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勝ち組の象徴・日立、なぜ不安感?巨額赤字から最高益までの軌跡、1本柱依存脱却への課題
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140523-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 5月23日(金)3時0分配信
日立製作所(以下、日立)が5月12日に発表した2013年度(14年3月期)連結決算は、売上高が前年度比6.4%増の9兆6162億円、営業利益が同26.3%増の5328億円、最終利益が同51.1%増の2649億円となり、営業利益は23年ぶりに過去最高益となった。
最高益を叩き出した立役者は、インフラシステムグループと高機能材料グループ。前者は前期比43.1%増の363億円、後者は同78.0%増の479億円をそれぞれ前期に積み増しした。インフラシステムグループでは、中国向け昇降機事業と英国向け鉄道車両事業の売り上げ増が営業増益に寄与した。高機能材料グループでは、自動車向け電子部品や電子機器向け機能性材料の売り上げ増が営業増益に寄与した。このほか、7事業グループのうち、国内原発稼働停止の影響をモロに受けた電力システムグループを除く6事業グループで、こぞって営業利益が前期比増になったのも高収益の要因だ。
証券アナリストは「半世紀あまりに及んだテレビ生産からも思い切って撤退するなどして赤字事業がなくなり、利益を安定的に稼げる体質になってきた」と評価する。一方、同日記者会見した中西宏明会長も「最高益を達成できたが、これはいまだ道半ば」と、この程度では満足できないとの意欲をみせ、15年3月期の営業利益は5600億円との見通しを発表、2年連続の過去最高益更新に自信を示した。
だが、株式市場関係者の中には「今年度もそんなに稼げるのか」と不安視する声が少なくない。
●巨額赤字との苦闘
日立の過去18年間の決算を簡単に振り返ってみよう。日立の決算は1990年度以降、低下傾向を示しているが、特に96年度からそれは顕著になっている。同年度の決算では、売上高は前年度比4.9%増になったものの、半導体メモリの価格急落などの影響で営業利益は同10.6%減、最終利益は同37.7%減となった。
97年度は収益がさらに悪化した。売上高は前年度比1.2%減に踏みとどまったものの、営業利益は同29.7%減、最終利益は96.1%減まで落ち込んだ。半導体メモリ価格の下落に加え、エアコン販売の不振、355億円の為替差損発生、816億円に上る半導体製造装置の減損費計上などが響いた。
ついに赤字転落となったのが98年度決算だった。売上高の落ち込みが前年度比5.2%減の拡大に加え、営業損益は341億円の赤字に転落した。転落要因は前年度減益要因とほぼ同じだった。加えて、情報・エレクトロニクス部門と家庭電器及び電力・産業システム部門を中心に約9700人の人員整理、資産売却に伴う評価損などの事業構造改革費を1325億円計上したため、最終損益も3387億円の赤字となった。
97年度の赤字転落に関して、電機業界に詳しい証券アナリストは「90年代の日立は、当時先端商品だったコンピュータや半導体メモリに注力したため、それなりに成長できた。しかし、これらは同社がお家芸としている電力・産業機械事業と比べると、技術革新のスピードが速く、それだけ商品がコモディティ化するのも早かった。これが同社の企業体質を脆弱にした」と指摘する。
新世紀を迎えると、事態はさらに悪化した。最終損益は01年度と、06年度から09年度までの合計5年間にわたって赤字に転落。それ以外の年度でも辛うじて黒字を確保している状態だった。01年度は1174億円の営業赤字に加え、人員整理をはじめとするリストラ費の計上により最終赤字は5860億円に達した。また、06年度から09年度までの4年間の連続赤字転落中、最悪だった08年度には、08年9月に発生したリーマンショックの影響で最終損益の赤字は7873億円にまで上った。
業績がV字回復したのは10年度だった。この年度、営業利益は前年度比2.2倍の4445億円に急上昇、最終利益も2388億円の史上最高益となった。新興国向けを中心とした建設機械事業、電子機器・自動車関連向けの高機能材料事業を中心に、全事業部門が営業黒字を達成したのがV字回復要因だった。
●市場にくすぶる不安感
以降2年間、営業利益は4000億円台を確保し、これを踏み台に冒頭の過去最高益を実現している。したがって、過去3年間の業績推移からは、同社が掲げる「2年連続過去最高益更新」という目標は決して絵空事とは思えないが、それでも市場関係者の一部に不安感があるのはなぜなのか。
前出アナリストは「収益を支える杭が1本しかないことからくる不安だ」と、次のように説明する。
97年度から09年度までの構造的な業績不振からV字回復した現在の業績を支えている柱が、情報・通信システム部門。13年度の同部門の売上高は1兆9549億円、営業利益は1100億円で、共に10事業部門の中で最大(日立の事業組織は7事業グループ10事業部門制)。この稼ぎの花形が、ストレージ(外部記憶装置)事業だ。企業がコンピュータ処理する膨大なデータを保存・分析するためには不可欠の機器で、近年高まっているビッグデータ活用ニーズを背景に売り上げが順調に伸びている。「少なくとも今後5年は稼げる事業」(同)といえる。
2本目の杭として期待されているのが、社会・産業システム部門。だが、13年度の同部門の売上高は1兆4466億円、営業利益は567億円。売上高は10事業部門中2位だが、営業利益は同5位。営業利益率は3.9%で、全体の5.5%と比べると収益性も見劣りする。加えて、稼ぎ頭の昇降機事業の売り上げ拡大先が中国市場。世界需要の60%を占めているとはいえ、中国では不動産バブル崩壊の懸念が指摘されており、「昇降機事業がいつ失速しても不思議ではない」(同)状況だ。
さらに、同部門が海外事業として注力している鉄道ビジネスも不安要素が多い。日立は今年4月16日、英国運輸省と「英国都市間高速鉄道計画」向け車両の追加受注と27年半にわたる長期保守作業の契約を完了している。既存受注分を含めた受注総額は8800億円と推定されている巨額ビジネスであり、一見大きな期待ができる。
だが、現在建設中の英国工場で車両生産が始まるのは16年から。車両出荷開始後もトラブル処理などリスク対策を固めるために、ある程度の時間はかかる。したがって、英国向け鉄道ビジネスが安定的な収益源に育つか否かを見極めるのは17年以降になる。英国以外ではブラジル、インドなど新興国での鉄道関連受注に努力しているが、新興国のカントリーリスクは予測不能。つまり「現時点で社会・産業システム部門を2本目の柱に数えるには未知数が多い」(同)といえる。
●示せない成長シナリオ
日立は現在推進中の中期経営計画で、15年度に売上高10兆円、営業利益率7%超の数値目標を掲げている。これに関連して東原敏昭社長は、4月1日の社長就任直前に受けた「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)の取材の中で「当社が本当のグローバル企業になるためには、営業利益率2桁を目指す必要がある。だから、課題解決型ソリューションと製品ライフサイクル管理、この2つのサービス事業に軸足を置いて稼ぎたい」と、今年度の事業方針とも取れる抱負を述べている。
しかし、問題はこの抱負の具体化策だろう。換言すれば、収益安定化を図るための2本目、3本目の杭をいかにして打ち込み、市場環境の変化に迅速対応できるしなやかで強靭な事業ポートフォリオを構築できるかが、今後の日立の成長を左右する。だが、前出アナリストは「アナリスト向け説明会をはじめとする東原社長のどの会見からも、そのシナリオが見えない」と顔を曇らせる。さらに、過去にV字回復のために行った過酷なリストラで、現場には疲弊感も広がりつつあるという。
果たして日立は市場の一部に漂う不安感を払拭し、2年連続最高益更新を達成することができるのか、「総合電機の雄」の動向から目が離せない。
福井晋/フリーライター
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