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香港経済の中心「セントラル」を占拠しよう! という民主化運動が拡大中(筆者撮影)
香港の日系企業が抱える新たなリスク。「民主化運動反対声明」求める中国政府からの「踏み絵」、どうする?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39366
2014年05月27日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
日本では、「中国の政情不安」と言うと、新疆ウイグル自治区やチベットの少数民族のテロ行為が注目されている。しかし、事はそれほど単純ではない。実際には、中国各地に予断を許さない火種が存在するからだ。
■香港でも広がる「民主化運動」
そうした火種のひとつが、1997年の中国への返還後もアジアを代表する国際金融センターとして繁栄を続け、外国企業として米国を抑えて最も多い数の日本企業が進出している香港だ。
この地域では、「1国2制度」を掲げて返還後50年間にわたる広範な自治を容認しているはずながら、香港政府のトップ「行政長官」は間接的な制限選挙で選ばれ、これまで中国政府(北京)に友好的な人物が就くことが常態となっていた。
2017年の次回選挙へ向けて、普通選挙の導入を求める運動を活発化する民主化推進派の『オキュパイ・セントラル(中環地区を占拠せよ)』と、この運動を抑え込もうとする北京の神経戦が激しく繰り広げられているのだ。
今週は、先週末にかけての3日間(5月22日〜24日)、日系経済団体幹部向けの講演のために、当地を訪れた筆者が現地で見聞した、中国政府の抑え込み活動の一端をリポートしたい。最前線にいる日本企業が、中国の政情不安に巻き込まれかねないリスクを抱えているというのである。
■習体制のメンツがつぶれた新疆ウイグル自治区爆弾テロ
自衛隊機への中国軍戦闘機の異常接近、新疆ウイグル地区のウルムチでの爆弾テロ、そして、南シナ海における中国側の石油採掘作業本格化に伴う中国、ベトナム両国の艦船の衝突の繰り返し・・・。このところ、新聞やテレビには、中国の脅威と政情不安を伝える記事が溢れている。
ざっくりまとめると、戸籍を軸に簡単には越えられない職業と身分の壁のある社会を形成してきた中国が、過剰生産設備を抱えて経済成長の維持が難しくなる中で、民衆の不満を外に向けようとしているものの、辺境の少数民族を中心に不満が高まっているという構図が報じられていると言っていいだろう。
今回の香港訪問中、最初の夜(22日)に筆者が耳にしたのは、そうした構図の一局面としてとらえられる事件だった。「新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市内でテロがあり、その爆発で31人が死亡、94人が負傷したと、国営新華社が伝えている」というものだ。翌23日にかけて、日本の新聞でも大きく報じられたテロ事件である。
現地の受け止め方は、日本での報道以上に深刻だった。というのは、ウルムチでは4月30日にも、習近平国家主席が視察をした直後だったにもかかわらず、約80人が死傷する爆発事件があり、肝いりで警備を強化している最中により多くの人々が死傷する事件が再発したからだ。
力によるテロの抑え込みを目指してきた習体制は完全にメンツを失った格好で、2012年11月に「中国共産党総書記」に選出された習氏の命脈は「1期5年限り。再選は難しい」といった観測まで流れていた。
■中国経済減速で高まる民衆の不満
爆弾テロほど深刻化していないものの、中国全土で民衆の不満は高まっている。その最大の原因は、経済の減速だ。
リーマンショックや新興国の成長鈍化で浮き彫りになった製造業の過剰生産体制の見直しで、中国の主要企業はおしなべて設備投資の抑制を余儀なくされている。
地方政府の不動産開発投資も限界だ。資金調達に利用され、多くの資産家が投資した理財商品のデフォルトのリスクも高まっている。
このため、中国政府は、積極的に公共事業を展開。2014年度に年率6〜7%と、日本とは比べものにならない高い成長を目指している。とはいえ、6〜7%という成長率は、かつての高成長と比べれば大幅な減速である。
失業率が高く、貧富の格差の激しい中国経済にとっては、この成長率では焼け石に水と言わざるを得ない。日本ではあまり報じられないが、深圳や広州など矛盾を抱える地域は多い。
■日系企業の進出が加速する香港
問題があると言う意味では、1997年に英国から返還された香港も例外ではない。
現在、香港に取材の拠点を置いている日本の大手メディアは、時事、共同の通信社2社と日本経済新聞社ぐらい。その他の全国紙などは、撤退や他地域の拠点と統廃合をしてしまい、現地からの報道は激減している。
その情報不足とは対照的だが、香港にカムバックして現地経済にコミットする日本企業は着実に増えている。
香港の成長率そのものは年率2〜3%と中国本土より大幅に低いものの、尖閣諸島を巡る日中間の対立の激化によって中国本土における反日感情が高まっており、相対的なリスクが低下していることや、東京やシンガポールと並ぶアジアの国際金融センターとして多くの欧米金融機関が軒を並べていることを評価する日本企業が増えているからだ。
昨年、香港を拠点とする家具製造販売会社Salottoグループの発行済み株式を100%取得して子会社化した岡村製作所や、2011年に海外事業の拡大を目的に100%出資会社「内田洋行グローバルリミテッド」を香港に設立した内田洋行は、そうした企業の典型的なケースだ。
また、新たな輸出産業として注目を集め始めている「食」の分野では、2010年創業で、日本米を使ったおにぎりの販売する「百農社」のように、香港を中心に多店舗展開を目指す企業も登場している。
こうした結果、現在、現地の商工業団体の加盟社数は、国別に見て、日本が1369社と2位の米国に40社前後の差をつけてトップの座にあるという。
真の「1国2制度」を目指す「オキュパイ・セントラル」
ところが、ここにきて、こうした日本企業に政情不安の影が忍び寄っている。
現地の外交・経済筋によると、地道な経済活動を進める日本企業を巻き込みかねない火種がくすぶっているというのだ。
その元凶が、2017年の香港政府の行政長官選挙で本格的な普通選挙の実施を求める民主化推進派『オキュパイ・セントラル』と、中国政府の対立だ。
これまで香港政府の長官は、少数の親中派ビジネスマンらで構成する選挙委員会の投票で決まってきた。中国政府は、次回選挙で普通選挙を導入する代わりに、事前の候補者選びに介入して反中派の候補を出馬させない方針を示しており、『オキュパイ・セントラル』派との対立が深まっているのだ。
『オキュパイ・セントラル』は、「1国2制度」の看板を掲げながら、香港の広範な自治には慎重な中国政府に対する抗議活動だ。
発起人は、香港大学法学部教授の戴耀廷氏らで、今年1月には香港警察の発表でピーク時に1万1100人が参加するデモを繰り広げた。
ここで言う『セントラル』は、香港島中心部の『中環』地域を指す地名だ。
この地区は、高層ビルが立ち並び、多くの海外企業が集まる商業地域で、国際金融センターでもある。
交通の面でも、香港国際空港からの直通列車や地下鉄がいくつも乗り入れる要衝となっている。
日本ではほとんど報じられないが、現地では、どちらかと言えば、中道の論評を掲載することが多い現地紙『南華早報』が『オキュパイ・セントラル』に厳しい批判記事を頻繁に掲載する一方で、アメリカの『USNews』が『オキュパイ・セントラル』を香港の正当な民主化運動として幅広い支持を求める論調を展開するなど、議論が沸騰しているのが現状だ。
■民主化運動批判声明を迫られる日系経済団体
こうした中で、水面下で、現地の日系経済団体が、この『オキュパイ・セントラル』を名指しで批判する声明に名前を連ねることを要求されている。
関係筋によると、親中派の団体はもちろん、フランス系などはすでに承諾しており、英米の団体も追随する方向にあることを根拠に、日系団体も乗り遅れないよう早急に署名することを迫られているというのである。
ただ、日系団体としては、いずれの主張にも与せず、政治的な動きと一線を画したいというのが本音だ。
もちろん、経済的な混乱を引き起こすような運動を支持する考えはないが、「1国2制度」を中国政府がないがしろにして、香港における自由な経済活動が阻害されかねないリスクにも懸念を抱いている。とはいえ、日系団体だけが突出したり、取り残されたりすることも危惧せずにはいられないという。
それだけに、まずは、現地の日本外交筋にも協力を依頼して、米、英、仏などの各団体や外交筋の対応などの情報収集に本腰を入れる方向だ。
嫌中派の台頭によって、親日感情の高まりが著しい香港と言えども、中国の最前線であることには変わりない。高温多湿の厳しい気候の中で、現地の日本経済界は懸命の生き残り策を探っている。
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