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格安LTE巡り暗闘 総務省vs携帯大手3社 [日経新聞]
2014/5/21 7:00
月額900円など格安で使えるLTE方式の携帯電話向け高速データ通信サービスが勢いを増している。これまでのNTTドコモに加え、今春からKDDI(au)やソフトバンクモバイルも、仮想移動体通信事業者(MVNO)に対し回線の卸売りを開始。さらに多くのMVNOが参入すれば、欧米のように多様でより低価格なサービスの恩恵を消費者が受けられるようになる。
一方総務省やMVNOの側は、必ずしも将来を楽観視しているわけではない。携帯電話大手3社が、回線を貸し出す際に制約を設けたり料金を割高に設定したりしているためだ。「本気でMVNOを普及させるつもりがあるのか」(あるプロバイダー)――。不満の声があちこちで上がる。花盛りに見える格安LTEの裏側で、何が起こっているのかを追った。
■ソフトバンクの接続料、ドコモの3倍
「ソフトバンクの(MVNO向けの)接続料はドコモの3倍。回線品質や技術面なども考えると3倍の料金を払ってまで借りるのは難しい」。4月8日に開かれた総務省の情報通信審議会の委員会。MVNOの草分けとして知られる日本通信の福田尚久副社長はこう証言した。携帯大手3社が公表している接続約款を見ると、ドコモの接続料が毎秒10メガビット(Mbps)あたり月額123万4911円なのに対し、ソフトバンクは351万7286円に上る。
接続料とは、プロバイダーや流通大手などMVNOが携帯電話会社に対して毎月支払うLTE回線のレンタル料。MVNO側がサービス内容や料金を自由に設定できる「レイヤー2接続(L2接続)」と呼ばれる形で回線を卸してもらう代わりに、通信量に応じた金額を納めている。L2接続はドコモしか提供していなかったが、KDDIとソフトバンクも重い腰を上げて開始したばかりだ。
接続料が高いと指摘されたソフトバンクは、既に10社以上のMVNOを契約しているドコモと違って利用者が見込めず設備コストの負担が多少重荷なのかもしれない。しかしながらLTEのサービスをドコモなどと同水準の料金体系で競い、他社を上回る利益を上げている。福田副社長が3倍もの接続料の開きを不可解と感じたのも無理はない。
ソフトバンクのある関係者はこう断言する。「L2接続はやる。でもそれで契約者を増やすつもりはないし、利益を上げるつもりもない」。提供したばかりの新サービスとは思えないほど後ろ向きな発言から、高額の接続料の背景にある本音が透けて見える。
15日にLTEサービス「mineo(マイネオ)」を発表した関西電力系のケイ・オプティコム(大阪市)も、接続料が実は高いことがサービスの競争力に影を落としていると打ち明ける。マイネオはKDDIの回線を採用した初の格安なLTEサービス。プラチナバンドと呼ばれる800MHz(メガヘルツ)のLTEの整備を進め実効速度に定評のあるKDDIの回線だけに、「ドコモのMVNOが多いなか、KDDIのMVNOとすることで独自性を出せる」(モバイル事業戦略グループの津田和佳グループマネージャー)と差異化に自信を見せる。
■KDDI回線は「3G圏外」
同社がKDDIに支払う接続料は、10Mbpsあたり月額275万1142円。ソフトバンクよりは若干安いが、ドコモの2倍強とやはり割高だ。マイネオでは料金を他社と同水準の月1ギガバイト(GB)で900円に設定。「量販店に並べて販促すれば採算が合わない。採算を確保するため、当面はウェブ限定で販売する」(ケイ・オプティコムの藤野隆雄社長)。コスト削減のため販路を広げられないハンディキャップを抱えての船出となったという。
KDDIが設けた制約のおかげで、別のある弱点も抱えてしまった。LTEのみにしか対応していないのだ。ドコモの回線を使う競合と異なり、LTEのエリア外では自動的に3G回線につながらず「圏外」になる。これは、KDDIが3G回線でのL2接続をMVNOに提供していないためだ。
3GのL2接続をMVNOに提供しない理由についてKDDIはこう弁明する。「3Gはだんだん終息に近づいている。当社は今、LTEで維持できないエリアをいかに減らすかを今期の最重要課題にしている」(田中孝司社長)。確かに同社の800メガヘルツ帯のLTEは、実人口カバー率が99%に達するなどエリアが広がっている。それでも「少なくとも向こう数年はLTEのエリアは穴だらけだ。3Gで穴埋めできないのでは使う気になれない」とあるMVNOの幹部は批判する。
ただミネオでは、電力系同士として関連の深いKDDIのLTE回線以外、初めから検討の余地がなかったというのが真相のようだ。あるケイ・オプティコム関係者は「3G回線の制約はもちろん気になる。少なくとも向こう数年は影響があるだろう。でも、あきらめるしかなかった」と苦笑する。
ではドコモの回線を使うMVNOが満足しているかというと、そんなこともない。早くからMVNOに対しL2接続を提供し、接続料も年々下げている点については各社とも一定の評価を与える。ただ自社のスマートフォン(スマホ)に「APNロック」と呼ばれる機能制限を設けていることが物議をかもしている。使い古しのドコモ端末にMVNOのSIMカードを挿し、スマホをルーターとして使える「テザリング」の機能を使おうとすると、通信の接続先情報を記した「APN」という設定項目が自動的に書き換わってしまい通信できないのだ。
APNロックのおかげで、消費者は外出先でテザリングを活用してパソコンやタブレット(多機能携帯端末)を使おうとしてもインターネットにつなぐことができない。つまりテザリングを使いたい消費者は、自前で携帯電話会社を自由に選べる「SIMフリー」のスマホを調達しなければならない。
なぜこんな制約を設けたのか。NTTドコモの山田隆持前社長は「APNの設定ミスによる高額請求など、消費者のトラブルを回避するため」と説明する。ただ「格安LTE回線で使いにくくするため制約を設けたのでは」といぶかるMVNO関係者も多い。
■総務省の執念は実るか
そもそも総務省がMVNOを推進するのは、携帯電話サービスへの参入事業者を増やし競争を促進させたい狙いがあったからだ。これまで総務省はさまざまな施策で競争促進を画策してきたが、ことごとく不調に終わってきた経緯がある。
例えば05年には新規参入の3社に対し電波を与えた。しかし実際に新電波を使って参入したのはイー・モバイル(現イー・アクセス)のみで、同社は最終的にソフトバンクの傘下に入った。07年には「既存の携帯電話会社による出資比率は3分の1以下」という条件を付けて2.5GHz帯の割り当てを試みた。これも結局はKDDI系・ソフトバンク系の通信会社の手に渡り、経営の独立性はほとんどみられない。
こうした経緯を踏まえ総務省は、今後の大手各社への電波割り当てでは、電波を持たない新興系MVNOへの貸し出し実績を重視する姿勢を打ち出す。「これ以上骨抜きにされてなるものか」。MVNOを軸にした競争促進にかける、総務省の強い執念が見える。
MVNOを広げたい総務省と、本音では自社顧客の格安LTEへの乗り換えで収益が悪化することを避けたい携帯大手3社。両者の暗闘が続く限り、13年12月時点でわずか4.4%にとどまる新興系MVNOのシェアが高まるかは不透明だ。今後、格安LTEが軌道に乗り総務省の思惑通りに健全な市場競争が醸成されるのか。それとも大手3社が巻き返し寡占状態が続くのか。消費者不在のまま、水面下の暗闘はまだまだ続きそうだ。
(電子報道部 金子寛人)
http://www.nikkei.com/article/DGXBZO71438990Z10C14A5000000/?dg=1
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