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“匠”の技術を持つ養殖業、世界進出を妨げる3つの壁 ノルウェーとの比較検証
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140526-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 5月26日(月)3時0分配信
意外と知られていないのですが、日本の養殖業には非常に大きな可能性があります。他の1次産業の生産物と異なり、関税率はほとんどが3.5%と実質自由化されていながら現在の規模を維持しているということは、養殖業はすでにグローバルな競争力を持っているともいえます。特に品質に関しては「匠」の世界に達しており、これは海外の追従を許さないレベルにあります。また、種苗生産技術に関しては明らかに世界トップであり、すでに輸出も始まっています。例えば、昨年のブリ類の輸出量はフィレだけでも約6500トンに達しています。養殖業が地域経済を支える大きな産業になっていく可能性を持っており、日本の養殖業が世界市場を獲りにいくことは、最も簡単に日本経済を地域から根本的に改善できる方法といえるでしょう。
しかし海外はもっと先を進んでいます。そこには「海外の新規市場を獲得する能力の差」が存在しています。例えば、日本からEUへのブリ類輸出は500トン程度ということで、ある団体は多額の予算を持っていても、「そんな小さな市場を獲りにいってどうするのか」というようなコメントをしています。確かに「既存」市場は500トン程度ですが、そこには「なぜ500トンにとどまっているのか」という分析はなく、その状況をどのような方法によって変えることができるのか、という戦略もありません。これでは海外勢と勝負になりません。世界のサーモン市場を支配しているのはノルウェーですが、その司令塔であるNSC(ノルウェー水産物審議会)の水準から見ると、残念ながら子供と大人くらいの力量の差が存在します。
NSCの場合、獲得を目指す市場を徹底的に分析します。実際に世界中の現場に入りヒアリングしつつ、アンケートをしたり統計処理(計量経済分析)をしてみたり、ありとあらゆる最新のマーケティング手法を用いて分析し、その結果得られた「改善点」を改善して、さらに自ら商談につながる機会をしかけて市場を切り開いていきます。つまり、マーケティング戦略に根本的な違いがあるのです。彼らはそうやって、この十数年の間に、サーモンの輸出量を0から137万トンにまで伸ばしたのです。
●ジェネリックマーケティングの必要性
日本の場合は残念ながら今のところ、前述した団体の姿勢に見られるように、個別の企業にだけリスクをとらせるかたちになってしまっています。つまり、世界市場獲得をバックアップすべき組織が、最初からそれをやるつもりがない、表向きは「やる」といいながら「やらない」のです。そういった人々には、本来は業界の未来を背負って取り組むべき、商品カテゴリ全体の需要を上げるために行うマーケティング、いわゆるジェネリックマーケティングをお任せすることはできません。リスクを背負うという意思がないので、養殖会社や水産加工会社と命運を共にする覚悟は生まれようがありません。
それに対して、ノルウェーの場合は自国にそもそも市場がないので、「やらない」という選択肢がありません。常に「どうやったら世界市場を得られるか」という問いへの答えを求めることになります。それゆえ、担当者は必死になって競争し、本物の情報を集め、最新のマーケティング手法を駆使し、「正しい答え」に到達するのです。担当者に強いマーケティング・インセンティブが存在し、情報戦で確実に勝ちを取りにいくのです。
●ブリがEU市場でシェアが低い理由
なお、前述したブリがEU市場でまだ低いシェアしか獲得できていない理由は、すでにわかっています。
1つ目は、EUの衛生基準「EUHACCP」は国内の行政組織による認定になるのですが、それが世界的に見て異常なまで厳しい時代が続いてきたためであり、EUHACCPを取得してEUへブリを輸出できる企業は、ほんの数社しか存在しません。昨年この方向は大きく変わったものの、これが最大の理由であり、検疫関係の事項について日本とEUの間で十分に整理できているとは言い難い状況です。
2つ目の理由は、品質維持の問題です。ブリは国際市場で評価の高い魚種である一方、生鮮であろうと冷凍であろうとメト化(酸化=血合いの部分が黄緑色に変色する)の問題があり、これをクリアするにはさまざまな技術を使わなければいけません。ちなみに、技術確立の目処はすでに立っています。
3つ目の問題は、EU市場の分析をノルウェーのNSC並みに徹底的に行っていないので、マーケティングが可能になるだけの情報を得ていませんし、分析できていない点です。
そして、これら3つの問題は、日本の能力をもってすれば十分に解決できるにもかかわらず、なぜ解決されていないのかというと、まさに「ジェネリック=商品カテゴリ全体」になっていないからです。個別企業がばらばらに自前の人とお金、時間を使っているので、いつまでも解決できないのです。大学や資材メーカーなどが持つR&D(研究・開発)機能、養殖・加工業者の垂直連携、既存市場でシェアを拡大しようとするようなフォロワー戦略ではなく、市場を開拓するリーダー戦略など、一企業ではできないことに取り組まなければいけないのです。500トンの市場規模を1万トンにまで伸ばすためにはジェネリックマーケティングが必要ですが、そのためには「マーケティングの結果に責任を持つ」組織が、事業として命運をかけて取り組む必要があります。結果が出ないのであれば、ビジネスとしてはなんの価値もありません。
なお、ニュージーランドやオーストラリアは、ノルウェーのジェネリックマーケティングの手法をしっかり習得しています。「ブリが売れる」とみると、ブリの近縁種を「イエローテイル(ブリ)」として生産し、EUや北米に大々的に輸出しています。その量はすでに日本の輸出量の数倍に達しています。日本で生産されるブリのほうが柔らかく、においも少なく、脂肪含有量も多いため、EUや北米での市場評価は高いのですが、「ブリの代用品」が普及しているといえます。これは、市場は存在してもなんらかの「入りにくい課題」があると見るべきであり、その課題の解決方法を得た国が、その市場を得るのだという単純な事実を示しています。筆者は現在、養殖魚を海外に輸出するためのジェネリックマーケティング実施に向けた活動を行っていますが、事業として日本が世界に勝てるものにしたいと思っています。
有路昌彦/近畿大学農学部准教授
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