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残業代ゼロ・ルール、ブラック的企業の長時間労働を助長する懸念と、その経済合理的理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140514-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 5月14日(水)3時0分配信
政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は、これまで管理職だけを対象としてきた「残業代ゼロ」の労働時間延長を、管理職以外にも適用するルールづくりを検討している。高度な技能を持つ高年収(例えば年収1000万以上)の労働者、または組合および個人が同意した場合の労働者を対象として、労働時間ではなく、労働成果に応じた賃金の支払いを可能とする制度の導入を提言している。
特に、後者を考えると、一般的な労働者がこれまでなら残業代を得て働いていたようなケースで、「まだ十分な成果が出ていない」として、残業代なしに働かなければならないような事例が出てくる可能性がある。自らを明確に「ブラック企業」と自己認識している企業は少ないだろうが、社員をできるだけ安く極限まで使いたいと思っている、強度に経済合理的な企業の経営者からみると「チャンス」と思える内容である。
一方、「強度に経済合理的」な世界という意味では、外資系企業が思い浮かぶ。例えば、外資系証券会社のような場合、「そもそも、成果が出なければクビになるのだし、時間ではなく成果に対して報酬が決まるのが経済論理的には当たり前で、フェアだし、現実問題として、それで仕方がない」といった理解を持つ社員が多いだろう。
筆者は、日本の企業と外資系企業の両方に複数社勤めたことがあるが、今回の産業競争力会議の提言が正論なのかについては、正直なところ、判断に迷う。仕事の内容と年俸およびボーナスの仕組みについて契約しているような働き方の場合は、「そもそも残業代などという概念の存在がおかしい」とも思う。
他方、産業競争力会議の議論では、社員の半分以上が加入する組合が制度に同意し、かつ個々の社員が同意した場合にのみ可能にする、といった歯止めを設けることが検討されている。しかし現実的には、多くの企業で組合は、経営者に従順で自分が将来出世しようと思う社員が幹部を務める「御用組合」だ。
また、個々の社員が経営者や上司から「成果に基づいて賃金を払うほうがフェアだ」と言われれば、反論などできない立場や精神状態だろう。個々の職場に対する労働基準監督署のチェックには限界と不公平性があり、「ブラック」な意図を持つ企業を指導監督して矯正するのは無理だろう。
●労働力の売り買いにおける「情報の非対称性」
では、今回議論されている「残業代ゼロ・ルール」は、どのように考えるべきなのか?
判断のポイントは、仕事の「成果」の定義と評価の客観性・納得性にあると思う。
外資系証券会社のセールスマンやトレーダーのような仕事の場合、成果は会社にもたらした利益(リスクを調整して測る必要があるが)で定義できるし、評価者・被評価者でほぼ共通の理解を持つことができる(ボーナスにはそれ以外に、上司の好き嫌いなどが反映されることが多いが……)。
しかし、世間にある多くの仕事の場合、事務でも企画や研究でも、個人が会社の利益にもたらした成果を、本人も納得できるかたちで確認可能なケースは少ない。現実的には、経営者ないし上司の評価の「言い値」を受け入れるしかない場合が多いのではないか。
経済学的にいうと、労働力の売り買いには「情報の非対称性」があるのだ。そして、経営者・上司の側は、「定額のコストの下で」、労働者が目一杯に働いて出る成果を要求水準とする「インセンティブ(誘因)」を持っている。
「労働時間と成果は関係ない。成果に基づいて報酬を払うのがフェアだ」という意見を正論と認めるなら、例えば規定時間よりも少ない時間で仕事を済ませて定額の報酬をもらえる人が半分くらいいれば、フェアといえるだろう。だが、「評価する側」が経営者・上司であるなら、今回検討されている「残業代ゼロ・ルール」は、「ブラック的」な企業の利益を後押しするものになるだろう。時間当たりの賃金を値切って、長時間働かせるために利用されそうだ。経済的なロジックで考えると、あまり筋のいい提案ではない。
雇用制度の規制緩和は日本経済の活性化にとって大変重要だ。産業競争力会議は、「残業代ゼロの拡大」といった横道にそれるのではなく、会社都合解雇の労使双方にとってフェアな金銭補償ルールの確立に集中的な努力を傾けるべきだ。
山崎元/楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表
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