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臨時職員採用に伴う社会保険料負担を逃れるために長崎県がやったこと
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ogasawaraseiji/20140521-00035534/
2014年5月21日 12時0分 小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
今時、こんなことがあるのかという信じられないニュースを毎日新聞が伝えています。
「<元臨時職員>雇用主毎月切り替え...社保料逃れと長崎県提訴」
「約7年にわたって事実上、長崎県の同じ部署の仕事をしていたのに、雇用主が約1カ月ごとに県と県の外郭団体との間で切り替えられ、社会保険に加入させてもらえなかったとして、長崎市の40代女性が県に対し、退職手当や損害賠償など約420万円を求める訴えを長崎地裁に起こした。健康保険法や厚生年金保険法は2カ月以内の雇用なら適用を除外するとしており、女性側は「社会保険料の事業主負担を逃れるのが目的の違法な取り扱いだ」と主張。専門家も「脱法行為」と指摘している。提訴は16日付。訴状によると、女性は2006年、県に事務職の臨時職員として採用され、配属された部署の上司から、雇用主が県から外郭団体に切り替わるとの説明を受けた。外郭団体は会長を知事、事務局長を女性が勤務する部署の課長が担当。女性は雇用主が外郭団体の時も、県の同じ部署の仕事をしていた。約7年間で計67回、雇用主が切り替えられ、その間、女性は社会保険には加入させてもらえなかった」
如何でしょうか? 事実関係が分かったでしょうか?
誰がどう考えたって、長崎県側が社会保険料の事業主負担を避けたくてやったとしか思えない行為です。つまり、長崎県の行為は違法と言わざるを得ないのです。
7年で67回も雇用主が切り替わり‥つまり、何の意味もなく2か月もしないうちに、長崎県とその外郭団体を行き来する訳ですから、バカらしいと言わずに何といったらいいのでしょうか?
何故そんな面倒くさいことをするのか、役所の関係者なら一目瞭然。
しか〜し‥国や県は、幾ら実質的にみたら違法の恐れがありそうな行為でも、表面的にはちゃんと合法を装うものなのです。つまり、表面的な理屈は付くようにしている、と。
では、長崎県は、この件についてどのように説明しているのか?
実は、担当の部署は「コメントできない」と言っているのだとか。流石に自分たちのやったことが全く問題がないというほどの厚かましさはないのでしょう。
でも、言いたいことというか、言い訳は想像が付くのです。
それは、「臨時職員は2カ月にまたがる場合でも勤務日数が25日以内なら社会保険加入は不要とされているので、臨時職員として採用した女性を社会保険に加入させる必要はないと判断した」と。
でも、もし、そのような言葉が長崎県側から発せられたとしたら、何と白々しい人間の集団なのかと思わずにはいられません。
君たちはなんのために公務員になったのか、と。県民のため、長崎県の発展のためを思ったからではないのか、と。それに、君たちは職員として採用されたときに宣誓を行ったのではないか、と。法令を遵守すると誓ったのではないのか、と。
それなのに、君たちが採用した女性職員は、臨時とは名ばかりで実際には7年間も採用し続けたではないか、と。
確かに形式的には県庁と外郭団体を行ったり来たりしているので、形の上では7年間継続して雇用している訳ではないものの、実態は誰がどう考えても県庁が7年間継続して雇ったと考えるべきではないか、と。
民間企業を指導する、或いは民間企業の手本となるべき県庁が、このような脱法行為をするなんて、もう言葉もありません。近隣諸国のモラルの低さが目につく毎日ですが、しかし、このような話を聞くと、日本も威張れたものではないのです。こうした脱法行為は、何も長崎県だけに限った話ではなく全国的に行われている恐れがありますが、国や県は本当に心底反省して二度とこのようなことが起こらないようにして欲しいと思うのです。
但し、我々国民は、このような出来事の本質に迫ることが必要なのです。そうしないと、国や県は心底反省することはせず、再発防止を期待することができないからです。
今回のニュースを知った人の殆どは、県庁が100%クロだという理解をしがちだと思うのですが、果たしてそれだけの考察で終わっていいのか?
要するに、私としては、何故今回のようなことが起きたのか、何故長崎県側はそのような脱法行為をしてしまったのか、そこのところを我々も考える必要があると言いたいのです。
誤解のないように言っておきますが‥雇われた女性には何も悪いところはありません。
但し、正規の手続きというか、正しい手続きに則って事務が処理された場合に、この女性は果たして7年間連続して長崎県に採用されることができたかということは指摘できると思います。というのも、長崎県が当該部署に認めたのは、飽くまでも臨時職員を雇うことであって、長期間に渡る職員を雇うことではなかったからです。だとすれば、本来は、臨時職員の切り替えを行う度に幅広く臨時職員の募集を行い、そして、本当に相応しい人間を毎回採用するという手続きを取るべきだったのです。
だって、そうでしょう? 県庁に臨時職員で働きたいという人間は結構多くいると思われるからなのです。知っていれば自分も応募したという人がいた筈です。
しか〜し‥幾ら臨時の職員とはいえ、雇う側の担当部署としては、気心が知れ、県庁の仕事についても知識と経験がある人の方が何かと都合がいいのです。つまり、担当部署としては、2か月足らずの間に臨時職員が入れ替わり、その度に仕事の内容を教えたり指導したりするよりも、同じ人がずっと働き続けてくれた方が何かと都合がいいのです。
その一方、臨時職員として採用される方としても、2か月足らずで雇用関係が終了するよりも引き続き担当部署が自分を採用してくれたら何と有難いことか、と。
但し、県庁の当該部署に認められたことは、飽くまでも社会保険の加入が必要とされない臨時職員の採用でしかなかったのです。
段々事情が呑み込めてきましたか?
結局、担当部署は社会保険の加入が強制されない臨時職員しか雇うことができないのに、実際には、社会保険に加入させなければいけない職員を採用したかったので、形の上だけ2か月足らずで雇用関係を終了させるという行為を繰り返さざるを得なかったのです。
では、その一方で、臨時職員で採用された人は、そういった条件の下に自分が採用されているということを知らなかったのでしょうか。もし、この人が、最初から、長期間働き続けるつもりであり、しかも、社会保険への加入もそのうち認めてくれるものと期待していたというのであれば、それならこの人が提訴したこともよく理解できるのです。
しかし、推測ですが、実際にはそうではなかったのではないでしょうか。本人も最初はそれほど長く雇ってもらえるとは思っていなかったかもしれません。だから、社会保険についても気にしていなかった可能性もあるのです。しかし、雇用関係が長期に及び、次第に社会保険のことが気になりだしたのではないのでしょうか。そして、実際に社会保険のことを担当部署に訴えると、それなら臨時職員としての雇用は終了せざるを得ないと言われて憤慨した、と。
推測ですが、県庁側としては、本来は臨時職員であってこんなに7年間も続けて採用されることなどあり得なかったのだから‥つまり、その意味で臨時職員の方も利益を得ているのだから、今更社会保険のことなど言える立場なのか、と言いたいのかもしれません。
そうした考えからすれば、県庁には臨時職員が社会保険に加入することによって生じる事業主の負担に応ずる予算上の余裕がなかったために、もし臨時職員が社会保険に加入することを当初から望んだとしたら、県庁側はこの人を採用しなかったと考えるべきでしょう。そして、現に、この人が2012年になって勤務する部署に対して社会保険の加入を要請したら、予算がないという理由で拒否されてしまったのです。
以上のようなことを考えてくると、確かに長崎県のやったことは脱法行為以外の何物でもないにしても、訴えた女性も、だからと言って長崎県に対し損害賠償を求める権利があるのかは即断できないと思うのです。
誤解のないように言っておきますが、訴えた女性には何も悪いところがありません。ただ、募集に応じて県庁で働いただけなのですから。そして、この方は、長期に渡って働いていたのだから、本来県庁が社会保険料の事業主分を負担しなければいけないのに、その義務を履行しなかった可能性があります。それはそのとおりです。
しかし、その一方で、この人が長期間に渡って当該部署で働いたために、そのことによって県庁において臨時職員として働く機会を喪失した者がいることも事実でしょう。
本当の被害者は誰なのか?
7年間に渡って臨時職員という名で働き続けたこの方も被害者かもしれませんが‥当該部署がその人に対し優先的に働く機会を与えたために、臨時職員として働く機会を喪失した者もそれと同じように被害者であるということもできるのです。
いずれにしても、長崎県には問題が2つあるのです。1つは、臨時職員の採用しか認められていない部署が、実質的には臨時職員とは言えない雇用形態を維持していたこと、そして、もう1つは、実際には長期の雇用関係が成立していたにも拘わらず、事業主負担を回避するために脱法行為を行ったことです。
このような事例が未だが国や県などの公的部門で繰り返されていたとしたら何と悲しいことでしょう。公的部門の人間は、このような脱法行為を行うことをおかしいとは思わないのでしょうか?
まあ、公的部門で長く働いている人々の気持ちや習慣が今さら急に変わることも期待できないので、この際、臨時職員でも必ず社会保険に加入することを義務付けるように法改正することが必要だと思うのです。そうでもしないと、このような脱法行為がなくなることはないでしょう。
以上
小笠原 誠治
経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。
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