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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第76回 完全に間違えている電力政策
http://wjn.jp/article/detail/9638605/
週刊実話 2014年5月29日 特大号
電気料金の上昇が止まらない。我が国はいまだ原発を再稼働せず、かつ再生可能エネルギー固定価格買取制度(以下、FIT)を導入した以上、電気料金は下がりようがないのだ。
電気料金は政府の認可制で、電力会社はそれほど頻繁な値上げはできない(それでも2011年以降は何度も基本料が引き上げられているが)。
より問題なのは「燃料費調整制度」である。燃料費調整制度とは、LNG(液化天然ガス)など火力発電所で燃やす資源の価格変動を、電気料金に反映させる「サーチャージ」である。燃料費調整制度による電気料金の引き上げの場合、政府の許可は不要だ。
4月28日、LNGの割合が低い北海道、四国、沖縄という3社を除く七つの電力会社が、6月の電気料金改定に際し、燃料費調整制度による料金引き上げを実施することを発表した。LNG1トン当たりの平均価格(1〜3月期)が、'13年12月〜'14年2月期と比べて1.1%上昇してしまった影響である。
燃料費調整は3月に行われたばかりだが、またもや6月に値上げ実施だ。現在、日本が購入するLNGの価格の上昇が続いており、2012年時点では100万BTU単価17ドルだった天然ガスの価格が、直近で19ドルにまで高騰してしまった。
今のところ、ウクライナ危機の影響ではなく、昨年末に欧州を襲った寒波の影響ということである。とはいえ、今後、ロシアの天然ガスの供給が政治的に滞ってくると、更なる値上げも予想される。
加えて、FITの問題がある。
FIT先行国のドイツでは、再エネ賦課金の負担の総額が「国民一人当たり年間4万円」という、とんでもない状況に至ってしまっている。日本の再生可能エネルギー固定価格買取制度は、ドイツの制度を模倣したものだ。
我が国の再エネ賦課金の負担額は、今後、どの程度で推移するだろうか。経済産業省は2020年時点で毎年8000億円との試算を公表しているが、現在の「太陽光バブル」ともいうべき状況を見る限り、甘いとしか言いようがない。
ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスは、2020年の我が国の再エネ賦課金負担が、経産省の試算の1.5倍、すなわち1兆2000億円に達すると公表している。
何しろ、FIT、特にメガソーラ(大規模太陽光発電)は極めて美味しい市場だ。
投資をすれば確実に儲かる案件など、筆者はFIT以外には知らない。当然ながら、FITを廃止するか、もしくは大幅に手直ししない限り、太陽光発電への投資は今後も増えることはあっても、減ることはないだろう。
再エネ賦課金の負担が年間1兆2000億円ということは、国民一人当たり1万円になる。日本国民は四人家族の世帯ならば年間平均4万円を、電力サービスを不安定化、弱体化させる再生可能エネルギー普及のために支払うことになるわけだ。
しかも、FITが「嫌な制度」なのは、使用電力量が年間100万KWhを超える企業は、FIT賦課金負担を免除されることだ(これもドイツと同様)。FITの負担は、中小企業と一般家庭に集中することになる。
家計も厳しいことになるが、それ以上に深刻な状況になるのは、使用電力量年間100万KWhに満たない企業、たとえば繊維業だ(繊維業はそれほど電気を使わない)。
ドイツでは2012年に繊維衣料品産業連盟が、FITについて、
「再生可能エネルギーの助成金のために生じる分担金は違憲である」
と、訴訟を起こした。
日本も同じ状況になるのは、ほぼ確実だ。
電力使用量が多い企業が再エネ賦課金の負担を免除されていることについて、経済産業省はドイツ同様に、「国際競争力を強化するため」と、説明している。
とはいえ、ドイツでは国際競争力と無関係なドイツ鉄道までもが、再エネ賦課金負担を免れている(電力使用量が多いため)。
日本も同じ状況であろう。FITの再エネ賦課金について、電力使用量が大きい企業が免除されていることは、要するに「大企業への助成金」なのだ。
ただでさえ原発が再稼働せず、電気料金の上昇が止まらない中、我が国も欧州同様にFIT、特にメガソーラーへの投資が急騰し、毎月のように再エネ賦課金が引き上げられていく羽目になるだろう。
そこに、燃料費調整制度による値上げが加わる。
しかも、電気料金上昇という問題の解決策として、発送電分離を含む「電力自由化」が推進されているわけだから、呆れるばかりだ。
日本が電気料金を引き下げたいならば、
「原発を再稼働する」
「資源調達のグローバル競争に勝つため、LNGなどの調達会社を一本化する」
これだけで十分なのである。
諸外国の例を見る限り、電力自由化が最終的に「電気料金上昇」と「電力サービス不安定化」を引き起こすことは明らかだ。
我が国にとって、正しい解決策は「FIT廃止」「原発再稼働」「資源調達の一本化」であるにもかかわらず、実際には「FIT推進」「電力小売り自由化」「発送電分離」という、問題を深刻化させる政策ばかりが推進されている。
無論、FITや発送電分離により「儲かる」投資家(外国人投資家を含む)はいるわけだが、「日本国民」にとってはどうなのだろうか。
答えは一つしかない。現在の電力政策を継続している限り、電気料金の更なる上昇は避けられず、将来的に我が国の電力サービスが不安定化することは確実という話だ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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