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〈日本の解き方〉財務省の二重基準 国内で借金を強調、海外には国債売り込み(ZAKZAK)
http://www.asyura2.com/14/hasan87/msg/737.html
投稿者 かさっこ地蔵 日時 2014 年 5 月 16 日 09:09:00: AtMSjtXKW4rJY
 

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140516/dms1405160830005-n1.htm
2014.05.16


 財務省は「国の借金が過去最大の1024兆円になった」と発表した。一方で、財務省は「国債の海外売り込みを強化する」とも報じられている。

 財務省が国内で国の借金を強調するときには、財政再建の必要性を主張し、その達成手段として増税に結びつける。しかし、海外で日本国債を売ろうとするときには、当然、日本の財政状態が良いことを強調しなければ、海外投資家から買ってもらえない。したがって、今の財政状況に関する評価としては、国内で「悪い」といい、海外では「良い」とやや矛盾したことを言いがちになる。

 こうした国内外でのダブルスタンダードは、これまでもあった。国内では、国のバランスシート(貸借対照表)の右側にあたるグロスの債務額に対するGDP(国内総生産)比が200%といい、国外ではバランスシートの左側の資産も考慮したネットの債務額に対するGDP比100%などと言ったりしていた。

 ただし、国内では学者やマスコミを簡単にだませても、国外の投資家は財務省にとって手ごわい。財政再建の必要性は世界各国で共通であるが、その手法としては、増税の前に政府資産の売却がある。

 政府資産といっても、特殊法人などへの出資金や貸付金という金融資産が大半であるので、特殊法人などの民営化によって簡単にキャッシュにできる。政府資産の売却は、先進国では財政再建の方法として当たり前だが、日本では官僚の天下り先を失うことになるので、言及するのはご法度だ。このため、これまで財務省は海外での日本国債の売り込みをあまり積極的に行ってこなかった面もある。

 しかし、今年4月から消費税増税が実施されたこともあり、政府資産売却に注目を集めずに、増税で財政再建するという言い方が容易にできるようになった。しかも、来年10月からの10%への再増税を見送れば、海外における日本国債の売れ行きにも影響するといって、国内への脅しにも使えるという財務省の魂胆もあるだろう。

 もちろん、長い目でみれば、日本は今後対外純債権国から純債務国への道のりをたどっていくだろう。その場合、日本国債を海外の投資家に保有してもらうのは必然である。しかし、それは遠い将来であって、2013年度も過去最低とはいえ、まだ経常収支は7899億円の黒字。対外純資産も増えて相変わらず世界最大だ。ここ数十年間、日本が純債務国になる心配は不要。

 今のタイミングで、組織改正してまでも海外投資家への国債売り込みに取り組むのは、「増税するから日本国債は大丈夫」という国内のロジックを海外投資家に使い、今度は「国外に増税を公約したので、増税は不可避」と言いたいからだろう。

 この動きに便乗して同時に組織の拡大も行うことは官僚の「手柄」にもなり、一石二鳥なので、財務省は海外への日本国債売り込みに積極的に動いたのではないか。果たして国内のように海外投資家も財務省の手の上で踊るようになるのかどうか、見ものである。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)


 

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コメント
 
01. 2014年5月17日 13:44:39 : nJF6kGWndY
>政府資産といっても、特殊法人などへの出資金や貸付金という金融資産が大半であるので、特殊法人などの民営化によって簡単にキャッシュにできる

まあ、デフレ時にやるべきではないね

インフレに転換したら、やらないより、やった方が良いが

資産を売却しても、ストックの名目負債が減るだけで、フローは変わらないから、日本の債務問題の解決にとって、あまり意味はない


02. 2014年5月21日 13:08:28 : nJF6kGWndY

また、貿易赤字がらみの国債暴落議論が増えそうだな

http://diamond.jp/articles/-/53308
山崎元のマルチスコープ
【第330回】 2014年5月21日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
国債はどの程度「安全資産」なのだろうか?
新ルールで国債がリスク資産に?
日本国債の暴落を仕掛けるには

「国債は安全資産か」という胸がどきどきするような見出しの記事が、『日本経済新聞』(5月19日、朝刊)に載った。銀行が保有する自国の国債をリスクのある資産と見なすかどうかについて、金融機関の規制ルールが2020年前後の導入を目処に検討されているという。国際的な金融規制である「バーゼル3」の後継版の位置づけだ。

 日本の銀行が大量の国債を保有していることは広く知られているとおりであり、銀行が保有する自国国債をリスク資産にカウントするというルールの導入は、日本にとって影響が大きい。

 仮に陰謀論者になって、向こう数年の間に日本国債の暴落(長期金利急上昇)を仕掛けるにはどうすればいいかと想像するなら、このルール変更はたぶん必要で、かつ同時に最も有効なツールの1つだ。

 低インフレ率で短期金利がほぼゼロの現状のまま、国債を売り浴びせて利回りを上げて、実質長期金利だけが高まると、年金基金や生命保険会社は喜んで長期国債を買うだろう。たとえば、公的年金の運用目標は多くの場合、賃金あるいは物価変動を差し引いた「実質リターンの確保」であり、国債への投資でこれを確保できるなら、大喜びだ。

 銀行も、一時的な損失処理には苦労するだろうが、改めて資金運用先を考えるときに、国債が有利かつ無難であることに気づくに違いない。つまり、長期国債には買い手が現れて、売り仕掛けは失敗する。そうした均衡の上に、日銀の国債大量買いがさらに加わっているのが、長期金利を巡る現状の勢力図だ。

 現在の国債保有主体に、国債保有がリスクないしはコストであるという変化をもたらさないと、日本国債への売り仕掛けは上手く行くまい。

 しかし自国債であっても、国債には一定のリスクがあり、金融機関はこれをリスクとして認識して、それに対処できるだけの自己資本を積む必要があるとなれば、国債に対する保有動機はまだまだ残るとしても、現状と比較すると大きく後退する。

 たとえば日銀当座預金の方が、収益性はなくともリスク上は無難な保有対象になる。国債が消化されるためには、利回りが上昇する必要が生じ、国債暴落が起こる公算が大きい。これなら、「売り仕掛け」もやる気が出るというものだ。

 このルール変更は、よほど上手く乗り切らないと、近い将来何らかの犠牲者(たとえば対応が拙かった金融機関の倒産)が出るかもしれないということだろう。

 もっとも、誰かがこのような「乱暴」をする事態を考えなくとも、インフレ率が目標レベル以上に上昇して金融緩和政策が出口を迎えるようになると、長期金利はインフレ率と一緒に上昇するはずだ。

 金融機関が、国債保有のあり方を見直す時期に来ていることは間違いあるまい。今や、国債はどんな大手の貸出先よりも注目すべき対象である。

規制と保護を受ける銀行が
考えるべき国債の信用リスク

 主に日本円で預金を集め、日本の法律・制度に基づく規制と保護を受ける日本の銀行は、日本国債のリスクをどう考えるべきか。

 そもそも国に信用がなくなるような事態にあっては、日本円も日本の銀行預金も信用の大半を失っているはずだから、「その事態まで考えても仕方がない」という開き直りは、金融機関側の本音レベルではあり得ないものではない。

 一方、国の債務に対する責任は絶対的なものではない。債務を「踏み倒す」と追加の資金調達が困難になったり、金融が大混乱して大きな再生コストが必要になったりするが、その最終責任を負うのは官僚や政治家「個人」ではない。政府の借金は、ある意味では、誰も個人的な責任を取らないで踏み倒せる借金だ。政府としての損得判断で、「踏み倒し」に至る可能性は否定できない。

 米国でも日本でもドイツでも、政府が「今は踏み倒さない方が得だ」と計算する限りにおいて、債務が履行されるに過ぎない。もともと、それを動かしている人々のインセンティブを考えると、国、あるいは政府というものは、少なくとも絶対的な信頼を置ける相手ではない。信用は有限であり、程度の問題だ。

 ただし、公務員は今後も予算を使いたいと思っている生き物であるし、自分自身が国や自治体から収入を得ている。国債での借り入れができる状況を放棄しようと思う公務員はいないだろう。国債デフォルトによる金融市場混乱のコストも甚大だ。そうしたいと望む公務員、政治家、経済人が、決定に影響を与えるほど多くいるとは思えない。

 日本を含む多くの先進国の国債は、今のところ相対的に強力な信用度を持っていると考えていいだろう。

 しかし、特に外国が関わる国際金融の世界では、自国の国債といえども、何らかの信用リスクを持った資産であると考えるのが「正論」だ。銀行の自国国債保有にも何らかのリスクをあてはめるルールは、近い将来、実現するのではないだろうか。

個人にとって日本国債は安全か?
銀行預金と比べた場合の信用リスク

 では、日本に住む個人にとって、日本の国債は「安全資産」だろうか。

 まず、目下信用リスク的には、相対的に十分安全資産だろう。預金保険のカバー範囲を超える銀行預金では、銀行の経営的なリスクを考えないわけには行かない。

 1990年代末期のように、現在ただ今経営に不安のある銀行が大手にもある、という状況ではないが、近い将来起こる可能性がある金利の上昇による影響や、今後不動産向け融資を拡大させて東京オリンピック前後の不動産暴落で不良債権をつくるなど(オリンピック前に暴落が起こる可能性もあろう)、金融機関の経営には常に不安な要素がある。

 一方、国債の消化が困難になって長期金利が急上昇するような状況では、いくつかの金融機関の経営が危機に陥る可能性がある。もちろん、国債のデフォルトが現実味を帯びて、日本円の信認自体が危機に陥るような状況では、日本円建ての預金の実質価値も損なわれる公算が大きい。

 さすがに、財務省も声を大にしては言わないが、日本国債の方が銀行預金よりも信用リスク面で安心だ。

 また社債は、個人にとって信用リスクの判断が難しく、投資しにくい。個人の場合、十分な分散投資ができる運用資金がない場合が多いし、また主に社債に投資する投資信託には、許容できるくらい信託報酬(運用と管理のコスト)が低い物がない。

 財務的に盤石な国際企業が発行する円建ての債券が、日本の国債以上の信用度を持つようになる可能性が絶対にないとは言い切れないが、企業には国の徴税権のような決定的な力がないし、社債の表示通貨が円で、企業が社債を発行する際の契約が日本の法律と制度的強制力に守られたものである以上、強い日本企業の社債の方が、日本国債よりも信用度が高い、という事態は当面考えにくい。

 もっとも、社債で運用したいという資金にあっては、社債での運用ニーズに対して発行量が不足する場合があり、財務的に強い企業の社債の利回りが一時的に国債を下回る場合はあり得る。ただしこれは例外的であり、一時的に起きても長期的には解消する事態だろう。

少額な資金で個人が買える国債は
「新窓販」と「個人向け」の2通り

 少額な資金(数億円までは十分「少額」である)の個人が直接買える債券は、事実上国債ないし政府の保証が付いた債券しか選択肢がない。

 個人が利用できる国債は、通常の利付き国債である「新窓販国債」(新型窓口販売国債)(満期は2年、5年、10年)と、特に個人向けに最低利回り保証(0.05%)が付いたり(3年債、5年債)2回分の利払いのペナルティで元本償還が可能なオプションが付いていたりする「個人向け国債」の2通りだ。

 新窓販国債で、個人にとって魅力的なものになり得るのは、長期金利が上昇した場合の10年債(金利は固定)だ。しかし目下のところ、長期金利は低水準であることに加えて、日銀の長期債買い入れによって人為的に抑えられているから、魅力的な資金運用手段だとは思えない。

 ただし、将来長期金利が2%を超えて上昇した場合、株式と債券を組み合わせる運用の意義が復活して来る可能性があるので、将来検討すべき投資の選択肢としては、頭に入れて置きたい。

財務省が進める商品性の改善
「変動10年」の個人向け国債は魅力的

 個人向けに商品開発された個人向け国債の中では、変動金利型10年満期の個人向け国債が魅力的だ。

 同債券は、年に2回利払いがあり、10年満期の国債の流通利回りに0.66をかけた利息が支払われる(税金が2割かかる)。半年単位で利回りが変わるので、半年定期あたりと比較することができるが、現状ではもっと長い定期預金の利率と比較しても、「変動10年」の個人向け国債の利率の方がいい。

 将来、金利水準が上昇したり、物価が上昇したりした場合でも、長期金利の0.66倍まで金利が付くので、「まあまあガマンできる」と思う人が多かろう。

 もともと変動金利なので、長期金利が上昇しても大きくは元本割れしにくいはずだが、さらに保有が1年を経過すると、直近の利払い2回分(税引き後の2回分でよくなった)のペナルティで元本での償還が可能なので、将来長期金利水準が大いに魅力的になった場合は、大きな損をすることなく解約して、新窓販国債の10年物などに買い換える選択肢がある。

 財務省は、個人向け国債の商品性の改善を進めている。解約の際のペナルティの減額に加えて(かつては「税引き前の2回分の利息」が必要だった)、かつては3ヵ月ごとであった発行が昨年12月以降は毎月になるなど、少しずつ便利になってきた。

 一説には、過去に個人向け国債を購入して、その償還後に買い換えた人には、解約の際のペナルティを外すよう、さらに商品見直しをするとの観測もある(『週刊金融財政事情』5月19日号、P12「オフレコ・オンレコ」参照)。

 個人向け国債の商品改善を進める背景には、財務省が将来の国債消化に不安を覚えているのか、と勘ぐりたくもなるが、現在の環境を考えた場合、個人向け国債の変動金利10年満期型は、運用でリスクを取りたくない個人にとって魅力的な運用対象だ。

個人向けの販売が解禁される
物価連動国債は人気が出そう

 また財務省は、2016年に予定されていた物価連動国債の個人向け販売解禁を、2015年に前倒しすることを決定した。これまで、個人は投資信託を通じてしか物価連動国債を買えなかったが、2015年以降直接買うことができるようになる。

 物価連動国債は、元本と利息の両方が消費者物価指数の変動を反映して変化するので、将来のインフレに対しても購入時の実質利回りを保つことができる国債だ。

 これまでデフレにも連動するリスクがあったが、どうやらデフレの際にも償還が元本割れしないような「フロア」の条件を付ける方向のようだ。財務省はデフレ脱却に自信があるのか、物価連動国債の消化に自信がないのか観測の難しいところだが、投資家にとっては歓迎すべき条件だ。

 物価変動のリスクに対処できる国債となると、かなりの人気が出るのではないだろうか。

 一般に投資の勧誘にあっては、「リスクを取った運用を行わなければ、将来のインフレに対処できない」との脅しがよく使われるが、インフレリスクをヘッジしながら実質金利を守ることができる運用手段が現れると、運用業界も別の勧誘文句を考える必要が出てきそうだ。

 当面は、「個人向け国債の変動・10年型」が、無難かつ魅力的な投資対象だが、今後は、長期金利の水準が魅力で将来の金利低下の可能性が期待できる場合は「新窓販国債の10年債」、インフレ率の上昇が心配な場合は「物価連動国債」と使い分けるような運用が考えられる。

 なお、個人向け国債の販売手数料(国から販売金融機関に支払われる)は、販売元本の0.5%と低廉だ。この点でも国債は、多くの民間金融商品よりも有利で良心的だ。

 個人向けの国債の選択肢の充実は、財務省がそれだけ将来の国債消化を心配していることの表れかもしれないのだが、リスクとリターンが有利だと判断できれば、有効に利用したい。

http://diamond.jp/articles/-/53310 
【第136回】 2014年5月21日 森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]
日銀の金融政策と自己資本対策の行方〜追加金融緩和の有無と法定準備金積み増しの意味〜
――森田京平・バークレイズ証券チーフエコノミスト
日銀の経済・物価見通し:
実質GDPを引き下げ、コアCPIは据え置き
 先月30日に発表された日銀の「展望レポート」では、2013、14年度の実質GDP見通し(政策委員の大勢見通しの中央値)が、それぞれ+2.2%(前回1月22日時点+2.7%)、+1.1%(同+1.4%)に引き下げられた。一方、コアCPI(生鮮食品を除く総合CPI)は据え置かれた(図表1参照)。
 需給ギャップ(実際の実質GDPと潜在GDPの乖離)がコアCPIに2四半期ほど先行することを踏まえると、実質GDP見通しを下方修正する一方でコアCPI見通しを据え置くには説明が必要だ。これについて日銀は、@雇用誘発効果の大きい国内需要が堅調に推移するもとで労働需給が引き締まっている、A中長期的な予想物価上昇率の高まりが実際の賃金・物価形成に影響を与え始めている、という説明をした。

注:1.当社予測は実質GDPが5月15日、コアCPIが4月25日時点。
2.コンセンサスは日本経済研究センター『ESPフォーキャスト調査(5月調査)』による。同調査の調査期間は4月28日〜5月7日。
出所:日本銀行、日本経済研究センター『ESPフォーキャスト調査(5月調査)』よりバークレイズ証券作成
内需主導の景気回復が示唆すること:
フィリップス曲線のスティープ化
 このうち、@ついては産業連関表が参考になる。先月、経済産業省は2012年簡易延長産業連関表を発表した。それによると、直近2012年の粗付加価値誘発係数(各需要1単位によって誘発される粗付加価値額の大きさ)は、政府消費支出0.927、民間消費支出0.872、公共投資0.858、輸出0.829、民間資本形成(民間設備・住宅投資)0.775となっている(図表2参照)。
 確かに、輸出より内需(ただし民間資本形成は除く)、とりわけ公的需要の粗付加価値誘発係数が高い。したがって、同じ景気回復でも内需主導であるほど、国内労働需給が逼迫しやすく、結果的に賃金が上がりやすい可能性はある。
 つまり@は、フィリップス曲線(需給ギャップを横軸、CPI変化率を縦軸に置いたときに右上がりとなる関係)のスティープ化に当たる。
注:各需要項目1単位で誘発される粗付加価値
出所:経済産業省『簡易延長産業連関表』などよりバークレイズ証券作成
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予想インフレ率の高まりが示唆すること:
フィリップス曲線上方シフトの可能性はあるが……
 またAは、予想物価上昇率の上昇を通じたフィリップス曲線の上方シフトに当たる。確かに、2013年7〜9月期以降、同曲線が上方シフトした兆しが見られる(図表3参照)。
 一方、筆者はこうしたフィリップス曲線の上方シフトが安定して実現する可能性は、まだ限られると見ている。1つの背景が次に見る「川上物価」と「川下物価」の乖離である。

注:1.需給ギャップ(%)=(実績GDP−潜在GDP)/潜在GDP×100
  2.コアCPIは生鮮食費を除く総合CPI(消費税率引き上げの影響は除く)
出所:総務省『消費者物価指数』、内閣府資料よりバークレイズ・リサーチ作成
消費財物価の特徴:
「川上」と「川下」の大幅乖離
「消費者物価」(CPI)を「川下物価」とすれば、企業間取引(主に生産者段階)のモノの価格を反映する日銀「企業物価指数」(CGPI)は、「川上物価」と呼べる。両者における消費財国内品物価には、かなり安定した連動性がこれまで見られた。すなわち「川上」での消費財物価の変動は、「川下」に伝播しやすい。
 しかし、足もとで両者は大幅に乖離している(図表4参照)。「川上」に当たるCGPIベースの消費財国内品物価は、直近4月に11ヵ月ぶりに前年比マイナスに転じている。
 こうした中、筆者はフィリップス曲線の上方シフトが定着するシナリオには、リスクがあると考えている。日銀が次回、経済・物価見通しを評価する7月14〜15日の金融政策決定会合での追加緩和が、依然筆者のメインシナリオである。
注:「消費財国内品(CGPIベース)」からは消費税率引き上げの影響が除かれている。
出所:総務省『消費者物価指数(CPI)』、日本銀行『企業物価指数(CGPI)』よりバークレイズ証券作成
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財務の健全性確保に動き出した日銀
 しかし、日銀は決して無限に緩和できるわけではない。1つの要因として、財務の健全性が挙げられる。
 実際、日銀は今月9日、これまで当期剰余金の5%相当額であった「法定準備金」(日銀法第53条第1項)を同20%相当額まで積み増す方針を決定し、財務大臣に認可を申請した。公表文書で、目的は「財務の健全性の確保」と明記した。
 実際、剰余金の5%を上回る法定準備金は、損失の補填ないし出資者に対する配当以外の目的で、取り崩すことはできない。
 日銀の財務の健全性を考える上で、「会計規程第18条」が指針となる。同条第1項は、「債券取引損失引当金及び外国為替等取引損失引当金の積立て又は取崩し並びに法定準備金の積立ては、各上半期及び各事業年度の自己資本比率が、10%程度となることを目途として、概ね上下2%の範囲となるよう運営する」としている。
 つまり日銀は、自己資本比率が8〜12%になるよう債券と外国為替の取引に関わる損失引当金と法定準備金を、積み立てるとしている。なお、ここでの自己資本は資本金、法定準備金、特別準備金、貸倒引当金、債券取引損失引当金、外国為替取引損失引当金からなる。
 前述の定義に基づく日銀の自己資本比率は、2002年9月末以降、レンジの下限である8%を下回っている(図表5参照)。しかも、2013年4月以降は「量的・質的金融緩和」の下、長期国債の残存年限の長期化およびリスク資産の保有額の増大を進めており、財務の健全性が傷つく事態はもはや絵空事とは言えない。

注:自己資本比率(%)=(資本金+法定準備金等+貸倒引当金(特定を除く)+債券取引損失引当金+外国為替等取引損失引当金)÷銀行券期中平均発行残高×100
出所:日本銀行『業務概況書』よりバークレイズ証券作成
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 日銀の岩田副総裁は、学習院大学教授であった頃「唯一のハイパワードマネー(=マネタリーベース)供給者である中央銀行は、自己資本を持っていなくても営業可能」(『論争 東洋経済』2000年1月)とした。理由は、日銀は銀行券や当座預金という負債を自ら発行できる、唯一の主体だからである。
 しかし、「マネタリーベースを発行できる」との想定は金融緩和を前提としていることに等しい。一方、日銀の財務環境がどの程度毀損するかは、そもそも引き締め期、つまり「出口」での課題であり、この前提自体が妥当ではない。
 中央銀行にとって自己資本は、どの程度本質的な意味を持つのか。これは、負債と自己資本の識別可能性と併せて、現行金融政策下での日銀財務を考える際の重要な視点となるはずだ。


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