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2014年05月14日
昨日(5月12日)発表された2013年度の経常収支は7899億円の黒字と、辛うじて赤字転落を免れました。
内訳は、貿易収支が10兆8642億円の赤字、サービス収支が3兆5779億円の赤字、第一次所得収支(従来の所得収支)が16兆6596億円の黒字、第二次所得収支(従来の移転収支)が1兆4276億円の赤字でした。
経常収支の黒字幅は、金融危機直前の2007年度が24兆3376億円と史上最高でしたが、東日本大震災直後から貿易収支が赤字転落したため2011年度が7兆9194億円、2012年度が4兆2233億円と激減し、2013年度は7899億円となりました。
赤字転落が今年度(2014年度)にズレ込んだだけかもしれませんが、経常収支が赤字になっても「全く問題ない」との評論家が多いことは驚愕すべきことです。経常収支が赤字になるということは、対外的な経済活動で日本全体から資金(正確には外貨)が流出していることに外なりません。
さすがに日銀も外貨(例えばドル)は印刷できないため、流出する外貨を調達するためには外国人に国内資産を売り渡すか、日本人が海外に保有する資産を処分するか、外貨準備を取り崩すしかありません。
米国のように経常収支が大赤字でも、外国人(例えば日本人)が「紙切れのドル」や「紙切れですらない米国債」を喜んで受け取ってくれれば何も問題はありません。ところが「紙切れの円」や「紙切れですらない日本国債」は、日本の経常収支が赤字に転落しても外国人が喜んで受け取ってくれるとは限りません。
あくまでも本誌の考えですが、「異次元」量的緩和で円の価値を「薄めてしまったこと」と国債利回りを「未曾有の水準まで低下させてしまったこと」は、日本が経常赤字国に転落したときの状況を大変困難なものにしたと感じます。
実際に赤字転落してみないとわからないのですが、やはり外貨準備を取り崩すか、日本人が海外に保有する資産を処分する以外には、国内株式など「実物資産」を外国人に売り渡す必要が出てきます。ところが「実物資産」でも買うかどうかを決めるのは外国人であり、日本人ではありません。
近い将来の経常赤字転落に備えるためにも、2013年度の金融収支を少し詳しくみておく必要があります。経常収支と金融収支は、お互い別々に積み上げられた取引の集計なので連動しているわけではありません。したがって経常収支が赤字転落したときの金融収支の姿を予想しておかなければ「とんでもないこと」になる恐れがあるからです。
金融収支は本年1月からフォーマットが変わり、日本人が対外資産を取得すると資産増(処分すると資産減)、外国人が対内資産を取得すると負債増(処分すると負債減)として集計するようになりました。
直接投資では、日本人(本邦企業)の大型M&Aなどで13兆8936億円の資産増、外国人(海外企業)による本邦企業への出資などで6663億円の負債増、合計で(負債増を差し引いた)13兆2273億円の資産増となります。
株式投資・投資ファンド持ち分投資では、日本人が外国株・ファンドを3兆1496億円売り越し(資産減)、外国人が日本株・ファンドを11兆8528億円買い越し(負債増)、合計で15兆24億円の資産減となります。
中長期債投資では、日本人が外国債券を2兆5957億円売り越し(資産減)、外国人が国内債券を1911億円買い越し(負債増ですが、やはり非常に少ない!)、合計で2兆7868億円の資産減となります。
あと外貨準備が4兆6891億円増加しており(これも資産増)、短期債が2兆7607億円の資産減、それに中身がよくわからない金融派生商品とその他投資を加えて、金融収支全体では2兆8589億円の資産減となっています。これは同額の資金(外貨)が流入していたことになります。
2013年度の金融収支の特徴は、日本人(本邦企業)が14兆円近い海外直接投資を行い、外国人投資家が日本株・ファンドを12兆円近く買い越したことに尽きます。本年に入って外国人投資家は日本株を売り越していますが、本邦企業の海外直接投資はまだまだ高水準のようです。
この資本収支の「近未来」を含めて、まだまだたくさん書きたいことがありますので続きます。コメントもお待ちしています。
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2014年05月15日
昨日の続きです。2013年度の経常収支は、貿易収支・サービス収支が14兆4422億円と過去最大の赤字だったため、第一次所得収支(昨年までの所得収支)が16兆6596と過去最大の黒字だったものの、第二次所得収支(昨年までの移転収支)の1兆4276億円の赤字を加えて、「わずか」7899億円の黒字となりました。
さらに2013年度は、今年から算出方式が変更された金融収支が2兆8589億円の「資産減」となりました。新しい算出方式で1996年度まで遡って発表されていますが、その間では(たぶんそれ以上遡っても)金融収支の「資産減」は初めてです。
もともと日本は貿易黒字を中心に経常収支の黒字を積み上げ、米国債などの対外資産を積極的に取得してきました。それでは最近の経常収支黒字が激減していく中で、金融収支はどうなっていたのでしょう?
過去最高の24兆3376億円の経常収支黒字を記録した2007年度の金融収支は25兆6670億円の資産増、貿易収支が赤字になる前年の2010年度の経常収支が17兆9736億円の黒字で金融収支が21兆6009億円の資産増、以下2011年が7兆9194億円の黒字で9兆897億円の資産増、2012年度が4兆2233億円の黒字で2兆255億円の資産増、そして2013年度が7899億円の黒字で2兆8589億円の「資産減」となっています。
経常収支も金融収支も、それぞれ利潤動機で行動する企業や機関投資家や個人の経済活動の集合体であり、例えば「日本の経常収支が赤字になりそうだから当社の対外直接投資を控えよう」などとは決して考えません。
しかし2007年度以前も含めて経常収支の黒字と金融収支の資産増は、だいたい似たような数字となっています。これは理屈で考えるのではなく「そうなっている」という事実が重要です。
2013年度は経常収支が「激減したとはいえまだ黒字」だったのですが、金融収支が「初めての資産減」となりました。これは2013年度に外国人投資家が日本株を12兆円近くも買い越し、計算上は「資産減」にカウントされたからでした。
逆にいえば本邦企業が過去最高の14兆円近い対外直接投資を行ったのですが(海外企業に対する大型M&Aが急増)金融収支は「資産減」となり、激減した経常黒字とある意味「釣り合いが取れた」結果となりました。
今年度は、外国人の日本株買い越しが激減しそうですが(あるいは売り越しになるかもしれませんが)、本邦企業の対外直接投資(海外企業に対する大型M&Aなど)は高水準のままと思われ、一方では経常収支が赤字転落してしまいそうです。
そうすると経常収支が赤字であるにもかかわらず金融収支も大幅に資産増という、今までにはなかったことが起こってしまいます。金融収支の資産増とは資金(外貨)が流出することであり、経常収支までが赤字に転落すると資金(外貨)が流出する一方になってしまうからです。
そう書くと、大型M&Aを行う会社はいくらでも外貨を調達(借入れ)できるし、だいたい国内には円が溢れかえっているのだから外為市場で外貨に交換すればよいだけではないか?と考えられると思います。
さすがに日銀でも外貨(例えばドル)は発行できないため、円が自由に外貨に交換される信用力を維持しなければなりません。もちろん日本では「すぐに」心配する必要はありませんが、かつてのロシアや韓国やタイなどのように国内資金を外貨(例えばドル)に交換できなくなって経済危機に陥った事例はいくらでもあります。
話を戻しますが、今年度は経常収支が赤字に転落するのであれば(あるいは小幅の黒字であっても)、本邦企業の対外直接投資が「大幅に減少」するか、あるいはそれに見合うほど海外投資家が日本株を「大幅に買い越す」など、現状では想像しにくいことが起こることになります。
あるいは日本の経常収支がやはり「大幅黒字」になるのかもしれませんが、これも想像しにくいことです。そうでなければ金融収支に含まれる外貨準備が大幅に減少することになると思いますが、直感的には本邦企業の対外直接投資に急ブレーキがかかる「何か」が起こるような気がします。「円高」もその1つですが、今までの大型M&Aを「反省」せざるを得ない状況がくるのかもしれません。
このように書いているとまた批判を受けそうですが、日本が今まで経験したことのない経常赤字国に転落しそうなときには、これくらい大胆で柔軟な発想で考える必要があると感じます。
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