02. 2014年5月27日 10:21:01
: nJF6kGWndY
QEが実質的な経済への効果が無い(MF効果が非常に小さい)というのは日本のように短期ゼロ金利であれば、近似としては、そう間違ってはいないが期待(投機など)を通した効果は当然大きいし、長期金利の引き下げ効果もあるから、完全に0とは当然言えない ただし、公共事業のような財政支出が、景気刺激効果を持つことも明らか 重要なのは、アル・ナイ といった1ビットの定性的議論は止めて、定量的に、政策のコストパフォーマンスを測定し、計算し、検証することだ http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51899125.html 経済 アベノミクスできいたのは「第二の矢」だけだった リフレ派の原田泰氏が、バラマキ派の藤井聡氏を批判している。藤井氏は部分的には正しいが、原田氏は全面的に間違っている。 藤井氏は「浜田宏一氏や原田泰氏のいうマンデル=フレミング・モデルが正しいとすれば、公共事業で今ごろ金利が上がっていなければならないが、そういう現象は起こっていない」という。それは彼のあげている図の通り正しい。量的緩和で円安になって貿易黒字が増えるというMFモデルによる浜田氏の主張も、その逆になった。
ところが原田氏は「公共投資で景気を刺激したいのなら、同時に金融を緩和しなければ効果はない」という。それなら、公共事業の効果はあったのではないか。彼は「建設工事費や建設労働者の賃金が上がっているということは、その分野ではもはや資材や人は余っていないということである」というが、人手不足になったのは公共事業のおかげだ。 いま起こっている人手不足の原因は、日銀も認めるように、供給力の不足による需給ギャップの縮小である。特に震災の現場で大規模な復旧工事が続いていることが単純労働者の需給をタイトにし、サービス業の賃金が上がっている。よくも悪くも、財政政策はきいたのだ。 他方、原田氏のいう金融政策の効果なるものは何もあげられておらず、「実証的な方法によって決着をつけるのは、かなり複雑な仕事になる」という言い訳が書いてあるだけだ。物価が上がった原因は、彼も認めるように公共工事の人手不足と円安とエネルギー価格の上昇で、金融政策の効果ではない。 要するに藤井氏が指摘するように、アベノミクスできいたのは「第二の矢」の公共事業だけなのだ。これは日銀も同じ認識である。だから景気をよくすることだけが目的なら、際限なくバラマキをやればいい。もちろんそれが多くの副作用をともなうことは原田氏のいう通りだが、それはきかなかったという論拠にはならない。 http://shuchi.php.co.jp/article/1916?p=1 [アベノミクス第二の矢]ついに暴かれた公共事業の効果〔1〕2014年05月10日 公開 原田 泰(早稲田大学教授)《『Voice』2014年6月号より》 日本のGDPは公共投資が減っても増加している ケインズ政策の前提が崩れている アベノミクスの第二の矢、機動的な財政政策の効果は小さい、と議論することには反発があるようだ(本誌2014年5月号、藤井聡「ついに暴かれたエコノミストの『虚偽』」)。しかし、それが事実である以上、そう主張するしかない。 なぜ事実であると考えることができるのか、を説明する前に、アベノミクスの第一と第三の矢についても簡単に書いておきたい。これらについては、本誌2013年5月号「TPP交渉参加で甦る日本」、2014年3月号「法人税減税とTPPで復活する日本」でも書いたことだが、その後の進展もあるので、追加的に説明したいことがある。 第一の矢、大胆な金融緩和については、そうすることが確実になって以来、雇用、生産、消費、すべての経済指標が好転し、消費者物価上昇率も1%を超えてデフレ脱却が確実になっているのだから、効果のあることは明らかである。 株が上がって一部の金持ちが得をしているだけだという批判があったが、4月1日に発表された日銀短観でも、中小非製造業の業況判断(「良い」-「悪い」)が、22年ぶりにプラスとなった。公共事業拡大の恩恵を受けている建設業、砂利採取業を除いて平均を取ってもプラスになっている。これは戦後最長の景気回復となった小泉内閣下の景気回復でもなかった(だから、実感なき景気回復といわれた)。金融緩和の効果が中小企業にまで波及しているということである。 第三の矢については、成長戦略が規制緩和、貿易・投資の自由化、雇用の促進なら効果があるが、特定の産業に補助金を付けてもうまくはいかない、と私は書いた。規制緩和は重要であるが、なかなか大きな効果があるものを見出すのは難しい。女性の活用、TPP、法人税減税などは大きな効果があると私は考えているが、政府もその方向に向かって進んでいくようである。 第二の矢、機動的な財政政策については効果が小さいと書いた。その後の進展を見ると、私の正しさがさらに明らかになっている。それは、建設工事費が上がっていることである。 ケインズは、失業者がいるのだったら、穴を掘ってまた埋めるような仕事でも、失業させておくよりマシだといった。賛成はしないが、一理はある。失業者にただお金を配って生活できるようにするより、そうしたほうがよいかもしれない(もちろん、有益な公共事業をすればなおさらよい)。 しかし、建設工事費や建設労働者の賃金が上がっているということは、その分野ではもはや資材や人は余っていないということである。ケインズ政策を行なう前提が崩れている。 なぜ公共事業の効果は小さいのか 建設工事費が上昇しているということは、私が考えていた以上に効果が小さくなっているということだ。では、なぜ私は公共事業の効果が小さいと述べてきたのか。その理由は以下のとおりである。 まず第一に、公共事業をするとは、建設国債を出して建設投資をするということだから、それをしない場合より金利が上がって、民間の投資を押しのけてしまうからである。これはクラウディング・アウトといわれるものである。 第二に、金利が上がれば資本が流入して円高になる。円が上がれば輸出が減少して、公共事業の刺激効果を減殺するからである。これはマンデル=フレミング・モデルといわれるものの結果である。なお、クラウディング・アウト、マンデル=フレミング・モデルの意味するところは、「公共投資で景気を刺激したいのなら、同時に金融を緩和しなければ効果はない、もしくは減殺される」ということである。 第三に、効果の小さい公共事業をすればそれだけ将来は貧しくなるということだから、消費が減る。東日本大震災の復興工事で巨大な防潮堤や高台の団地を造成しているが、そこに住む人はいないという状況が生まれるだろう。いくら災害から守っても、守られるべき人がいなければ無駄な投資ということになる。 第四に、国の借金が増えれば将来には増税が必要になるわけだから、そのためにいま貯蓄して将来の増税に備えるので消費が減る。この説明に対して多くの読者は、そんなことは非現実的だと思われるだろうが、年金や高齢になったときの医療費、介護費などについて考えれば、それほど非現実的でもない。国の借金が巨額になれば、国家は将来の社会保障支出を賄えないので、自分で準備するしかない、すなわち、貯蓄するしかないと思っている方は多いだろう。 第五は、すでに述べた公共事業が民間の建設投資を押し出してしまう効果である。建設クラウディング・アウトと呼ぶことにしよう。日本には、東日本復興、福島原発事故の処理、東京オリンピックという、しなければならない建設工事がある。被災地域の生活を取り戻すためには、住宅と漁港や水産加工所などの再建が何よりも必要だ。福島原発から放射能が漏れないようにするためには、地下水が流れ込まないように周りを遮水壁で囲まなければならない。核燃料を取り除くためには巨大なクレーンをつくらなければならない。東京オリンピックのためには斬新なデザインの新国立競技場、その他の会場、交通インフラの追加的な建設をしなければならない。要するに、巨大な建設事業をしなければならない。 しかし不要不急の工事をすれば単価が上がって、他の必要な建設工事の妨げになる。第二の矢の財政拡大政策は再考すべきときである。東京赤坂の高級マンションで上下水道に必要なパイプを通す穴が開いていなかった事故、沖ノ鳥島に桟橋をつくる工事で死者が出た事故、これらは日本の建設業の人材が払底していることを示唆するものである。政府は、公共事業を削減するより外国人労働力によって公共事業をしようと考えているらしい。自国民の雇用をつくるためなら多少の非効率にも意味があるが、他国人のためにそうする必要はないと私は思う。 政府支出で雇用をつくるなら、できるかぎり特定の支出に偏らないほうが望ましい。特定の支出に傾けば、供給のボトルネックが生まれて価格が上昇し、雇用拡大効果を阻害する。 ついでながら、私がいつも不思議に思っていることがある。公共事業の好きなエコノミストは立場的に右派である方が多い。右派なら公共事業より防衛費増額に力を入れるべきではないか。防衛備品の製造は広範な産業を潤し、自衛官であれば希望者も多い。ボトルネックを気にすることなく、景気刺激効果を得られるはずだ。公共事業に国費を投ずれば、防衛費の増額が難しくなる。 <<次ページ>> 他の不況要因を除外して考えるべき 公共投資が増えてもGDPは増えていない 以上、ここまで本誌で26行かけてモデルの実証結果について書いたことは、専門家が面倒なことをして得た結果だから信用してくれ、といっているだけである。これでは本誌の読者には納得いただけないだろう。また、もし、財政政策や金融政策に本当に効果があるのなら、それほど面倒なことをしなくても効果のあることを示唆することはできるはずだという議論はありうる。 そこで、以上述べたことをグラフによって示したい。 図1は、1980年から95年までの実質GDP、実質公共投資(公的固定資本形成)、マネタリーベースを示したものである。図で明らかなことは、順調に伸びてきたGDPが90年代以降、停滞していることである。マネタリーベースはGDPの停滞に先立ち、伸びが鈍っている。ここから、マネタリーベースの停滞がGDP停滞の原因かもしれないと示唆される。一方、公共事業は1987年にはGDPを引き上げたと見えないこともないが、その後、伸びが停滞しているにもかかわらずGDPは伸びている。さらに、91年後半から公共事業が増加しているにもかかわらずGDPは増加していない。 図2は、1996年から2014年までのデータを示したものである。2001年から06年までマネタリーベースが増大するにしたがってGDPが増えている。ただし、2006年からマネタリーベースが減少しているにもかかわらず、GDPが減少するのはそれから2年たってからである。2年のラグは長すぎるから、マネタリーベースとGDPの関係はこの期間では強くないともいえる。しかし、アベノミクスが始まってからは、マネタリーベースの伸びがGDPの伸びをもたらしたように見える。 公共投資はグラフの期間中、ほぼ継続的に低下しているなかで、GDPは何とか伸びている。しかし、1998年のGDPの低下と公共事業の低下は連動している。また、アベノミクスが始まってからでは、公共事業の拡大と景気回復は連動している。 以上のように、グラフを見たところでは、マネタリーベースがGDPと連動している期間が、公共投資がGDPと連動している期間よりも長い。このことが、厳密な実証分析によって、金融政策は効果があるが、財政政策の効果は小さいという結論になる理由であろう。 ちなみに公共投資とGDPの関係を相関係数という統計的尺度(1であれば完全に連動し、ゼロであれば関係がなく、マイナス1であれば完全に逆に連動している)で見ると、1980〜95年では0.849、1996〜2013年ではマイナス0.886となる。相関係数がマイナスであるとは、公共投資を減少させるとGDPは増大する関係があるということである。これは図2を見れば当然の結果であろう。公共投資が減ってもGDPは増えているからである。 一方、マネタリーベースとGDPの相関係数は、1980〜95年では0.991、1996〜2013年では0.766となる。これは関係があるということである。 <<次ページ>> 2006年にも相関関係は見られる 2006年にも相関関係は見られる 以上の説明では、私は物価と財政金融政策の関係は重視していない。その理由は、1つは与えられた紙幅の制約だが、財政金融政策が重要なのは、それによって物価が上がることではなくて、実質GDPが上昇することであるからだ。財政金融政策が物価を上げるだけなら、そんな政策を発動する必要はない。 1990年代以降の政策論争で物価を上げることが課題となったのは、デフレがGDPを押し下げていることで、その克服が重要目標となったからである。その結果、財政金融政策で物価を上げ、それによって実質GDPが上がるかどうかが問題となった。しかし、金融政策の効果は、物価だけでなく、為替レートや資産価格等、多くの経路を辿って実質GDPに影響を与えるものである。そのような因果の連鎖を縷々書き連ねることには、本誌はふさわしい媒体ではないだろう(これに関心のある方は前述の原田などの論文を読んでいただきたい)。要するに、物価は中間目標で、実質GDPと雇用の拡大が最終目標である。財政金融政策に効果があるかは、実質GDPを引き上げるかどうかで判断すべきである。 しかし、1つだけ指摘しておきたい。図3は市場関係者の予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率と呼ばれるもの)とマネタリーベースを示したものである。予想インフレ率とマネタリーベースのグラフだけを見て、「予想インフレ率とマネタリーベースは2009年以降では関係があっても、それ以前では関係がないではないか」という議論がある。しかし、2006年のマネタリーベースの縮小とともに、予想物価上昇率も低下している。それを示すのが、マネタリーベースと予想インフレ率の関係を示す関係式を推計して、それから得られる予想インフレ率をプロットした線である。これによれば、マネタリーベースの縮小が予想インフレ率を引き下げたことは明らかである。 ちなみに、予想インフレ率とマネタリーベースの相関係数は、2004年から08年8月(リーマン・ショック直前まで)では、0.627となる。図から3カ月のラグがあるようなので、そのラグを付けると0.801と高くなる。 ただし、リーマン・ショックのときのインフレ率の低下はマネタリーベースでは説明できない。要するに、予想インフレ率とマネタリーベースは関係があるが、その関係式はリーマン・ショックの前と後とでは変わってしまったということである。しかし、日本の実質輸出が月次で見て4割も激減するなど、あれだけの大きな出来事があれば変わってしまうのは仕方がないではないか。 ゴーストタウンより社会保障と防衛費を 財政政策が実質GDPを引き上げない、またはその効果は小さいと考えられる5つの理由を挙げた。たしかに、高度成長期には公共事業の効果は大きかっただろう。道路や鉄道をつくれば、工場が来て、仕事ができる。人びとはそこで働くのだから、所得が増える。ところが、その後、公共事業をしても人が来ないようになってしまった。典型的なのは、震災対応の公共事業である。阪神・淡路大震災で壊滅的な被害を受けた長田区に過大な商業施設をつくったが、テナントが入らずゴーストタウンになっている。神戸でもゴーストタウンになるなら、被害を受けた東北の町々もそうなるだろう。本当に効果的な震災復興策を考えなければならない(詳しくは、原田泰『震災復興 欺瞞の構図』新潮社、2012年を参照されたい)。 1980年代以降のデータを虚心に見ても、財政政策の効果が小さくなっているのは明らかであり、金融政策だけでも、景気は刺激されるとわかった。であるなら、景気対策は金融政策を中心に考え、財政政策は税収の制約を考慮して、長期的に必要な支出に振り向けることが肝心である。日本は、社会保障支出の拡大だけでなく、防衛費の増大も必要になる可能性が高い。ゴーストタウンをつくる余裕はない。 著者紹介 原田 泰(はらだ・やすし) 早稲田大学政治経済学部教授 1950年、東京都生まれ。1974年、東京大学農学部卒。経済企画庁、財務省、大和総研などを経て、現在早稲田大学政治経済学部教授。東京財団上席研究員を兼務。 著書に、『日本国の原則』(日本経済新聞社/第29回石橋湛山賞受賞)、『TPPでさらに強くなる日本』(PHP研究所/東京財団との共著)ほか多数。 関連記事 • 「優位戦思考」で強い日本を取り戻せ 日下公人(評論家、日本財団特別顧問) • [アベノミクス]一票の格差是正こそ最強の3本目の矢〔1〕 竹森俊平(慶應義塾大学教授)
http://shuchi.php.co.jp/article/1877 [安倍景気の行方] ついに暴かれたエコノミストの「虚偽」〔1〕2014年04月10日 公開 《『Voice』2014年5月号より》―「金融政策」と「財政政策」をともに重視してこそ経済は再生する 「15兆円規模」の経済の崖 藤井 聡 (京都大学教授) 積極的な金融政策、機動的な財政政策と成長戦略の三本の矢からなるアベノミクスの「成果」としていま、デフレ脱却が着実に進みつつある。事実、株価、失業率や倒産件数等の各指標は間違いなく、大きく改善している。 しかし、それでも「完治」からは程遠いというのが現状の日本経済だ。たとえば、2013年の10月から12月期の実質GDPの成長率は0.2%という大方の関係者の期待を大幅に裏切る水準だった。しかも「労働者の平均給与」(現金給与総額)は1990年の調査開始以降、「最低水準」を更新した。これらを踏まえるなら「デフレ脱却完了せり」とは何人たりとも断定できぬ状況だろう。 しかも、そんななかで消費税が増税される。さらに3月末まで執行されてきた10兆円超の補正予算が5.5兆円に縮減される。これに当初予算の変動、そして増税による8兆円規模の直接的な需要縮退効果を勘案すると、都合11兆円程度の「経済の崖=需要縮退」ができあがる。さらにこれに、3月までの「駆け込み需要」の影響も加味すると、トータルで「15兆円規模」(!)の経済の崖が予期されるのである。 以上に加えて、海外の投資家がすでにアベノミクスに「飽きて」きているのではないかという見通しは各所で報道され始めている。そして欧州や中国等を起点とするリーマン・ショック級の経済危機が生ずる危険すら懸念されている。 つまり、いまわが国の経済は、デフレ不況の完治が程遠いなか、消費税増税と補正予算削減というダブルパンチによる15兆円規模の経済の崖に晒されると同時に、海外投資家の日本株売り懸念と世界的な経済危機のリスクに晒されているのである。 「財政政策無効論」は妥当か? この深刻な「日本経済の危機」を乗り越えるためには、アベノミクスを「最大に効果的」に進めること、すなわち、第一、第二、第三の矢を「最適」なかたちで組み合わせ、果敢に射貫くことが必要だ。そしてそんな「最適」を考えるうえで必要なのが、思い込みや先入観を廃した「冷静かつ理性的な議論」だ。ついては本稿では、そんな理性的議論に貢献することを企図し、これまでに主張されてきた経済に関する一般的言説をいくつか取り上げ、あくまでも「一学究の徒」「一学者」の立場にてこれらを客観的に検証したいと思う。 まず、デフレ脱却をめぐる議論のなかで長く論争されてきたのが、公共投資、すなわち第二の矢の有効性をめぐる議論である。たとえば、金融政策を重視する「リフレ派」と呼ばれる人びとの代表的論客である浜田宏一氏は、昨年出版した『アベノミクスとTPPが創る日本』(講談社)で下記のように主張しておられる。 「日本における経済学の間違いは、政治家、官僚、ジャーナリストたちが、古い経済学を学んだあと、そこから新しい知識に更新されていないことにも起因していると思われます。これまで、日本の舵取りを務めてきた人たちは、『不況時は財政政策しか効かない』という昔のケインズ経済学を教わってきました。もちろんケインズは偉大な経済学者ですが、『不況時には財政政策しか効かない』というのは固定相場制の時代には正しくても、変動相場制では当てはまりません」。 つまり浜田氏は、「最新の理論に基づけば、財出の効果はあまり信用してはならない」と主張しているのだが、残念ながらこの主張は今日の日本には「当てはまらない」疑義が濃厚だ。以下、その理由を解説しよう。 まず、この浜田氏の主張は、マンデル・フレミングモデル(以下、MFモデル)という経済学の有名な理論に基づいている。このモデルは簡潔に述べると、変動相場制では次のような因果プロセスで、財政政策が無効化されることを主張する。それはすなわち「財政出動→国債発行による金利の上昇→海外資本の流入→通貨高→輸出減少と輸入増加による財出効果の減殺」というものだ。 しかし残念ながら、この因果プロセスの肝である「財政出動→国債発行による金利の上昇」という第一段階目の仮定が、いまの日本の現実と「乖離」しているのが実証的に明らかなのである。 図1をご覧いただきたい。この図が明確に示しているように、日本がデフレに突入して以降、国債発行額が増える一方で金利が上昇しているどころか、その真逆に低下している。 これは、デフレ下では資金需要が低く、かつ、金融緩和が一定進められている状況では、政府がどれだけ国債を発行しても金利は上昇しないという至って「当然」の現象なのだが、MFモデルはこの「当然」を考慮していないのである。 むろん、このことはMFモデルそのものの誤りを指摘するものではないが、少なくとも、いまの日本には「適用できない」ことを示している。 なお、本誌上でも原稿を書いておられる飯田泰之氏も、筆者との公開討論のなかでMF理論が「現在の日本経済に強く作用しているとは考えづらい」と明言しておられるし、同じく本誌に多数寄稿しておられる原田泰氏もまた『WEDGE』(2014年3月号)でMFモデルについて概説したうえで、「金融緩和を行なっているので、金利は安定」していることを述べ、MFモデルがいまの日本に必ずしも妥当しないことを示唆している。 つまり浜田氏のMFモデルに準拠した財政政策の無効論は、彼の言葉を借りるなら文字どおり「新しい知識に更新されていないこと」に起因している疑義が濃厚なのである。この点について、浜田氏、ならびに賢明なる読者諸兄は、いかが判断されるだろうか? 専門家の思い込みは激しい ただし、「MFモデルは正しく、公共投資の景気刺激効果はない」という専門家の思い込みは激しい。先に紹介した原田氏は、上記と同じ原稿にて、「1990年以降、政府支出の増大で景気刺激策を行ってきたとき」には、MFモデルの影響で、公共事業による効果は「ほとんどなかった」と断言している。 しかし実際のデータを見れば、この原田氏の記述が明らかに事実と「乖離」していることは明白だ。第一に、先に図1で示したように、原田氏のいう「1990年代」においても、「国債発行額の増加に伴う金利の上昇」というMFモデルが予想する効果は見られていない。 これは先に指摘したとおりだが、ここで加えて図2をご覧いただきたい。これは、原田氏が「政府支出の効果はほとんどなかった」と断じている「1990年代」における、名目GDPと政府系の建設投資額の推移だ。ご覧のように、政府系投資額が右肩上がりで伸びているうちは名目GDPが伸び、その減少局面では名目GDPも減少していく。 そして、両者の一致度を相関係数(プラス1の場合に完全相関を意味する尺度)で確認すると、じつにプラス0.82という非常に高い水準であった。 こういう結果になった理由は、原田氏自身が述べている「公共事業は、それ自体の景気刺激効果と、金利を引き上げ、円を上昇させる景気抑制効果を持つ」という言説から説明できる。すなわち、図1に示されたように「金利を引き上げ、円を上昇させる景気抑制効果」は現実には存在して「おらず」、したがって「(公共事業)それ自体の景気刺激効果」が発現したがゆえなのだ、と説明できよう。 つまり、「財政政策の効果は小さい」という原田氏の「断定的言説」は「誤り」であり、かつ、その誤りは原田氏本人の論理で説明可能である、という可能性があるように筆者には思えるのであるが――原田氏、そして賢明なる読者諸兄はいかがお感じになるのだろうか? <〔2〕につづく>
分析期間は適正か? このように浜田氏や原田氏が論ずる第二の矢をめぐる「公共投資無効論」が、少なくともいまの日本には当てはまらない疑義が存在しているわけだが、一方で、彼らが口をそろえて主張する「金融緩和の経済効果」についてはどうだろうか? まず筆者の見解を述べるなら、金融緩和の経済刺激効果は確実に存在しうると確信している。しかしだからといって、金融緩和の効果を「過大評価」するようなことがあってはならない。いま必要なのは、3本の矢の「適切な」バランスだからだ。 ここで再び浜田氏と原田氏、そして、現日銀副総裁の岩田規久男氏にご登壇いただくこととしよう。彼らは3人の編著者として『リフレが日本経済を復活させる』(中央経済社)という書籍を発刊しておられるのだが、彼らはこの書籍にて金融政策がデフレ脱却の要であることを強調している。そのなかで重要グラフの1つとして登場するのが図3に示したグラフである(この図を作成した岩田氏に転載を申し出たところ、許可が下りなかったので、ここではそのイメージを解説する図を掲載する)。横軸はマネタリーベース(以下MB:日銀が供給する通貨量)の対数であり、縦軸が「予想インフレ率」の尺度だ。予想インフレ率とは、市場関係者たちによる「将来どれくらいインフレになるのか?」という予想で、これが上がれば自ずと人びとの投資は拡大し、デフレ脱却に繋がっていくと考えられている。この書籍ではこのグラフは「MBが半年間増え続けると、その期間の平均的な予想インフレ率は上昇することを示している」と解説されている。つまり、明確に「MB→予想インフレ率」という「因果関係」が存在することを、このグラフを「根拠」として「断定」しておられるわけである。 たしかに、このグラフに基づく主張には説得力があるように見える。しかし、このグラフは「2009〜2012年」の限定的な期間のものである。筆者はこのグラフを目にしたとき、「さらに長い期間を取ると、両者の関係はどうなのか?」と感じた。 ついては、さらに5年前の2004年から今日までの、より長い期間の、両変数の関係を確認したのが図4である。 この図を見ると、たしかに、この書籍が取り上げている「2009〜2012年」の期間、両変数は強く相関している。しかしその「直前」までの5年間では、そんな関係はまったく見られない(リーマン・ショックという特殊要因の影響を除いた2004〜2008年だけに着目しても、やはり、両者のあいだに明確な関係は見られない)。 とりわけ、日銀は2006年にMBを大幅に低下させているのだが、それによって予想インフレ率は大きく低下してはいない。このことについて、岩田氏はじめ、編著者の3氏はどう答えるのだろう? 事実、岩田氏は先に紹介した図3のグラフを解説したうえで、「MBが減少し続ければ…(略)…予想インフレ率を引き下げる」と明言しているが、その説が正しいなら2006年のMBの大幅な低下が予想インフレ率に大きなインパクトをもたらすはずである。 この点について、しばしば「MBの変化の影響にはつねに時間遅れ(タイム・ラグ)があり、したがって、2006年の引き締め策の影響はすぐには生じなかった」という趣旨の議論を目にする。しかしもしそうなら、なぜ、2009年のMB増加のときにはそのタイム・ラグが発生せず(あるいは半年程度のラグで)、すぐに予想インフレ率は向上したと岩田氏は「説明できた」のだろう。つまり、ラグという説明を都合よく用いたり用いなかったりすることは、正当化できるのだろうか? いずれにしても筆者は、「図4の右半分のデータだけを使って図3をつくり、それをMB→予想インフレ率の因果関係の証拠として論ずる」という岩田氏のアプローチの適正さ、公正さについての理性的合理的説明を、ぜひともお伺いしたいと思う。 <<次ページ>> 金融緩和「だけ」ではデフレ脱却は期待できない 金融緩和「だけ」ではデフレ脱却は期待できない とはいえ、仮に以上の筆者の指摘が正当でも、MBが予想インフレ率に及ぼす影響を完璧に反証するものではない。しかも、金融緩和がデフレ脱却に及ぼす影響は、MB→予想インフレ率という因果関係だけでなく、「資産効果」「為替効果」などさまざまな影響が考えられる。それらを考えれば、デフレ下においてもMBの増加がデフレ脱却に寄与している可能性は十分にある。事実、原田氏は先に引用した『WEDGE』の原稿で、「2001〜2006年」には実質GDPとMBとのあいだに「プラス」の相関関係が見られるグラフを示し、これを、金融緩和の経済効果の証拠データとして紹介している。 しかし筆者は再び、「さらに長い期間」(デフレに突入した1998年以降)をとり、かつ、デフレ脱却において何よりも重要なデフレータ(物価、注1)とMBとの関係を分析してみたところ、原田氏の主張とは逆の傾向が存在することが明らかとなった。 図5をご覧いただきたい。MBの増加がデフレ脱却効果をもつのなら、MBが増えればデフレータ(物価)が増加するはずなのだが、そういう傾向はまったく見られない。というよりもむしろ、ご覧のようにMBは基本的に拡大している一方で、デフレータはただひたすらに減少しているのが実態なのだ(相関係数はマイナス0.75、注2)。なお、名目GDPに着目すれば、原田氏が雑誌上で表示した一部期間ではたしかにMBはプラスの相関をもっているように見えなくもないが、98年以降の全体の傾向はやはり、マイナスの相関であることは明白だ(相関係数はマイナス0.45)。 つまり以上のデータは、「MB増加という金融緩和によるデフレ脱却効果」などはまったく見られていないことを示しているのである。 (注1:そもそも実質GDPは、デフレが深刻化して物価が下がれば「上昇」する数値であるため、デフレ脱却の深刻さを把握するにはデフレータが重要となる) (注2:念のために申し添えると、この結果はどんな“タイム・ラグ”を想定しても説明不可能だ) データを読む知性と良心を問う 本稿冒頭で強調したように、日本経済はいま、文字どおりの「危機」に直面している。われわれは何としてでもこの危機を乗り越えねばならない。 本稿で取り上げた浜田氏、原田氏、岩田氏は、この危機を乗り越えるためには「金融政策を重視し、財政政策を軽視すべきだ」と、直接・間接にさまざまに繰り返し主張してこられた方々である。しかし、彼らがそうした自説を正当化するために活用してきたデータや理論のなかには、「科学的妥当性」が存在していないものが含まれている「疑義」が――昨今取り沙汰されている科学論文問題と同様に――本稿の検証から明確に示されてしまった。 ここでこの3氏の国内の影響力の巨大さに鑑みれば、この検証結果はきわめて重大な帰結を示している。それはすなわち、「金融政策を重視し、財政政策を軽視する」という3氏の経済学的態度こそが、デフレ脱却の巨大な障害となっている可能性である。そしてそれと同時に、特定の「空理空論」ではなく、「現実の経済」を見据えながら財政と金融の適正なバランスを再吟味する必要性を明らかにしている。 いずれにしても――本稿で取り上げた3氏(あるいは3氏を擁護する論者の皆さま方)からは、筆者が指摘した上記の各種疑念に対する「理性的な者ならば誰もが納得しうるご説明」を(それが可能であるかぎりにおいて)ぜひともお伺いしたいと思う。これはすでに経済学の理論上の議論ではない。データを読む知性と良心の問題である。望むらくはそうした良識ある議論を通して、経済をめぐる(エコノミストたちも含めたあらゆる種類の)国民の認識が高度化し、豊かな国民経済が実際に実現していく近未来を、心から祈念したいと思う。 藤井 聡(ふじい・さとし) 京都大学教授・内閣官房参与 1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科修了後、同助教授、東京工業大学教授などを経て、現職。専門は国土計画論、公共政策論、土木工学。社会的ジレンマ研究にて、日本学術振興会賞など受賞多数。近著に、『巨大地震【メガクエイク】]デー』(光文社)がなどある。
関連記事 • アメリカがアベノミクスに味方する理由〔1〕 岩井克人(国際基督教大学客員教授) • 法人税減税とTPPで復活する日本〔1〕 原田 泰(早稲田大学教授) • 必ずやってくる「巨大地震」に備えよ 藤井 聡 (京都大学教授・内閣官房参与) ________________________________________ <掲載誌紹介> 2014年5月号 ロシアによるクリミア併合は、もう決着したのだろうか。NATOが東欧の同盟諸国に対して、防衛協力を強化したり、西側諸国の制裁もちらほら聞こえるが、どうも腰が引けている。今月号の総力特集は、「ウクライナ危機後」の世界を睨んで、「中露の暴走を止めよ」。中西輝政氏は「ついに世界秩序の本格的な大変動が始まった」とし、歴史の必然として「多極化」しつつあると説く。日高義樹氏は、オバマ大統領の事なかれ外交がプーチン大統領のクリミアへの侵略を招いたとし、ヒットラーの台頭を許したウィルソン大統領と比較してみせた。佐藤正久氏は「中国がロシアのクリミア併合を範として、尖閣諸島に漁民を送り込み、自国民保護を理由に占領を始める恐れがある」と警鐘を鳴らす。また、日本が問題にすべきは、サービス貿易協定がもとで台湾が中国に呑み込まれるのではないか、ということだ。矢板明夫氏は、「ロシアがクリミアを併合するよりも簡単に台湾が中国に吸収されてしまう」と、台湾の大学教授の談話を紹介した。渡部昇一氏と呉善花氏の対談では、いずれ中国は韓国を味方に置きつつ、北朝鮮を編入するのではないかと読む。拡張主義を貫く中露は、クリミア併合に対する国際社会の反応を見ながら虎視眈々と次の一手を考えている。 第二特集は「論争・安倍景気の行方」。「新・アベノミクス」を説く若田部昌澄氏は、「デフレ脱却」「構造改革」「所得再分配」などのキーワードを挙げ、「国としての誇り」を取り戻すために経済成長の必要性を強調する。また、内閣官房参与の藤井聡氏は、「財政政策の効果は小さい」というエコノミストに対して名指しで論争をしかける。一方で、企業経営の現場を知り尽くした野中郁次郎氏と旭岡叡峻氏は、対談で日本の産業界のイノベーションと未来について徹底討論した。 自民党の野田聖子総務会長と高市早苗政調会長に、篠原文也氏が斬り込んだ座談会も議論が白熱した。党三役のうちの二役が、女性活用から集団的自衛権、靖国参拝までを意見交換した。 歴史マンガ『テルマエ・ロマエ』でブレイクしたヤマザキマリさんは、「超変人」が認められて生きたローマへの愛情を語る。「若い女がいいという男は、自分はバカだといっているようなもの」「人間は狂っていて当たり前」……、日本人への刺激的なメッセージに思わず笑ってしまう。ぜひ、ご一読を。
|