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パラジウム価格高騰の真相
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kosugetsutomu/20140526-00035706/
2014年5月26日 17時59分 小菅 努 | 大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
自動車の排ガス触媒などに使用されるパラジウム相場の高騰が続いている。昨年後半は700〜750ドル水準で揉み合う展開になっていたNYMEXパラジウム先物相場であるが、5月22日の取引では一時839.55ドルに達するなど、3月以降は連日のように年初来高値を更新する展開になっている。現在の値位置は2011年7月以来の高値になる。
直接的な要因としては、南アフリカとロシアという二大供給国が同時に供給不安に晒されていることがある。現時点で確認されているパラジウム鉱脈は、その殆どが南アフリカとロシアのウラル地方に集中しており、この2カ国を合計した市場シェアは世界全体の概ね8割に達している。
しかし、南アフリカでは1月下旬から続く鉱山ストライキで産出量が大幅に落ち込む一方、ロシアではウクライナ情勢との絡みで輸出トラブルが警戒されることで、今後も安定的にパラジウムを調達できるのかが疑問視されている訳だ。
例えば、英ジョンソン・マッセイ(JM)社が今月に発表した最新の需給見通しによると、2014年の世界パラジウム供給量は昨年の653.2万オンスから617.7万オンスまで、実に35.5万オンス(5.4%)もの減産見通しになっている。南アフリカが前年比-17.0万オンスの226.6万オンス、ロシアが同-14.0万オンスの251.0万オンスとなっており、供給サイドから需給引き締め圧力が強まり易い環境になっている。
■供給減少よりも需給インパクトの大きい項目
このため、新聞等のメディアでは専ら分かり易い供給サイドの動向ばかりが報道されがちになっている。しかし、実は今年のパラジウム市場では、需要環境の方にも劇的な変化が生じていることにも注目したい。それが、投資需要項目である。
貴金属投資の対象としては金、銀、プラチナなどが一般的であり、パラジウムは必ずしも一般的な投資先とは言えなかった。公式コインも金、銀、プラチナ貨はあってもパラジウム貨が提供されることは多くなく、地金商でも取り扱いも殆ど行われていない。仮に投資対象としてのパラジウムに魅力を感じたとしても、現実的にはパラジウム市場に投資するのは極めて困難だった。
しかし、「パラジウム上場投資信託(ETF)」が日本も含めた世界各地で上場される中、近年はパラジウムETFへの投資という形で、間接的にパラジウム現物を保有することが可能になっている。日本の場合だと、東京証券取引所に「純パラジウム上場信託<1543>」、「ETFSパラジウム上場投信<1675>」と、前者は2万6,000円、後者は8,000円前後から投資ができるようになっている(本稿執筆時点)。ちなみに、パラジウム1グラムは、5月26日の東京商品取引所(TOCOM)先物相場(当限)で2,687円となっている。
このパラジウムETFであるが、今年5月23日時点の世界パラジウムETF投資残高は、昨年末の216万4,822オンスに対して279万4,994オンスに達している。すなわち、既に年初からの累計で63万0,172オンスの投資需要を創出することに成功している。昨年もETF部門は28万2,779オンスの需要を創出しているが、地金等も含めた投資需要全体としては0.8万オンスの売り越し(=マイナス需要)だった。しかし、上述のJM社によると今年の投資需要は96.5万オンスまで成長する見通しであり、昨年との差し引きで97.3万オンスの需給引き締め効果が想定されている。
海外投資に制限がある南アフリカで内国投資の適用を受けているといった特殊事情もあるが、それでも年間供給量が600万〜650万オンス程度のパラジウム需給の世界において、100万オンスに迫る需給変動のインパクトは軽視できない。
加えて、世界的な景気回復傾向を映して、最大需要項目である自動車触媒が前年比+22.1万オンスの712.9万オンスとなる見通しであり、工業・宝飾分野が前年比で若干のマイナスとなるも、総需要は昨年の943.8万オンスから1,047.30万オンスまで103.5万オンス(11.0%)の増加が予測されている。
実は、供給環境の受けているダメージよりも、需要拡大のインパクトの方が大きくなっているのだ。
■高値要請の声が強いパラジウム相場
ETF投資需要は、他の自動車触媒や工業用などとは違い、必ずしも年末に向けて一方方向に増加するとは限らない。売却量が増えれば、現時点の需要実績を下回る可能性もゼロではない。それだけに不確実要素の大きい項目になるが、仮に南アフリカやロシアからの供給トラブル・不安が解消されたとしても、パラジウム相場の大幅な値下がりが困難なことは間違いないだろう。
ちなみに、今年の供給不足幅は年間で161.2万オンス(昨年は37.1万オンス)が予想されている。これだけの規模の増産を行うことは事実上不可能なため、パラジウム需給の均衡化には需要抑制かリサイクル供給の増加が要求されることになる。そして、そのためにはパラジウム価格は高値が要求されるというのが基本ロジックになる。
小菅努
大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
1976年千葉県生まれ。筑波大学卒業後、大起産業(株)に入社。営業本部、米同時テロ直後のニューヨーク事務所等を経て、現在は情報調査室室長。ほぼ一貫してコモディティやFX市場の調査・研究・分析業務に従事。商品アナリストとして、金、プラチナ、原油、ゴム、穀物などコモディティ・マーケットの需給分析レポートを社内外に発表中。
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