01. 2014年5月24日 12:29:20
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黒田日銀総裁インタビュー一問一答 2014 年 5 月 24 日 00:21 JST 日本銀行の黒田東彦総裁は、ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、昨年春の量的・質的緩和政策導入後、デフレ脱却へ向け大きく前進したと評価した上で、今後は内需要因によってインフレ率が2%に向け加速し始めるとの見通しを示した。 英語で行われたインタビューの主なやり取りは以下の通り(翻訳はウォール・ストリート・ジャーナル)。 •量的緩和策の現在までの進捗(しんちょく)状況、インフレ押し上げ要因、短期のインフレ予測について ――デフレは終わったのか 2%の物価安定目標の達成までまだ道半ばだ。量的・質的緩和策導入時のインフレ状況と比較すれば、著しく前進したのは確かだ。大きく進展している。 過去の経験を踏まえ、われわれは断固たる姿勢で取り組んではいるが、同時に慎重さや用心深さも忘れてはいない。従って、デフレから脱却し、今は何も問題ないとは宣言したくない。 ――短期的なインフレ予測は 向こう数カ月は恐らく1.25%前後、現行水準で推移するだろう。通貨下落による物価へのプラスの効果は低下または消失しつつある。一方で、堅調な内需や労働市場の逼迫(ひっぱく)によって、国内要因の物価上昇圧力も高まる可能性がある。 これら2つの要因は、向こう数カ月は相殺される可能性がある。その後、物価は内需要因により加速し始めるだろう。 ――インフレ率が再び1%を下回る可能性はあるか 正確な予測は非常に難しいが、1%を下回るとは思わない。1%前後で数カ月推移したあと2%に向かって加速し始めるだろう。 重要な点は2つ。1つは今回の景気回復が内需や非常に労働集約的な非製造セクターがけん引していることなどから、需給ギャップは縮小が続くこと。 日本の中期的な潜在成長率は1%を下回っているなかで、今後数年、経済成長率は1.0〜1.5%で推移するとみている。従って、需給ギャップは縮小し、いずれはプラスに転じて物価を押し上げるだろう。 もう1つのポイントは、インフレ期待も少しずつながらも上昇していることだ。これは既に企業の賃金や価格の設定に影響している。春闘では大企業だけでなく中小企業もベア実施に同意した。これは異例のことだ。過去10年ほどはベアがほとんど実施されていなかった。 •アベノミクスの3本目の矢である政府の成長戦略について ――政府は十分なことをしているか それは非常に難しい質問だ。 ――なぜ成長戦略が重要なのか この潜在成長率が上昇しなければ、2%のインフレ目標は達成されても、実質成長は不十分に終わる可能性がある。それは好ましいことではない。 ――何が必要か 経済の大幅な改革が何としても必要だ。3点ある。1つは民間セクターが資本ストックを増やす必要がある。民間セクターは過去数年、あまり投資をしてこなかった。彼らは人的資本と物的資本の双方に投資する必要がある。 2つ目は、高齢者や女性の労働参加率を高めることで労働力を増やす必要もある。また、有能な外国人労働者の受け入れも促進すべきだ。3つ目は、規制緩和や生産性向上のための各種構造改革が必要だ。この3つが実現しなくてはならない。 ――日銀が貢献できることは 日銀の金融政策、すなわち量的・質的緩和策もこれらの施策の助けになる。十分な流動性が提供され、合理的な資本コスト状況が作り出されることで、投資が増える可能性があるためだ。また、デフレ心理やデフレ状況が取り除かれることで、企業がイノベーション(技術革新)やリスクを取ることに積極的になるなど、その他いろいろな効果がある。日銀自身はこれら施策の実施に大いに役立つ金融政策を講じている。 長期的な潜在成長率を変えることは非常に難しい。と同時に、過去5〜6年、世界的金融危機後に経験したように、不安定な金融情勢が生産性向上のための投資を抑制する可能性がある一方で、金融情勢が改善すれば投資が促される可能性もある。金融政策が中長期的な潜在成長率を変えられないとは言わない。潜在成長率に影響を与えたり、向上させたりできる可能性はある。しかし、重要なのは政府や民間セクターが行うことだという意見には同意する。 ――先の質問に戻るが、政府は十分なことをしているか 議論は十分されていると思う。計画が提示され、その一部は既に実施されている。しかし、今後何カ月か何年かに実施すべきこともたくさん残されている。実施がカギだと思う。迅速かつ即座に実施する必要がある、というのも、先ほど言ったように、経済は潜在成長率の水準に近づいている。潜在成長率がタイムリーに引き上げられなければ、インフレ率は目標の2%に達するかもしれないが、実質成長率は期待外れに終わる可能性がある。それは経済にとっても、社会にとっても好ましくない。政府や民間セクターにとって今が潜在成長率を引き上げる絶好のチャンスだ。と同時に、それは必要なことでもある。なぜなら、われわれは供給の限界に近づいているためだ。 ――もっと迅速な実施が必要だということか より迅速な実施が非常に重要だ。先ほど言ったように、需要が不十分なときは、労働力や投資を増やしたり、労働生産性を向上させようとする意欲はあまり湧かない。なぜなら、それらは全てディスインフレなどを引き起こす可能性があるためだ。 しかし、新たな状況では、労働市場は非常に逼迫(ひっぱく)し、賃金と物価はともに上昇している。今は労働市場改革を含めそれら構造改革を実施するまたとないチャンスだ。 ――女性の活用については 特に重要なのは、どのようにして女性の労働参加率を引き上げるかだ。これは絶対不可欠だ。また、そうすることで女性労働力の質も向上する。3年や5年、あるいはもっと長い期間労働力から遠ざかっていた場合、その多くは管理職レベルにまで到達できない。女性の労働参加率を引き上げることで、労働力の量と質を大幅に引き上げられる可能性がある。 ――日本は移民をもっと受け入れるべきか これは、やや政治的問題をはらんでいると言わざるを得ない。どの国でもそうだ。しかし、政府は既に建設労働者が日本に滞在できる期間を2〜3年延長する方針を決定している。外国人がもっと貢献できる可能性は本当にあると思う。 ――法人税減税は支持するか 税制の観点からは、多国籍企業には重い税金が課されない一方で、個人所得と個人消費にもっと課税する制度が望ましい。しかし、これは基本的な考え方だ。政府が決めるべきことは、いつどうやってこれらを実施するかだ。 内閣によって中期的な財政再建計画が決定されており、彼らはその明確な公約をやり遂げる必要がある。従って、基本的構想は支持できる。ただ、政府がその基本的構想を現実化できるかどうかは財政状況や財政目標などによる。 •為替相場について(景気について1問) ――円が下げ止まり、やや上昇に転じているのはなぜか。市場は日銀を信用していないのか われわれは2%の物価安定目標を達成すべく尽力しているが、それだけではまだ道半ばだ。2%の物価目標を達成し、しかも2%のインフレが持続可能かつ安定した形で維持されるようになるまで、日銀の「質的・量的金融緩和」は継続されるということをはっきりと言っておく。従って、日銀の「質的・量的金融緩和」は日程表に基づいたものではなく、何かの縛りがあるわけでもない。物価目標を達成するうえで制約はない。そして、まだ道半ばにすぎない。一方、米国では極めて順調に景気回復が進んでおり、連邦準備制度理事会(FRB)はすでに債券買い入れ措置の縮小を開始している。このため、こうした状況下で、円高・ドル安が進むと考えるのは筋が通らないと思う。多くのことが為替レートに影響し得るため、断言することはできないが、合理的に推測すれば、円高・ドル安は進まないはずだ。 日本経済は回復しつつあるが、米国経済ほどの強さはない。このような状況では、円がドルや他の先進国通貨に対し上昇することは考えにくい。また、たとえ2%(の物価上昇目標)を達成し、金融政策を調整し始めたとしても、やはり円高が進むとは思わない。 日銀の金融政策の目標は、為替レートではなく物価上昇率だ。日本では、為替政策を所管しているのは財務相であり、日銀ではない。 ――欧州中央銀行(ECB)が口先介入でユーロ安を誘導しようとしていることについてはどう思うか 対円では、ユーロは依然として安値だ。しかし、他の通貨に対しては強いのかもしれない。リーマン危機前の水準と比べると、円はユーロに対してまだかなり強い。 ――欧州経済を全般的にどうみているか ユーロ圏がデフレ局面に入るとは思わない。インフレ期待は2%前後でしっかりアンカーされているからだ。しかも、ユーロ経済は改善しつつある。従って、デフレ局面に陥ることはないだろう。ただ、ディスインフレの状態にあることは確かだ。インフレ率は徐々に低下している。このため、金融当局やユーロ圏各国政府はこの状況に懸念を抱いているようだ。そして、これを是正したい考えかもしれない。 何と言ったらいいか、(ECBには)景気回復のために通貨を減価させる意図はないと思う。そんなことはないだろう。中銀の主要政策目標はインフレ率だ。そして、彼らは、状況からみて若干の金融緩和や追加緩和が正当化されるかどうか考えている。 ――日本経済の話に戻るが、日銀と民間の見通しに差があるのはなぜか インフレ期待は徐々に上昇している。企業や家計では特にそれが顕著だ。一方で、民間エコノミストのインフレ見通しにはそれほど変化が見られない。おそらく今回の回復局面は、過去の回復局面と相当な違いがあるのだろう。従来の景気回復は、輸出と設備投資が主導するかたちで製造業に集中していた。だが今回は、消費や住宅投資、公共事業といった内需主導で景気が回復しつつある。いずれの場合も、労働集約性の極めて高い非製造業の活動が活発化している。 •哲学者カール・ポパーについて ――ポパーの熱烈な信奉者である理由は カール・ポパーの哲学に対する最大の貢献は、彼が「反証主義」と呼んだものにある。理論とは、それで説明できないか、またはその理論と矛盾する事例を見いだすことによって改良され得るものだ。それによって、その理論は変更され得る。つまり、反証を通じて理論を改良することは可能だが、その理論の正しさを立証する方法はないため、当該理論によって説明可能な事例を見つけたからといってその理論が正しいと確信することはできない。 ――これが総裁の政策担当者としての柔軟性を高めているのか 自らの誤りから学び、改良を施すことは可能だ。だが、たとえ成功を収めたとしても、今後も成功が続くと確信することはできない。このため、反証、修正、反証を通じた適応、という柔軟なアプローチは全く正しいと考えている。もっとも、実務に携わる人は皆、同じ事を実践しているのではないか。 ――グランドセオリー(一般理論)には懐疑的なのか 経済学者なら誰でも、全てを説明できるグランドセオリーの発見を目指しており、こうした野心自体に問題はない。ただ重要なのは、謙虚でなければならないということだ。自らの理論に基づく想定と矛盾する状況が起きた場合、その理論を修正する必要がある。つまり、柔軟でなければならないと同時に、相当野心的な理論を持つ必要があるということだ。さもなければ、それほど野心的でなく大抵の場合に正しい理論など全く役立たない。 •米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和縮小(テーパリング)について ――量的緩和の縮小に着手したFRBの経験から学んだことは 日銀内では、多くのケースについて常に研究を行っている。当然それには将来の出口戦略なども含まれる。だが、既に述べたように、まだ道半ばなので、出口戦略について具体的に議論するのは時期尚早だ。ただ、FRBの経験が日銀にとって非常に役立つことは間違いない。 ――量的緩和縮小はうまくいっていると思うか 基本的には、うまくいっていると思う。確かに、昨夏にはアジアの新興国が深刻な影響を受けた。これらの国々は、FRBが量的緩和の縮小を議論したことに相当不満を抱いていた。ところが、今年になって実際に量的緩和の縮小が始まると、アジア諸国への影響は限られたものとなっている。これら諸国の間でかなり理解が深まったのではないか。FRBは、市場や世界中の政策担当者にその意思をうまく伝えることで、事態を落ち着かせ、市場の無用な大きな変動を防ぐことができた。 ――テーパリングという言葉は使いたくないのか (テーパリングとは)資産買い入れ策の規模を減らすなどの措置を言う。事実、FRBはまだ市場からの資産購入を続け、景気刺激を継続している。従って、これは出口ではない。大規模な資産買い入れ策の調整だ。経済統計に基づいて慎重に行われている。極めて妥当なものだ。 http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303295604579579970900182520 |