本市場 2014.5(No. 345)
Market Structure Reform, Createspace.
・Cohen, Kalman J. and Robert M. Conroy[1990],“An
Empirical Study of the Effect of Rule 19c-3”, Journal
of Law and Economics 33 pp.277―305.
・H a r r i s , L a r r y [ 2 0 0 3 ], T R A D I N G A N D
E X C H A N G E S:M a r k e t M i c r o s t r u c t u r e f o r
Practitioners , Oxford University Press.(宇佐美洋監
訳[2006],『市場と取引(上)』,東洋経済新報社)
・Kam Tai-Kong, Venkatesh Panchapagesan, and
Daniel G. Weaver[2003],“Competition among
markets:The repeal of Rule 390”, Journal of
Banking & Finance, 27, pp.1711―1736.
・Lee, Charles M. C.[ 1993],“Market Integration and
Price Execution for NYSE-Listed Securities”, Journal
of Finance, 48, pp.1009-1038.
・Lewis, Michael[2014], Flash Boys, W.W. Norton &
Co.
・Patterson, Scott and Jenny Strasburg[2012],“How
‘Hide Not Slide’Orders Work”, The Wall Street
Journal 18th September.
・Popper, Nathaniel[2012],“High-Speed Trading No
Longer Hurtling Forward”, The New York Times
14th October.
・Weaver, Daniel,[2011],“Internalization and Market
Quality in a Fragmented Market Structure”,
Working Paper.
1


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