05. 2014年5月27日 16:26:32
: e9xeV93vFQ
コラム:「リスクオンの円安」は健在、日本株も反発へ=亀岡裕次氏 2014年 05月 27日 15:03 JST 亀岡裕次 大和証券 チーフ為替ストラテジスト[東京 27日] - ドル円は101円台へと下落してきたが、これは「円高」というよりも「ドル安」という側面が強い。 ドル円をドルの実効為替レート(米国の貿易額を基に加重平均した26カ国・地域の通貨に対するドルの為替)とそれ以外(円に対する26カ国・地域加重平均通貨の為替。26カ国通貨には円も含まれるが、クロス円にほぼ近い)に分解すると、2月初め以降は前者の下落が寄与しており、後者はむしろ上昇傾向を維持していることがわかる。 <クロス円上昇はリスクオン基調を示す> クロス円レートが上昇傾向を維持していることは、市場がリスクオン志向の下で円安傾向を維持していることを意味する。これは、世界的に総合してみると、景況感の回復傾向を背景にして株価や商品相場が上昇傾向にあることとも符合する。 そもそも、ウクライナなどの地政学リスクなどによってリスクオフの円高圧力が増大しているとは言いがたく、状況はむしろその逆だ。ロシアは、親ロシア派がウクライナからの独立を志向していることに肯定的ではあっても、ウクライナ政権と軍事的衝突を起こすなどして欧米からのさらなる経済的制裁を招き、それへの対抗措置としてウクライナや欧米諸国へのエネルギー供給停止を行う意志はないとみられる。 すでにウクライナ問題の影響を受けて減速しているロシア経済にとって、エネルギー供給停止は経済的なダメージがあまりにも大きすぎ、そこまでしてロシア領土の拡大を志向するメリットは全くないからである。したがって、今後も地政学リスクが円高要因として増大していく可能性は極めて低いと考えられる。 日銀の追加緩和期待の後退が4月上旬の金融政策決定会合後に円高をもたらしたが、円高要因として拡大していく可能性は低いだろう。第一に、日銀追加緩和への期待はすでにかなり後退したために、さらなる後退が円高をもたらす余地は小さい。米国のように量的緩和を縮小するとの期待が高まれば別だが、そうなる可能性は当面低いだろう。 第二に、日銀が国債買い入れペースを拡大するような追加量的緩和の可能性は低いが、2015年も量的緩和を継続する姿勢を示すことが、円安に作用する可能性がある。米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和を縮小・停止させる見込みの米国に比べ、日本のマネタリーベースの相対的な増加が続くことになるからだ。 第三に、日銀が新規国債発行額の多くを保有するようになったために国債市場での売買が成立しにくくなっていることが、他の主体に国債からリスク性資産への運用シフトを促し、リスクオンの円安に作用する可能性がある。銀行・保険などの民間金融機関は国内債券運用を減らし外国証券運用を増やし始めている。公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などが国内債券運用を減らして内外株式や外国債券での運用を増やすことで、そうした流れは加速しそうだ。日銀が資産買い入れペースを拡大させなくても、ポートフォリオリバランスによるリスクオンの円安効果が存続していくだろう。 <米金利低下によるドル安は終息方向> 一方、ドル実効為替レートが下落している理由は、二つある。リスクオンが招くドル売り、資源・新興国通貨買いと、FRB当局者のハト派的発言などによる米金利低下である。 前者は、中長期的に続く可能性がある。リスクオンが続く限りにおいては、資源・新興国通貨高、ドル安傾向となりやすく、商品相場が上昇基調となると、なおさらだ。足元では欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が6月に金融緩和を行う用意があると示したことから、ユーロが対ドルで下落しているが、中長期的にはリスクオンの下でユーロ高・ドル安傾向となりやすい。 ただし、リスクオンの下では、ドルに対して多くの通貨が上昇しやすい一方で、円は下落しやすい。通貨先物でも多くの通貨が対ドルで買い持ちであるのに対し、円は売り持ちとなりやすく、現在もそうしたポジションにある。つまり、「リスクオンのドル安(ドル実効為替の下落)」は「リスクオンの円安(クロス円の上昇)」によって相殺されて余りある状況となりやすく、ドル円下落の要因とは言いがたい。 そうなると、「米金利低下のドル安」がドル円下落の要因であり、これが今後を左右することになる。3月にイエレンFRB議長が資産買い入れ終了から利上げ開始までの「かなりの期間」を「おそらく6カ月程度」と述べた後に高まった利上げ期待は、それを打ち消すようなハト派的発言によって後退した。FRB議長は、労働市場の著しい緩みや低インフレを踏まえると極めて緩和的な政策が正当化されるとの考えを示し、株価や住宅価格は正常範囲内とも述べた。15年6月よりも近い限月のフェデラルファンド(FF)先物金利は最低水準にまで低下するなど、利上げ期待の後退がドル円低迷の一因となった。 ただし、一方でFRB議長は、16年終盤までに完全雇用を回復して、インフレも目標に近づくとの見方を示し、景気回復とともにFF金利は上昇する必要があるとも述べた。こうしたことから、当面の利上げが抑制される一方で中長期的な経済見通しやインフレ見通しが高まり始めている。 期待インフレ率は4月中旬以降にやや上昇し、NYダウは5月に入り最高値を更新した。米国では景気回復を背景に株価が上昇傾向にあり、それに追随して長期金利は上昇しやすい状況となっている。6月に利下げが予想されているECBの追加緩和観測による金利低下圧力も一巡したので、米金利は底打ちするだろう。そして、ドル実効為替の下落が緩やかになると同時に、ドル円が上昇していく可能性が高い。 <ドル円とともに日本株も反発へ> ドル円の200日移動平均値は101円程度の水準にある。過去には、ドル円がトレンドを維持する場合は200日移動平均近くで反転するケースが多い。5月21日には一時100.80円まで下落したが、26日には102.04円まで反発した。やはり、今回も200日移動平均の近辺で底打ちした可能性が十分にある。 ドル円為替水準に対する日経平均株価水準は、過去の傾向からすると下限に近い水準にある。円高が顕著に進まない限り株価が下落しにくいだけでなく、円安が進行すると、株価が過去の傾向(1円の円安・ドル高で330円程度の日経平均株価上昇)に比べ、さらに大きく上昇しやすいとも言えるだろう。クロス円に比べて上昇が鈍かったドル円が上昇することで、米国に出遅れていた日本の株価も相対的に上昇するようになるだろう。 *亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。 アングル:日銀副総裁が物価上振れ時の緩和縮小に言及 2014年 05月 27日 15:06 JST [東京 27日 ロイター] - 日銀の岩田規久男副総裁が26日の講演で、物価が目標の2%を超え続けるようなら現行の量 的質的金融緩和政策(QQE)を縮小すると発言した。物価が上がり出した今年に入って、日銀首脳が具体的な条件を明示し 緩和政策の縮小(テーパリング)の可能性に言及したのは初めて。 黒田東彦総裁は、出口政策の検討は時期尚早と明言しているが、QQEの先行きをめぐり、日銀とマーケットとの間の「対話」が 静かに始まる兆しがある。 <日銀は昨年来「上下」のリスクに言及> 岩田副総裁が、物価上振れ時の緩和縮小に言及するのはこれが初めてではない。大胆な金融緩和によるデフレ脱却を主張 するリフレ派の代表的な論客である岩田副総裁は、巨額な国債買い入れのリスクに対する懸念をけん制するためにも、物価目 標は物価が上振れる際はブレーキとして作用すると昨年から繰り返し指摘してきた。 昨年8月には「2%の物価目標を安定的に達成すれば、政府から要請があっても国債を買わない」(京都市での講演)などと述 べている。 中央銀行が物価目標を目安に金融政策を運営するインフレ目標政策は、高インフレに悩まされてきた国などで、物価を円滑 にコントロールすることを目的に考案された仕組み。 日本では、同じ仕組みを利用しながら、デフレからマイルドなインフレに移行させることを目的に採用した。デフレ脱却を主眼にした インフレ目標政策の採用は、世界で初めてと言える。 日銀は昨年4月のQQE導入以来、物価が目標を上回る場合と下回る場合をまとめて「上下双方向のリスク」と呼び、その場合 は政策を調整すると繰り返してきた。 ただ、民間エコノミストの多くは、日銀が主張する2%の物価目標は達成が困難とみているため、物価の下振れによる追加緩和 はあっても、上振れによる緩和縮小は考えにくいとの見方が主流だった。 <「思いのほか早く」需給ギャップ縮小> しかし、ここにきて日銀は2015年度の物価目標達成に自信を深めている。2013年度は輸出の低迷が続いたにもかかわら ず、物価は日銀の見立て通り順調に上昇を続けた。 少子高齢化などを背景にした人手不足などで、国内の供給余力が想定より小さく、輸出低迷という需要下押し要因にもかかわ らず、賃金上昇などを通じて物価が上昇している形だ。 26日に公表された4月30日分の日銀金融政策決定会合議事要旨によると、何人かの委員が、需給ギャップの縮小について「 思いのほか速いペース」と指摘した。 日銀の試算によると、需給ギャップは昨年10─12月の時点でほぼゼロまで解消。今年1─3月はプラスに転じ、4─6月も増税駆 け込みの反動はあるもののプラスを維持するとみている。 日銀とは試算方法が異なるためギャップが大きめに出る内閣府の試算でも、1─3月はマイナス0.3%とほぼゼロとなり、リーマン・ ショック前の水準に戻った。 <識者からデフレ脱却発言相次ぐ> 一方で、日銀は5月20─21日の金融政策決定会合の声明文から「(金融緩和が)デフレからの脱却に導くものと考えている 」との文言を削除し、一部債券市場関係者からは日銀の「静かなデフレ脱却宣言」と受け止められた。 岩田副総裁は26日の講演で「金融政策は需給ギャップを絶えず埋めることはできるが、潜在成長率を引き上げることはでき ない」と指摘。需給ギャップ解消は日銀、成長率引き上げは政府、との役割分担をあらためて強調した。 安倍晋三首相のマクロ経済政策のブレーンである浜田宏一・内閣官房参与(イエール大学名誉教授)は、需給ギャップが解消 した後は「潜在成長力が引き上がらないと金融緩和は物価上昇のみをもたらす」と指摘。金融緩和は需給ギャップの解消にこそ 有用で、インフレリスクにも留意すべきとの見解を表明している。 元日銀理事の 早川英男・富士通総研エグゼクティブ・フェローも、デフレはすでに脱却しつつあり「もはや需要を刺激すべき局面 ではない」と20日に開かれたロイター日本投資サミットで主張している。 <来年の資産買い入れめぐり憶測も> こうした中での岩田副総裁の今回の発言は、物価上昇率が前年同月比でプラス1.3%と昨年8月の講演時に判明していた1 3年6月の同0.4%から大幅に上昇幅が拡大しており、市場の受け止め方が違ってくる可能性がある。 ある国内銀行関係者は「まだ、市場は2%接近を実感していないが、今後、物価上昇率が上がってくれば、この岩田副総裁の 発言があらためて意識される可能性がある」と指摘する。 アベノミクスの支持者として知られる米ハーバード大学のジョルゲンソン教授は21日のロイターとのインタビューで、物価目標の達成 が視野に入っており「市場に準備をさせ始めるべきだ」と指摘。「日銀は段階的かつ計画的に政策を変更するということを発表する 必要がある。この先12カ月以内に起こる変化について、今期待を制御し始めても早すぎるということはない」と述べた。 日銀に近いある関係者は、中央銀行の職責上、「頭の体操」の一環として、QQEのテーパリングの方法を研究していることはある だろうと指摘する。ただ、昨年5月22日のバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長によるテーパリングの可能性に言及した発 言を受け、米金融・資本市場が大きく変動したことも、日銀は十分に研究しているはずだとし、市場との対話にはかなり入念な準 備をしてくるはずだとの見方を示した。 実際、デフレ脱却後も、物価が2%前後で安定的に推移するまでQQE継続方針を表明している日銀内で、現時点物価の上 振れや緩和縮小について真剣に検討している気配はない。 ただ、黒田総裁はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、日銀内では多くのケースについて常に研究しているとし「FRB の経験が日銀にとって非常に役立つことは間違いない」と述べている。 今後の物価上昇が日銀のシナリオ通りに進展した場合、金融政策の対応はどのようになるのだろうか──。 日銀は昨年4月のQQE導入時に長期国債などの資産買入れ予定を公表したが、それは2014年末までだ。 2015年1月以降に国債買い入れを増額するのか、それとも減額するのか、はたまた現状の買い入れペースを維持するのか。いず れかの段階で市場の思惑を呼ぶのは間違いない。物価の上昇ペースによっては、マーケットにおける追加緩和期待よりも、緩和縮 小観測が大きくなるケースもありそうだ。 (竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦) |