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[左]吉本佳生氏(エコノミスト・著述家)、[右]西田宗千佳氏(フリージャーナリスト)
ビットコインが優れている3つの点とは? 中央銀行の重大な欠点を解決する工夫
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39306
2014年05月21日 現代ビジネス
『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』著者・吉本佳生氏インタビュー【中編】
講談社ブルーバックスから『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』が2014年5月20日に刊行されました。
通貨制度などの金融・経済面を吉本佳生氏が、暗号数理などの情報技術面を西田宗千佳氏が担当して執筆しています。昨日の記事に続き、本書の内容のポイントなどを、質問に答えるかたちで吉本氏が語ります。前編はこちら。
--新しくビットコインを導入しなくても、従来の通貨で十分だと考えている人が多そうです。ビットコインには、なにか社会的なメリットがあるのでしょうか?
まず、「少額の国際決済」に使える通貨が、これまでは存在していなかったといえます。海外に数百円のおカネを送金したいと思って、国内での送金のように銀行間の預金ネットワークを使って送金しようとすると、最低でも数千円の手数料がかかります。事実上、少額の国際決済に使える通貨は存在しないのです。
クレジットカードを使って決済すればいいのですが、これは「金融」の力で国際決済をしているわけで、通貨の機能だけを使って国際決済を成り立たせているわけではありません。また、カード詐欺などの不正利用といったリスクがありますから、それなりに手数料がかかります。
ビットコインの機能面での最大の魅力は、少額の国際決済をきわめて安い手数料でおこなうことができる通貨だ、という点です。
--国際決済での手数料がやたらに高くなるのは、なぜですか?
その前に、国内決済の手数料をみると、もっとずっと安くしようと思えば、できます。その国のすべての銀行が中央銀行に預金口座をもっていれば、それを使って異なる銀行間での決済が簡単にできて、そのコストはとても安いからです。
国際決済の場合、国内決済で中央銀行が果たしている役割を果たす公的機関が存在しません。現実には、アメリカの大手銀行などがその役割を担うことが多いのですが、公的機関の代わりに強欲な民間銀行を使うしかないということで、コストがとても高くなります。
――中央銀行といえば、ビットコインには中央銀行に当たる存在がないことが、欠点のひとつとして挙げられます。この欠点をどうみますか?
欠点と決めつけること自体が、まちがっています。国際決済に使える中央銀行は存在せず、だから国際決済の手数料は高かった。本当の意味での国際通貨なんて、これまで存在していなかった。ビットコインは「生まれながらの国際通貨」で、中央銀行が存在しないからこそ、国際決済の手数料を劇的に下げられたとみることもできます。
また、中央銀行が成立した歴史的な経緯を知ると、中央銀行のイメージが変わると思われます。中央銀行そのものが重大な欠点を抱えていて、ビットコインはそれを解決する工夫が巧みだと感じます。
--中央銀行が存在しないことが、むしろ長所であるというわけですね。ずいぶんと逆説的な話ですから、歴史的な経緯のところから、順を追って説明してください。
たとえば、世界史の教科書には、フランスでナポレオンがおこなった業績のひとつとして、「中央銀行(フランス銀行)を設立して、経済発展の基礎を築いた」といった内容が出てきます。
でも、ナポレオンはずっと戦争をしまくっていて、戦争でカネをじゃんじゃん使った人物です。勝っているときには、フランスの経済にプラスの影響をもたらしましたが、結局は負けたあとで、たまたま戦争による賠償を求められなくて済んだから、国家財政を破綻させなかったというだけです。
イギリスでもフランスでも、中央銀行は、国家が戦争をするための巨額資金を集めるために設立されたという経緯があります。戦争の長期化が国家財政を破綻させるのを一時的にごまかす---戦争で勝って巨額のカネを得るまでなんとか凌ぐための、戦争道具のひとつだったわけです。
そもそも、国家通貨は国が戦争によって滅びれば価値を失いますから、発行者である中央銀行は、国家が戦争を始めてしまえば、それに協力して通貨をじゃんじゃん発行するしかない。そうしてハイパーインフレを引き起こすこともあります。ドイツや日本もその経験をしています。
中央銀行が発行する国家通貨は、国家財政が破綻するときに、その道連れになる運命から逃れられません。これは戦争がなくても起こりうることで、この不安があるから、日本人の富裕層のなかには、金庫とか床下とかに大量の米ドルやユーロや金塊を保有するかたちで資産運用をしている人がいます。
ビットコインは、中央銀行なしに成立する国際通貨だからこそ、国家の財政破綻に巻き込まれずに済む。この点と、少額の国際決済に使える点と、本来は通貨に適さないはずの電子データを巧みに通貨に仕上げた点、これら3つの点がビットコインの優れたところです。
--国家の財政破綻の危険性は、それだけ高いということですか?
いいえ、現実に財政破綻の危険性が高いか低いかといえば、日本政府の債務残高は莫大な金額まで膨らんでいるものの、超低金利でカネを借りることができていますから、財政破綻の危険性が高いとはいいにくい。でも、通貨の「信用の裏づけ」は、平常時に通貨として通用するかどうかではなく、なんらかの危機に陥ったときにでも通貨として十分に価値をもつかどうかで、評価するべき性質のものです。
突き詰めていけば、危機が起きても軍事・外交の力によって国家を守れることが、国家通貨の価値の裏づけとなります。それだけではダメですが、必要条件となります。だから、アメリカのドルが世界でいちばん通用するわけです。
ビットコインは、国家によって成立しているわけではありませんから、「武力」による攻撃対象にはなりません。暗号によって成立していますから、「知力」による攻撃はありえます。しかし、ビットコインそのものの暗号は、きわめて強固なものです。
なお、ビットコインそのものと、破綻したマウントゴックスのような「取引所」とは、分けて考えることが大切です。
またここでも、暗号が破られる危険性が高いか低いかとは別に、破られたときにどうなるかも考えてみるべきです。銀行の預金ネットワークなどでもビットコインと同様の暗号が使われています。もしビットコインの暗号が破られるなら、国家通貨の預金ネットワークを支える暗号も破られてしまうでしょう。
そもそも、どの通貨もなんらかの欠点をもち、不完全なものですから、相対的な評価で考えるしかありません。だからこそ、通貨はどんどん進化しています。そして、自国の国家通貨の欠点が気になる人たちのなかに、相対的にみてビットコインのほうが信用できると考えた人がたくさんいて、ビットコインの価値が上がってきました。
--もし、ビットコインの価値がまだまだ上がりそうなら、資産運用の対象として魅力的なのかもしれません。しかし、危険なイメージはまだまだ強いといえます。しばらくすると夏のボーナスシーズンですが、ボーナスの運用対象にビットコインをふくめていいものでしょうか?
決済通貨として、ビットコインには大いに期待できるのですが、現実には、資産運用、つまり投機の対象として注目を集め、価値を高めてきたという経緯があります。このあたりは、新しいテクノロジーではいつもみられる現象で、仕方がないというのが私の意見です。
では、夏のボーナスの運用方法に悩む人は、ビットコインをどう考えればいいのか・・・。悩ましい話ですが、はっきりといえることがひとつあります。多額の資金をビットコインに注ぎ込むのは、いまはまだ危険だということです。これは取引所などの問題が大きいからです。
あと、ビットコイン以外の暗号通貨をどうみるかの問題もあります。これらの話の続きは、明日またおこないます。
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